人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十五章

 

突如として始まった、げんげつ人形による寺小屋めいた真似事。

 

一式の机と椅子に座らされた私は訳の分からないまま、その授業を聞かされているところだった。

 

『まず、おしゃれの基本となるのは「カラー」、「シルエット」、そして「ファブリック」の3つよ』

 

「か、からー……?しる……??」

 

黒い板に白い字で書かれた聞いたことのない言葉に困惑してると、察したげんげつ人形は無言で書かれている言葉の下の方にそれぞれ「色合い」、「輪郭」、「素材」と付け足す。

意外と優しいところがあると関心をしていると鋭く睨まれたので、とりあえずは口を閉じることにした。

 

「えっと、げんちゃんセンセー質問いいですか?」

 

『……どうぞ』

 

「そもそも、「おしゃれ」って何?」

 

いつも寺小屋でやっているような私の素朴な質問に、げんげつ人形は信じられないという顔をした後、頭を抱えながら溜息を吐く。

おかしなことを言った覚えはないのだが、この反応を見るにやはり言ってしまったのだろうか。

 

『あ、あなたね……仮にも女の子なんでしょう?本気で言ってるの?』

 

「いやゴメン。あたしそういう知識、全ッッッくないんだよね~。ハハハ」

 

『……はぁ、成程ね。今の言葉で合点がいったわ。どおりでダサいわけよ』 

 

「??」

 

げんげつ人形の言っていることは分からないが、どうやら今の私は「ダサい」らしい。

だが、何となく「ダサい」という言葉があまり良い言葉出ないことだけは分かる。

 

『いいこと?女の子として生まれた以上、「おしゃれ」は義務のようなものなの。こいつらをご覧なさい』

 

そう言いながらげんげつ人形は後ろに向かって指を指した。

そこには何故か一列に整列させられていた私の人形達が正面に佇んでいる。

 

『あなたの捕まえた人形達も人間と同じ“女の子”。そして皆ちゃんとおしゃれをしているのよ』

 

『例えばこのアリス。青を中心とした色合いに、白と赤の三色(トリコロール)で、綺麗にまとまって見えるでしょう?』

 

「……た、確かに言われてみれば(と、とりころーる?)」

 

『次にルナチャイルド。全体を白と黒の明暗(モノトーン)で統一させている。彼女の名前にある“(ルナ)”にも掛かっていて、個性が出ていると言えるわ』

 

「な、成程?(ものとーん……?)」

 

『そしてクラウンピース。元の服装もある意味で個性的だったけれど、私の判断で“赤と黒のゴシックロリータ”に変更させて貰ったわ』

 

『イエ~~~イ!!どうだご主人!!かっちょいいだろ~~~!!』

 

『“地獄の妖精”とのことだから試しにこのコーデを着せてみたのだけれど……思いの他マッチしているわね。前と比べたら少々窮屈でしょうけど、戦闘のことを考えてちゃんと動きやすく作っているから安心して』

 

『あっちもケッコ―気に入っていたんだけど、この服の方が全身から炎の力がみなぎるんだZE!!ありがとな、げんげつの姉御ッ!!』

 

『(……まぁ、それ作ったの全部私なんですけどね。はぁ、あの時は碌に眠れなかったわ)』

 

「急にクラピーの服が変わって何事かと思ったけど、そういうことだったんだね(アリスちゃん、一体どうしたんだろう?)」

 

『じゅんこは……そうね。これは所謂、民族衣装(ネイティブ)だからあまり参考にはならないかも。私は嫌いじゃないけどね』

 

『すわこも似たようなものかしら。これは昔の時代に上流階級の女性が着ていたとされる旅装束(ガーブ)ね。……でも、下がスカートなのは始めて見たわ』

 

聞いたことのない単語がげんげつ人形の口から次々と放たれるも、あんなに熱弁している彼女に対し水を刺すのはどこか忍びなく感じ、結局言い出せなかった。

分かったことはげんげつ人形がおしゃれが大好きだということと、意外と仲間のことをちゃんと見ているということだ。

 

普段他の人形達と絡んでいる姿を見なかった為、げんげつ人形は皆から孤立してしまっていると勝手に勘違いをしていたが、それは誤解だったようだ。

ちゃんと皆のことにも関心を持っていることが先程の言葉で分かり、ひとまずは安心した。

 

 

 

 

 

 

『……とまぁ、一通りこいつらの着こなしを見てきたけれど、要はおしゃれというものは組み合わせが重要なの。少しは分かった?』

 

「う、うん!何となくだけど」

 

正直、話の半分以上は何を言っているのか分からなかった。

普段行わないような授業内容だった為、慧音先生と比べれば全然退屈はしなかったが、こっちはこっちで聞いていても付いて行けないというジレンマがある。

辛うじて覚えていることといえば、最初に言っていた3点くらいだろう。

 

『ふぅん?……じゃあ、今から実践して貰うわよ』

 

「え」

 

『「え」じゃない。ここは夢の世界でしょう?服ならあるわ』

 

「そこの人形の言う通り。ここではあなたは何者にもなれる」

 

「うわぁ!?アンタまたいつの間に!!?」

 

横から割り込むように会話に参加するドレミーにまたしても不意打ちを食らう。

何が起こるか分からないこの世界は、私にとって心臓に悪いことこの上ない。

 

しかし困った。いきなりそんなことを言われても、生まれてこの方ほぼ一張羅だった私の着物が別の物になることがまず想像出来ない。

寺小屋の皆だって私と同じような服だったし、今までこれが当たり前だったのだから。

 

『今のあなたは言うなれば「村娘A」。どこにでもいる只の住民。でも今は違う。ハッキリとした目的を持った、1人の人形遣いなの』

 

改めて自分の着物に着眼してみると、薄い無地でおしゃれとは程遠く、長旅であちこちに損傷が見られ、何ともみずぼらしい外見だ。

これではげんげつ人形が物申すのも無理もない。こうして言われて初めて、私が個性のない地味な服装だということを自覚出来た。

 

 

「さぁ、光よ。イメージなさい。なりたい自分に」

 

 

「………」

 

 

なりたい自分……そうか、いるではないか。この旅の原点となった、私の中の英雄が。それだったら……!!

 

頭の中でイメージが形となり、ポンッという軽快な音が鳴ると共にピンクの煙が噴き出した。

 

 

「ほう、赤と白の紅白の服装に、大胆な脇出し……これは?」

 

 

徐々に姿を現す私の容姿は、どうやら頭に浮かんだものと完全に一致しているようだ。

試しに自分の姿を軽く見渡すと、本当に一度はなってみたかったあの人へと変わっている。凄い……まるで夢が叶ったかのような気分だ。いや、この場合すでに叶っているが正しいか。

 

「どうどう?げんちゃん似合ってる?」

 

審査をするげんげつ人形に感想を聞いてみるも、げんげつ人形は呆れた顔付きをしていた。

一体どこが行けなかったのだろう?

 

『……あのね。博麗の巫女になんてなってどうするのよ』

 

「え?そういうことじゃないの?」

 

『真似ることを完全に否定する訳じゃないけどね……今やっていることとは趣旨が違うわ。はいやり直し』

 

「うー……」

 

げんげつ人形曰く、これでは駄目らしい。名残惜しいが、理想であるこの姿を渋々捨てることとなった。

 

改めて頭の中で考えを巡らせる。しかし、先程と同様霊夢様の事が真っ先に思い浮かんでしまい、中々イメージ作りが上手くいかない。

やりたくはないが、今は別のことを考える時間……心を鬼にして、頭の中の霊夢様を一時的に振り払う。ごめんなさい……!

 

「(確か、色合いが重要で……統一感とかいうものも意識して……そして……)」

 

あぁ駄目だ、やはり難しい。おしゃれというものは複雑怪奇だ。

女というのは皆、こんな難しいことを当たり前のようにこなしていると言うのか?……信じられない。

考えれば考える程ドツボにはまっていき、イメージがまとまらなくなってしまう。

 

『……どうやらまだ、自分の姿を上手くイメージすることは出来ないみたいね。仕方がない』

 

埒が明かないと判断したげんげつ人形が指を鳴らすと、色取り取りの服達が次々と目の前に現れる。

軽く100を超える服を揃えると、次にげんげつ人形は仲間の人形達に向かって指を鳴らした。

 

『ひゃあ!?』

 

身体に異変を感じたルナ人形は、気が付くと何故か大きな姿鏡へと姿を変えていた。

それを見た他の人形達は嫌な予感を感じ、ある者は息を呑み、ある者は諦め、ある者は無反応、ある者はウキウキしている。そして、げんげつ人形の指は鳴らされた。

 

『あら、私なのね』

 

選ばれたじゅんこ人形は意外だという反応をすると、人が4人くらいは入れそうなカーテン付きの大きな四角い箱へと姿を変える。

そして元がルナ人形である姿鏡を宙に浮かせ、四角い箱の中に取り付けたようだ。

 

一体、何を始めるつもりなのだろう?

 

 

 

 

 

 

「えっと、げんちゃんこれは?」

 

『ダサくてセンスのないあんたの為に、予め服を用意してあげたのよ。まずは着てみて、そこから自分に合いそうなものを探しなさい。そして、あの箱はあんたが着替えをする場所ね』

 

「……やっぱりげんちゃんってさ。何だかんだ言いつつ、優しいよね」

 

『……あ?』

 

「ぎゃあごめんなさいッ!!?」

 

聞きたくもない不快な言葉だったのか、げんげつ人形は私の目の前に雷を落とす。

あれは確実に当てるつもりだった……紙一重で避けられなかったら今頃丸焦げだっただろう。

 

『下らないことを言っている暇があるんだったらさっさと選びなさい!このちんちくりんがッ!!』

 

「わ、分かったよう。う~んと」

 

どうやら今の言葉は彼女にとって禁句らしい。今後は気を付けた方が良さそうだ。

しかし、人里では見たことのないようなおしゃれであろう服がこんなに沢山……正直、少しワクワクしている自分がいる。さてどれから試そう?

 

これか?それとも、これ?いや、やはりこっちのほうが……う~んでも……

 

『………~~~ッ!!あぁもう、じれったいわねッ!!』

 

「!?」

 

『まずは何でもいいから着てみなさいって言ってるのよ!!ほらこれ!!はい中に入る!!』

 

「ちょ!?み、耳引っ張んないでッ……わーーーーッ!!?」

 

服を選び兼ねていることに腹を立てたげんげつ人形は、色んな種類の服を各1着ずつ選別しそれを私に渡した後、私を素手で試着室に放り込むのだった。

 

 

 




光サイドは次で恐らく終わります


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