人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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一部のまとめで言ってたやつ準と雛のやつ。一話で終わります



第三十七章

 

妖怪の山に存在する、とある1つの洞窟。

本来、そこは天狗の里、守矢神社へ行く為の只の通り道なのだが、この洞窟には他のところへと通じる“裏ルート”がある。

そしてそのルートに行く際には、必ず「数珠」、「護符」、「勾玉」等の自身を守るアイテムを忘れてはならない。早速、「護符」を1つ使用する。

 

このルートを知っているのは一部の人形遣い……恐らく自分しかいないだろう。

少なくとも、このルートを通っている他の人形遣いを今のところ見かけたことはない。かく言う自分も、“ある人物”に案内され初めてその道に気が付いたのだ。

どうやら上手いこと行き止まりであるかのように道を偽装していたようで、今まで誰もその道へ来ないようにしていたらしい。

そう。“裏ルート”とは、正にその“ある人物”が人知れず住まう場所なのである。

 

ある人物とは妖怪の山の中で偶然知り合い、彼女の持っている能力が旅の目的の中でかなり使えると知って以来、こうして協力させている。

その能力は人形を扱う上で抱えていた悩みを一気に解消出来る便利な力であり、彼女にしか行使出来ない。だから彼女と会えたのは正に僥倖だったと言えよう。

 

 

 

 

 

 

偽装された裏ルートへの道を教えられた通りに潜り抜けて梯子を下っていくと、知られざるもう1つの出口が姿を現す。

そして抜け出した先の一軒の小さな小屋。これが、ある人物の住まう家だ。

 

周りには何もない断崖絶壁で危険な立地……如何にある人物が他人との関りを絶っているのかをその情景が鮮明に物語っていた。

だが生憎、自分はその人物の力を借りにこうやって赴くことで彼女のその意思を捻じ曲げている。別にどう思うこともないのだが。

 

「(……いるな)」

 

張っていた護符の結界が小屋から溢れている負の力に反応している。丁度、ある人物は家に帰っているらしい。

まぁ、何度もここに来ている内に段々と彼女のいる時間帯を把握してきているのだから当然だ。

 

「おい、いるんだろう?」

 

家のドアをノックし、能力を使わせるべく彼女を呼び出す。

居留守することもあったからいつもより念入りにやっておく。

 

「………はぁ、また来たの?」

 

痺れを切らした不快そうな家の主がドアを小さく開け、スキマから顔を覗かせる。

まるで人形のような容姿をした赤と黒のワンピース、髪と瞳が緑色をしているのが特徴である彼女の名は“鍵山 雛(かぎやま ひな)”。

人々から払われた“厄”というものを溜め込む神様で、近くにいるだけでその者に不幸をもたらすらしい。それを彼女自身もよく自覚しているようで、このような人気のない場所に住んでいるのも人を不幸にしない為だとか。

だから俺はそんな危険すぎる彼女の能力を、この「護符」で未然に防いでいるという訳だ。

 

「今度は大量にあってな。ほら、さっさと上がらせろ」

 

「そ、それが仮に人にモノを頼む態度?……ホント、あなたって厄いわね」

 

口ではそう言いつつも、雛は入り口のドアを開けて客人を迎え入れる。そして丁重にお茶菓子を用意し、相手をくつろがせる気遣いまで見せた。

人を避けているとはいっても、本音はそうではないのだろうか?妙な神様だ。でもタダ飯はありがたいので遠慮はしない。

まぁ、こちらはあくまで雛の持っている不可思議な力が目当てでここに来ているに過ぎない。そうでなかったら、わざわざこんな危険人物と誰が関わるものか。

 

雛はこちらが渡した大きな布の包みを慣れた手つきで解くと、そこから大量の“封印の糸”が転がり出す。

それを見た雛はいつも悲しそうな暗い表情を見せ、溜息を吐く。

 

「いつまでこんなことを続けるつもり?」

 

「納得出来る個体が見つかるまでさ。強さを求めるのなら、これくらいしないとな」

 

「……そう」

 

「今回はお説教しないんだな」

 

「どうせ何言っても聞かないのでしょう?もう分かっているもの」

 

最初に依頼した時は「人形を何だと思っている」だの「可哀そうだ」だの言われたものだが、いい加減に彼女も諦めがついたらしい。

人形なんて所詮は道具。いらないものは用済み……何もおかしくなんかない。至極真っ当な結論だ。

 

 

「やると最初に言い出したのはお前だろ」

 

「……えぇ、その通りね。あなたはまだマシ。こうやってちゃんと“返しに”来ているのだから」

 

 

雛がこう言うのには訳がある。

 

 

今よりも少し前のことだ。俺はいつものように妖怪の山で人形の厳選をやっていた。

草むらから出てきた1匹の人形を、いつものように捕まえるつもりで封印の糸を使った。しかし、何故か糸は弾かれてしまう。

そう、その人形は既に誰かの所有物だったのだ。だが、人形遣いと思われる人物は周りのどこにも見当たらない……この状況が何を意味するのかは容易に想像出来る。恐らく、“捨てられた”のだろう。

だが同情などという下らない感情は生憎持ち合わせてはいない。とんだ無駄足だったと切り替えて次の標的を探そうとした時、その人形の前に“鍵山 雛”が現れた。

 

彼女は人形と目線を合わせるよう屈み、優しい表情でその人形に挨拶をする。

だが、その優しさを向けられた人形は逆に泣き出してしまい、雛はそれに困惑……そして目の前にいた俺に「何故この子は泣いてしまったのか」と急に絡んできた。

当時は彼女が何者なのかを知らなかった俺は、面倒だと思いつつもその人形が捨てられたことを仕方なく話し、泣いた原因も元の飼い主に対して何かしらのトラウマがあるのではと伝える。

それを聞いて憐れみを感じた雛は、人形にそっと手を添えて意識を集中させる。何をしているのかと疑問に思っていた次の瞬間、人形から噴き出る黒い靄が彼女の元に集まったかと思うとそれを吸収するように体内へ取り込む。

すると糸が静かに切れるような音が響き、その人形の足元には解けた糸のようなものが残っていた。

 

その解けた糸のようなものは封印の糸を使用する際に発生するものと類似しており、何をしたのかと問うと彼女はこう言った。

 

“返した”、と。

 

それがどういう意味なのかを即時に理解した俺は思った。「使える」、と。

 

これが彼女との出会いだった。

 

 

……その後、あらゆる不幸が俺に襲い掛かり、危うく命を落としかけたところでようやく彼女の正体に気が付き、以降はこうして厳重に対策をしているという訳だ。

 

 

 

 

 

 

封印の糸が開発され、人形遣いが急増している今のご時世……ああやって無造作に捨てられる人形も決して珍しくはない。

そのことを知った雛はこうやって自身の力を駆使し、せめて野生に返すことで呪縛から解放させている。もの好きな神様だ。

 

どうして彼女は人形の解呪が出来るのかというと、封印の糸が一種の“呪い”のようなものであるからだと言う。

呪いは所謂、厄と同等の存在。そして、雛は普段から河から流れてくる雛人形に溜まった厄を集めてそれを溜め込んでいる。それと同じ要領でやれば、呪いは解呪されて人形から封印の糸が解けるらしい。

 

 

俺は捕まえた外れの人形を逃がしたい。そして雛はその人形を解呪することで厄を集められる。そう、つまりこれは互いにとって利益のある話なのである。

 

「……はい。これで全部解呪したわ」

 

「ん、もう終わったかのか」

 

雛もすっかりこの作業には慣れたようで、いつもより早く解呪を済ませたようだ。

今回もさぞ沢山の厄を溜め込めたことだろう。しかし、当の彼女はというと浮かない表情でどこか不機嫌な様子。まぁ、終わった後はいつもこうなのだが。

出来ることならばやりたくはないという心情は容易に読み取れる。しかし、この人形異変が起こってから厄を溜めた雛人形が流れてこなくなった現状、彼女もこれをやらざるを得ない。

何故なら厄は彼女が生きる為に必要なもの……“原動力”だからだ。

 

無論、こちらも逃がしたい人形の提供を止めるつもりは毛頭ない。解呪の能力は強い人形探しの効率をよくする上で、大いに役に立つからだ。

旅立って間もない頃は野生の人形を闇雲に沢山捕まえ、荷物が封印の糸で嵩張ることが煩わしかったものだが、ここではいらない人形をタダで一気に消費出来る。

もうお金に困って封印の糸を使用することに迷いを生じることも無くなった。お陰で良個体探しも順調に進み、強さにも磨きがかかっている。

 

 

また来るという俺の言葉に対し、雛は返事をせず野生化した人形達を外へ連れ出す。

雛はいつもこの解呪の作業に対し、否定的な態度をとることが多い。現状、解呪は彼女が生きる上で必要なことだというのに……その考えは理解に苦しむ。

 

「ったく、いい加減気持ちを切り替えろよ。お前にとって悪い話じゃないんだし、人形がどうなろうと別にお前には関係ないことだろうが」

 

「厄を集めるのは私や雛人形で充分よ。少なくとも、この人形達はあなた達に不幸にされる為に生まれたんじゃないわ。そのことを忘れないで」

 

「……ふん、そんなの知ったこっちゃねぇ。誰かが幸福になれば、必ず不幸になる奴もいる。当然のことだろうが」

 

こちらの回答に対して埒が明かないと悟ったのか、雛は呆れた様子で「厄いわね」と呟き、そのまま野生の人形達を元の住処へと帰しに空へ飛んでいく。

 

 

この人形異変は、強い奴ほどのし上がれる。金を得られるんだ。

弱い奴など只飢えて、死ぬのを待つしかない。あの時だって、金さえあれば……

 

俺には手段を選んでいられるような余裕なんてない。この世は弱肉強食。生き残る為だったら、人形だろうと神だろうと利用してやる。

 

 

 

 

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