人間と人形の幻想演舞 作:天衣
東の端、幻想郷と外の世界を隔てる位置に存在する博麗大結界。そして、そこの境目に存在する博麗神社。
その立地故に参拝客が人が寄り付かないこの場所で、現在2人の少女による人形バトルが勃発していた。
「 れいむ! 飛翔乱舞 ! 」
「 何の! サンダーフォース で迎撃だ! 」
れいむ人形の風を纏った神速の突撃は、まりさ人形の放つ電撃攻撃を華麗に回避する。
その無駄のない最小限の動きはまりさ人形の懐へ潜り込むには十分すぎる程の練度であり、辛うじてまりさ人形は身を守る体制は取れたもののダメージを受けてしまう。
幸運だったのは、雷タイプに風タイプの攻撃が効果いまひとつであったことだろうか。
「(……速いな。こりゃ真っ向勝負じゃ勝てっこねぇぜ。どうしたもんか)」
「 ステルスマーダー 」
「いっ!?やべっ……!」
思考を巡らせる時間を与えない霊夢の猛攻。
霊夢の指示を受けたれいむ人形はその場で両腕をクロスし、自身を透明にすることで姿を消す。
どこにいるか分からない、いつ攻撃が来るか分からないという恐怖が魔理沙とまりさ人形に重くのしかかった。
まりさ人形にはこういった状況を打破出来るような補助技を覚えておらす、別の人形に交代をするしかない。
「 ……戻れ!まりさ! 」
何度目か忘れてしまう程の、交代の判断。自分が如何に霊夢の術中に嵌っているかを嫌でも自覚してしまう。
初手のあや人形の一斉射撃に成す術なくやられ、残りの人形はまりさ人形含め後2体のみとなったのが痛かった。霊夢の方はまだ1体も消耗していないというのに、これは酷い。
余りにも強すぎる。一体どんな特訓をすれば、あそこまでの領域に到達出来るというのだろうか?
れいむ人形がスピードスタイルであるまりさ人形に素早さで勝るなんて、最早普通じゃない。技を拘っている訳でもなく、種族値的に考えても普通有り得ない現象だ。
単純にレベルに差があったり何か積み技を使った訳でもなく、限界まで霊夢の手で鍛え上げられた結果、あのような無駄のない最小限の動きを体得してしまったらしい。
どうやっても越えられない筈である種族値の壁を容易く突破しているお陰で、さっきからこちらの計算は狂わされてばかり。
博麗 霊夢は才能の塊だ。おまけに勘も鋭い。それは今まで幻想郷で起こった異調査の際、嫌でも目にしてきた。目にしてきたが……まさか強さにある程度の法則性がある人形のバトルにおいて、こんなことが起きるなんて思いもしなかった。
普段から真面目に修行なんてしてこなかった彼女がここまで本気になっているというのも、明らかに普通じゃない。一体どういう心境の変化だろうか?
「……降参だ。もうどうしようもないぜ」
「あら、そう。まぁ残りがあのもやしっ子人形しかいない時点で、あたしの勝ちだったかしら」
「れいむ人形相手にパチュリー人形は相性が最悪だ。この状況になるのを狙ってやがったな?」
「さて、どうかしらね?それよりも、疲れたからちょっと休憩しましょ?茶菓子とか用意するから、縁側で少し待ってなさい」
「……お、おう」
私の知っている霊夢とは思えないおもてなしに少々困惑するも、私は縁側に座って一息つくことにした。
人形バトルをやっていると、主に喉が渇く。
いつものお茶、それに合ういつもの茶菓子を乗せたお盆を、霊夢がいつものように持ってくる。
そしてそれを縁側の床にそっと置き、それを左右で挟むように2人が座る。いつもの光景だ。
いつもと違う箇所があるとすれば、私達の人形達が縁側と外でそれぞれ一緒に遊んでいることだろう。
バトルはバトル、それが終われば仲の良い友達として喧嘩をすることもなく人形達は楽しそうに遊び出す。
ある者は追いかけっこを、ある者はバトルで荒れた神社の境内のお掃除を、ある者は私達と一緒に茶菓子とお茶を堪能しているようだ。
因みに私のまりさ人形は1人だけ神社にある姿鏡に映る自分を見てうっとりしている。それホントに止めてくれ。
何故だかは分からないが、あの人形の行動全般に拒絶反応を起こしてしまう自分がいる。見ていると不快で仕方がないのだ。
自分と同じ姿をしているからだろうか?それとも、別の?……分からない。
『 名前:まりさ 種族:人間 説明:嬉しくなると「うふ、うふ、うふふふふふふふ」と笑う 』
スカウターで徐に私の人形の情報を見る。改めて思うが、私はそんな笑い方なんて決してしない。
というか誰だ?この説明書いた奴は……もっとあっただろ。「魔法の森に住む普通の魔法使い」とか「異変解決のプロ」とか。
この内容について、スカウター開発者のにとりは「人形に登録されてあった情報をそのまま起用したに過ぎない」と言っていた。作った奴を見つけた暁には、絶対にそいつをとっちめてやろう。
それにしても、あの時は舞島の奴にこれを見られなくて本当に良かった。
ふと、れいむ人形の方へ目を向けると、毬を針妙丸や他の人形達と一緒に蹴り合っている。
人形は基本的に本人と似た行動をすることが多いが、れいむ人形も私のまりさ人形と同じく本人らしくない妙な行動をしている事が多い。
「(……もしかして、あいつの人形も?)」
私と霊夢の仲は、他の誰よりも長い。だから色んな事を知っているつもりだ。
実は巫女になりたてのあいつは空を飛ぶことさえ出来ず、異変解決の際は大きな亀に乗っていた。修行の末その必要なくなった現在、あの大きな亀は神社の池でのんびりぷかぷかと浮かんでいる。
以前は攻撃手段も乏しかったらしく、陰陽玉を相手に向かって蹴るという破天荒な行動もしていた。……もしや、それがあの毬を蹴って遊ぶ行動と関係しているのか?
そうなってくると、異変の元凶は過去の私達を人物に絞れることが出来るが……最も可能性がありそうなアリスは外れ。今のところ他に当ても浮かばない。
ここでない異界の者が元凶であるという線も考えたが、人形はこの幻想郷に住む少女達ほぼ全員分作られている為、それも薄そうだ。正直、この人形異変を起こした元凶は私も霊夢も未だ見当もつかない状態である。
異変調査であちこち回ることには慣れているが、ここまで手掛かりが見つからないのは今回で初めてだ。だが、正直言って私はこの異変に関してそこまで危険性を感じていない。
野生の人形達は基本的にこちらが危害を加えない限りは大人しいし、こうして封印の糸を使うことで暴走することなく制御が出来る。言うことを聞かせることだって可能だ。
私やアリス、パチュリー、にとりの手で開発されたこのマジックアイテムは中に入っている限り人形の持つ魔力を大幅に減少させ、「封印」という名の通り、内側から壊されることは決してない。
そして、それを最初に考案したのは“アリス”だった。まるで人形の仕組みを最初からある程度把握しているような、そんな理解度が彼女にあったことは今でもよく覚えている。
だからこそこの人形異変に何かしら関わっているではないかと私は疑ったのだが、「こんな高度な魔法技術、私には真似出来ない」とアリスはあの時ハッキリ宣言した。
あいつともそれなりの仲だ。その言葉が嘘ではないことくらい、その悔しさに満ちた瞳を見れば容易に分かった。
だとするならば何故、彼女はこの技術に関して詳しかったのだろうか?単なる偶然だったのか?同業者だからなのか?
アリスの目指している完全な自立人形……それが今、幻想郷中に溢れ返っているこの現状を彼女は一体どう思っているのか?
……まぁ、ストイックなあいつのことだ。少なくとも、穏やかではないことは確かだろう。
物思いにふけりながらも、霊夢の用意した茶菓子に手を伸ばすが、数が全然減っていないことに気付く。
よく見ると霊夢の方の茶菓子も全然進んでいない。どうやら霊夢も何か考え事をしているらしい。
とはいっても、最近の霊夢の考えることといえば……
「……まぁたあいつのとのバトルシュミレーションやってんのか?」
「………」
「お~~い霊夢~~?」
「―――え?あぁごめん。何か言ってた?」
「茶菓子にてもつけずそこまであいつのこと考えるなんて、らしくないな」
「……別にいいでしょ。ほっといてよ」
聞くところによると、霊夢は外来人である舞島 鏡介に初めて人形バトルで敗北を喫したらしく、それ以降このようになってしまっている。
私達はこれまで数々の異変を解決してきた実績がある。そしてそれは幻想郷の均衡を保つことにおいても重要なことだった。それがどうだ。
ぽっと出の外来人にその立場を奪われ、異変解決を生業にしている者達のプライドはボロボロ。霊夢は未だ、外来人でありながら異変解決をしている彼を認めていないのである。
舞島 鏡介の人形バトルの腕では確かだ。まるで最初から知っていたかのようなあの凄まじい適応力は、彼の唯一無二の武器……正に“能力”と言えるもの。
それに勝ろうと努力するのなら、並大抵のものでは駄目だ。それを霊夢も理解しているのだろう。私が度々ここに呼ばれては人形バトルに付き合わされるのも、それの一環。
今日だけでもう20戦程やっただろうか?お陰で最初は他所他所しかった人形達もすっかり互いに慣れ、凄く仲が良くなった。
「それでどうだ?少しは参考になったか?」
「えぇ、そうね。お陰でこいつらも強くなったし、タイプごとの立ち回りも掴んできた。次は絶対負けないわ」
「そりゃあめでとさん。……しかし、珍しいな。お前がここまで
「魔理沙、あんたも分かってるでしょう?人形の危険性を。悪用されれば人形は兵器同然……人里で起こったあの事件、忘れた訳じゃないわよね」
「……あぁ、人形解放戦線の奴らが起こした暴動だろ。紫が一切動かないのが不思議なくらいだったぜ」
「当時はまだ誰もが人形遣いとして未熟だったわ。少なくとも人形解放戦線の奴らよりね……私も何も出来なかったわ」
“人形には人形でしか対抗出来ない”……一見、シンプルで分かりやすいこの人形異変のルールが今、この幻想郷を最も苦しめている要因となっている。
私達自身の強さでなく、人形遣いとしての力量がこの幻想郷の強さを表す基準として成り立ってしまったのだ。特に、人形解放戦線を率いるリーダーの実力は別格で、未だ誰も手出しが出来ない。
あの暴動の時、霊夢が現場へ到着した頃には惨澹たる有様だった。
家を焼かれ、人形の毒を受け苦しむ人々……安全な筈だった人里とは思えない光景が目に映った。
博麗の巫女を目撃した住民達は藁にもすがる思いで彼女に言った。「助けてくれ」、と。
これが、霊夢が人形異変を危険視した最もな理由だ。
「あの外来人は人形の危険性をまるで分かっていない。……これ以上、この異変に顔を突っ込むべきじゃないわ」
「そうか?舞島はほっといても大丈夫な気もするがなぁ。人形バトルの腕も立つし、他人に危害加えるような奴じゃないしさ」
「私の勘が言ってるのよ。近々、あいつは何か行動を起こすってね。だからすぐにでも止めたいの」
「舞島が?そんな野心抱くようなキャラじゃないぜあいつ」
そうは言ったものの、霊夢の勘というのは恐ろしく当たるもの。
先程の人形バトルでもそれは嫌という程味わっているし、今までもその鋭い勘で異変の元凶を突き止め、無事に解決してきている。
最も、その勘は今起こっている人形異変では何故か働いてくれないらしく、今もこうして調査中なのだが。
人形を愛する彼が、この幻想郷に何か脅威をもたらす……そんなことがあるとでも言うのか?