人間と人形の幻想演舞 作:天衣
見た目と特徴から、即決でした
「(……うわ)」
天狗の里を後にして早々、僕の目に飛び込んできたもの。
それを敢えて一言で言い表すなら、“狂気”。
「 「さぁ、行くか」の声を聞き! 」
「 光の速さでやって来た 」
僕の行く先を遮るかのように存在するそれらは、軽快なステップとキレのあるダンスを絶え間なく続けながらこちらに喋りかける。
次の目的地である守矢神社に向かおうと意気込んだ矢先、突然背中が光り出した。そして、気が付いた時にはこの有様である。
「 風よ! 」
「 大地よ! 」
『 大空よ! 』
「
「月まで届けよクライシス」
2人と1体の猫の特徴を持った人形……どこかで見たことのあるような組み合わせが、こちらの事情そっちのけで無駄のないパフォーマンスを披露。
どうやら新しい人形を仲間にしたようで、息もピッタリ合わせられている。
『 名前:ミケ 種族:招き猫 説明:「金」か「客」、どちらかしか招くことが出来ない 』
あちらが勝手をするのなら、こちらも勝手に調べさせて貰おう。
成程……招き猫か。三毛猫は珍しい気がするが、説明を見るにどうやら能力が中途半端になってしまっているのだろうか?。
「天使か悪魔かその名を呼べば!」
「誰もが震える魅惑の響き」
緑とピンクがイメージカラーのクレイジーな2人組。
また性懲りもなく僕の人形を狙いに来たのだろう。出来ることなら、もう二度と会いたくはなかったのだが……厄介なことに背中の扉からいつでも会えてしまうから縁を切ることは物理的に不可能となってしまっている。
「 情熱の童子、丁礼田 舞! 」
「 平静の童子、爾子田 里乃 」
『 気丈の反発者、ミケ! 』
『「「 さぁ集え! 真多羅神の名の下に! 」」』
台詞の最後に決めポーズをとる二童子withミケ人形。
大きな「M」のロゴが輝かしく彼女らの背後に映っている……かのように見えなくもなかった。
無駄にカッコいいのが腹が立つなぁ。
さぁ、気持ちを入れ替え僕は次の目的地である守矢神社へと足を進めるとことにした。
いやしかし、今日もいい天気だな。絶好の旅日和……
「いや待て待て待てぇ~~~~い!?」
「待ちなさ~~~~い」
『待つのにゃ~~~~!?』
見なかったことにして先に進もうとしたが、3馬鹿はそれを許してはくれなかった。
さり気なく行けばバレないと思っていたのだが……仕方がない。適当に相手して、満足するまで付き合うか。
変人は下手に刺激すると何するか分からないし。
「……今日は何ですか?」
「無論!君のお陰で無事人形遣いデビューを果たしたから、こうして勝負に来たのさ!」
『来たのにゃ~~~!』
「あなたのユキ人形を、人形バトルで勝って貰い受けるわ」
二童子曰く、彼女らの上司に当たる人物が僕の持つユキ人形を欲しているらしい。
確かに、僕のユキ人形は他の人形にない特別な力がある。恐らくその上司に当たる人物もそれを知って狙っているのだろう。
……あれ?何だかこのポジションってまるでサトシの〇カチュウみたいだな。確かにカラーが黄色と黒という共通点は一致しているけれど。
そして、彼女らの行動はそれを執拗に狙い続けるあの3人組を彷彿させる。喋るミケ人形の存在がそれをより際立たせ、まるで最初からそうであったかのような違和感の無さだ。
違いがあるとするなら、僕の言ったことを忠実に守った上で堂々と人形バトルを仕掛けてくる誠実さだろうか。
というか、さっきから当たり前のように喋っているあのミケ人形は何者だ?通常、人形の喋っている言葉はこちらには分からない筈だ。
特別な個体?それとも、何かカラクリでもあるのだろうか?
「……えぇ。その勝負、受けてもいいですよ」
「お、ノリがいいね!!じゃあ早速!」
「いかせて貰うわよ」
以前遭遇した時、彼女らに人形について色々と教えてあげたという経緯がある。
わざわざこうやって準備をしてきたのを無慈悲に断るのは流石に気が引けたので、人形バトルの申し出を受けることにした。
最も、例え僕が負けたとしてそれが相手のものになる訳がない。僕が自分から渡さない限り、ユキ人形を奪うのは実質不可能である。某3人組のように卑劣な手段を使ってくるのなら話は別だが。
だが、いくら頭のネジは外れている彼女らでもそのような行動を起こすような者でないことは、これまでの行動で何となく分かっている。心配はいらないだろう。
だから、この勝負で実力の差をハッキリさせ、ユキ人形付け狙うのを諦めて貰う。
「あ、因みに人形バトルは一人ずつじゃないといけません。人形バトルはルールをしっかり守りましょうね」
「え?そうなの!?……分かった!じゃあまずは僕が相手だね!」
「頑張れ~~舞~~!」
『頑張るのにゃ~~~!!』
勝負の結果は、僕の圧勝。
舞と里乃の敗因は至ってシンプル。人形がスタイルチェンジをしていないことだ。
スタイルチェンジをしているかどうかは、人形のステータスに大きな差が付く。残念ながら、勝てる要素は初めから無いに等しかった。
「君のユキ人形、強すぎだよ~~~!!」
「手も足も出なかったわ……こんなにも実力の差があるなんて」
『ひ、ひぇ……』
倒すどころか一発も攻撃が出来なかった舞と里乃、そしてそれを見ていたミケ人形は実力の差に絶望しながらもその場で哀愁漂うダンスを踊り始める。
踊り続けないと死んでしまう呪いか何かに掛けられているのだろうか?本当に狂気的で愉快な3人組だ。
「……ところで、君は戦わないのかい?」
『冗談いうにゃ。あたしは非戦闘員なのにゃ』
「?それはどういう」
「あー……それは僕から説明するよ」
どうやらこの喋るミケ人形は事情のある人形らしい。
舞と里乃は互いに目を合わせ、このミケ人形をバトルに出さなかった理由を説明し始めた。
「まず、僕らには「背中で踊ることでその者の“生命力”と“精神力”を引き出す」という能力があるんだ。因みに僕が生命力、里乃が精神力ね」
「ず、随分と限定的な能力ですね?」
「フフ、それがそうでもないの。“お師匠様の能力”と合わせることで、簡単に条件は満たせるわ。あなたも身に覚えはないかしら?私達はあなたの“背中”から現れるでしょう?」
「……あ」
そうか。以前、舞と里乃が僕の背後に突然現れたのも、光り輝く僕の背中に帰って行ったのも、そのお師匠様と呼ばれる人物の仕業だったのか。
成程、確かにその組み合わせだったらその限定的な能力も機能する。
「それで、試しに人形に対して僕らの能力を使ってみたところ……」
「どういう訳か、言葉を発するようになってしまったの。その代わり、技を一切使えなくなってしまったみたい」
「やっぱり、楽して強くはなれないみたいだね~~アハハ!」
「(えぇ……)」
そんな単純な理由で能力を行使したのか……巻き込まれた人形はさぞ迷惑だっただろうに。
憐れみを感じながら被害者であるミケ人形の方に目を向けるが、ミケ人形は呑気に猫座りで自身の右手を舌で舐めており、特に気にしているような気配はない。
「元に戻してあげることは?」
「う~ん、時間が経てば元には戻るけど」
「当の本人が、このままがいいって言っているのよねぇ」
「え?」
『あたしは元々戦うのが嫌いにゃん。むしろ人間と話せて便利だし、何も不満なんてないのにゃ~♪』
ミケ人形がそれで幸せならそれでいいのだが……でも、そうか。
様々な性格の人間がいるように、人形の中にもバトルを嫌う者がいる。考えてみれば、それは当たり前のことだ。
「そんなことよりも、また人形のこと色々教えてよ~~!」
「強くなる秘訣、是非ご教授して貰いたいの」
「え?ちょ!?」
舞と里乃は僕の両腕をそれぞれ左右で胸元にガッチリ抱き締め、サンドイッチのように挟み込む。
立場的には敵同士の筈なのに、何故か彼女らは僕に対して好意的な姿勢を向けてくる。それが逆に怖い。
かと言って悪意があるようには全く見えないし、2人は余程の天然……いや、マイペース?が正しいか。
「(僕ら、お師匠様の言いつけで自由に外に出して貰えないんだ)」
「(だから、この機を逃すともう駄目なの。お願い)」
「―――ッ」
左の方から舞、右の方から里乃の声がそれぞれの耳に伝わってくる。
身震いしてしまう程の甘い囁きに、思わず胸の鼓動が上がっていく。おまけに両腕からも伝わる2人の胸の感触……やや右のほうが豊満だろうか?
って、何を考えているんだ僕は!?だ、駄目だ、このままそれを続けられたらどうかしてしまう。
「――わ、分かりました!教えますからッ!!だから一旦離れて下さい!」
「本当!?やった!!」
「作戦成功!言質取ったわ!」
僕の言葉を聞いた2人は互いにハイタッチを決めている。まさか色香を使ってくるとは……油断した。
だが、断れば次は何をされるか分からなかった。これで良かったんだと、そう思おう。
こうして僕はまた舞と里乃に人形について知っている知識、バトルのコツを教えたあげた。
最初は嵌められたことで腹を立ててはいたものの、あの時2人の言っていたことが僕は妙に気になってしまい、結局は協力してしまっている。
僕はやはり、甘いのだろうか?相手は僕の人形を狙う敵だと言うのに、こんなことをして……でも、感謝を述べてくる2人を見ると僕は嬉しくなり、結局は許してしまった。
あの事件以来、少しは人を疑うことを学んだつもりだったけど、やっぱりそう簡単には変われないということか。我ながら情けないな。
再び僕の背中の中へと帰った舞と里乃。
神出鬼没なバックダンサーズと次に会った時、更に強くなっていることだろう。
無論、負けてやるつもりは毛頭ないが、前回のように簡単にはいかなそうだ。自分のせいで。
「……もう夕方だ」
時計は午後5時を回っていた。少し急ぎで目的地に向かう必要がある。
人形がいるとはいえ、夜の幻想郷は少々危険だ。ましてはここは妖怪の山……野良の妖怪が複数いても何ら不思議ではない。
僕は川に沿って駆け足で山道を登り、守矢神社を目指すのだった。