人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第四十章

 

流れている川に沿って山道を進むこと、約1時間。

 

元々、家からあまり出ない弊害で足腰が鍛えられていないせいか、さっきから歩く度に自身の足から痛みと生じる。

そろそろ着かないと限界だ……空も夕日が沈んできて段々と暗くなっているし、ここは山なので当然街灯なんて人工物はない。

ある程度道が整備されているとはいえ、ここはまだ僕の住む世界に比べて発達が遅れていることを考慮していなかった。

 

 

不安な気持ちの中、先を進んでいくと2つの分かれ道が目前に現れる。まっすぐ進む道と、左へ進む道……もう暗くて先の様子が見えなくなっている状態だ。

時間がないというのに、これは嫌なシチュエーションに出くわした。正解はどっちだ?

 

ここでひたすら考えていても埒が明かない。疲れていた僕は運頼みで先に進む道を指先で交互に差しながら、1人で言葉を交わす。

真っすぐ、左、真っすぐ、左……場合によっては命に関わるかも知れない選択を、よりにもよってこんな安直なことで決めようとしている。

きっと後になって馬鹿だったと後悔するのだろう。だが、やってしまったものは仕方ない。現在唱えている呪文に自分の命運を掛け、道を定めようではないか。

 

「(……真っすぐか)」

 

呪文を唱え終わり、止まった指先は正面の道だった。僕は左の道を素通りし、真っすぐに足を進めていく。

どうせ確率は2分の1、ヒントもない完全な2択だ。迷う余地など最初からない……と、見苦しい開き直りをしながら。

そして次の瞬間、前方不注意で僕は強く頭を打ってしまい、痛みに耐え兼ねその場で悶絶。どうやら堅い何かに衝突したみたいで、ぶつけた頭を抑えながら前を向くとそこには大きな岩が立ち塞がっている。

道の途中に不自然に生えたその大岩は完全に山道を隔てており、このままでは先に進むことは出来そうにない。こっちの道は現状諦めるしか無さそうだ。

 

 

となると、残るは先程通り過ぎた左の道しかない。

そちらも行き止まりなら……今夜はこの山道で野宿だろう。覚悟を決め、左の道へと進む。

 

一歩進んだところで硬い何かを踏んだような音が聞こえ、下を向いてみる。それは石で出来た階段だった。

それを確認した僕は、心の底から安堵する。理由はこの人工物の存在が意味することを、疲れた頭でも容易に理解出来たからに他ならない。

 

 

やっと着いたんだ。守矢神社に。

 

 

 

 

 

 

息を荒げながらも、一歩ずつ石段を上るがもう外は暗い。

明かりの一つも存在しないこの山を、何の対策も無しに歩いては非常に危険であることが今回でよく分かった。

 

「――ッとと」

 

疲れからか、僅かに階段を踏み外してしまう。不味いな……足の痛みも増してきた。

正直、このまま先に進むのは身体的に考えても無謀だ。しかし、明かりのなるものは現在持ち合わせてはいない。

目的地まであと少しだと言うのに、なんと口惜しいことか。

 

「!」

 

そう思っていた時、封印の糸から人形が1体飛び出した。暗くて見づらいが、その正体はどうやらユキ人形のようだ。

ユキ人形は手から徐に炎を出して、自身が明かりとなれることをアピールしてくれている。

そうか。更に言うとユキ人形には光タイプの技もあるし、周辺を照らすには持ってこいである。もっと早く気が付くんだった。

 

 

「 ユキ、 気象発現「極光」! 」

 

 

指示を受けたユキ人形は光の玉を生成し、それを天に掲げた。

降り注ぐ光はまるで室内で電気を付けたかのように行先を鮮明に映し出し、僕の進む道をはっきりと示してくれる。これで安心だ。

技を出し終わったユキ人形は僕の肩へとジャンプして飛び込んだかと思うと、褒めて欲しそうに期待の眼差しを向けたので、一言お礼を言いユキ人形の頭を撫でてやった。

 

人形は本当に愛らしく、頭もよく、頼りになる存在だ。もし人形がいなかったら今頃僕は、その辺で野垂れ死んでいても何ら可笑しくはない。

それくらいこの幻想郷には危険が多く、これまでに何回人形の力を借りてきたことだろう?本当に感謝してもしきれない。

 

 

周囲が明るくなったことで、心の中に芽生えた始めていた嫌な気分もすっかり晴れている……が、過信してもいけない。

この技には確か3分程の時間制限がある。それまでにはこの石段を登り切りたいところ。顔を上げ、後どれくらいあるのかを確認してみた。

 

「(……結構あるな)」

 

てっぺんに見えた神社の入口を示す鳥居、そして現在自分がいる場所と比較してみると、この石段を約4分の1程度登っていることが分かった。

明日は筋肉痛確定だな……ひたすらに坂道を登るはやはりキツい。しばらくは登山なんて御免だ。

こんな時、行きたい場所にパッと移動出来る手段があれば楽なのだが。

 

「……行くか」

 

なんて、そんな都合の良いものがあったら苦労しない。僕は重くなっている足を何とか気合で動かし、足早に石段を登っていく。

不思議なことに、足から来る痛みがあるにも関わらずその動きは実にスムーズだった。こんなに無理が効くのは、僕がまだまだ若い少年だからなのだろう。

今なら苦手だった体育の授業も、良い成績が残せるのではないだろうか?……まぁ、当時は休んでばっかりだったけどね。

大森の奴は見た目に反してまぁまぁ運動出来る“動けるデブ”を体現したような奴だったから、よくそいつと比較されて周りから馬鹿にされたものだ。

今思えば、それはあいつが「東方project」に纏わる様々な聖地に行ったことで自然と体力が付いたからなのかもしれない。今の自分みたいに。

あいつ、今頃自分が幻想郷に来ていることに嫉妬しているんだろうなぁ。帰ってきた時がうるさそうだ。

 

 

そんなことを考えている内に、僕は石段を全体の半分以上を登り切っていた。

残り4分の1程度……何とか登頂出来そうだ。肩に乗っているユキ人形もまるでアトラクションに乗っているかのように堕ちないようしっかり掴まりながら楽しそうにしている。

そういえば、旅に出たばかりの頃は僕に跨りながら着いて来ていたんだっけ。ユキ人形は封印の糸よりも外に出ている方が好きなのだろう。

封印の糸でしっかり防犯はしていることだし、無理に封印の糸の中にいて貰うことはないのかもしれないな。

 

 

「 おーーーい!舞島さーーーーん!! 」

 

 

「うわっ!?」

 

 

あと少しというところで、鳥居の前にいる誰かから声を掛けられた。

走っていたこともあり、元気のいい声にビックリした僕は石段の角を踏んでしまい、バランスを大きく崩してしまう。

 

「あ、危ない!!」

 

「(やばッ――!?)」

 

この高さだ。転んでしまえばタダでは済まない。

ユキ人形も僕の下に来ることで頭を打たないよう支える体制に入ろうとする。他の人形達も同じように僕の危機を察し、封印の糸から出ようとしているのが分かった。

鳥居の前にいる人物も、助けようと飛翔してこちらへ向かっているようだ。

 

人は死ぬ直前、動きがゆっくり見えるようになると聞いたことがある。今の状況が正にそれなのだろう。

今この場にいる皆が、僕を助けようと必死になっていた。だが僕には分かる。“間に合わない”と。

 

 

僕はこのまま死んでしまうのか?……冗談じゃない。こんなことで死ぬなんて絶対に嫌だ。

 

―――動け。動いてくれッ!

 

 

しかしその願いも虚しく、僕は疲れ切った体を動かすことは出来ない。

このまま頭を強く打ち、無様に下へ下へと転げ落ちてしまう未来が見える。

 

もう駄目だ。そう諦めかけた時、“奇跡”は起こった。

 

 

「――うお!?」

 

 

後ろから吹いた激しい突風が倒れかけていた僕の体を浮かせ、僕を空高く吹き飛ばした。

訳の分からないまま僕は宙へと放り出されてしまい、情けなく声を上げる。

 

しかしその直後、飛翔していた人物がすぐに僕の両腕を掴むことで落下を免れる。

よく分からないが、僕は助かったらしい。

 

 

 

 

 

 

「 本ッッッ当にすみません!!私のせいで危ない目に合わせてしまって!! 」

 

 

「い、いえいえ。こうして助かったのですから」

 

緑のロングヘアーの大胆な巫女服を着た女の人は頭を何度も下げ、さっきからこちらに何度も謝罪している。

悪気はなかったのは十二分に伝わったから、もう特に気にしてはいない……と言っても聞かないのだろう。何せ、相手からしたら石段を踏み外してみすみす死なせてしまうところだったのだ。

まさか、こんな形で再会することになろうとは。

 

「早苗さん、あの時あなたが僕がキャッチしてくれたからこうして無事無傷でいられたんです。だからもう」

 

「私ったら、舞島さんがわざわざ家の神社に参拝に来てくれたのが嬉しくてつい大声を上げてしまいました。長い登山でお疲れなことを配慮するべきでしたよね……本当に御免なさい!私に出来ることなら何でもしますから!!」

 

「(ま、参ったな……)」

 

早苗さんはどうしても自分を許せないらしく、こちらの言葉を聞き入れる程の余裕がなかった。

もういっそ、何かをして貰った方がこの場は収まるのではないだろうか?

 

とは言っても、咄嗟には思い付かない。一旦、足を休めたいという願望はあるが……

 

 

そう思っていた次の瞬間、気の抜けた腹の虫が小さく、そして鮮明にこの場にいる皆の耳に入ってくる。

ひとまず目的地へ着いて安心してしまったのだろう。そういえば、朝から何も口にしていなかったことを思い出す。

 

「えっと、申し訳ないんですけど……何か食べ物ありますか?」

 

「!それなら、今から夕飯を準備するところだったので一緒に食べて行ってください!!沢山振舞いますよ!さぁどうぞ中へ!!」

 

そう言うと早苗さんは猛ダッシュで神社の中へと帰って行ってしまった。

恐らく今から夕飯の支度を始めるつもりなのだろう。しばらくは携帯食料ばかり食べてきたし、偶にはこういうのも悪くないか。

ここは遠慮せず、早苗さんの夕飯を頂いていくことにしよう。

 

 

 

 

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