人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第四十二章

 

「 ぜぇ……ぜぇ……あーーもうっ!絶ッッ対に明日筋肉痛確定じゃない!!もう最悪!! 」

 

 

「せ、先輩……すみません。まさかこんなことになるなんて」

 

僕と同じ外の世界の住民であり、協力者でもある宇佐見 菫子先輩の悲痛な怒号が守矢神社内に響き渡る。

菫子先輩は外の住民でありながら“超能力”を扱える近年稀な天才少女らしく、今回ここに来て貰う際もその能力を遺憾なく発揮するのだと、そう思っていたのだが……

 

「ど、どうしてわざわざ徒歩で来たんですか?先輩ならその能力で簡単に来れたんじゃ?」

 

「あのね……いくら私でも行ったことのない場所に瞬間移動なんて出来ないの。飛翔するにもこんな大荷物じゃ飛べやしない。……あー足痛った」

 

「……ごめんなさい。僕の配慮が足りてませんでした」

 

早苗さんに渡そうと頼んだ某人気格闘漫画の単行本全巻セット、これが董子先輩を最も苦しめた要因だったようだ。

この世界の住民にとって、飛翔は日常的に使われているもの……菫子先輩もここではそうだったのだろう。超能力を扱えること以外は普通の人間である先輩が、容易に山を徒歩で登れるような足腰を持っている筈もない。それに加えて、大量の漫画本という非常に重たい荷物も抱えていた。

お陰で菫子先輩の体力は限界を迎えたようで、現在は客室にて休憩をとっている。

 

「後輩!!ぼさっとしてないでジュースと焼きそばパン買って来なさいよ!!」

 

「えぇ!?こ、ここは幻想郷ですからコンビニなんて多分ありませんよ!?」

 

「はぁ!?先輩の言うことが聞けないのかしら!?私にこんな重労働させといて、タダで済むとでも?」

 

すっかり不機嫌になってしまった菫子先輩の無茶振りがこちらへ無慈悲に襲い掛かってくる。

このままだと肝心な要件を伝えられない……ここは先輩の機嫌を取ることをまず優先すべきだろう。

 

まず、菫子先輩は非常に疲れている。

原因は言わずもがな、ここに来る際の重労働だ。まずはそこから解決していこう。

 

「 メディスン! 出てきて! 」

 

僕の声に応える様に、兎耳ナース姿のメディスン人形が封印の糸から飛び出した。

一通りの用件を伝えると、メディスン人形は先輩の様子を確認すべく前進する。

 

「な、何よいきなり!?何かこっち来たんだけど?」

 

「まぁまぁ、ちょっとだけそのままでいて下さい。今診てくれていますから」

 

「……?え、えぇ」

 

言われるがまま、菫子先輩はメディスン人形に身体を預けるようにその場から動かず様子を見てくれている。

突然の人形の登場に少々困惑気味だったが、襲ってくる気配がないのは伝わったようだ。

 

身体の状態を見終わったメディスン人形は早速両手をかざし、癒しの光を放つ。すると先輩はまたも何事かと驚くが、徐々に体が楽になっていくのを感じ愉悦な表情を浮かべていた。

だがこちらにそれを見られていることに気が付いた先輩は威厳を取り戻すべく、咳払いをしてすぐに表情をリセットする。バレバレではあるが、一旦ここは見なかったことにしよう。

 

「お体、楽になりました?」

 

「……ん、まぁ」

 

「フフ、それなら良かったです」

 

「――ッ(そ、そんな顔されたら何も言えないわよ…!)」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

とりあえず菫子先輩が元気になったので、本題であるこちらの要件をざっと伝える。

しかしそれを聞いた先輩は渋い表情を浮かべており、あまり乗り気ではない。

 

「……君、それ本気で言ってる?」

 

「はい」

 

こちらの正気を疑うかのような深い溜息……余程馬鹿な発言をしたということなのだろうか。

確かに、無謀であることはこちらも十分承知している。だが、僕はどうしても知りたい。

 

「お願いします!これは菫子先輩にしか頼めないんです!」

 

「はぁ?な、何で私なの?それ別に私以外でも出来るんじゃ……」

 

菫子先輩は僕の考えた作戦の選出基準に疑問を持っているようで、どうも納得がいっていない様子だ。

確かに説明も無しにそんなことを言われても困るというのはごもっとも。少々焦っていた。

 

「……分かりました。では、どうして董子先輩でなければいけないのかを今から話します」

 

「まず、第一に菫子先輩は元々幻想郷の住民ではありません。あくまでそちらから来ているという立場にある。それは逆に、“この世界にいないことも決して珍しくはない”ということです」

 

「う……た、確かにそうだけどさ」

 

「そして次に、僕と同じ“人間”であること。もしこれが妖怪などの種族だとしたら、同族にバレてしまう可能性がある。鼻の利く者も、この世界には多いでしょうから」

 

「まぁ、そうね」

 

「そして最後。これが、菫子先輩でなければいけない最大の理由です。それは……」

 

 

「 僕らって、身体的特徴の相性がいいんですよ 」

 

 

「…………」

 

「は?」

 

途中までは渋々納得のいっていた菫子先輩だったが、最後の理由を聞いた途端、気の抜けたような声を発してしまう。

そして僕の発言に悪寒を感じたのか、菫子先輩はその場で後ずさりしながらまるで不審者を見るかのような目を向ける。

 

「えっ、何、キモッ、引く……シンプルに引く……」

 

「!ちょ、ちょっと待ってくださいっ!これは決してそういう意味じゃ!?」

 

「それずっと調べてたってこと?だとしたらマジでキショいんだけど……」

 

不味い。

 

何やら相当な誤解を生んでしまったようで、さっきから菫子先輩の貶しが止まらない。

当然だが、先程の言葉に下心など微塵もありはしない。ただ作戦上必要な事実を述べた、それだけである。

だが、今のこの状況は非常に宜しくない……どうにか菫子先輩の説得を……

 

「 話を聞いて下さい!これはこの作戦を決行する上で重要な 」

 

「  近付くなッ!!この変態中学生ッッ!!!  」

 

「 う、うわあああぁぁぁーーーーーーーー!!? 」

 

この部屋に存在するありとあらゆる物体が宙に浮かんで、それが僕に向かって襲い掛かった。

 

これは、女性に対する言葉を選ばなかった僕に対する“罰”なのだろう。

 

 

言い方1つで印象というのはこうも悪くなるのだと、僕は今更ながら学んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「一体どうなされたのですか?大きな音が聞こえたので見に来てみれば、先程漫画を下さった女の子が凄い勢いで飛んでいってしまってて、舞島君は何故か家具の下敷きになっていますし」

 

「いや、まぁその……」

 

早苗さんに治癒術を施して貰いながら、どうしてこうなったのかという状況説明を求められる。

言えない……意図せず変態的な発言をしてしまって相手を引かせてしまい、挙句に正当防衛されたなど……口が裂けても言えない。

 

「趣味の話をしていたら、考え方の違いで少々言い合いになってしまいまして……それで」

 

僕はその場で適切且つ違和感ないであろう嘘の説明をし、その場をやり過ごす。

それを聞いた早苗さんは少々考える素振りを見せたもののそれで納得してくれたらしく、それ以上の追及はしなかった。

「そういうこともありますよね~」などと、まるでそれが日常的であるかのように……優しい人だ。

 

「舞島くん、意図せず喧嘩をしてしまって今はどういうお気持ちでしょう?」

 

「え?えっと……そう……ですね。やっぱり、悪いことをしたなって思ってます……」

 

冷静になってみると、僕の考えた人形異変の解決につながるであろうこの作戦……完全に人頼みであることに今更気付く。他人からすれば、巻き込まれて迷惑もいいところ。

それを最初から何も配慮していないのだから、こうなるのは仕方がない。やはり、博麗 霊夢や魔理沙と同じように異変の元凶を探すことが一番最善なのだろうか。

 

「……成程。私はその喧嘩の詳しい事情を知りはしません。ですが人生、そして外の世界からこの幻想郷に来た者の先輩として、1つだけ言えることがあります」

 

「舞島くん、幻想郷ではですね……」

 

 

 

「 “常識に囚われてはいけない” のです!! 」

 

 

 

「 ――――!! 」

 

 

 

 

 

 

「常識に囚われてはいけない」。

 

その言葉は、不思議と今の僕の心に強く響いた。「感銘を受けた」とは、正にこういうことなのだろう。

 

 

「私もここに来たばかりの頃、ここの人達との接し方に悩んでいました。ですが、霊夢さんを始め色んな方達との弾幕勝負(たたかい)で分かったんです。今までの常識は捨てねばならないと」

 

 

一見、それは何の根拠もない譫言にも聞こえるだろう。

しかし、それは違う。ここは異世界……外での常識なんて、ここで通用する訳がないじゃないか。

 

 

「 信念を曲げてはなりません!!たった一度喧嘩したからってなんですか!!信じるものがあるのなら、迷わず突き進むっ!! 」

 

「……そうすればきっと、奇跡は起こるかもしれませんよ?」

 

 

「………早苗、さん」

 

 

声高々にそう宣言する早苗さんの表情には、迷いというものは一切感じられない。

思わず憧れを抱いてしまうような誇らしい姿……僕も、ああいう風になれるだろうか?

出来ることならなりたい……いや、違うな。なる。なるんだ。変わろうという、その気持ちを待つんだ。

 

 

僕は人形がこの世界からいなくならずに済む方法を探りたい。

現状、人形がこの世界にいることで発生している不祥事について……お陰で決心がついた。

 

 

「ありかとうございます、早苗さん」

 

「あ、ちょっと!動くと傷がまた開いちゃいますよ!?」

 

「大丈夫です。これくらい、何ともありませんから!」

 

 

菫子先輩が飛んでいった方向に目掛け、僕は飛び出す。

それは新しい試みへの第一歩……始まりである。

 

「(ああ見えて、ちゃんと男の子なのね)」

 

勝手な行動に腹を立てるも、どこか嬉しそうにしている現人神の姿がそこにあったのだった。

 

 

 

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