人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。



第三部
序章


 

 

幻想郷。

 

 

それは僕の住んでいた場所とは常識が異なる異世界。少女達が当たり前のように空を飛び、魔法という名の奇跡を扱う未知の領域。

そこに住んでいるのは人間を始め、妖怪、魔女、幽霊、神様といった異世界特有の種族達……空想上の生き物達だ。

 

生き物と言えば、最近になってこの幻想郷に出没した者達がいる。それは、“人形”。

人形はこの世界に住む少女達の姿をしている身長40cm程の可愛らしい生き物である。しかしただ可愛いだけではない。

この人形という生き物は人形遣いが従えることで戦うことが出来、且つその経験を得て成長することが出来る。まるでロールプレイングゲームでもやっているかのような仕組みは瞬く間に幻想郷中に広がり、一種の競技と化した。

やがて「人形バトル」と呼ばれたその競技は、今幻想郷で最も流行しているコンテンツだ。

 

だが、いつの時代もそれを悪用する者は必ず現れる。

現在、「人形解放戦線」という名の集団が人形を使って幻想郷全土に対しイタズラや破壊工作を行っていることが確認されており、住民達を困らせている。

彼女らの動機は未だ不明。しかし実際にそれを指揮している人物に一度会ったことで分かったことがある。それは、“人形の解放”。団の名前の通り、彼女らの目的は人形達を自由にさせること。

現に人形を捕まえるマジックアイテムである「封印の糸」の開発現場を襲い、幻想郷で起こったことを記事にして幻想郷中に報道している集落に対しても妨害を働いていた。

そして、その集落で見た過去の人形解放戦線を取り上げた記事の内容……僕はどうしてもそれが気になり、実際に確かめる必要性があると判断する。

 

 

だが、それを実行するには協力者の存在が不可欠……そして、“誰にもバレないようにする”ことが重要だ。

 

そう。今やこの世界で有名人となってしまった僕がそうなるには、どこにでもいる存在……“無個性(モブ)”になる必要性があった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

[紅魔館]

 

 

「……他の種族になれる魔法ですって?」

 

大図書館の魔女、パチュリー・ノーレッジは本を捲りながら視線をこちらに向けることはない。

だが呆れたような声色から、馬鹿なことを言っていると感じられているのは間違いないだろう。

 

「まぁない訳ではないけれどね。何故そんなものを?」

 

「えっと……実は」

 

僕は事細かにその魔法を欲している理由を説明した。人形解放戦線の過去と今の違い、リーダーのこと、烏合の衆にしては統率が取れている等々……

相変わらず本を読むことに集中しているパチュリーだが、こちらが説明をし終わると同時に呼んでいた本を静かに閉じる。そして、ようやくこちらに目線を合わせた。

 

「成程。要は潜入する為にその魔法を探していると」

 

「はい」

 

「作ってあげてもいい。但し、条件があるわ」

 

そう言い放ち、パチュリーはその白くか弱い指先を僕の封印の糸に向けた。タダという訳にはいかないらしい。

もちろんそれは想定していたのだが、まさか僕の人形に用があるとは。

 

「あなたの人形……「ユキ」といったかしら?それを私に調べさせて頂戴」

 

「ユキを?ど、どうして?」

 

「レミィとの戦いで見せたその人形の力、ちょっと興味があってね。時間は取らせないわ。こちらが魔法薬を完成させると同時に返す。……どうかしら?」

 

「………」

 

ユキ人形の入った封印の糸に視線を移す。すると糸が光り出し、飛び出そうとするユキ人形を僕は慌てて両腕で抱えた。

2人の話を聞いていたのだろう。また離れてしまうのが嫌なのか、僕の腕に小さな両手でしがみ付く。

ユキ人形はメディスンとの戦いで一度僕と離れ離れとなってしまった経験がある。あんな思いはもう二度と御免なのだろう。無論、それは僕も同じ気持ちだ。

せめて今くらいは、一緒にいてあげないといけない。

 

「預けている間、僕も一緒にいては駄目ですか?」

 

「……邪魔をしなければ、別に構わないわ。当時の話を聞きておきたいし」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして一晩の研究の末、魔法薬は完成した。

 

宣言通り、そこまで時間は掛かることはなくスムーズに事が進んだのは魔女であるパチュリーの豊富な知識があったからに他ならない。

魔法については専門用語のオンパレードで理解は出来なかったものの、ちゃんと注文通りの効果は発揮されるらしい。

 

「そうそう。1つだけ言っておくことがあるわ」

 

「?」

 

「それを飲んだら確かに望んだ他種族になれる。ただ、一度なってしまえばもう戻ることは出来ないから」

 

「え……」

 

「そのことを肝に銘じなさい。それじゃ」

 

そう言い残し、パチュリーは自信の寝室のドアを閉める。

とんでもない発言を聞いた僕はそのまま立ち尽くしてしまい、しばらくの間動けないでいた。

 

 

 

 

 

 

「すぅーー……はぁ」

 

 

深呼吸して冷静を取り戻し、改めてこの魔法薬の効能を再確認する。

 

この魔法薬の効能は、“望んだ他種族になる”。例えば、この世界に多く存在する妖精や妖怪などになることが可能ということ。

人形解放戦線はそういった種族の集まり……人間などまず相手にされないだろう。ましてやリーダーは人間を嫌う妖怪のメディスン・メランコリー……下手をしたら殺さね兼ねない。

だからこの魔法薬を飲んでその種族になれば、人形解放戦線の新たな仲間として迎え入れて貰うことも出来る筈。潜入としてこれ以上良い手はない。

 

だがそれと同時に、この薬は“二度と元には戻れない”という副作用付き。

僕がこの薬を飲んでしまえば、人として生きることが出来なくなる。

 

 

正直、こうなるであろうという覚悟はしていた。

しかし、いざその場面に直面すると……怖い。人であることに未練がある覚えなんてないが、不思議と恐怖を感じている自分がいる。

冷汗が額から流れ、身体が僅かに震えている……本当にいいのか?後悔しないだろうか?そう思うと、余計に恐怖感が増していく。

どうしても一歩を踏み出せない……そんな時だった。

 

 

「――!」

 

 

不安に押しつぶされそうになっている僕を見てか、封印の糸から一斉に人形達が飛び出し、心配そうにこちらを見つめる。

 

ユキ、しんみょうまる、こがさ、メディスン、むげつ、けいき……僕の可愛い人形達。

 

人形異変によって生み出された謎の生命体。僕はこの人形達に今まで沢山の愛情を注いできた。

だが人形異変が解決されてしまえば、この子達は恐らく……

 

そんなの……

 

 

「(嫌だッ……!!)」

 

 

身体の震えが止まる。

 

覚悟を決めろ、舞島 鏡介。人でなくなるからなんだ。僕は人形達が幸せに暮らしていければそれでいい。

 

僕は魔法薬の入った瓶の蓋を開ける。

後はなりたい種族をイメージし、これを飲み干すだけ……

 

 

ごめんなさい。僕は、人を止めます。

 

 

 

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