人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第一章

 

〇月×日、午前1時09分

 

 

僕は妖怪の山にある集落、「天狗の里」の前までやってきた。

 

普段ならこんな真夜中の妖怪の山の中を歩くなど非常に危険で自殺行為に近いのだが、こちらにはそんなことをせずに済む手段がある。

それがこの、「スキマップ」と呼ばれる移動を主な目的とした道具だ。これは一度行ったことのある場所へ即ワープが可能な、謂わばポケ〇ンの「そらをとぶ」のようなもの。紅魔館への移動がスムーズにいったのも、このスキマップのお陰という訳だ。

因みにこのアイテムをくれたのは二股の尻尾が特徴的な「橙」という妖怪の少女で、いくら待っても来ない自分に痺れを切らして自ら守矢神社へ来た。山奥にある「マヨヒガ」と呼ばれる場所に住む橙は僕をこの世界へ呼んだあの八雲 紫の式神の式神らしく、このスキマップもその八雲 紫の能力を元にしたアイテムだと言う。

これを渡す際、八雲 紫に感謝をするように言われたが……呼んでおいて一向に姿を現さない人物にそんな感情は沸いてこない。だが便利は便利なので、その点においてはきちんと感謝しよう。

 

 

さて、僕がここに来たのは他でもない。人形解放戦線への潜入の第一歩を進める為だ。

以前ここへ来た際、三月精がここに住む天狗達に対し妨害行為を働いていたのは記憶に新しい。そして偶々通りががった僕がそれを解決したことで三月精の一人、サニーミルクが捕まるという結果となった。

僕は考えた。“何のアポもなく人形解放戦線に入ることは難しい”と。そこで、ここに捕まっているサニーミルクの出番だ。

彼女ら三月精も人形解放戦線のメンバーであり、今後付き合うこととなる一時的な仲間……彼女をここから救出して信頼を勝ち取ることで、スムーズに潜入を進められるという算段である。

 

人形解放戦線を内から変えることさえ出来れば人形がこの世界に害をなす存在とみなされずに済むと、僕はそう確信している。

そして新聞で過去を見る限り、人形解放戦線は最初から“悪”ではなかった。そうなってしまったのは何か理由がある筈……僕はそれを知りたい。

その為に僕は姿を変え、内部へ潜入することで少しでも情報を集める決心をしたのだ。

 

 

 

モブとして新たに生まれたばかりの僕にはアテがない。同族の知り合いもいない。だから、これからそれを作っていく。

 

そう。これは人形達を救う為の、僕の孤独な戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「(……思っていたより多いな)」

 

 

天狗の里の様子を遠くから伺ってみると、門番を始めとした見張りをしている天狗が数名いることが確認出来る。

この前の騒動で警戒が一層強まったということだろうか?これは見つからずに潜入するのは骨が折れそうだ……1人ならば。

 

「むげつ、いいかい?」

 

小声でむげつ人形を天狗の視界に入らないところへと繰り出す。

待っていたと言わんばかりにカッコよく登場したむげつ人形は目を閉じ、腕を組みながらドヤ顔でこちらの指示を待つ。

 

「ウィルオウィスプ でまずは天狗の里に威嚇射撃して。門番が動き次第、一緒について来てもらうよ」

 

思っていたのとは違ったのか、指示の内容を聞いて渋い表情をするむげつ人形だが言う通りに青い炎を天狗の里に向けて数発放った。

放射状に飛んだ火の玉は天狗の里に命中し、遠くから爆発音は聞こえてくる。そこに住む者や建物にはちゃんと当たっていないようだ。

そして何事かと見張りの天狗達が現場へ急行していく姿も見えた。一時的だが侵入する隙が生まれる。

 

「くるみ、君も出てきて」

 

むげつ人形に続き、このタイミングでもう1体の人形を繰り出す。

いきなりのご指名に少々緊張しているくるみ人形だが、頑張るまいと気合を入れてこちらの指示を待つ。

 

「僕が暗がりを移動する間、 夜陰 で姿を隠して。翼のある君になら、僕の走るスピードにも追いつける筈……頼んだよ」

 

少々無理を強いる指示ではあるが、これはくるみ人形にしか頼めない仕事だ。今の僕では精々1体しか人形を担げないのだから。

「幻」や「闇」属性の技は目くらましが可能な手段も多く、今は夜という好条件……やり方次第では見つからずに目的地へとたどり着けるだろう。

 

 

「(……よし、行くぞ)」

 

 

両手で頬を軽く叩き、一息いれ、自身の計画を実行に移すべく僕は2体の人形と共に天狗の里に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

中へ潜入を果たすと、案の定天狗の里は軽い混乱状態となっていた。

突然の、それも真夜中の奇襲……相手の正体も分からないのだから当然だろう。

 

それにここの天狗達はつい最近にも人形解放戦線の妨害を受けている。まずそいつらの仕業とみなし、躍起になって探すに違いない。

だから少しでも隠れる手段を増やしておいた。闇夜に紛れ、姿を消す「夜陰」の本来とは違った使い方は、自称人形解放戦線のリーダーであったルーミアから着想を得た。

まさかあの経験が生きる日が来るとは思いもしなかったが、お陰で今のところは誰にも見つからずに済んでいる。人生、何が為になるか分からないものだ。

 

「!」

 

天狗が2体、こちらへ向かってくるのが見えた。

まだ距離はあるが、数分間ひたすら走り続けた弊害でくるみ人形も「夜陰」を張り続けるのが苦しくなっているのが分かる。一度どこかに身をひそめる必要性がありそうだ。

目の前にある使えそうなものは夜を照らす1丁の灯篭……となると、むげつ人形の出番だろう。

 

「むげつ、 蜃気楼 で姿を隠して」

 

光源さえあれば、夜でもこの技は機能する。

夜に明かりのない集落なんてまず存在しない。だからそこを利用することで隠れる為の手段として利用させて貰うのだ。

 

「くそ、一体どこのどいつだ?こんな真夜中に奇襲とは」

 

「どうせ人形解放戦線の奴らだろう。人形持っているからって調子に乗りやがって……今度会ったら〇〇〇〇して〇〇して、最後は見せしめとして〇〇してやる」

 

 

「………」

 

こちらが丁度隠れている目の前で、天狗達の会話が聞こえてくる。

息の出来ないくらいの至近距離、少しでも音を立てれば見つかる緊張感が襲い掛かった。

姿を消していると言っても、音や気配は消せていない。動くことは許されず、今はただ通り過ぎるのを待つしかなかった。

 

「(……行った、か)」

 

天狗達が遠くへ行ったのを確認し、苦し紛れに息を吐く。止めたのは僅か10秒程度だったが、走った後なので相当キツかった。

危なかった……もし見つかって再程言っていたことを実行されたらと思うと背筋が凍る。悪いことなど、これっきりにしたいものだ。

 

 

 

その後も天狗達の目を掻い潜り、1回も見つかることなく目的地である牢屋小屋へとたどり着くことが出来た。

人よりあらゆる器官が優れているであろう妖怪達も、流石に夜の暗闇には敵わないようだ。しかし、まだ油断は出来ない。

牢屋小屋の前にも天狗が1体見張っているのが見える。こういう時に大体1人はいる、騒ぎが起こっていようと決して動かず自分の仕事を全うするタイプ……なんと面倒な。

大きな剣と紅葉模様の盾で武装しており、白い犬の特徴を持つ天狗……確か、白狼天狗と言ったか。あいつがいる限り、サニ―ミルクの元へ行くことは出来ない。さてどうする?

 

「……そこにいる奴、出てこい。いるのは分かっているぞ」

 

「 ッ!? 」

 

気配を悟られたのだろうか。牢屋の見張りをしていた白狼天狗が独りでに喋り出し、武器を構える。

不味いと感じ、急いで逃げようとするも白狼天狗の向いている方向はこちらとは正反対だった。どうやら、僕の他にもそこに誰かがいるらしい。

しかし、そうだとして一体誰なんだ?一緒に来た覚えなんて当然ないし……

 

「む……――ッ!貴様ッ!!」

 

存在に気付いた白狼天狗に対し、青い弾幕を扇状に放つことで挨拶する別の侵入者。

それを自身の盾で身を守り、一気に距離を詰めようと突撃して剣を振るう白狼天狗だが、その攻撃は当たることはなく空を切る。

見失って辺りを見回す白狼天狗の背後から今度は風を纏った弾幕が数発飛んでいき、白狼天狗は間一髪バックステップでそれをかわす。

 

「くっ……小癪な!」

 

気配のする方へ次々と攻撃を繰り出す白狼天狗だが、どれも当たることはない。

まるで相手の動きを熟知しているかのように白狼天狗の連続攻撃をいとも簡単に避ける別の侵入者……相当強者であることは間違いないだろう。

 

そして戦いに夢中になっているお陰か、白狼天狗は牢屋小屋からどんどん距離が離れていっている。

これは中へと入る絶好の機会だ。それに気のせいか、こっちの存在に気付かれないように上手く白狼天狗を誘導してくれているような……?まぁいずれにせよ、すごく助かった。

 

僕はなるべく音を立てないようにし、扉をゆっくりと開いて牢屋小屋の中へ潜入を果たすのだった。

 

 

 

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