人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二章

 

明かりの1つも存在しない、外よりも薄暗く何もない空間。

常人がこんなところに居続ければ不安と恐怖でいずれ精神崩壊するであろう。罪を犯した人に与えられる罰……それこそがこの「牢屋」だ。

本来ならこんな場所に用などなかったのだが、個人的に必要となってしまった。何故ならここに捕まっている“ある人物”と接触を図らなればならないからだ。

 

僕の予想では、牢屋越しから「助けて」と呼んでいるものだと思っていたのだが、声は全くと言っていい程聞こえては来ない。

人形解放戦線のメンバーである三月精の1人、サニーミルクがここにいるのは間違いない筈。……眠っているのだろうか?

 

ここで声を上げると外に聞こえてしまう可能性がある。仕方がないので、牢屋を1つ1つチェックして回るしかなさそうだ。

 

 

 

 

まずは1つ目の牢屋。

 

鉄格子の外を覗き込んで中を探ってみるも、誰もいない。簡易な寝床にも眠っていない。

比較的綺麗なところを見るに、今までここは使われたことがないのだろう。ここにサニーミルクはいない。外れだ。

 

 

 

 

続いて2つ目の牢屋。

 

1つ目と比べると使わている形跡が見受けれられる。

つい最近までここに誰かがいたのは分かるが、今はもぬけの殻のようだ。釈放されたのか?

人形解放戦線としてここでイタズラをしたサニ―ミルクが、そう簡単に許されるとは思わない。恐らくここにもいなかったと考えられる。

 

 

 

 

そして3つ目、これが最後の牢屋だ。

 

ここにも中に誰もいない……かと思ったが、隅っこの方に小さな人影が見える。

だが、あれはサニーミルクであるかは薄暗くてはっきりとは分からない。確かめてみる必要がある。

 

「むげつ、 スターフレア を手元に凝縮させて」

 

抱き抱えている自分の人形に技を指示する。

明かりを灯すのならばユキ人形の出番なのだが、諸事情により今は手元にいない。よって、唯一この技を覚えているむげつ人形しか候補がいないのだ。

 

むげつ人形は難しい顔をしながらも「スターフレア」を発動し、星の弾幕を放つ前の段階をキープさせる。

狙い通り、そこを中心に光が集まっていって牢屋の中が照らされていくと、隅っこから金髪のツインテールが顔を覗かせる。やはりあそこにいるのはサニーミルクだ。

様子を見るに、体育座りで俯いているみたいだが……

 

「………?この、光は………う、うぅ………もうやめて………」

 

背後から光が照らされていることに気が付いたサニーミルクは恐る恐るその方向を向く。

まるで恐ろしいことをされるのを予期しているかのようなビビりっぷり……ここで一体何があったというのか?

 

「……あれ、あの天狗じゃ、ない?………ッ!」

 

「ルナ、スター!あなた達なの……!?」

 

彼女は恐らく、光越しに映る僕のシルエットを見てそう思ったのだろう。

三月精はサニーミルクを始め、ルナチャイルド、スターサファイアの仲良し3人組。自分を助けに来てくれたとだと期待をするのはごく自然な思考だ。

あの様子を見るに、今にも壊れてしまいそうな危ない状態だったのは容易に想像出来る。

 

 

「……え?あなた、だれ……?」

 

 

「えっと……こ、こんばんわ」

 

 

……希望から絶望に突き落とされた顔をされると、何だか悪いことをした気分になるな。

 

 

 

 

 

 

鉄格子越しにあいまみえることになったサニーミルク。

こちらとしては2回目のご対面なのだが、あちらはそう思っていない。何故なら今の僕は違う姿をしているから。

会ったこともない人物に声を掛けられるのは誰しも疑問を抱くものだ。それもこんなシチュエーションでならば猶更そうなる。

 

「はぁ……期待した私がバカだった。……またヒドイことするの?」

 

「ち、違うよ!僕は天狗達の仲間じゃない!君を助けに来たんだ」

 

「え……わ、私を?どうして?それに見ない顔だし、少なくともメンバーじゃないわよね?」

 

……理由か。

 

人形解放戦線に潜入する為……なんて言える訳がない。

仲間に頼まれたというのも、後々になってバレるのがオチだ。しまったな、その辺をあまり考えていなかった。

 

「……実は、僕もよく分かっていないんだ。どうしてこんなことをしているのか」

 

「わ、わからない?」

 

「うん。でもね、放っておけなかったんだ。毎日毎日、ここの天狗達にひどい目に遭わされている君を見ていると勝手に体が動いてた」

 

「アハハ……おかしいよね?ホント」

 

「……… ………」

 

碌な言い分が思い付かず、理由になってない理由を述べてしまう。これではまるで説得力がない。

考えろ、舞島 鏡介。この場を切り抜ける最善の答えをその頭で導き出すんだ!

 

 

「君をここから救いたいんだ。ここで生まれた、同じ仲間として」

 

 

……だ、駄目だ。ストレートで単純な答えしか出せない。僕はなんてヘタレなのだろう。

 

もっとあった筈だ。相手を納得させるような、上手い説得が……これではただの馬鹿ではないか。

こんな根拠もない理由で、サニーミルクを味方につけることなんて出来る訳が……

 

「う、う……」

 

「え……!?」

 

僕の言葉を聞いたサニーミルクの目から涙が溢れている。不味い、怖がらせてしまったのだろうか?

彼女が今ここで泣き出してしまっては、外にいる見張りの白狼天狗に気付かれ兼ねない……こうなればスキマップを使って多少強引にでもここから出すしかないか?

 

 

……いや、落ち着け。スキマップは便利な分、転送できるのは一1人までという制約がある。

それに原因はよく分かっていないが、現在彼女はルナチャイルド、スターサファイアの2人と仲違いをしている状態。そしてこんなところに1人きりになったことで、心身共に弱り切っている。

仮にそのような精神状態で助け出したとしても、今後味方として役に立ってくれる見込みはない……まずはサニーミルクの心のケアをしていく必要があるようだ。

 

「……そっか。今まで散々ツライ目に遭ったんだもん。見ず知らずの僕を信用できないのも無理ないよね。ごめん」

 

「だけど、これだけは分かって欲しい。僕は君の味方だよ」

 

「………」

 

今晩の内に彼女を仲間にするのはとてもじゃないが現実的でないことが分かった。彼女を説得をするには時間を掛けていく必要性がある。

徐々にこちらへ心を開いてくれるのを待つ……今はこれしか方法がない。焦らず、じっくり作戦を遂行するんだ。

 

スキマップのワープ地点に、「天狗の里 牢屋」を設定しておくことで、サニーミルクにはいつでも会いに行くことが出来る。

牢屋越しから見えないところでワープすれば、この何とも言えない不気味な移動手段を見られることもなく安心だ。注意点としては牢屋の見張りをしている天狗に存在を気付かれないようにすることか?

 

 

「それじゃ、僕はもう行くよ。明日、またこの時間に会おうね!」

 

「……!ま、待って!」

 

「?」

 

「あなたは、一体?せめて名前だけでも教えて……!」

 

 

「僕は……」

 

 

「 僕は “マイ”。 通りすがりの、ただの妖精だよ 」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

“妖精のマイ”。

 

 

これが僕の新しいもう1つの姿。人形解放戦線へ潜り込む為に作った個性なきモブ。

最初はバレるのではないかと内心ヒヤヒヤしたものだが、妖精であるサニーミルクには一切バレてはいなかった。

実際、彼女は精神が危うい状態であった為バレなかったのは偶々だったという線もなくはないが……少なくともパッと見の外見では分からないというのは間違いない。

今後ともこの姿を取っていることへの問題点はあまりなさそうで、少し安心はしている。

 

「ん?あぁ、ごめんごめん」

 

横から裾を引っ張られたので確認すると、力のない羽ばたきをしているくるみ人形が休養も申し出ている。

何せ人形箱から外に出るのは久しぶりだったから体が鈍りきっていたのだろう。随分と無茶をさせてしまった。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ。ゆっくり休んで」

 

くるみ人形の「夜陰」のお陰で闇に自身の姿を隠すことが出来たが、元々暗い中わざわざそれをしなければいけなかったのはちゃんとした理由がある。

それは自分が着ている服装が「白」を起点とした色合いで、夜でも目立ちやすいからに他ならない。その為、見つかる危険性を少しでも減らしておきたかったのだ。

 

 

妖精となった今の僕の見た目は、ここに住む幻想郷の少女達を多少意識したものとなっている。

青白いセミロングの髪、白い大きなリボン、ボタン付きの白いワンピース、そして背中には少し小さめな透明の天使の翼を模した羽がある。僅かだが本物のように羽ばたく動作も可能だ。

 

そして、これらのセンスは僕の発想ではなく、他の人物の手によって一から作られた。

つまりこれは「妖精になりきる為の服装」……よく出来た“偽物”である。この綺麗な髪もウィッグ、要はカツラだ。

 

 

 

 

……あの時、僕は結局「他種族になる薬」を飲まなかった。いや、正確には“飲めなかった”が正しい。

僕が薬を飲もうとした直前、ある人物にそれを止められてしまったことで人から妖精になることが叶わなかった。そして、禁忌に触れようとしたことを酷く怒られる羽目となり、使用を直ちに止めるように忠告される。

止めた人物の今まで見たことのない怒りの表情を見て初めて、僕はとんでもないことをしようとしていたのだと気付かされたのだ。

 

僕を止めたその人物はこう言った。

妖精になるなら他にもやりようはある筈だ、と。そんな方法なんてある訳ないと思っていたが、意外とどうにでもなるという結果が今の僕が取っている姿そのものである。

ここに至るまで様々な経緯があり、色んな人が協力してくれた……感謝してもし切れない。

 

 

だからこそ、僕は成し遂げる。協力してくれた皆の為にも。

 

まずは人形解放戦線のメンバー、サニーミルクの心のケアを実行する。

さぁ、ミッション開始だ。

 

 

 

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