人間と人形の幻想演舞 作:天衣
菫子回です。高校1人暮らし設定はこちらの完全な妄想でございます。
その辺は公式で描写されてなかったと記憶してるので
「 しんみょうまる! ロイヤルプリズム ! 」
「 こがさ! リバーススプラッシュ ! 」
「 メディスン! ポイズンボム ! 」
「 けいき! 霊石乱舞 ! 」
室内に響く人形の攻撃指示。だが実際にここで人形同士が戦っている訳ではない。
これは大きな独り言……詰まるところシュミレーションである。隣が出払っているタイミングを見計らい、こうして孤独で虚しい練習をしている訳だ。
「えっと……どうも。僕は舞島 鏡介です。僕は人形を愛しています」
「ちょ、ちょっと止めて下さいよ菫子先輩ッ!………」
「よし、こんなものか」
私は立て掛けたスマホに映っているカメラ越しの赤いボタンを押し、撮影を止める。
そして次に予め撮っておいた「舞島 鏡介」の先程と同じ動きをしたものと比較してみる。
「うん。大分掴んできたわ」
声のトーン、指示を出す際の仕草、表情……我ながら完璧な仕上がりとなってきた。
彼は男ではあるが声質や仕草が割と女に近いお陰で演技に関しては特別苦労はしない。だが……
「問題は人形バトルの腕っぷしよね。はぁ……全く、私は人形遣いでもないのにホント無茶言うわ」
舞島君に頼まれた次の依頼。
それは、「彼が妖精に変装している間、正体を悟られないようもう一人の彼になりきる」というものだった。運動以外は大体こなせる私を信頼してのお願いなのだろう。
舞島君は今、幻想郷に蔓延っている人形達がいなくなるのを阻止すべく、内から原因を取り除くという無謀な戦いに身を投じている。本当に馬鹿だ。
勿論、最初は止めるよう説得はした。だが、彼の意思は固い……それ程までに、舞島君は「人形」という生き物を愛してしまっている。
そんな彼の必死な思いをぶつけられ、押し負けてしまった私はこうして彼になりきる為の練習をしている訳だ。……私も大概ね。
天才である私がわざわざこんなことをやる動機は勿論、彼を巻き込んでしまった罪滅ぼし。他に理由なんてある訳ない。
そうだ。他意などない……少々顔立ちが整っているからって調子に乗らないで欲しい。まぁどうせ、当の本人はこのことに関して無自覚なんだろうが。
「はぁーー疲れた!ちょっと休憩っと」
雑念を払うかのように頭から思いっきりベッドに飛び込み、いつものようにスマホをいじって気分転換へと洒落込む。
今まで幻想郷内で撮った写真を眺め、当時の思い出に耽るのが最近のマイブームだ。初めて幻想郷に来た時の高揚感、自身が起こした異変、心境の変化……本当に色々なことがあった。
頬を緩ませながら指を動かし、フォルダ内に並べられた写真をスライドさせていると、あるものに目がいく。それはつい昨日撮った1つの写真……妖精姿の舞島君。
「(………やっぱり、可愛いわね)」
心の中の感想を呟きながら無意識にその写真をタッチしてしまい、妖精姿の舞島君が画面いっぱいに拡大される。
綺麗すぎて直視出来ない程眩しく、キラキラと輝いて見えてしまうような圧倒的ビジュアル……まるでカリスマモデルのようだ。前々から中性的な顔立ちだとは思っていたが、化粧も一切無しでここまでのレベル……彼は近年稀に見る逸材だろう。
流石にウィッグやまつ毛など部分的に改良は加えられているものの、あまりにも元の素材が良すぎる。「実は女の子でした」と言われても信じるくらいには。
もしネットでこの姿を世界中に見せれば一躍人気者となれるのだろう。……まぁ彼、そういったことには興味関心がなさそうだけどね。勿体ない。
しかしこのコスプレ、人形解放戦線に潜入する為のものらしいが不思議な点がある。それは、彼の身長だ。明らかに前の身長と比べて小さい。
舞島君の身長は凡そ私と変わらないくらいにはあった筈……それが何故、妖精と同じくらいの身長に突然なったのだ?
あまり想像したくないが、禁忌に触れるような行いをした可能性も?正直、人形の為なら何でもする彼ならやり兼ねない。今更ながら心配になってきた。
「……あーあ、めんどくさ。何で私、こんなこと引き受けちゃったかな」
私は超能力者であって魔法使いではない為、それを知る術はない。だけどこれだけは分かる。
舞島君は本気だ。本気で自分の目的を成し遂げようとしている。
ならば私は彼の協力者として、そして先輩として、彼の思いに応えるだけだ。
「……うっわ。マジでサイズぴったりじゃん」
変装用に舞島君から譲り受けた服一式に袖を通してみるとあら不思議。
男性用の筈なのだが、窮屈なところもなく問題ない。彼の言った通りだった。
因みにこれを渡された時、彼は今まで一張羅で冒険してきたせいか物凄く臭かったのでこちらで洗濯済み。
聞けば何度か川に飛び込んでからそのままの状態らしい。馬鹿か。
舞島君が最初に「体の相性がいい」などとほざいた時には正気を疑ったものだが、確かにこれはパッと見では入れ替わっていることなど誰にも分からない。
茶色のキャップ帽、黒のパーカー、灰色の無地のシャツ、そして青のジーンズというこの服構成、新鮮だが実に中学生っぽい服装である。
こうして着てみて分かったが、体つきまでほぼ一緒とは……彼の日頃の運動不足が伺える。まぁ人のことは言えないけど。
「………」
「女」である私の鏡に映った、仮の「男」としての姿……それを見て気付いたことが1つある。
そして「ああ、確かにこれは私が適任だ」と納得すると同時に、「あのガキ見るところ見てやがる」という舞島君に対しての怒りが込み上げてきた。
試しに横から全身を見てみても、その部分の膨らみは男と何ら変わらない。
今までそんなに気にしてこなかったけど、私って……
「 こんなに小さかったっけ……?orz 」
膝と両手を地面に突き、自身の女としての部分になるモノの貧相さに絶望する。
……いや、プラス思考で考えよう。さらしとか無理に巻く必要性がなくなったと考えればいいんだ。
噂によれば、持っていたは持っていたで肩こりに一生悩まされるらしい。あれもいいことばかりじゃないんだ。そうだ、むしろ私がそんなの持ったら損をするに決まってる。
うん、やめようこの話。
気を取り直して、次に取り掛かるべき変装の手順を確認してみる。
舞島君と私、その違いとして真っ先に挙げられるのはやはり、私のかけているこの「眼鏡」だ。彼は眼鏡などしていない。
人生で一度も付けたことはないが、ここは「コンタクトレンズ」に変える必要性がある。
次に目や髪の色。しかしこれに関しては共に茶色で一致している。まぁ同じ外の世界の同じ国に住む住民であることから、そのような特徴の一致は何らおかしくはない。
だから髪留めを解いて借りているキャップ帽の中に隠すだけで、見た目は簡単に再現可能となる。この2点の外見の要素も、私を代役と決めたきっかけだったのだろう。
そして最後、細かな顔のパーツだが……これは奇跡的にどこも問題がなかった。
二重である目、鼻、唇、耳の大きさや特徴からなる私と彼の顔つきには差があまりなく、そっくりさんであったことが判明。
世界には同じ顔が3人いるという。私に生き別れの兄弟がいるという話は聞いたことない。ということは、偶然にも舞島君がその同じ顔の人らしい。これは天文学的な確率、なんと都合の良い話だろうか。
今まで自分の顔付きになんて特に関心がなかったが、こんなものを見せられたら嫌でも気になってしまう……改めて見ても、やっぱり私って地味だな。
幻想郷に来て色んな人に会い、常々感じたことだが……もうちょっと見た目気にした方がいいのかな?
なんて考えている内に窓から見える空は雲1つない綺麗な橙色となっていて、すっかり夕暮れ時だった。
私はリモコンに手を伸ばし、カーテンを閉じ、電気をつけ、壁に掛けられた電波時計を確認する。
「うん、まだ時間はあるわね」
現在、時刻は午後17時過ぎ……お隣が帰ってくるまで後1時間くらいはある。
今度は変装をした状態で色々と練習をしてみよう。
その後、スーパーに行き、夕飯を食べ、シャワーを浴び、歯を磨いて、気付けば時刻は午後10時を回った。
明日から「舞島 鏡介」として本格的に幻想郷へ出向くことになる。丁度、今は学校は夏休みを迎えているのもあって寝放題……つまり、行き放題という状態だ。
出されていた宿題はもう全て終わってるし、こちら側に関しては何も心配いらないだろう。私は電気を消し、冷房を切ってベッドに潜り込むことで眠る準備を始めた。
奇妙な形ではあるが、今日から私は人形遣いとなる。
でも実はポケ〇ン経験者でもある私はそれに対してさほど不安はない。何たって子供の頃はアニメだって見たことがあるのだ。
あの頃は友達がいなかったから、どうあがいても図鑑を全部埋められなかったっけ……懐かしいな。舞島君はどうなんだろう?あの大森って奴と一緒にやってたりしてたのだろうか。
「菫子、先輩………」
ふと、以前呼ばれた自分の名称が脳裏に浮かび、つい口にしてしまう。
部活など、上下関係が築かれることで生まれる「先輩」というワードが、こうも心地の良いものとは思ってもみなかった。
人と極力関わらないようにしてきたこの人生だが、内心少し憧れていた部分はあったのだろう。我ながら単純で呆れる。
……あれ?ちょっと持て。
あちらではそれが普通だから気にしてなかったが、男の人に下の名前で呼ばせるのって傍から見たら……
「……… ……… ………」
[午後11時半過ぎ]
「(ヤバい……何とか寝ないと)」
寝る前に色々と考えてしまった結果、寝付くことが出来なくなったのでスマホという最終睡眠兵器を取り出す。
そこから睡眠に良さそうな動画を漁り、枕元に置きながら目を閉じて耳を澄ますことで雑念を取り払う作戦だ。
舞島君と幻想郷で落ち合うのは今夜0時。何やら急用とのこと。
このままだと約束の時間に間に合わなってしまう。ここは何としても寝なければならない。
「全く、何であんなこと考えてしまったんだか……らしく、ない……な」
微睡みに支配され、瞼が段々と重くなっていくこの感覚……ようやくあちら側に行くことが出来そうだ。
めんどくさいけど、今日から頑張ろう。