人間と人形の幻想演舞   作:天衣

132 / 163
第四章

 

〇月△日、午後11時55分、人里前。

 

 

この人気のない且つ妖怪に襲われる心配もない安全な場所にて、僕はある人物と待ち合わせをしている。

 

ここはかつて博麗 霊夢と初めて人形バトルを行った「五の道」。当時は流れている川の綺麗さに感動をしたものだが、この世界に慣れてきた影響だろうか?日常の風景として見慣れたような感覚がある。

だがそれでいい。今の僕はこの幻想郷に住む只の妖精……妖精とは自然そのものだ。それが当たり前でなければむしろおかしくなる。きっと、夜にしか見れないこの川に映し出された清めの月光すらも特別美しいとは思わないのだろう。

 

僕はまだ妖精になったばかりで、それらの生態については何も知らない。

今日も一日中研究しようと魔法の森にいる妖精達と会話を試みたが、出てくるのは中身のないどうでもいいものばかり。最初に見てから薄々感じていたことだが、基本妖精というのは遊ぶこととイタズラすることしか頭がないらしい。

単純という意味合いでは面倒もなく気軽に絡みやすいが、情報などを聞き出す上では知能が低く結果が期待出来ない……後先が不安だ。

 

現に、魔法の森にて偶然にも「人形解放戦線」を名乗る妖精とコンタクトが取れたのだが、肝心の本部がある場所を聞いても何も知らなかった。

聞くところによると人形解放戦線はそれぞれの場所に支部を持っており、彼女はここ「魔法の森」担当らしいのだが1人でやることがなく暇らしい。勧誘は受けたものの配属が支部であること、そして暇つぶしに遊び相手が欲しいという目的が見え見えだったので丁重にお断りした。

もし彼女が本部のメンバーならば話が早かったのだが、既に目星は付けてあるので問題ないだろう。

 

しかし思い返してみると、今まで会った妖精達にも個性というものがあった。

極度のバカだが他にない氷を操ることが出来る「チルノ」。他と比べて知能があり落ち着いた性格だが、どこか変態チックだった「大妖精」。

同じく他と比べ一見頭が切れそうだが何やら不幸体質っぽい「ルナチャイルド」。何を考えているか分からずいまいち読めない「スターサファイア」。そして、現在天狗の里で捕まっている「サニ―ミルク」。

こうやってまとめてみると、人と同じように妖精にも色んな性格の者がいる。つまりそれは僕みたいな性格の妖精がいても違和感はないと言えるのではないだろうか?魔法の森で会った妖精達は少なくとも僕を仲間だと思っていたみたいだし、案外このままでも問題はないのかもしれない。

一応、念には念を入れてこの姿の間だけ“生命力”を溢れさせることで人だとバレないようにしたのだが、もしかしたらこれも余計だった可能性がある。

 

 

「……はぁ」

 

一日中魔法の森を歩き回っていたせいで疲れてしまった。僕はその場でしゃがみ込むと同時に溜め息をつく。その深さ故か、水面から僅かに波紋が広がった。

余り体力がない僕が疲れを知らない無邪気な子供のような妖精達に付き合えばこうなることは明白。人形の相手はあんなにも楽しいのに……人付き合いというものはやはり苦手だ。

月光煌めく透き通るような水面下……揺れる波紋のその先から見えた僕の暗い顔は、まるで真実を映し出す鏡のように的確で……そう、これが本当の自分。弱くて、無知で、愚かな己の姿。

本当は、他人と関わることが怖くて怖くて仕方がないんだ。

 

「遅いな、先輩……」

 

既に約束の時刻だというのに、未だ菫子先輩が来る様子はない。このままだとネガティブな思考がどんどん沸き上がってくるので、出来れば早く来て欲しい。

だが急な呼び出しではあったし、まだ準備が出来ていないのかも?だとしたら申し訳ないことをした。

 

それにしても水辺の近くからか、夏場だと言うのに体が冷える。その場で体操座りをして極力身を寄せ、冷えを少しでも凌ぐも温まることは叶わない。

あぁ、ユキ人形の炎の温かさが今は恋しい……今手持ちにいるのならばすぐに出したいが、生憎それが入っている封印の糸は別の場所にある。

実は今、ユキ人形に加えて「しんみょうまる人形」、「こがさ人形」、「けいき人形」の4体は僕の手元から離れ、預けられている状態だ。

 

勿論、それにはちゃんとした理由がある。それは人形の言葉を封印の糸越しでもハッキリ聞き取れるリーダーの“メディスン・メランコリー”の存在だ。

「舞島 鏡介」という人間は今、人形解放戦線から「指名手配犯」として扱われており、完全に“敵”として認識されている。何せ組織のリーダーにまで直接喧嘩を売ってしまったのだ。当然と言えば当然と言える。

そのせいで大ぴらに見せていない筈の僕の手持ち、ユキ、しんみょうまる、こがさ人形の存在が他のメンバー達にバレてしまった。けいき人形もつい最近メンバーであるルナチャイルドの羽を思いっきり噛みついたせいで存在が知られてしまっている。完全にアウトだ。

仮にメンバー達は上手く誤魔化せたとしても、本物を知っているメディスン自身に見られればどこにも逃げ道がなくなり、一貫の終わりだ。

だから僕は信頼出来る人に人形達を預け、潜入している間の“一時的な代わり”を頼むことにした。それが、菫子先輩である。

 

あの人とは初めて会った時から本当によくして貰っている。同じ外来人のよしみだとよく言ってはいるが、お人好しな先輩もいるものだ。

僕の通っている世界の中学校では特に部活に所属していないので「先輩」という敬称は馴染みがないのだが……存外悪くない。

菫子先輩は口や態度こそ少々上からなところもあるが、素直になれないだけで本当は優しい人だということを知っている。有言実行する確かな強さと信念も持っていることも……正直、すごく憧れる。

自分とはまるで正反対な強い人間……だからこそ信頼出来るし、僕の代わりにあの子達のことも任せられた。

 

 

「あいつら、元気に……してる……かな」

 

 

疲れから来る急な眠気が意識を薄れさせ、朦朧状態となる……そこで僕はかつての記憶の夢を見る事となった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「 バカ野郎ッ!!これはそんな軽い気持ちで使っていいものじゃねぇぞ!! 」

 

 

「――か、軽い気持ちでなんか」

 

「い~や、お前は何も分かってない。どうせ自分はどうなってもいいとか下らないこと考えていたんだろ?」

 

「そ、それは……」

 

「……言ってみろよ。どうしてこんなものに頼ろうとした?」

 

 

 

 

「成程。人形解放戦線への潜入と改心をねぇ」

 

「うん、それが出来れば人形がいなくならずに済むと思って」

 

「はぁ……じゃあ、仮にもしこれを使って目的を果たしたとしてだ。その後どうするつもりだ?一生お前は妖精として生涯を過ごすのか?」

 

「……うん、そのつもりだった」

 

「やっぱお前バカだよ、大バカ。こんな救いようもないバカ、生まれて初めて見たんだぜ」

 

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない」

 

「お前は現代人。帰るべき場所があるんだ。人であることを捨てるような親不孝者になるんじゃねぇ」

 

「!………ご、ごめん」

 

「分かりゃいい。お前はそれでいいんだよ」

 

「え?」

 

「それにな、妖精になりたいなら他にいくらでもやりようはある。あいつらも所詮バカだからな。そうだな、例えば……」

 

 

 

 

「でも、そうなってくると問題は身長の高さだよね。僕と妖精とじゃあまりにも差がありすぎるよ」

 

「心配すんな。知り合いに大きさの調整が出来る都合の良い奴がいてな?逆のことまで出来るかは詳しく知らねーけど、そいつにお願いしてみるぜ」

 

「……今更だけど、魔理沙ってホント色んな人と縁があるよね」

 

「そうか?まぁ確かに言われてみればそうかもなー?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「 ―――て。ほら、起きてっ! 」

 

 

「……ふぁ?」

 

 

誰かから肩を揺さぶられたことで夢から覚め、ぼんやりと人の輪郭らしきものが目に入る。

起こしてくれたであろうその人物をしばらく見つめ、誰なのかを確かめようとするが何故か顔を背けられた。恥ずかしがり屋なのだろうか?

もっとハッキリ確かようと目を擦り、段々と視界が開けてきたところで再度その人物を確認する。

 

この服の特徴、背丈……間違いない。僕を起こしたのは、紛れもなく“舞島 鏡介”だ。

 

そうか、彼がかの有名な現代人の……人形、遣い………

 

 

「 うわーーーーーッ!!!ドドド、ドッペルゲンガーだーーーーー!!? 」

 

 

「え!?ちょ、ちょっと」

 

「ぼ、僕まだ死にたくない!!あっ――」

 

 

目の前で起こっている怪現象に混乱してしまった僕はここが川の近くであることを忘れていた。足を踏み外し、正面から転落してしまう……が、川と顔面スレスレのところで落下がぴたりと止まる。

それはまるで、全身金縛りにあったかのような感覚だった。

 

 

「は?えっ……―――ぅうおおおおおおおおお!!!?」

 

 

状況を理解する間もなく董子先輩の指先がクイッと上に向けられると同時に僕は宙に投げ飛ばされ、彼是3回目となる空中旅行を体験する事となった。

そして元いた場所に上から衝突しそうになったその直前、先程やられた時と同じ力が今度はこちらを守るように包み込み、落下の衝撃を抑えてくれる。

だが突然のことで困惑していたのもあって、その力が解除された瞬間頭から着地をするという間抜けな姿を晒す。仰向けに倒れた状態の僕に、見覚えのある人物が屈みこみながら呆れた顔で様子を伺う。

 

「目が覚めたかしら?」

 

「……は、はい。お騒がせしました、先輩」

 

 

 

 

 

 

「ったく、君がこれ提案したんでしょ?こっちがビックリしたわ」

 

「ハハ……すみません。完全に寝ぼけてました。……それにしても、ここまで完成度が高いとは思いませんでしたよ」

 

「癪だけど、君の言った通り服のサイズはピッタリだし特徴もほぼ一致していたからね。不思議なこともあるもんだわ」

 

「……僕ら、実は姉弟とかじゃないですよね?」

 

「いやいや、私1人っ子だし」

 

自分のことだからこそ分かる。今の董子先輩の姿は、まるで鏡に映ったかのように僕と瓜二つだ。

僕には妹が1人いるだけで、兄妹の関係しかない。世界には似た顔が3人いると言う話もある……それが“宇佐見 董子”という人物だったということなのだろう。

最初に変装して貰おうと着目した時には、身長とぱっと見の特徴しか見えていなかった。こういった機会がなければ絶対に気が付かなかっただろう。そう、これは幸運……つまり奇跡。

 

自分の中でそう結論を出し、気持ちも少し落ち着いたところでいよいよ本題に入ることにした。

 

「先輩、それで今日呼び出したのはその……ちょっと作戦が難航しておりまして」

 

「その様子だと、説得が上手くいかなかったのね?」

 

「はい、あの妖精の心の傷は思っていたよりも深いみたいです。まぁ、僕がそうしたようなものなんですけど……だから少し予定を変更しようと思います」

 

「まぁそうなるわよねぇ……分かったわ。聞かせて」

 

 

 

 

少女(?)説明中...

 

 

 

 

「……うん。まぁ、言ってることは分かるけどさ」

 

「はい?」

 

「これ、要は君が過去に行った場所巡りじゃない。この姿じゃ超能力も迂闊に使えないってのに……どんだけ歩かないといけないのよこれ」

 

「アハハ……気が付けば僕もたくさん冒険してますねぇ」

 

「「アハハ……」じゃないわよッ!……まぁ、引き受けたのは私だしちゃんとやるけど!」

 

董子先輩にやって貰うこと……それは“存在の証明”に他ならない。

いくら僕そっくりに変装しているとはいえ、ただそこにいるだけでは当然不審に思われてしまう。僕という人間は現在、異変調査をしなければならない立場にある。今この幻想郷に蔓延っている「人形」をどうにかしなければならないという義務を押し付けられているのだ。

今思えば、僕の取っている行動はそれに疑問を持ったことで生じた小さな反抗でもあるのだろう。だから僕は周りとは違うやり方で「人形」という存在がもたらしている被害を無くし、異変を解決する。

 

このことを知っているのはこの世界でまだ一部の協力者だけ……だが、いずれも僕の考えが無謀であることを主張しているのも事実だ。

理想を語っているのは分かっている。でも、見捨てられない。こんなに大事になってしまった存在を、みすみす死なせたくはない。妥協したくない。諦めたくないのだ。

 

「当初の予定では、僕が活動時間外に人形バトルのコツとかを教えるつもりだったんですけど……タダでさえそんなに多くは時間が取れない中、この始末です。もうそんな猶予もなくなってしまいました。ごめんなさい」

 

「いいって。君のスカウター借りてから大体の人形の仕様は理解出来たし、特に問題はないわ」

 

「流石ですね。頼りになります」

 

「だからこっちは心配御無用!あんたは潜入と情報収集にだけ集中しなさい」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

董子先輩は大抵のことはすぐにモノに出来る程には頭が良く、要領もいい。

だから、彼女の言ってることは信用してもいいだろう。非常に頼もしい限りだ。

 

「じゃあ、今日はこの辺で解散しましょう。お疲れ様でした」

 

「あ、ちょっと待って。その前にちょっといいかな?」

 

「え?はい……スマホなんか持ってどうしたんですか?」

 

「いいからいいいから。舞島君そこに立って。違うもっと右……そうそうその辺」

 

「……??」

 

「う~んそうね……こういうポーズとってから笑って見せて」

 

「こ、こうですか?」

 

「うん、まぁそんな感じ。それじゃ」

 

指示通りの場所に立たされ、謎の指定をされるがままに従う。

そこにカシャリという音とフラッシュ……まさかこれは、撮られた?

 

「やりゃあ出来るじゃないの。まだちょっと堅いけど」

 

「せ、先輩?いきなり何を?」

 

「さっきから君、どうも暗い顔だったからね。今は良くても、今後もそんな辛気臭い顔してると印象が良くないんじゃない?仮にも妖精なんだからさ、もっと明るく行きましょうよ」

 

「……!」

 

「それじゃね、只の妖精さん♪」

 

そう言うと、董子先輩は忽然と姿を消した。時間なのだろう。

しかし、痛いところを突かれた気分だ。確かに今の僕の姿はあまり妖精らしくなかったかもしれない。よく見ているな、先輩も。

 

「このままでいい」だなんて、随分と甘えていた。

妖精はバカだが、誰1人として暗くなんてなかった。皆明るくて、気楽に、思うがままに生きていた。

だから、この姿でいる間の僕は明るい道化でなければならない。今からでも、笑う練習しないと……!

 

 

「………にぃ」

 

 

川に映し出された妖精の笑顔はまだまだぎこちないものの、最初に映っていた弱い自分はもうそこにはいない。

そう思い込むことで、ほんの少しだけ強くなれた気がするのであった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。