人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第五章

 

暗い暗い牢屋の中、妖精2匹は身を寄せ合い静かに会話する。

 

 

「友達から聞いたよ。派手に喧嘩しちゃったんだって?」

 

「……うん」

 

「どうして?いつも3人は仲良しだって聞いたよ?」

 

「それは……」

 

「?」

 

何かを思い出したような表情をしたまま、固まってしまったサニーミルク。

体中をプルプルと震えさせ、どうも心配になり声を掛けようとしたその瞬間……

 

 

「 そうよッ!こうなってしまったのはルナとスターのせいじゃn 」

 

 

溜まっていたものを一気に出すかのような甲高い大声で叫び出す。僕は慌ててその口を両手で塞ぎ、外の様子を確認した。

……特にざわついた様子はない。幸い、気付かれなかったようだ。止めるのがあと少し遅かったら危なかっただろう。全く心臓に悪い。

 

「サニーちゃん、落ち着いて?外の看守に聞こえちゃうから」

 

「あ……ゴメン。ねぇマイ聞いて?ヒドイのよ?」

 

「うんうん」

 

“喧嘩の原因”、これは一見どうでもいい話かもしれないが、重要な情報だ。上手くいったら人形解放戦線の内情もいくつか引き出せるかもしれない。

それに三月精には元の仲の良い状態に戻って貰わなければ困る。そして喧嘩を収めるにはまず当人を落ち着かせ、話を聞くこと。その原因をきちんと理解し、どちらに非があるかを判断すれば自ずと解決への道は開ける筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と、いうことなの」

 

サニーミルクによる主張を一通り聞き終わり、それに対し自分なりに意見を述べてみる。

とはいっても、それは至極単純な一言で充分事足りるものであった。

 

「うん。サニーちゃん何も悪くないね……」

 

「そうだよね!?ホントに悪くないよね!?おかしいよね!?」

 

言っていたことを簡単にまとめると、「「サニーミルクの能力」という透明になる手段があるにも関わらず、何故かルナとスターは同様の効果を持つ河童の光学迷彩の方に執着。挙句にいらない子扱いされた」。

確かに彼女は何も悪くないし、あまりに唐突で理不尽な差別と言える。サニーのショックが大きいのも、その不条理さが一番の原因と見た。

これも一種のイタズラなのだろうか?妖精の考えることはよく分からない……まだまだ勉強不足だ。

 

「その舞島っていう人間を狙ったのも、彼が指名手配犯だったから……って言ってたね。どういう人なの?」

 

「えっとね、「外来人の見た目をしている弱そうな人間で、自分の人形を都合の良いように洗脳している外道で、毒を吸っても何故か平然としているヤバいやつ」なんだって!似顔絵もあったから分かりやすかったわ!」

 

「……ふ、ふ~ん」

 

どうやら人形解放戦線の間では舞島 鏡介という存在は悪者とされている。

何せ指名手配犯だ。そういう扱いを受けるのはある程度覚悟していたのだが、いざ直接的に聞かされるとあまり気分のいいものではない。勿論、気持ちを悟られないように平静は装うのだが。

しかしこうやって聞くと確かに一部の特徴が「ヤバいやつ」なのは否定出来ないかもしれない。これでは現代に帰ってきた時に色々と支障が出そうで怖いな……

 

「とにかく、サニーちゃんは一度その人形解放戦線?とやらの本部にちゃんと帰るべきだと思うよ。なんにも悪くないんだからさ」

 

「……ヤダッ!あんな奴らの元に帰るくらいならここにいたほうがマシだもん!」

 

「寂しくないの?」

 

「マイがいるから平気!」

 

目を堅く瞑り、子供のように駄々をこね、その場から動かないことを表明するサニーミルク。

自分に対して信頼を置いてくれるのはいいのだが、この形はあまり望ましいものとは言えない。

彼女がこの様子では人形解放戦線への潜入は難しくなってしまう。何とか説得を試みなければ。

 

「ルナとスターのことはいいの?友達なんでしょ?」

 

「あんなやつら、友達でもなんでもない!もうぜっこーよ!」

 

「………」

 

「喧嘩は日常茶飯事だったけど、今日という今日はもう我慢の限界よ!顔も見たくないわ!」

 

「……サニーちゃん」

 

「ッ!?」

 

気が付けば僕は正面からサニーミルクの両肩を強く掴んでいた。

サニーミルクの負った心の傷は深い。しかし、それでも言っていいことと悪いことはあるものだ。

先程彼女の言った言葉は、今まで演技をしていた妖精である僕を衝動的に動かしてしまう。

 

「ルナとスターは僕なんかよりずっと長い付き合いなんでしょ?冗談でもそんな心もないこと言うものじゃない。取り返しがつかなくなって後悔したって遅いんだよ?」

 

「ッ!?ッ!?」

 

「以前、僕も同じような経験をしたことがある。思い返すと今でも後悔する程、嫌な思い出だよ。あいつは笑って許してくれたけど、いつかちゃんと謝りたいと思っている……つまり何が言いたいかって言うと、友達を大事にしないと駄目だってことで」

 

「……うっ……ぐす」

 

「あ……!えと」

 

サニーミルクが追い詰めらてしまったことで泣き出したのを見て、ようやく正気に戻る。

慌てて僕は“マイ”に戻り、サニーミルクに対して言い過ぎてしまったことを深く謝罪した。

 

 

 

 

 

 

時間を掛けて何とか落ち着かせたは良いものの、あれから牢屋の中は少々気まずい空間となった。

先程まで友達だった筈のサニーミルクからは明らかに距離を感じる……完全にやってしまった。何をやっているんだ僕は。

感情的になってしまうなんてらしくない。どうしてあんなことを言ってしまったのだろうか。

 

「……マイ」

 

「え!?……な、なにかナ!?」

 

まさに不意打ち、そんな状態でまさか話し掛けられるとは思っていなかった僕は声が盛大に裏返ってしまった。

キョトンとしたサニーミルクの顔を見てまた泣き出てしまうと焦り、思いつく限りの言い訳を必死に考える。

 

「い、今のはえっと……そう!発声練習だよ発声練習!思いっきり声を出すって気持ちがいいでしょ?」

 

その言葉を最後に、牢屋は静寂に支配される。

無理のある理由を言ってしまったことへの羞恥心に押しつぶされそうになって謝ろうとするが、それよりも先にサニーミルクの口が動いた。

 

「ここで大声を出しちゃダメって言ったのマイじゃないの」

 

「あ……そ、そうだった」

 

「「 ………… 」」

 

「フフッ」

 

「アハハッ」

 

「ウソが下手くそね~マイ。でも、これでお互い様!」

 

僕の言ったことが余程可笑しかったのか、サニーミルクはこちらに向かって笑みを零してくれている。初めて見た彼女の眩しい程に純粋で無邪気な笑顔は、僕の暗くなっていた心を明るく照らし出してくれた。

まさか妖精の単純さに助けられる日が来るとは思わなかった。何とも馬鹿馬鹿しい……だが、このまま仲が拗れてしまうよりは幾分マシであろう。

こっちが彼女を救おうとしていた筈なのに、今回は逆に自分が救われてしまったようだ。

 

「それでね?マイ。さっき言おうとしたことなんだけど」

 

「私、戻るわ。人形解放戦線に。そしてルナとスターに思いっきり文句言って、そしたら今度は仲直りするの。だって友達だもんね!」

 

そう発言するサニーミルクの顔からは最早かつての陰りはない。

何だかんだ暴走してしまった僕の行動が功を成した……ということか?だが曲がりなりにも、こちらの思いが伝わってくれたのは素直に嬉しい。

 

「あ、でも」

 

「?」

 

「どうやってここから出よう……?人形も没収されてるし」

 

ようやくサニーミルクがここから出るのを決心してくれたようで、こちらとしては一安心。そしてこの事態も想定済み。

それをいつでも行えるよう、こちらは予め準備はしておいたのだから。

 

「あぁ、もしかしてこれのことかな?」

 

「え?それって……私の封印の糸じゃない!どうやって取り返したの?」

 

「それは……」

 

看守の目を掻い潜っての盗み、偽物へのすり替え……あまり公にするべきではない盗人行為だ。

いや、妖精なのだからこれもイタズラの範疇と解釈すればいいのだろうか?でも妖精にそこまでやれる賢さがあるかどうかと言われたら果たしてどうだ?

……彼女といる時は妖精らしからぬ言動をすべきではない。ここは適当な理由にしておこう。

 

「ここに来る途中拾ったんだ。きっとサニーちゃんのものだと思って取っておいたの」

 

「へぇ、天狗って案外マヌケなのね。うっかり落としちゃうなんさ!アハハ!」

 

「ホ、ホントだね~」

 

よし、信じてくれた。流石にきついかと思ったがやはりそこは妖精。バカだ。

扱いやすいという点はこういう時に非常に助かる。少なくともサニーミルクは素直で疑うことを知らない純粋な子であることは今のでよく分かった。

 

他人とはいえ騙すのは少々心苦しいが、今後ともこういったやり取りは必然的に増えていく。僕は嘘を何度もつき続ける道化となる。目的を果たす為に。

 

 

……今後は、ああいった暴走は極力抑えななければ。

 

 

 

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