人間と人形の幻想演舞   作:天衣

137 / 163
第八章

 

“妖精のマイ”が天狗の里にてサニーミルク奪還を目論んでいるその一方、ある少女も同じく行動を開始していた。

かつてその外来人の少年が歩んできた道を辿るように……

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

こうやって実際に歩いてきたことで、その道の長さを改めて実感する。

 

博麗神社、一の道、人里、五の道、香霖堂、魔法の森、四の道、迷いの竹林、永遠亭、霧の湖、紅魔館……軽く挙げただけでもこれだけの場所を彼は訪れているらしい。

 

今はやっとのこと四の道の休憩所へとたどり着いたところが、足腰はもう休めと言わんばかりに痛みが走っている。

現代では瞬間移動(テレポーテーション)、ここでは飛翔に頼っていた弊害か、学生にも拘らず私は長距離を歩くことに慣れていない。

さしずめ今の私は何にも特別な力のない、か弱き女の子だ。ある意味、貴重な体験をしているのかもしれない。

 

 

 

だがこれは、私なりのケジメ。言うなれば“贖罪”だ。

 

春頃にこの人形異変が起こり、私が真っ先に感じたこと……それは現代のあるゲームとの類似点。

過去に幻想郷で異変を起こしてしまった経歴のある私はこう思った。「皆の役に立つことが出来るかもしれない」と。

まさかそれが1人の少年の人生を狂わせてしまうことになるなんて、当時の私は考えてもいなかった。

 

最初に舞島 鏡介を人里で見た時、まさかと思い魔理沙に彼について聞いてみたことがある。

嘘みたいな速さで行われる人形のと打ち解け、初めてとは思えない人形への的確な指示出し、属性相性の理解の速さ等々……嫌な予感は当たりだった。

そう、彼こそが人形異変を解決すべくここへ攫われてしまった例の主人公(てきごうしゃ)だったのだ。

 

幻想郷は私にとっては楽園だったが、それはあくまで特別な者の感想。ただの一般人にとって、ここは常に死と隣り合わせの危険地帯だ。

偶然迷い込んだのならともかく、彼は八雲の手によって意図的に連れてこられている。完全に被害者と言っていい。そしてその原因を作り出したのは、他でもないこの私。彼にもしものことが遭ったら、一体私はどう詫びればいい?

当の本人は意外にも今の状況を楽しんでいる節があるものの、だからといって放っておくのは違う。なるべく味方をして、少しでも彼の力になってあげる。

 

……それが、今の私に出来る罪滅ぼしだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが永遠亭に続く道ね。……うわぁ、名前の通り迷いそうな竹林だわ」

 

充分に足を休め、改めて今回の目的地を再確認する。

舞島君が弱っている野生のメディスン人形を見て貰うべく訪れた場所……彼はこの場所にこれまで2回お世話になったらしいが、その2回目の際に八意 永琳に黙って病室を出て行ったらしい。

仕方のない事情があったにせよ、会いに行く際はどうかそのことを謝っておいて欲しい……とのことだ。本来ならどうして他人の尻拭いをしなければならないのかと思うところだが舞島君の代役を引き受けた以上、役目はきっちり果たす。

 

だが、問題はこの「迷いの竹林」という場所を如何に切り抜けるかだ。

過去に異変を起こした際に来たことがあるが、実際どういった構造なのかは全くと言っていいほど知らない。

こういうのは決まったルートで行かないとゴールにたどり着かないのが鉄板だ。あぁ、あの時みたいに妹紅が道案内をしてくれればなぁ。

 

「……!」

 

そう思っていた私の心の声を聞いていたかのようなタイミングで、竹の揺れる音が聞こえてくる。誰かがこちらに向かっているようだ。

もしや、本当に妹紅が来てくれたのではないか?という期待を胸にその方向へと目をやるも、やってきたのは頭に兎の耳を生やした妖怪だった。

 

「あ、舞島さん!もしかして永遠亭まで行きたいんですか?」

 

「え?」

 

突然知らない妖怪に話しかけられ困惑するも、顔見知りであるかのような口ぶりであることから恐らく舞島君の知り合いの1人なのだろう。

丁度永遠亭に行きたかったところだし、話に合わせて案内して貰った方が良さそうだ。

 

「うん、丁度行きたかったところなんだ。お願い出来る?」

 

「わかりました。では案内するので、ちゃんと付いて来て下さいね!」

 

極力彼に似せた自然な声のトーンで話したが、特に怪しんでいる様子はない。完全に私を「舞島 鏡介」だと思い込んでいるようだ。

この様子なら、余程のことをしない限りバレる心配はない。さすが私。

 

 

 

「筍を目印に進むのがコツなんですよ~。えっと、3だから……こっち!」

 

妖怪兎はこの迷路を抜ける為の秘密を自慢げに話しながら私を案内してくれる。

確かに、竹林というだけあって道の周りには筍もいくつか生えているみたいだ。それを数えるのがここを抜ける為のヒント……?どういうことだ?

 

「次は0だから、ここで一旦来た道を戻りま~す!」

 

分かれた道の連続、そしてさっきから数えている筍の数とそれに対する方角の関係性……成程。大体分かった気がする。

 

「さてさて次は」

 

「上……でしょうか?」

 

「おぉ、正解!よく分かりましたね?」

 

「ハハ、何となくそうなんじゃないかな~って。どうやら当たったみたい」

 

道を決める際の筍の数……これはどうやら数がある程度決まっているらしく、3の倍数の数であることが分かった。

そして「筍の数は最大12まで」、「向かう方角は東西南北の4つ」という特徴から推察されるもの。それは、“時計”だ。

 

つまり「3」は東、「6」は南、「9」は西、「12」は北という風に時計の盤面に沿って考えるということ。

筍がない場合もあったが、それは所謂「0」……針の位置は「12」と同じだから北が正解。こうやって解いてしまえば案外簡単なものだった。

何だか拍子抜け……もっと「ここにはどうやっても絶対に抜けられない呪いが掛かっていて、それを解く為には「じんめんじゅ」みたいな大ボスを倒さないといけない」的なものを少し期待したのだが。

 

「いや~、この様子だと私の案内は今後要らなさそうですね~」

 

「いやいや、当たったのはホントに偶然で……きっと、あなたの案内が正確で分かりやすかったからですよ」

 

「え、そう?……へへ、褒めたって何も出ないからね!」

 

しかし思い返してみれば、以前妹紅が迷ってしまった私を案内してくれた際、周りの筍なんて一切見ていなかった気がする。

もしや、このチープな謎解きを作った犯人はここに住む妖怪兎達……だったりね。

 

 

 

「着きましたよ~!こちらが永遠亭です」

 

法則通りに進んだ先に見えたのは、一軒の和風建築物だった。どうやらここが「永遠亭」と呼ばれる場所らしい。

だが仮にも過去に異変を起こした者が住まう場所にしては案外こじんまりとしている。妹紅曰く、ここには彼女の宿敵である“輝夜”という月のお姫様が住んでいるとのことだが?

ざっと見たところ、この建物の大きさは霊夢の住んでいる神社よりかは少しあるくらいの規模しかない。もっと「紅魔館」くらいのクオリティを想像していたのもあって、この事実には少々驚かされている。

 

「お陰で迷うことなく来れました。ありがとうございます」

 

「いえいえ、また必要になったら呼んでください!あ、そういえば」

 

「?」

 

「姫様と八意様、見たところあなたに大変ご立腹でしたが……一体何しでかしたんです?」

 

「え!?あー、それはその」

 

「えっと、上手くは言えないのですが……ちゃんと謝った方がいいと思いますよ?」

 

「は、はい……」

 

我慢、我慢よ。宇佐見 菫子。ポーカーフェイスで乗り切るのよ。

これからより一層理不尽な責めを受けることになるんだから、こんなところでくじけちゃ駄目よ。

 

と、そう自分に言い聞かせることで心の安定を図る。

今は舞島君なら八意 永琳に対し、どうやって謝るのか?それだけを考えなければらならない。

やはり普段は馬鹿真面目な子だし、こういう場面ではきちんとした礼儀正しい対応を見せるのだろう。

だがそれでも許しを請われなかった場合、“アレ”も考慮するべきか……?プライドをかなぐり捨てるのが最大の問題点だが、止むをえまい。

今の私は「宇佐見 菫子」ではない。「舞島 鏡介」だ。

 

 

役目を終えて帰っていく妖怪兎を短く手を振って見送り、息を整え、永遠亭の門を潜った私は扉の前に立った。

自分のことではないと言うのに、何だか緊張している……変な気分だ。何故こんな感情を抱いている?失敗することを考えてしまっているからか?

あぁ、何とも私らしくない。もっとしっかりしてくれ。

 

気合を入れ直すべく両手で両頬を1回、パチンと叩いた。い、痛い。強くし過ぎた。

……馬鹿をやっていないで、さっさと要件を済ませよう。えぇそうしよう。

 

私は扉を握った手の甲で2回ノックをして「御免下さい」と、中の人に聞こえるように言い放った。

普段ここは診療所のような立ち位置の施設らしいので、これできっと看護師的な役割の人が出迎えてくれる筈だ。

 

「はいはい、診察をご希望の方ですか?」

 

その予感は的中し、早速ドアのガラス越しから1つのシルエットが薄っすらと映る。

そして横スライドで戸が開くと、赤い瞳と紫色のロングヘアーが特徴的な少女が顔を出した。

この人は知っている。確か、「鈴仙・優曇華院・イナバ」とかいう変な名前の妖怪だ。ここに住んでいたのか。

 

 

「 ―――あああぁぁ!!?ままま、舞島さんッ!?どうして……!? 」

 

 

「しばらくぶりですね。その節は皆様にご迷惑をお掛けしました」

 

鈴仙は私の姿を確認するや否や、まるで死んだ者を見たかのような驚きぶりを見せた。

だが彼女のこの過剰な反応も仕方のないこと。あちらからすれば、突然姿を消して今の今まで音信不通だったのだ。もう死んでしまったと思われてもおかしくはない。

 

とりあえず私は、何故いなくなったのか事の事情を一部伏せながら話すことにした。

 

「……それで、あの夜僕は1人でユキを探しにいったという訳です。我ながら、ホント身勝手ですよね」

 

「本当ですよッ!!あの朝様子見に来たら急にいなくなってて、てゐや他の仲間に聞いても何も知らないし、姫様からは何故かとばっちり食らうし……」

 

「……どうやら鈴仙さんには特にご迷惑をかけてしまったようですね。本当に、申し訳ありませんでした」

 

「え……いやあの、私なんかに何もそこまでして頂かなくても……ど、どうか顔を上げて下さい!もう終わったことですし!」

 

「……許して、下さるのですか?」

 

私は鈴仙に対し、私は「舞島 鏡介」として深々と腰を折ることで謝罪の念を誠実に伝えた。

あくまで代役である為、本当のことを言うと心からの言葉ではないのだが、この様子を見るに彼女には十分過ぎる謝罪だったようだ。

もっと責められるものだと思っていたが、こう見えて案外小心者なのか?……いや、これはどちらかと言うと謝られることに慣れていない感じに近い。

恐らく、彼女には自己肯定感というものが不足しているのだろう。可哀そうに。

 

「優しいのですね。こんな僕を許してくれるだなんて……ありがとう」

 

「ひゃい!?ちょっと舞島さん、何を!?」

 

「この気持ちを、鈴仙さんに分かって欲しいんです。いつも仕事を頑張っている、鈴仙さんに」

 

「え、えぇ!?」

 

せめてもの慰めとして、私は鈴仙の手を両手で握ることで感謝の気持ちを伝えた。多少臭く。

どうしてわざわざこんなことをしたのか?当然、彼女がこうすることでどういった反応を見せるのか興味をそそられたから……と、いうのは建前。

 

私は基本的に舞島君の味方であるつもりだが、1つだけ直して欲しい欠点がある。それは、“鈍感さ”だ。

彼は漫画やアニメの主人公宜しく、女心に対し極めて鈍感だ。無自覚であんなことやこんなことを平気で行う……私に対してもデリカシーのない一面が見て取れた。

だから今こそこの立場を利用し、元に戻った際に彼の普段の言動や行動が如何に罪深いものかを嫌でも理解して貰う。これはその為の第一歩だ。

 

「も、もう分かりましたからッ!十分気持ちは伝わりましたからッ!そ、そうだ是非師匠や姫様にも顔を出していって下さいきっと私なんかよりもずっと心配していましたからねッ!!」

 

動揺しているのを誤魔化すように、半ば無理矢理手の拘束を解いた鈴仙は足早に中へと案内をし始める。少々やりすぎただろうか?まぁいい。

私は「お邪魔します」と一声かけ、彼女の後に続くように永遠亭の中へと入っていく。

 

 

「(よし、ここまで積極的にアプローチしても偽物だと気付かれてる様子はない。ひとまずは安心ね)」

 

 

そして自らの演技力に自信を持った菫子は、小さくガッツポーズするのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。