人間と人形の幻想演舞 作:天衣
天狗達の目を掻い潜り、玄武の沢、霧の湖、五の道と道なりに進んできた三月精と妖精のマイ。
ここまで離れてしまえば流石の天狗も手出しはしないようで、これ以上の追跡はしてこない……僕らは助かったのだ。
各々の力は弱くても、協力し合うことで乗り越えることが出来る。これは正にチームプレイが成した結果と言えよう。
まぁかく言う僕は只々三月精の後をひたすらついて来てただけなんだけど……何の能力も持たない一般人だから仕方がないとはいえ、流石に申し訳ない気持ちになった。
「おっと、よく分かんないけどこの先は……あ、サニーじゃない!」
「つかまったってきいたけど、無事だったのね。よかったぁ」
「イザベル、ローズマリー!心配かけたわね」
人形解放戦線の本部である鈴蘭畑に続く道の「六の道」への入り口には相変わらず妖精達が見張りをしていたが、三月精を見た途端に態度が一変する。
三月精と見張りの妖精達はしばらくの間談笑を交え、その後すんなりと道を譲ってくれた。
以前僕が立ち寄った際には通れなかっただけに、味方の心強さを実感せずにはいられない。
「?あれ、その子はだぁれ?」
「(ギクッ!)」
三月精と一緒に通ろうとしている見知らぬ妖精の存在に疑問を抱いた見張りがこちらをマジマジと見ている。
ここまで来た際の疲れからか、話し掛けられることを想定していなかった。どう言っておくべきか。
「あぁ、この子はマイって言うの。最近生まれたんだって」
「マイはこれから人形解放戦線に入ってくれる仲間よ。仲良くね!」
「へぇ~そうなんだ!どこかで見た顔だなーって一思ったけど、きっと気のせいよね!」
「う、うん。僕ら初対面だよ……?」
「よろしくね~マイちゃん!」
「こちらこそ、よろしく」
考える間もなくサニーミルクとルナチャイルドが僕のことについて説明してくれたことで疑いが晴れる。ありがとう、2人共。
だが仮にも門番ならその辺をもっと厳しく取り締まるべきだと思うのだが……考えてみれば妖精がきちんとその役割を果たせる訳がないか。
きっとここを立ち入り禁止にしている意図も全然理解していないだろうし。
「よ~~し!じゃあ追手もまいたことだし、ここからは飛んでいくわよ!」
「賛成~……はぁ、ようやく足を休められる……」
「?どうしたのマイ?あなたも早く飛ぼうよ」
六の道に来て早々、サニーミルクが飛翔の解禁を提案。確かにもう天狗が追ってきてはいないから安全だ。
だが1つ問題がある。それは僕が“飛べない”ということ。この背中に付いた羽はあくまで偽装用の飾りに過ぎない。いくら職人のアリスと言えど、この羽に飛ぶ機能を加えることは出来なかったのだ。
せいぜい自分の意志で羽ばたくくらいのことしか、この羽には出来ることがない……つまり、僕は不完全な妖精なのだ。
「僕、実は飛ぶの苦手なんだ。皆は気にしないで先に行っておいてよ」
「えぇ!?そ、そうなの?」
「そんなに立派な羽がついてるのに……」
「まぁごくまれにそういう子はいるけどねぇ」
三月精はそれぞれ違った反応を示し、先に行くという提案を受け入れずにどうしようかと考えてくれている。
彼女らが僕を仲間だと信頼してくれているのだと分かって思わず嬉しくなった。あぁ、仲間っていいな。
「私達3人で持ち上げれば何とかいけないかな?」
「それいいわね!じゃあ私こっち持つから!スターはあっちね!」
「はぁ~い」
「「「 せぇーーーーのっ!!~~~~~!!! 」」」
三月精は力を合わせ、僕を空へ送り出そうと持てる力を物理的に限界まで引き出す。空を飛ぶ発想としてはゴリ押しもいいところで何も
だがせっかく三月精が僕の為に必死に頑張ってくれているんだ。だから僕はその言葉を外には決して出さず、静かにその行く末を見守ることにした。
無駄な行為だと分かってはいるが、その気持ちに少しでも応えようと自分も背中にある飾り羽を動かす。
足が地面から少しづつ、離れていく。本当に少しづつではあるが上に上に体が浮いた。
凄い。これは本当に飛べるかもしれない……と、思った僕の期待はその高度と共に見る見る落ちていった。
そして、ゆっくりと元の地面に無事に着陸する。振り出しに戻った。
「だ、ダメだーーー!!マイが意外と重いよーーー!」
「三人がかりならいけると思ったのになぁ」
「手ぇ痛ぁ~~い」
どうやら妖精の持つ力はその外見と全く遜色のないものだったらしく、飛翔は失敗に終わってしまった。
今の僕は子供同然の体重の筈なのだが、それでも持ち上げるには三月精があまりにも非力過ぎた。皆で力を合わせてもどうにもならないものもある……僕らはこの瞬間、悲しい事実を叩きつけられたのだ。
やはり皆で一緒に飛んでいくのは無理なのかと諦めかけていたその時、僕の手持ちの封印の糸が突然光った。
「ッ!……く、くたか?」
封印の糸から出てきたのはくたか人形。どうやら先程の様子を見て居ても立っても居られなくなったらしい。
くたか人形は「ここは私にお任せください!」と言わんばかりに胸をトンと叩き、飛翔のお手伝いを志望した。この自信に満ち溢れた顔……何と頼もしい。
そうじゃないか。3人で駄目ならば4人だ。
「くたかも協力すれば、もしかしたらいけるかも?なんて」
「え~~?人形にそんな力あるかなぁ?」
「大丈夫、こう見えてこの子達は力持ちなんだ。ね?」
「ッ!」
僕の問いに対し、くたか人形は元気よく2回首を縦に振る。
それに僕は以前、久詫歌本人から直接この身を運んでもらったという経験もある。それを考えれば、飛んでいく能力においては現状の手持ちの中で一番であることは確実だ。
「じゃあ今度こそ……!」
「「「 せーーーーのっ(~~ッ!!)!! 」」」
「……――おぉ?」
「本当だ、これなら……!」
「いけちゃうかもぉ?」
二度目の飛翔チャレンジの手応えが早速三月精の反応から見られる。
くたか人形の羽ばたきが三月精の負担を軽減し、さっきよりもスムーズに上へと僕の身体が浮いていく。
「……うわわ!?」
その勢いは止まらず、気が付いたら道を覆う木々などあっと言う間に飛び越え、遂には幻想郷を見渡せるまでの高度に達する。
ちょ、ちょっとこれは……高すぎやしませんかね?
「どうどう?初めて空を飛んでる感想は?」
「うん、これはすごいや。風が心地いいね」
「でしょでしょ!?気持ちいいでしょ!?私はシャバから出た後だからか余計にそう感じる~♪」
「(シャバ……?ど、どこでそんな言葉を?)サ、サニーちゃんは久しぶりの外だもんね」
「うん!それもこれもマイのおかげよ!ありがとね!」
「ううん。こちらこそ、3人がいなかったらどうなってたか……」
「それにしても、今回ばかりは本当に危なかったよね。正に“大脱走劇”ってかんじだったもの。天狗はしばらくこりごりね……」
「え~?私は結構たのしかったけどなぁ?」
「スターはのんきすぎッ!」
空の旅の道中、何気ない会話で盛り上がる。
道中苦しかったことも、過ぎればこうやって話題の種となって明るい空間を作り出してくれる。旅とはいいものだ。
最初こそこの高度の高さに慄いたものだが、今はその恐怖も風と共に流されてしまったようだ。
それにサニーミルクとルナチャイルドが前を、くたか人形が中心、スターサファイアが後ろを支えてくれているお陰で、バランスの良い安定した飛翔を実現している。
変なことをしない限り落ちることなど決してありえないと、そう確信していた。
「……あぁ!?スター、ちょっと何やってるの?」
「ん?何って……“スカート捲り”だけど?人形ってしたぎとかちゃんと履いてるのかな~って思ったら気になっちゃって……はっ!こ、これは」
またしても、スターサファイアの奇行が発動してしまった。くたか人形の真後ろにいることをいいことに、くたか人形にイタズラを働いたようだ。そして何やら驚いている。
仮にも袿姫様がお作りになられた尊き生命に対し、そのような行為を働くなんて不敬な……流石に擁護できないぞ?
因みに被害者のくたか人形は自分がされていることをあまり理解していないようで、特に気にせず僕を運んでいる。羞恥心は備えられていないらしい。
「それで中なんだけどぉ……コショコショ」
「な、なんですって!!?」
「ははは、はいてnんぐぅんんッ!!?」
衝撃の真実にサニーミルクが何か言いかけたのをルナチャイルドは片手を使って阻止。その影響で飛翔が乱れ、ユラユラと揺れながら少しずつ下降。
突然の出来事に対応出来なかったくたか人形は元のバランスに戻すべくルナチャイルドの支えていた左側の舵を調整し、その場で踏ん張ってくれたことでその勢いは何とか止まった。
ホッと安心するのも束の間、いつの間にか誰かが僕の着ている衣装のスカートをガッチリ掴んでいることに気が付く。犯人は言わずもがな、スターサファイアだ。
「ちょ、ちょっと止めてよ!?」
「ご、ごめぇん。だって急にバランス崩れちゃうんだもん~……そ~~」
「どさくさに紛れて覗こうとしないでスターちゃん!?」
スターサファイアの好奇心は留まることを知らず、今度は僕のスカートの中身に興味を示し始めた。
不味い不味い……万が一のことは考えてちゃんと用意はしてはいたが、いざとなると凄く恥ずかしい。男の子の筈なのに、見られたくないという感情が心の底から湧き上がる。
いや、男でも下着は見られるのは人によって抵抗があるものだ。別に変では……ってそういうことじゃなくて!くそ、両手が今動かせないから一切の抵抗が出来ない。このままだと本当に不味いぞ。
最悪の場合、僕が女ではないことまでバレてしまう危険性が……
「――ッ!ヘァ……」
「 ッッックチュンッ!!! 」
「え?」
「あ」
後ろにいる誰かさんが、くしゃみによってうっかり手を放してしまった。そんな予感がする……するとどうなってしまうか?
4人でようやく保たれていたバランスは一気に崩れ落ち、下へと真っ逆さまだ。
「 うわあああああああぁぁぁーーーーーーーーッ!!!?? 」
身体中にぶつかる激しい空気抵抗が、これから起こるであろう惨劇をド派手に演出している。
パラシュートなどという安全装置なんて当然存在しない。だって何も落ちたくて落ちた訳ではないのだから。それもこれもスターサファイアが元凶だ。
こうなったことを少しでも悪びれて今からでも助けようと追いかけるのならば、僕はまだ彼女を許すだろう。だがスターサファイアは落ちている僕を一切助けようとしない。その理由は恐らく、ここから落下して最悪死んでも「一回休み」になるだけだと、そう楽観視しているからなのだろう。マジで覚えておけ。
落下しても尚、必死に抵抗している3人の頑張りもあってか本当に僅かではあるが勢いが落ちている……しかしもう地面に近いのもあって、このままだと絶対に助からない。
この世界に来てから何度死にかけているかもう分からないが、こんなマヌケな死に方などあってたまるか。まだ、まだ助かる方法がある筈。諦めてはならない。
ここはまた人形達の力を借りよう。上手く衝撃を和らげるような、今の場面に適した方法……やはり「水」だろうか?
現在、僕の手持ち内で「水」を扱える人形はくたか人形とうるみ人形……くたか人形は僕を支えている状態で動けないから、実質使えるのはうるみ人形だけ。
覚えている水属性の技は「シャボン玉」と「アクアソニック」のみ。この中だと「シャボン玉」が一番使えそうだろうか?
「 うるみ! 頼んだ! 」
今は手が使えないので大きく叫ぶ形でうるみ人形を呼び出した。
呼び声に答えたうるみ人形は地面に降り立つも、この状況下を見て驚愕する。こんな形の初投入で申し訳ない。
「うるみ! シャボン玉 をなるべく大きく作ってクッションを作るんだ!」
苦し紛れの策だが、今はもうこれに頼るしかない。
初めての実戦で困惑しながらも、うるみ人形は言われた通りにその場でシャボン玉を生成し、徐々に膨らませる。
「いいぞ、その調子だ!そのままもっと……!」
シャボン玉は見る見る膨らみ、やがて人間1人を支えられるくらいの大きさになった。
これなら、いけるかも……!
「(よし!思った通り、感触は柔らかくてクッションには最適……!?)」
落下した体とシャボン玉が接触した瞬間、何かが弾けたような音が虚しく響いた。
そしてさっきまであった筈のシャボン玉がなくなっていることに気が付く……そして絶望した。
どうやらノーマルスタイルでは十分な強度を実現することは難しかったらしい。今度こそ終わった。僕の人生が。
あの時くたか人形も一緒に「シャボン玉」を作れていれば何とかなったのかもしれないという後悔を胸に、僕は潔く死を覚悟する。
そしてその後の姿を三月精が見たら、僕が皆を騙していたことも同時にバレてしまう訳で……ハハッ、なんて最悪な死に様なんだろう。
せめて、人形異変を解決してから死にたかったな……
***
「私にこの子の服を作れって?しかも妖精としてのものって……正気かしら?」
「頼むよアリス!いつも一から人形作ってるお前ならそれくらい楽勝だろ?」
「お断りよ。彼とは知らない仲ではないけど、どうして私がそんなこと」
「何だ、ホントは出来ないのか?当てが外れたかなぁ」
「そうじゃないわ。そこまでする義理がないってだけ。そもそも、舞島さんは人形異変の調査をしているんじゃなかったの?遊んでいる場合?」
「おい、何もそんな言い方」
「 遊びなんかじゃありませんッ!! 」
「 ―――ッ 」
「これは僕が旅の中で出した人形異変解決の糸口……そしてそれを成し遂げるには、人形をこの世界に居続けてもいいようにする為には、どうしてもそれが必要なんです。だからお願いします、アリスさん」
「アリス、こいつ私が止めなかったらこんな禁忌に触れようとまでしてたんだ。どうもパチュリーが作ったみたいだがな……でも、こいつの意思は本物だ。だから私からも頼むよ」
「………(人間を止めようとしてまで、ということか)」
「分かっているとは思うけど、姿形を似せたからといって本物になれる訳じゃない。正直かなり無理のあることをしようとしているわ」
「ア、アリスさん?何を?」
「動かないで。今採寸を取ってるから」
「協力してくれるのか?」
「……あくまでこの一度きりよ。でも、その前に1つ聞いて」
「舞島さん、人間と妖精というのは生物として全く異なる存在よ。妖精は死んでもしばらく経てば生き返るけど、人間は一度死んだら二度と戻らない」
「そして妖精はこの世界において最も下……謂わば底辺。だからいとも簡単に殺される。まぁ、アレらには人間と違って“死”という概念すらもないんだけど」
「………ッ」
「舞島さん、改めて聞かせて頂戴。それでもあなたは“只の妖精”として敵地にで乗り込むつもり?」
「 あなたは死を前にした時、平然でいられる? 」
***
死の間際、過去の出来事が不意に蘇った。走馬灯という奴だろうか?
「ここは、どこ?」
辺りを見回す。……空だ。一面水色の綺麗な青空。僕は、死んだのか?
「やっほ~マイ、生きてる~~?」
「ひゃ!?……ス、スターちゃん!?」
死角から突然、スターサファイアが僕に話し掛けてくる。
彼女はさっきまで上空で落ちる様を傍観していた筈だ。ということは、まだ僕は死んでいない?
駄目だ、状況が全然分からない……一体どうなっているんだ?
「!そうだ、サニーちゃんとルナちゃんは!?」
「風でみんな吹き飛ばされちゃったねぇ。そんなに遠くにはいってないし、たぶん大丈夫だとは思うけどぉ」
「か、風……?」
「そこの人形が起こした風~。ほら、ちょうどあなたを1人で抱えてるの」
「え?」
スターサファイアの指が刺した方を見てみると、大きな黒い翼を持つ何かが僕を空中で支えていた。
この黒い翼……まさか、さき人形が僕を助けに?最初はそう思ったのだが、腰に付けているさき人形の入った封印の糸は赤く光っていて、中にまだいることがハッキリと分かる。
さき人形の他に、このような特徴を持った人形を僕は持ってはない。
では、この人形は一体誰なんだ?