人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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今更だけど三部は視点が頻繁に変わります。
主に「マイ(舞島)」と「舞島(菫子)」が中心かな?



第十一章

 

飛ぶことの出来ない僕を救ってくれた謎の人物。

 

唯一分かっていることは“大きな黒い翼”を持っていること。何せ後ろから持たれている状況だ。その正体を見ることは今のところ叶わない。

その人物はたった1人で僕を持ち上げているにもかかわらず、三月精とくたか人形が持っていた時よりも飛翔を安定させていた。

 

「えっと、助けてくれてありがとう……?」

 

お礼を言っても返事が帰ってこない。どうやらスターサファイアの言う通り、後ろから僕を掴んでいるのは本当に“人形”らしい。

だが、どうして僕は助けられたのだろうか?この人形の行動の動機は?親切な野生人形なのか?それとも人形遣いの指示で……?

 

「考え込むのはいいんだけどぉ、一旦地面に降りた方がよくなぁい?サニー達の様子も気になるし~」

 

「え?あぁ、確かにそうだね。……いいかな?」

 

僕の言葉を聞いた黒い翼の人形はしばらく間を置いた後、徐々に高度を下げていった。

目に映る景色が空から地上へと変わっていく……差し詰めガラス張りのエレベーターにでも乗っているかのような体験だ。

特別重そうにしている様子もない為、安心して任せることが出来るのは大変ありがたい。

 

もうすぐ地面に降り立つというところで、その人形は自身の翼を羽ばたかせて落下スピードを調整する。

風で黒い羽が舞い散る中、僕の足が地面に付く……無事に着陸成功だ。

 

「マイ!良かった、「一回休み」にはならなかったみたいね!」

 

「イタタ……もう、何がどうなってるの?マイは助かってるみたいだけど……」

 

地上では既にサニーミルクとルナチャイルドが僕の帰りを待ってくれていた。

服に葉っぱや枝があちこちにくっついている辺り、突如吹いた風によって草木に飛ばされたことがよく分かる。

その姿を見たスターサファイアは2人のことをケラケラと笑い始め、やがて喧嘩が始まった。

 

 

喧嘩する3人を他所に、僕は一緒にいた筈のうるみ人形とくたか人形の捜索を始める。

軽く辺りを見回してみると、一本の木だけ何かがぶつかったような丸い跡は残っているではないか。

すぐにその木の方へ向かい、下を見てみると……いた。どうやらうるみ人形はこの木に頭からぶつかり、そのまま気絶してしまったらしい。

そして僕は感動した。気絶しているにもかかわらず、しっかりと石の赤子を抱いていたことに……彼女は母の鑑だ。

僕はその志に敬意を払い、称賛と労いの言葉を掛けてからうるみ人形を封印の糸へと戻した。

 

 

 

うるみ人形のいた場所とそれほど遠くないところにくたか人形もいた為、回収してから元の場所に戻るとまだ三月精は喧嘩をしていた。この3人は本当によく喧嘩するようだ。

それ程仲の良い証拠でもあるが、事件が起こる度にこれでは埒が明かない。この姿でいられるのにも限界がある……どうにか止めよう。

 

話を聞いている限り、この喧嘩は笑われたことと言うよりかは僕が危うく「一回休み」になりかけたことが原因らしい。だったら……

 

「皆、僕なら気にしてないから喧嘩は止そう?」

 

「止めないでマイ!あの時スターが手を離したのがいけないんじゃない!今回ばっかりは許さないんだから!」

 

「サニーちゃん落ち着いて。スターちゃんがあの時手を離したことには心当たりがあるんだ」

 

僕はそう言った後、スターサファイアの服に付着したあるものを取り出す。

それは片手で摘める程軽く、小さくてフワフワした物体だ……考えてみればこうなるのは必然だったのかもしれない。

 

「これは僕の人形、“くたかの羽”だ。きっと飛んでいる際に何枚か抜けていたんだろうね。スターちゃん、あの時くしゃみをしてしまったのはこれが原因なんじゃないかな?」

 

「あ~、言われてみればそうかも~?突然なにかが鼻に入ってくすぐったくなったのよねぇ」

 

「あの時、スターちゃんが僕を持ち上げていたポジションはくたかの真後ろだった……悪いのはむしろこっちだよ。気が付かなくてごめんね?」

 

「いいのよぉマイ?分かってくれればね♪」

 

スターサファイアの悪気のなさを見た僕は拳をグッと堪えることで自身の感情を隠す。

本当は彼女がくたか人形や僕のスカートの中身に興味を示したことが発端であるところを必死に庇っているというのに、このフリーダム妖精は……やはり彼女はどうも苦手だ。

こちとら時間の都合上、罪を被ってでも喧嘩を早く終わらせて先に進みたいだけに過ぎない。

 

 

「はい、もう喧嘩はここで終わりっ!先に進もう!」

 

 

僕は手を2回叩いた後、半ば強引に三月精の背中を押してアジトへの案内を催促させた。

 

 

 

 

 

 

三月精による案内の元、徒歩で六の道を進んでいく。飛翔は現状では危険が伴う為、今回は見送ることとなった。

 

六の道には沢山の人形遣いがいるようで、道中何回も人形バトルをしている様子を目にした。どうやら通せんぼをしていたのは僕と言う1人の人間に限定していたようだ。

ここにいる人形遣い達はどれも精鋭揃いで、人形がスタイルチェンジをしている者が大半を占めている。あの機能はタブレットを持った者の特権だと思っていたのだが、こうしてみると自力でスタイルチェンジを果たしているパターンもあるのが分かる。

だがその場合、スタイル先を自由に選ぶことは不可能になっており理想の形にはなるのは難しいだろう。河童の技術でそれらを自由に選ぶことの出来る自分は大変恵まれているのだと、改めてそう実感した。

 

 

「着いたわ!ここが我々人形解放戦線のアジトよッ!」

 

 

入り組んだ長い道中を終え、僕らは遂に人形解放戦線のアジトへと辿り着く。

だが僕の想像していたような建物はそこにはなく、その全容に思わず唖然としてしまう。

 

「どうしたのマイ?ビックリして声も出ない?」

 

「あぁごめん。うん、まぁ……ある意味でビックリはしたかな?」

 

「アジト」と呼ばれたその場所の姿は、これまでも何回か見てきた一般的な木造建築の小さな小屋であった。

とてもじゃないがアジトと呼ぶには余りにもお粗末で安っぽい……この「人形解放戦線アジト」という看板がなければ絶対に気付かないレベルだ。

仮にもあんなに多くのメンバーを率いた集団がこんな小さな小屋をアジトとしているなど、何かの冗談としか思えないのだが?

 

「まぁ、アジトといってもここは主に作戦会議とかめんせつ?ていうのをやる為だけのところなんだけどね」

 

「そしてマイにはぁ、今からそのめんせつ?ってやつを受けてもらうね~?リーダーから新しく入る子に必ずやるよう言われてるから~」

 

「大丈夫よ!ただ私達のしつもんに、てきとーに答えてくれるだけでいいからさ!今から準備するからちょっとだけ待ってて!」

 

「う、うん。分かった」

 

そう言って三月精は小屋の中へと入っていき、僕に対する面接の準備に取り掛かる。

面接、か。あっちではもうすぐ高校生になる僕にとっては決して避けられない面倒なものだが、まさかこんな形でやるなんてね。

 

小屋の方に耳を澄ましてみると、ドタバタと忙しそうに動き回っているような足音と想像以上に中が散らかっていたことに対する怒りの声が飛び交っているようだ。

まだまだ時間が掛かりそうなことも分かった為、僕はしばらく小屋の隅っこに腰かけて休憩することにした。

 

「………ん」

 

座って気を緩めた瞬間、一気に眠気が襲い掛かる。

瞼が重い……視界がぐらりと下がっては上がり、下がっては上がりを繰り返している。今の僕は子供といっても元の姿と特別体力に差はないみたいだ。

 

思っていた以上に、僕の身体には疲れが溜まっていたということか……まぁこれから忙しくなるだろうから、今の内に休んでおくのは悪くないかもしれない。

 

 

ちょっとだけ、休憩しよう……

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「うん、出来るよ」

 

「めっちゃあっさり……!」

 

「流石、針妙丸は話の分かる奴だぜ」

 

「でも何回もは使わないでね。使い過ぎてまた代償が来るの怖いし」

 

「分かってるよ。お前に迷惑の掛からない範囲でやるのぜ」

 

「(成程、魔理沙が言っていたのは「打ち出の小槌」のことだったのか)」

 

「針妙丸さん。その小槌の効果はどれくらいの間持ちますか?」

 

「う~ん、そうだな……内容にもよるけど、「ちいさくなりたい」っていう願いで1人だけを対象なら“7日”辺りが限界だと思う」

 

「(1週間……まぁ及第点かな。でも、ちいさくなること以外の内容……例えば、「空を飛べるようになりたい」とかも追加で願うと更に猶予が短くなってしまうのか。……)」

 

「因みに、「妖精になりたい」と願うことは?元に戻れる保証があるのなら、それが一番早いのですが」

 

「それはちょっと大きすぎる願いだよ。かつて私が異変を起こした時よりもキツい代償が飛んで来るから絶対ダメッ!禁止ッ!!」

 

「わ、分かりました」

 

「となると、舞島自身がちいさくなるのは最後の仕上げにした方が良さそうだな。さて次は……服だな。その恰好で妖精は無理があるし」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……――ッ!まぶしっ」

 

 

夢の中にいた僕を、パシャリと白い閃光が無理矢理目覚めさせる。

ぼんやりと思い出してみると、遠くからその音は何度も聞こえていたような気がする……一体誰が?

 

「あれ、君は確か……」

 

「……!」

 

目の前にいたのはかつて僕が助けた茶髪のツインテールが特徴的な天狗の人形、“はたて”であった。

どうやら起きるとは思っていなかったらしく、僕の顔を見て大変驚いているようだ。

 

だがすぐに咳払いをし、冷静さを取り戻したはたて人形は手持ちの携帯電話をイジり出し、僕に見えるように画面を向ける。

はたて人形が僕に見せたのは人間の姿の時の僕の写真……そして、変装すべく魔理沙と共に赴いた各地域の様子を写した写真だった。

言葉が伝わらないことを見越してのこの行動は、僕に何を言いたいのかを明確に示している。はたて人形は、僕の正体をちゃんと知っているのだ。

 

だが、どうしてまた僕の前に現れたのだろう?

以前、夢の世界で彼女は助けて貰った借りを返す為にと行方不明となったユキ人形の居場所を教えてくれた。それでもう借りは充分に返している筈……だから彼女からすれば、もう僕に関わる理由などない。

ま、まさか僕が天狗達を敵に回してしまったことによる報復で、さっきの情報を外部に漏らす気でなのはないだろうか……!?

 

「ま、待って!これには深い理由が……!?」

 

慌てて弁解しようとする僕をはたて人形は片手で「待った」をかけることで静止させ、首を小さく横に振った。

どうやら僕の想像していたような動機は一切ないようで、ひとまずは安心する。……だが、そうでないとすれば一体どういった目的で僕にコンタクトを?

 

思い当たる節がない僕を呆れ気味に見つめるはたて人形は痺れを切らしたのか、黙々と携帯電話をイジり出す。

はたて人形はさっきよりも長めにイジった後、内容がハッキリと分かるように眼前まで飛んで近付けてきた。何やら大変不機嫌なようだ。

 

『アタシ実は何度もキミのこと助けてあげてンですケドッッ???何で気付いテくれないカナァ??????(ノД`)・゜・。』

 

「え?………あ、そういえば?」

 

そうだ。これまでのことを思い返してみると、僕は危ないところを何者かに助けられたことが何回かあった。

最初は確か……守矢神社へと続く階段から落ちそうになった時だ。謎の風が僕を浮かばせたことで、頭を強打せずに済んだことがある。

その後の牢屋にいる門番の天狗の注意が逸れた時や追い詰められた際の援護……あの時は余裕がなくて深くは考えもしなかったが、これらの出来事は全てはたて人形のサポートによるものだったのか?

 

「そうか。ということは“あの時”も君が僕を助けてくれたんだね……ありがとう。君は命の恩人だ」

 

僕の感謝の気持ちに対し、はたて人形は顔を逸らしてクールに息をつくことで返事を返す。

気持ちは受け取っておく……といったところだろうか?表情にこれといった変化も見られない。珍しいタイプの人形だ。

 

『で、アタシはいれば空からの偵察とか動かぬ証拠の撮影とかあと飛んで運んだりとかデキて??めっっっちゃお得なんだけドなぁ???(^-^)』

 

『いないとこれから先MJD鬼ヤバだと思うケドなぁ??????(0_0)』

 

「(あ、圧がすごい……)」

 

携帯電話の文章から、自身の有能さをアピールしていることがひしひしと伝わってくる……要は仲間になりたいということだろうか?

確かに妖精として潜入捜査をしている身としては、彼女の能力は非常にありがたいものばかりだ。あちらから仲間になりたいと言うのならば、断わる理由なんてどこにもない。

 

「分かった。今日から君は僕の仲間だ。でも、1つだけ聞かせて」

 

「どうして“僕”なんだい?他にも人形遣いはごまんといるのに、どうして僕に拘るの?」

 

「………」 

 

はたて人形は言うべきか悩んでいるのだろう。返事を考え込んでいる様子が伺えた。

何やら訳あり……というやつだろうか?

 

『ある組織に恨みがある……とだけ』

 

しばらくして、短いながらも先程とは裏腹の真面目な文章が返ってきた。

「恨み」……過去に何があったのかは分からないが、僕を見るその真剣な表情から冗談ではないことは充分に伝わる。

 

『さてと!そんじゃまずはその封印の糸ってやつでアタシをダチにして♪(^-^)』

 

暗くなってしまった話題を早々に切り替え、はたて人形はいつもの調子でこちらに携帯電話で話し掛けてきた。

あまり触れられたくない部分だったのだろう。申し訳ないことをした……これ以上の追及は止めておこう。

 

「うん、よろしくね」

 

『よろ~(^_^)/』

 

僕は言われるがままに封印の糸を彼女に向かってかざし、はたて人形を自分の手持ちとして登録する。

現状はまだまだ謎の多い人形だが、心強い仲間が増えたことをまずは喜ぼう。

 

 

「 お~~~い!!めんせつの準備、出来たよ~~~!!入って来て~~~~!!! 」

 

 

丁度いいタイミングで、三月精のお片付けも終わったようだ。

 

さて、いよいよここから僕の妖精としての冒険(せんにゅう)が始まる。

ぶっつけ本番の気持ちで、この面接も取り組んでやろうではないか。

 

 

僕がここを変えてみせる。絶対に。

 

 

 





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