人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十二章

 

〇月×日、午前6時過ぎ、晴れ。

 

 

現代へと帰ってきた私は変装を解き、着ていた服を洗濯機にかける。今回の冒険だけで沢山の汗をかいたからだ。

これは彼から託されている替えの効かないたった1つの代物。これがなければ変装は絶対に不可能となる……大事な一張羅なので扱いには気を付けなければならない。

それにしても昨日ひたすら歩いたのと蓬莱山 輝夜の人形バトルに約半日付き合わされたせいか、異常に疲れが溜まってしまった。永琳のドクターストップが掛からなければ恐らくもっと付き合わされていたと思うとゾッとする。

 

人形バトルの結果としては、特にこれと言って苦戦することはなかった。流石は舞島君と長い間苦楽を共にしてきた相棒達だ。

人形達は変装しているとはいえ初対面の私の指示をちゃんと聞いてくれるし、何より鍛えられていて明らかに強さが違う。特に「ユキ」という人形はその中でも別格だ。

私の“発火現象(パイロキネシス)”なんかとは比べ物にならない程の炎を操り敵を燃やし尽くすその圧倒的な攻撃力は、戦っている時の妹紅さんを彷彿とさせるカッコよさと美しさがあった。

強くて可愛くて頼りになる……確かに舞島君の言う通りだろう。変装が必要なくなったら私も自分の人形、持ってみてもいいかもしれない。

 

 

だが利便性がある分、悪用された際の危険性も今回の人形バトルで理解出来た。

誰にも太刀打ち出来ないような人形が悪しき手に渡ってしまう……もしそんなことが起こってしまえばどうなるか?

“人形には人形でしか対抗出来ない”という決められた誓約(ルール)がある以上、誰も太刀打ち出来ず簡単に支配されてしまう。

あの異変解決の専門家である霊夢さんや魔理沙っちでさえ、人形自身には直接手が出せない。過去に人里が人形達によって襲われたという記録もあるくらいだ。

人形は確かに賢い生き物だが、その心は非常に純粋……育てる人や環境によって性格に大きく差が生まれる。ヒトで言う、“子供”のようなものだ。

舞島君のような心正しい人物が育てた人形に危険性はないが、それが邪な心を持った人物となると話は変わってきてしまう。

 

例えば人形を使った様々な災害……ここでいう「異変」なども、使い方次第でいとも簡単に起こせる。

というのも、人形にはその元となった人物と同じ能力が備わっているという高度な技術を持つ生物だ。その効力は本人と比べれば微々たるものではあるが、人形は同じものが複数体存在している。

幻想郷の住民が持つ能力の中には強大なものもいくつかあるようなので、それを実現出来てしまう可能性があるだけでも充分な脅威となり得る……恐ろしい話だ。

 

 

「人形解放戦線」のような弱者の寄せ集めでさえ人形の力があればやりたい放題……この現状はかなり深刻な問題だろう。

その中でもリーダーをしている「メディスン・メランコリー」という人物は加減を知らない危険な妖怪で、放っておけば何をしでかすか分からない。

聞けば活動内容もどんどん過激になっているみたいなので、早いところ止めないと取り返しがつかなくなる。

 

世界の命運は、舞島君の行動にかかっていると言っても過言ではないみたい。

 

 

「ふぁ……ん」

 

 

一通り考え終わって、疲れからか誰もいないことを良いことに私は口を大きく開けて欠伸をしてしまった。

だがまだ寝てはいけない。この洗濯が終わって、外に干して乾いたらまた着る。それでやっと準備完了なのだから。

 

それまでの間、どうやって時間を潰そうか?

スマホやゲーム、パソコンなどは寝るのに影響が出そうだから論外として、外に出るような用事も別にないし……久々に朝食でも摂ろうかな?

室内で軽い運動とかも今後の役にも立つだろうから取り入れてみよう。無理のない程度に。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

同日、午後1時、晴れ。

 

 

無事に幻想郷へと着いた私は今、人里に来ていた。

ここにも舞島君と面識のある人物が何人かいるようなので、コンタクトという名の目撃情報を取ってみようと思う。

まぁ言ってしまえば私のやることはその辺をうろつき回ることであり、明確な目的はないのだ。焦らずのんびりと、いつもの彼を演じていればいい。

 

「あ、いたいた」

 

さっそく第一村人を発見。

知り合いなのでこちらから遠慮なく声を掛けるとしよう。誰かと話しているようだが、まぁ問題ないでしょう。

 

「こんにちは浩一さん。奇遇ですね」

 

「ん?おぉ舞島じゃないかっ!」

 

こちらから声を掛けると、元気の良い返事が返ってきた。

彼は「浩一」。舞島君が幻想郷で初めて知り合った男性。不思議と会う機会が多く、その度に助けてくれる良い人らしい。

人形遣いでもある彼はいつもレアな人形を探しているが、運がとことん悪く会えないことが殆どだという。……暇なのかしら?

恰好は人里でよく見かける和服……能力を持っているような特別な人物という感じには見えない。正に幻想郷に住む一般人といったところだろう。

 

「今日は人形、探していないんです?」

 

「ハハッ!今日は休日ってやつだよ!まぁたまには故郷に帰って一息入れようと思ってよ」

 

「あぁ、確かに歩き回ってると疲れちゃいますもんね。実は、僕も今日はここでゆっくりしていこうと……あ」

 

浩一と話をしている最中、視線が刺さっていることに気が付いた私は思わず会話を止めてしまう。

前の方を見てみると、1人の少女がこちらを睨みつけている……状況を見るにさっきまで浩一と話をしていたのは彼女だったらしい。「邪魔をするな」という彼女の憤りが嫌と言うほど伝わる。

 

「えっと、すみません。もしかしてお取込み中だったでしょうか……?」

 

「あーいやいや!別に気にしないでいいぞ、うん!ちょ~っとばかしめんどくさい奴でさ……でも悪気はないんだ。だからよ、仲良くしてやってくれると嬉しい」

 

「………」

 

そう言いながら浩一は少女の肩をポンポンと叩き、挨拶するよう一歩前に出す。

外見は和服を着た人里の住民と言った感じだが、身体的特徴から浩一とは年齢には大きな差が感じられる。肌は私よりも色白で健康的とはとても言えない。

しかも少女は紹介されたにもかかわらず、一切口を動かそうとはせず目も合わせようともしない。“嫌悪”が全身から滲み出ているかのようだ。瞳にも生気というものが感じられないし、その下にはくまがびっしり……印象が良くない。

ここ人里には「光」という彼女と近い年齢の女の子の知り合いがいるようなので、最初は彼女がそうなのかとも思ったが……これを見る限りどうやら別人だ。聞いていた性格とはまるで正反対だし。

 

「僕は舞島 鏡介って言います。さっきは会話を邪魔しちゃってすみません。浩一さんとは仲良くさせて貰ってるものですからつい話し掛けてしまって」

 

「………」

 

「あ、もしかしてお2人は親子……だったりするのでしょうか?随分と歳が離れているみたいですし?」

 

「………」

 

「……そ、そういえばあなたのお名前聞いてませんでしたね!よければ教えて頂いても」

 

「………」

 

「えっと……あ!封印の糸をお持ちということは、あなたも人形遣いなんですね?実は僕もそうで、浩一さんには先輩として色々とお世話になってるんですよ。もしかしてあなたも?」

 

「………」

 

「う……その……」

 

段々と言葉が詰まっていき、遂にはこちらもだんまりとなってしまって空気が悪くなってしまう。さっきからこちらがボールを投げても、全くと言っていい程返ってこない。

相手はキャッチ出来ないのではなく、そもそもボール自身にまるで興味がないようで心が傷つく……私も一時期似たようなことをしていたが、される側に立つと如何によくないかが分かってしまう。

彼女の氷のように冷たい目……逸らされてはいるものの、まるで世間や周りに何も期待していないような、見下しとは少し違う無関心とも言うべき態度だった。

 

「あー……その、なんだ?いきなり過ぎてこいつもちょっと緊張しちゃってるんだろうよ!まぁ許してやってくれ!」

 

「そうそう、こいつは“幸恵(さちえ)”。娘とかじゃなくてな、まー所謂顔見知りだよ。ここ人里じゃ、住んでるやつ皆そんな関係だと思ってくれ」

 

「あ、あはは……成程」

 

浩一が間に割って入ってくれたことでこの地獄のような時間を何とか回避することが出来た。感謝しかない。

しかしその空間を作り出した幸恵はというと全く反省の色を見せず、むしろうるさいと言わんばかりの苛立ちを露にしている。そしてこちらにもハッキリと聞こえるような舌打ち……さっきから相手を寄せ付けない素振りが目立つ。

もしかして、彼女は不良娘というやつなのだろうか?駄目だ、彼女とはこの「舞島君」という聖人の皮を被った私でさえ仲良くなれる気が全くしないわ。

 

「っと、時間か……舞島、俺達そろそろ行かねぇと。また会おうぜ!」

 

「あ、はい。またどこかで」

 

「ほれ行くぞ?」

 

「………」

 

日の昇りで時間を確認した浩一はこれから用があるらしく、幸恵と共に人混みの中へと消えてしまった。また人形を捕まえに行くのだろうか?

あの幸恵という少女、正直なところ印象がかなり悪いが一緒にいた浩一が聞いた通りの善人だったお陰で何とか事なきを得た。反省点としては、彼女は人形遣いだったようなので人形を実際に出してコミュニケーションをとってみても良かったかもしれない。

舞島君ならば、恐らくそうした筈だ。まだまだなりきりの精度が足りていないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、舞島さんだ!お~~い!!」

 

人里を歩いていると甲高く元気のいい声で誰かが話し掛けてくる。

声の特徴的に、どうやら幼い女の子のようだ……もしや例の「光」という人物だろうか?私は声のした方へと振り返り、それを確認する。

 

「しばらくぶりね~!元気してた?」

 

「……え~っと?」

 

目の前にいたのは回りとは明らかに雰囲気の違う少女だった。

それ自体は特に珍しい話ではない。幻想郷は多種多様な種族の住民達が個性豊かな恰好で暮らしている狂気の異世界。

故に、人里のような江戸時代を思わせる背景にそぐわない奇抜なファッションをしている者も沢山いる。だが、この子はその辺のベクトルが少々違う。

何と言うか……恰好が現代的で私や舞島君のところの文明に近い。もしや彼女、外来人だろうか?

 

私は舞島君からこのような特徴を持つ少女の情報は聞かされていない。しかし、向こうは私……舞島君を知っている。

こんな、“ライトブルーのショートパンツ”に“白Tシャツのへそ出しルック”という大胆且つ活発的な恰好をしている女の子が舞島君の知り合いだとでも?

 

「やだな~もうキョトンとしちゃって。私よ、わ・た・し!」

 

やや強調気味に自身をアピールするこの少女……せめて名を名乗って欲しいところだが、素直にそれを問えば何かと怪しまれるかもしれない。

よく観察して、この子が一体誰なのかを当てる必要がある。他に目につく物と言えば、背負っている大きなカバンくらいだが……いや、待て?あのカバンは確か?

 

「……も、もしかして光ちゃん……なの?」

 

 

「 あったり~!もしかしなくても光で~っす!! 」

 

 

「ハハ……何というかその……随分とイメチェンしたんだね?」

 

「まぁね~!ビックリしたっしょ?」

 

どうやら彼女は本当に“光”だったようだ。今の彼女は事前に聞いていた服装とは余りにも違いがある。人里によくいる和服を着た村娘という話だったのだが?

背中に背負った大きなカバン……唯一あれが光の特徴として一致していたのが幸いだった。

 

当てられて上機嫌な光は、理由(わけ)を聞いて欲しそうに上目遣いでこちらを向いている。

 

「その服、一体どこで?ここにそんな服は売っていなかったと思うけど?」

 

「気になる~?まぁ話すと長くなるんだけど……ちょっと歩きながら話そっか?」

 

 

 

 

 

 

「―――と、いう訳なの!因みにこれ、アリスが一晩で縫ってくれたんだ!人形ってホント器用よね~!」

 

「へぇ、それは凄いや」

 

外見は大人びたもののやはり中身は年下の女の子ということもあり、話の半分くらいはどうでもいいことだった。

要約すると家に帰って来てファッションについて色々と相談したところ、親が外の世界からの掘り出し物として“ある本”を譲ってくれたらしい。

その中を見てみると見たことのない恰好をした女の人達がズラリと載っていたとのこと。凡そ、忘れ去られてここへと流れ着いたファッション誌か何かだろう。

つまり、光のこの格好はそれを参考に作って貰ったということになる。彼女の人形には余程腕の良い裁縫職人がいるようだ。

 

確かに、この幻想郷に服屋というものは1つも存在しない。人形異変が起きてからは呉服屋というものが出来たようだが、そこですら人形専用のものしか置いていなかったくらいだ。

それ程ここ人里に住む人達にとって、ファッションというのはあまり関心がないものなのだろう。文明の違いもあるので仕方がない部分があるにしろ、やはりどこか寂しいものはある。

 

「私、げんちゃんに言われて初めて気が付いたんだ。自分がもっと輝けることにね。それで思ったの!呉服屋がやってる人形の服装の自由を、人里の皆にも取り入れるべきだってね!」

 

「初めは霊夢様をお手伝いしたい一心で始めた旅だけど、それよりもっとやりたいことが出来ちゃった……へへ、自分でもビックリしてるよ」

 

「つまり、夢が出来たんだね?いいことじゃない」

 

どうやら光は旅の中で「服屋になりたい」という夢が出来たようだ。この歳でそういった人生の目標が出来るのは立派と言える。

私としても、その夢は是非とも応援してあげたいところだ。彼女の夢は、幻想郷をより良いものにするその第一歩となるのだから。

 

「でもい~~っぱい問題があるんだ。まず、服を作る為の素材を調達する手段が今のところないの。皆に提供する上でアリスが最初から持ってる奴だけじゃとても足りないし……舞島さんいい場所知らない?」

 

「え?う~ん……僕はその手の知識には疎いけど考えられる手段としては、“リサイクル”かな?」

 

「“りさいくる”……?」

 

「そう。「再利用」って意味で、例えば住民の皆から使わなくなった服を回収するのさ。それを分解してしまえば、実質タダで生地は手に入るでしょ?」

 

「ッ!!舞島さん天才ね!?その手があったわ!こうしちゃいられない、早速出掛けてくるわっ!!またね!!」

 

そう言うと光はダッシュでその場を後にし、片っ端から住民に声を掛け始めた。

見るに早速言われたことを実践しているのだと考えられる。行動力の化身だ……私にはとても真似出来ない。

 

「ま、またねー……」

 

私は既に見えなくなった光を見送るように、小さく手を振って別れを告げる。

彼女の走っていく先々には砂煙が舞っている……遠慮なく人を巻き込んでいくあの積極性、正に“嵐のような女”の称号を持つに相応しい元気っぷりだ。

 

夢、か。私は当時、これと言ったものがなかった。

強いて挙げるならば幼少期に迷い込んだかもしれない「幻想郷」という異世界にいつか自力で来ることが目標だったのだが、それはこうやってあっさり実現された。今やっている舞島君の手伝いも、無事に彼が成し遂げれば終わってしまう。

そろそろ、自分の将来を真剣に考えてみてもいいのかもしれないな。

 

 

 

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