人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第十三章

 

 

 

「……あ」

 

人里を歩いていた私は、もう1人の舞島君の知り合いが前方にいることに気が付く。

 

先程会ってきた人達に比べれば接点はあまりないものの、挨拶くらいはしておいてもいいかもしれない。

私は声を掛けようと一歩一歩、彼女に近付いた。見たところ、珍しく人里の住民と話をしているようだが?

 

 

「……――ッ!!?」

 

 

それは彼女にある程度近付いた瞬間だった。

感じたことのある悪寒が、全身を震え上がらせる……危険を感じた私はすぐに人気のない路地へ駆け込むことで身を隠した。

 

しかしこの既視感(デジャヴ)の正体は何だ?一体どこで?恐怖の中、必死に頭を働かせた。

 

「(そ、そうだ。この感覚、“あの時”の……)」

 

思い出した。あれは私がここで異変を起こした時……害をなす者と対峙した際に放っていたものと似ている。

一見、普段と変わらないように見えるがそれは違う。この異様な威圧感(プレッシャー)……彼女は今、“切り替わっている”んだ。

 

 

霊夢さん……魔理沙っちが言うには異変調査が上手くいってなくてこの頃機嫌が悪いとのことだったが、想像以上だった。

恐らく異変解決の専門家としてのプライド、人里の人間達からの期待、舞島君という救世主(ライバル)の出現……これらが重くのしかかり、彼女は焦っているのだと思う。

いつもなら現場へ急行して異変の黒幕を見つけ出し、それを直接撃退することで解決してきた彼女にとって、この「人形異変」は異例中の異例だろう。

起こしたであろう人物候補として真っ先に挙げられる「アリス・マーガトロイド」は、今回の異変とは全くの無関係。アリス自身、こんな大それた芸当は1人ではとても出来ないと証言している。

 

春頃から始まって未だ解決の糸口が見えないこの「人形異変」……一体誰が、どんな目的で起こしたというのだろうか?

 

 

 

 

先程まで感じていた威圧感(プレッシャー)が薄れたのを感じ、路地裏からこっそり覗き込んでみるともう霊夢さんはその場から姿を消していた。どうやら次の現場へと向かったらしい。

異変調査の為、普段は各地を転々と飛び回っている筈の霊夢さんだが、今回は聞き込みを中心に活動をしているようだ。それ程手掛かりになるようなものが今のところ掴めていないのだろう。

彼女の十八番である“巫女の勘”も、この異変では上手く働いてないように見える。

 

「?これは……」

 

先程まで霊夢さんがいたところに、封印の糸が1つ転がっていた。手に取ってみると、赤い光が淡く灯っている……使用済みであることは間違いないが、始めて見る状態だ。

話していた一般住民の方は人形遣いではなかったようだし、恐らくこの封印の糸は霊夢さんのもので間違いない。喋ることに夢中で落ちていることに気が付かなかったのだろうか?

仮にも「博麗の巫女」とあろうものが落とし物とは、意外と抜けている一面もあったらしい。まぁ、そういった可愛げもある方が私は好きだけど。

 

 

しかし、霊夢さんは一体どういう聞き込みをしていたのだろうか?少し気になる。

何せ、彼女は舞島君とは全く別の目線で異変調査をしている立場だ。希望は薄いが、もしかしたら何か有益な情報が聞き出せるかもしれない。

私の持っている手段としてこういった場面で使えそうなものといえば、やはり“残留思念感応(サイコメトリー)”……になるのだろうか?

この能力は簡単に言えば「物体に残された記憶を読み取る」というもので、主に過去にそこで起こったことを調べるのに役に立つ超能力の1つ。この状況にはうってつけだ。

 

だが、正直私はこの能力に強い抵抗がある。何故なら子供の頃、何も知らずにこの能力を使って殺人の記憶を見てしまい、強烈な精神的ショックを起こしたからだ。

強い殺意、悲痛な叫び声、飛び散る血飛沫……僅か数秒くらいではあったものの、子供が見るには余りにも過激で生々しい映像だったのは覚えている。

以降、それがトラウマになってしまって使うことは二度と無くなった。高校生になった今も、それは変わっていない。

 

……でも、光ちゃんの夢へとまっすぐ進む姿を見ていたら不思議と勇気が沸いて、何だか怖がっていたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

あの時はまだ子供でどういったモノが映し出されるのか分かっていなかっただけ……今は違う。見る前から覚悟していれば、使ってもきっと大丈夫。

 

 

「すぅ、はぁ………よし」

 

 

僅かに震える手を握り締め、私は先程の現場へと足を運んだ。

残留思念感応(サイコメトリー)”を発動させる条件は、“物に触れる”こと。「物」というのは結構幅広く、実際の現場や持ち主の遺品などは勿論、湖や沼といった場所でも通用する。

特に、“液体”を含んだ物の方が記憶を透視しやすいという。私が子供の頃に触れた物が正にそれ。赤い液体が付着した凶器だった。

 

「(……感じる。それも結構強いわ)」

 

超能力は、その者の資質によって効力に差が生まれる。

例えばこの“残留思念感応(サイコメトリー)”にも「断片的な記憶」しか読み取れない者と「秒単位の長期的な記憶」を読みとれる者が存在する。私はどうやら後者のようだが、そういったものは大きな資質があるらしい。

この封印の糸に残っている残留思念も、私の目にはハッキリと視えている。つまりこれは霊夢さんにとって強い印象が残っている代物ということ。

 

あの霊夢さんが大事にしている封印の糸……気になる。非常に気になる。未だ謎の多い友人の知られざる一面を見られるかもしれないと思うと、好奇心が止まらない。

気が付いたら私の心はすっかり「視たい」という感情に支配され、“残留思念感応(サイコメトリー)”を発動させていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

    「また飲んでるの?人形でもあんたは変わらないわね……」

 

 

         「ッ!ッ!~♪」

 

                 「霊夢~、そう言ってる割には満更でもなさそうだぞ~?」

 

 

  「―――!正拳突き でとどめ!……よし、上手くいった!」  

 

 

 

         「うわ、抱き着くなって……ああ、もう!分かったから離れなさい!」

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

     「馬鹿な奴だ。まんまと罠に掛かりやがって……今頃人里は滅茶苦茶だろうさ」

 

 

 「な……こ、これは!?」

                    「人形解放戦線、あいつらだけは……!」

 

 

  「私のせいだ……私がしっかりしてないから……」

 

 

       

 

 

    「 弱い人形なんていらないわッ!出ていってッ!! 」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「―――!………ッぅ!!」

 

 

記憶の読み取りが終わると共に、激しい頭痛が襲い掛かった。高い素質を持つとこういう時に損だ……頭痛程度の軽傷で済んだのは幸いか。

私は右手で頭を抑えながら、視えた情報の整理をする。

 

物が物である為、ハッキリとした映像こそ映し出されなかったものの、あれは間違いなく“博麗神社での出来事”だった。

声の主は霊夢さん、それに魔理沙っちもいただろうか?後、人形も……姿は見えなかったけど、恐らくこの封印の糸の中にいた人形である可能性は非常に高い。

だが気になったのは後半の記憶……霊夢さんは誰かに嵌められたのだろうか?人形解放戦線って言ってたけど、もしかしてそいつらに?

その後の霊夢さんの後悔の念、そして怒り……まさかこの封印の糸は……

 

 

「ねぇ、そこのあんた」

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

考え事をしていて無防備だった私の背後から突然、女の人の声が割り込む。

ビックリして普段は出さないような声が漏れたので慌てて口を塞ぐも既に遅く、完全に聞かれてしまった。そして会いたくなかった。

 

「あれ、あんたどこかで見たわね。確か……そう、舞島 鏡介だわ」

 

「イヤーヒトチガイジャナイデスカネー」

 

「……誤魔化せてないわよ」

 

駄目元で鼻を抑えて声を変えてみたものの、彼女には通用しなかったようだ。

一目で見分けがつく格好なので無駄な努力であったことを痛感しながら、観念して聞き覚えある声の方へと振り返る。……ああ、やっぱり霊夢さんだった。

敵意むき出しな顔付きでこちらを見据えている……怖い。

 

「ふん、見た目通りの女々しさね。……言っておくけど、私はまだあんたを同業者とは認めてないから。やたらとこの異変に首を突っ込んでいるようだけど、警告よ。これ以上関わないで」

 

「そ、そんな!僕はただ」

 

「素人にこの異変が解決出来る訳ない。たまたま才能があるからっていい気にならないで欲しいわね。あんたみたいなのは人形(どうぐ)達とごっこ遊びでもしてるのがお似合いよ。おすすめはしないけどね」

 

「ッ!そ、そういう霊夢さんは何か解決の糸口が掴めているんですか?プロなんですから、当然僕なんかよりも進んでいるんですよね?」

 

「……黙りなさい。あんたにそんなことを聞かれる謂れはない」

 

「そう仰るということは、やはり掴めていないんですね?「博麗の巫女」も、案外大したことないじゃないですか」

 

「何ですって……?」

 

「……あなたに彼の何が分かるって言うの?勝手な憶測で決めつけるんじゃないわよッ!」

 

「………は?」

 

「(ッ!しまったーーー!?)」

 

気が付いた時にはもう手遅れ……あの瞬間、確かに私は舞島君の演技を完全に忘れていた。

ヤバいヤバい、さっきとは比べ物にならない殺意がこちらに向けられている!何であんなこと言っちゃったの私!?

 

 

「ちょっと何言ってるのか分かんなかったけど、いい度胸ね。その吐いた唾、飲むんじゃないわよ……?」

 

 

霊夢さん形相を見るのが恐ろしくて直視出来ない……どうやら私は霊夢さんの逆鱗に触れる発言をしたようだ。

今の彼女を例えるのなら、「鬼」……だろうか?怒らせてはいけない者を怒らせてしまった自分を呪わずにはいられない。

 

しかしおかしな話だ。私がこんなにも感情的になるなんて。

霊夢さんの言葉が、そんなにも気に入らなかったのだろうか?……それとも、舞島君を侮辱されたのが嫌だったのかな。

でもその結果、私はこれから消されることになる。これまで他人との接触を避けてたきた私の死因がこれとは、何と皮肉なことだろう。

 

 

ごめんなさい、舞島君。

 

時間稼ぎ、もう出来そうにないわ。

 

 

 

 

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