人間と人形の幻想演舞 作:天衣
目の前にいる殺意マシマシな博麗の巫女こと霊夢さん、そしてその原因を作った私こと宇佐見 菫子(変装中)。
迂闊な発言から彼女の怒りを買ったことで今、私は絶対絶命のピンチを迎えている。
私は決して戦えない無力な人間ではないが、今は変装している人物として振舞わなければならない事情がある。そして、霊夢さんにこのことがバレるのも勿論マズイ。
話していて分かったが霊夢さんは舞島君に対してあまりいい印象を持っておらず、むしろ邪魔な存在として認識されてしまっている。そして恐らくだが、人形解放戦線に対する強い恨みも……もし舞島君が今、人形解放戦線にいることを知ってしまったらもう「外来人」ではなく「敵」とみなすに違いない。
「最初から舞島君は私だった」という嘘も、異変を起こしたという前科のある私が行うにはあまりにもリスクが高い行動だ。
霊夢さんはさっきから喧嘩しようとする人がよくやるパキポキ音を首や拳から鳴らし、こちらを見据えている……女であるにも拘らずその覇気は凄まじい。
だがこちらとしても引く訳にはいかない。少なくとも、私が霊夢さんに言ったことは間違ってなんかいないのだから。ここで無様に謝ったりなんかしたら、それこそ一生後悔する。
「だったら、人形バトルではっきりさせましょう。それで僕が負けたら、お望み通りこの調査を降りますよ」
「……へぇ、随分と潔いのね。1回勝った相手だからって甘く見られているのかしら?だったら先に言っておくけど、同じようにいくとは決して思わないことね」
「そうでしょうか?この間とは違うのは僕も同じですし、案外楽に勝ててしまうかも」
「ッ……上等じゃない。後悔しても知らないわよッ!!」
霊夢さんが封印の糸を手に取り、人形を繰り出そうとしている。
もう後には引けない。この勝負、絶対に勝って
「 待て待て待てーーーーーーーーー!!! 」
覚悟を決めたその時、上空からこれまた聞き覚えのある声が響き渡ったと思うと、箒に乗った少女が急降下しながら私達を止める様に間へと割って入る。
この金髪、この黒のエプロンドレスは……間違いない。「霧雨 魔理沙」こと魔理沙っちだ。どうしてこんなところに?
「おいおいおい!こんなところでいきなり人形バトルやろうとするなよ!場所をわきまえろッ!」
「………ちっ」
「ご、ごめん……ちょっと頭に血が上ってたみたい。確かにそうだね」
魔理沙っちに言われて初めて気が付いたが、いつの間にか私達の周りには人が集まって来ていた……今ここで人形バトルなどすれば周りに危険が伴う。
それに冷静に考えてみれば、いくら人形が強いとはいえ初心者があの霊夢さんに勝てる見込みがあるとは到底思えなかった。
どうやら先の戦いで少々図に乗っていたようだ……反省しよう。
「お前らなぁ、仮にも同じ目的を持ってる仲間なんだからよ。もう少し仲良くやろうぜ?」
2人の様子を確認した魔理沙は事の経緯をある程度察したのか、すぐさま話を切り出す。
魔理沙っちの方こそ、よく霊夢さんと異変解決競争をしているイメージなのだが……と言うのは止めておこう。今の彼女は“こちら側”だ。
こうやってわざわざ止めに入ったのも、やらかした私のフォローということなのだろう。
「霊夢、いい加減こいつのこと認めてやったらどうだ。何がそんなに気に入らないんだよ?」
「ふん、別にいいでしょ。……こっちだって生活が掛かってんだから邪魔されたくないだけよ」
「本当にそれだけか?お前の舞島に対する敵対心はハッキリ言って異常だぞ」
「そういうあんたこそ、やけにそいつの肩を持つのね。らしくないのはお互い様だと思うけど」
「まぁこいつの師匠みたいなもんだからな。ここまで育てたのは私と言っても過言じゃないんだぜ?なぁ?」
「え?うんまぁ……ハハ」
背中を軽く叩きながらアイコンタクトしてこちらに話を振る魔理沙っちにとりあえず合わせたが、見事な口八丁手八丁ぶりだ。
師匠かどうかはともかく、舞島君は彼女に何度も助けらていると聞いている。彼女のおかげでこの世界と人形異変のルールを知れたし、人形を扱う上で必要不可欠な「スカウター」や「タブレット」までくれた。
そして今もこうやってこちら側に協力をしてくれている……こうやってまとめてみると、どちらかと言えば「恩人」に近い存在と言える。
「この間、河童のアジトで騒動があっただろ?あれだって、私とこいつが解決したんだぜ?」
「……あぁ、人形解放戦線が攻めて来たってやつか。そういえば新聞にもなってたわね」
「そうそう、まぁ取り逃がしはしちまったがあのリーダー相手に善戦してたんだぜ~こいつ?まぁ師匠の教え方が良かったんだろうな!」
なるべく戦わずして私の実力を認めさせようとしているのが話の内容からも伝わってくる。
霊夢さんも顔にこそ疑いの念は感じられるが矛盾している点が見当たらないからか反論はしない。何故なら新聞には「舞島 鏡介」の名前が実際に挙がっていたという証拠があるからに他ならない。
嘘の中にも真実をきっちり混ぜることで、相手を信じさせるこのテクニック……流石は魔理沙っちと言ったところか。
「……少しはやるようだけど、それでも私はあんたを絶対認めない」
「お、お前いい加減に……!」
「魔理沙は黙ってて」
しかし、霊夢さんの考えは一向に変わる兆しを見せない。
彼女もまた曲がることのない信念を持った「博麗の巫女」……他人の口だけで簡単に意見を変えるような安い心は持っていないらしい。
「……“3日後”よ。3日後の酉の刻、私の神社に来なさい。そこなら思う存分やれるでしょ?」
「私を納得させたいんだったら、その実力を直接見せることね」
そう言うと霊夢さんは飛翔で上空へと舞い上がり、あっという間に遠くへ行ってしまった。
隣で面倒なことになってしまったと帽子越しにポリポリ頭を掻く魔理沙っち……追いかけないところを見るに、ああなった霊夢さんはもう止められないと内心悟ったのだろう。
「ったく、今のあいつには極力関わらない方がいいって言っといただろ?何やってんだよ」
「う……ご、ごめん。私だってそのつもりではあったんだけど」
「お前のこと上からずっと見てたんだが、口喧嘩してたよな?そんなに感情的な奴じゃないと思ってたんだがなぁ」
「……いやその、自分でもよく分かんないっていうか」
「はぁ?なんだよそれ」
正直に「頑張っている舞島君を馬鹿にされたのが気に食わなかった」なんて誰にも言える訳ない……妙な誤解を生みそうだ。
何だか、変装している時の私は自分でも予想が付かない行動をしがちだ……一体どうしてだろうか?
あぁ、いけないいけない。もっと理性的にならなければ。
気持ちを切り替えようと私はおもむろにポケットからある物を取り出し、それを話題の種として提供した。
「魔理沙っちさ、これのことなんか知ってる?」
「?それは……封印の糸か?ん、こりゃ人形が中にいない状態だな。誰の落とし物だ?」
「霊夢さんよ。記憶の内容を直接見たから間違いないわ」
私がこの封印の糸に“
その内容から読み取るに、事の詳細は持ち主よりも当時近くにいた人物に聞いた方が良いと思われる。霊夢さんと魔理沙っちは互いに長い付き合いだ……希望的観測ではあるが、聞いてみる価値はある。
「へぇ、お前そんなことも出来たんだな。ふむ、霊夢のか……」
「……ッ!だとしたらそいつは……いや、だが……」
「魔理沙っち、どう?」
「……うん、まぁ、そうだな」
歯切れは悪いが、どうやら魔理沙っちはこの封印の糸について覚えがある……が、複雑そうな表情から言いにくいことだということも同時に伝わる。
やはり私が見た記憶の通り、当時何かしらの事件があったのは間違いない。
とりあえず私は、魔理沙に見た記憶の詳細を事細かに説明することにした。
博麗神社での出来事、人形解放戦線への憎しみ、人形を突き放す声……その全てを、覚えている限り話した。
「……そうか。やっぱその封印の糸、“あいつ”のものか。まだ持っていたなんてな」
「“あいつ”って?」
「“
「あいつら「鬼」は、大概の奴は酒と力比べが好きで、嘘を心底嫌う。人形もそれは同じだったみたいでな……本人同様、あいつはすぐに霊夢のことを気に入ってたよ。霊夢も、あいつのことは可愛がっていた」
「なのに、霊夢さんはそのすいか人形を突き放したっていうの?そんなのあんまりじゃない……一体どうして?」
「……私は霊夢本人じゃねぇ。知りたいなら、あいつに直接聞くしかないさ」
「そう、ね」
舞島君から頼まれていた変装とアリバイ作りが、霊夢さんとの人形バトルの結果によっては終わりを告げてしまうこととなってしまった。
この勝負の敗北は、同時に舞島君の異変調査の終わりを意味する……しかもそれを言い出したのは他でもない
彼がこれ以上異変に関わらないということは私としても当時は望んだことではある。この世界とは無関係の人間が、これ以上危険な目に遭う必要なんてない……そう思っていたからだ。
だが彼は、この異変によって生まれた人形、そして私が大好きなこの「幻想郷」という世界の為に奮闘してくれている。そんな彼を、私は応援したい。
それにこの勝負、考え方を変えればチャンスでもある。
何故なら、この勝負に勝って話を聞くことさえ出来れば、人形解放戦線についてまた新しい事実が判明する可能性があるからだ。
舞島君としては1人でその情報を集めるつもりだったろうが、私だってその役には立ちたい。
しかし、問題はその霊夢さんにほぼ素人の私がどうやって人形バトルに勝つかだ。
魔理沙っち曰く、霊夢さんは天才肌であり才能の塊……唯一欠点があるとすればその才能ゆえ努力を怠っていたことなのだが、この人形異変での彼女は違う。
今までの常識が通用しないこの異変で、今も人形バトルの腕を磨き続けるくらい彼女は大きく変わった。お陰で付け入る隙は全くと言っていい程なくなっている。そんな彼女に、勝つ見込みは果たしてあるだろうか?
幸い猶予は3日あるが、それまでに互角かそれ以上の実力を身に付けなければならないと思うと現状とてもじゃないが現実的ではない。腕のある人形遣いで霊夢さんと一度戦った経験のある舞島君は今頃、人形解放戦線の本拠地にいるだろうし、他に頼れる人なんて……
「……あ」
「ん?どうした董子、そんな期待の眼差しを向けて……お、おい?まさか、冗談だろ……?」
いた。いたわ。
目の前に、それも舞島君よりも人形バトル経験があるであろう人物が……!