人間と人形の幻想演舞 作:天衣
「あらあら可愛らしいお客さん。おつかいかな?1人で偉いね~♪」
休憩所の受付待娘から開口一番、子供のような扱いを受けてしまう。
扱いに困惑した僕だが、今の姿のことを考えればその態度にはある程度理解は出来る。出来るが……思春期待っ最中の僕にその言葉は少々むずがゆしさを感じてしまうので止めて欲しい。
「ううん、ちがうよ。ぼくニンゲンじゃないもん」
「え?……あら本当だわ。妖精がここを利用するなんて珍しい……ごめんね~?」
「………と、とりあえずこれのかんてーをおねがいします!」
僕は予め用意しておいた別の鞄から集まっていた大量の換金アイテムを急いで待娘に渡し、その辺の大人サイズの椅子に無理矢理腰掛ける。
先程の大声で注目を集めてしまったからか、周りからの視線が痛い……先程の待娘の言う通り、妖精がこの施設を利用することはあまりないのは本当らしい。あまりの気まずさに顔が自然と下を向いてしまう。
「(あの子可愛い……妖精かな?)」
「(何か恥ずかしがってる……)」
「(顔真っ赤だ……色白だから余計目立ってるよ)」
心なしか、僕を見ている者達が笑っている気がする。この一連の出来事で自身のトラウマが堀り起こされ、身体も震えてきた。妖精如きが人間様の施設に入ったのがいけなかったのだろうか?
マヨヒガの情報収集もここでするつもりでいたのに、こんな状況では人に話し掛けづらい。早く鑑定、終わってくれないだろうか。
しばらくして先程話した待娘の方をチラリと覗いてみるが、鑑定は終わっていない。まだこの地獄がしばらく続くのが確定した。
視線は時間と共に大人しくはなったものの、状況が変わっているかというとそんなこともなく……アリスが服を見繕う前に言っていたことをふと思い出した。人間でないだけで、こんなに扱いが違うなんて。
しかし、これでは埒が明かないのも事実。……勇気を持つんだ自分。ちょっとでも情報を集めるんだ。
「……あ、あの」
「へ?お、俺ッ!?ななな、何かな!?」
「ぼく、マヨヒガってばしょさがしてるんだ。どこにあるかしってる?」
「マ、マヨヒガ?う~ん、噂には聞いたことあるけど俺は知らないなぁ」
「そ、そっか。ありがと」
「いいいいいやこちらこそ!うんッ!!それじゃ!!!」
「……?」
何だか話し掛けた一般男性の様子が明らかにおかしかった。突然休憩所を去ってしまったし……きっと妖精の僕なんかに声を掛けられて不快な気持ちになったのだろう。
軽いショックは受けたものの、こんなことでめげている場合ではない。少しでも早くマヨヒガについての詳細を……次だ次。
「ねぇねぇ」
「おや可愛いお嬢ちゃん。わしに何か用かな?」
「マヨヒガってばしょしらない?」
「?……あぁ、お菓子が欲しいのかのぉ」
「いや、マヨヒガについて……」
「そこに甘味処があるから、これで好きなものをお買い。イタズラは程々にな」
そう言って翁は僕の小さな手にそっとお小遣いを渡し頭をポンポンすると、休憩所を去っていく。
長く生きていそうだったので色々知っていそうだと踏んだのだが、耳が遠かったらしく要件を勘違いされてしまったようだ。
子供の頃、おばあちゃんに似たようなことをされたなぁという懐かしさと、またしてもこの容姿が原因で情報を得られなかったというやるせなさが混合し、心の中がぐちゃぐちゃになった僕は手元にある只々お金を眺めることしか出来なくなっていた。
その後も入れ替わりで訪れてくる客達にマヨヒガについて尋ねてはみたものの、収穫はゼロ。未だ進展はない。
この容姿か?この容姿がいけないのか?
あまりの上手くいかなさに思わず自身のウィッグに手を伸ばすが、それを外すことまではせずに何とか踏み止まった。
こんなことならもっと事前にマヨヒガのことについて調べてから向かえばよかった……嗚呼、こんな時“あの人”がいてくれたらきっと目的地について教えてくれるのに。
そんな希望的観測にすがることしか出来なくなっていた僕は呆然としていたせいで目の前の人に気が付かず、その人の足に頭が衝突してしまう。
「ったた……」
「ん?あぁすまんな嬢ちゃん。大丈夫か?」
「は、はい。だいじょうぶです」
「それなら良かった。いやー俺も不注意だったぜ、これはお詫びだ」
翁と同じく、ぶつかってしまった中年くらいの男性は小さな僕の手に物を握らせると受付の待娘の方へ行ってしまう。
何を貰ったのかを確認すると、またお金だった。物乞いをしている訳でもないのにどんどんお金だけ溜まっていく……こんなものよりも今は情報が欲しいのだが。
それにしても今の声、何だか聞き覚えがあるような?
「おう、ちょいとこいつら預かってくれ」
「あら浩一さん、こんにちわ。今日はここで張るんですか?」
「ハハッまぁね。この山は如何せんターゲットが多くてよ」
「浩一さ~ん何か買っていってよ~!どうせ張り込むんだったら一杯回復アイテムいるでしょ~?」
「分かった分かった!お得意さんの俺が今そっちに行くって」
「浩一よぉ、人形の情報何か進捗ないか?」
「あーすまんな、生憎新しいネタはないんだ」
「浩ちゃん今度こっちの仕事手伝ってくれよ~。人手が足んなくてさぁ」
「おういいぜ。この張り込みが終わったらな」
「浩一」と呼ばれた男性が休憩所に来るや否や、先程まで静かだった空間が一気に騒がしくなる。
話の内容から察するに彼はどうやら常連の人気者らしく、話し掛けてきた人達に囲まれて忙しそうだ。
だが僕の運もまだまだ捨てたものじゃない。まさか会いたかった人物がこんなに都合よく、しかも目の前に現れようとは。
浩一さんはこちらも何度もお世話になった人物で、この幻想郷のことについても詳しく頼りになる。きっとマヨヒガについても何か知っているに違いない。
今すぐにでも話し掛けたいところだが、先客達がまだまだ彼を放してくれそうにない。あの中を掻い潜るには今の僕はあまりにも小さく非力過ぎるので、ここは空くのを待つことにしよう。
……人望あるんだなぁ、浩一さん。
時間が経ち、頼んでいた換金アイテムの鑑定も終わって一通り買い物を終えた頃には浩一さんの周りも落ち着いたようで、ようやく前に進める状態となった。
但し、この姿の僕は浩一さんとは当然ながら初対面である。間違ってもいつもの調子で話し掛けないように気を付けよう。
「あのぅ、おにいさん」
「ん?嬢ちゃんか。何だ?俺に何か用か?」
「うん。ぼく、マヨヒガってところにいきたいんだ。でもここのヒトたち何にもしらなくてこまってたの」
「マヨヒガにねぇ……好き好ん行こうってやつは初めて見たな。何でまたそんなとこに?」
「そこにトモダチがまよいこんじゃったみたいなの。おにいさん、みたトコロいろんなことしってそうだし………おねがい」
僕はここで菫子先輩から授かった「目を潤わせながら上目遣いで相手の手を小さくキュッと握る」を実行し、作戦の成功率を上乗せした。
その容姿だからこそ覚えるべきであると朝までみっちり叩き込まれた禁断の業の1つだ。先輩曰く、か弱さをあざとくアピールすることがコツで、大抵の男はこれでコロッといってしまう……らしい。
今の僕に、もはやプライドというものは存在しない。あるのは目的の達成するという硬い意志だけ。その為なら何だってする。
まさか禁断の業の餌食となる最初の相手が浩一さんになるとは思ってもみなかったが、初めてにしては上手くやれたという実感はある。さて、どうだ?
「悪いなぁ嬢ちゃん、マヨヒガには俺も行ったことはねぇんだよ。そればっかりは……って、何か凄い顔で固まっちまってるが大丈夫か?」
「……あ、いや、なんでも……ないです」
「な、何もそんな落ち込まなくてもいいだろ!?」
せっかく恥を捨ててまで禁断の業を使用したというのに大して効いていなかったこと、そして奇跡的に訪れた最後の希望がいとも簡単に断たれたことによる絶望で僕はその場から崩れ落ちてしまう。
終わった……彼ですら知らないような場所に一体どうやって辿り着けばいいというのか?このままでは人形解放戦線からの信用を得るどころではない……目的を達成出来ない。
だが、同時に別の転機も訪れる。
放心している僕を見て動揺する浩一さんをよそに、一連を見ていた周りの客がざわつき始めると非難の声が1つ、また1つと飛び交い始めたのだ。
「こんないたいけな少女の心を傷つけるなんて、浩一さん最低ッ!」
「見損なったぞ浩一ッ!!」
「ぐ……お、俺だってそんな暇じゃなくてだな」
どうやら自分が子供の姿であるが故に、周りからの同情が集まりやすくなっているようだ……そしてこの時、僕は悪魔的な作戦を思い付いてしまう。
今の自分の容姿を最大限に、そして状況によっては相手を半強制的に操ることが出来るこの業……ここで使わずいつ使う!
「ひっく……はやく……はやくたすけないとボクのともだちが……おにいさんがてつだってくれないと、もう………う、うわああああぁぁぁん!!!」
「え!?ちょおま……!」
「「「 泣~かした泣~かした~ 」」」
「(て、てめぇら後で覚えてろ……!)」
「あらあら浩一さん、小さな子を泣かせるような人にはこれはお返しできませんねぇ」
「お、おいおい受付嬢まで……それだけはマジで勘弁してくれって!……あぁもう分かった!分かったからもう泣くな嬢ちゃん。手ぇ貸してやるからッ!!」
人形を預かっていた受付待娘の協力もあって、作戦は無事に成功。アドリブで行った「嘘泣き」の効果は絶大だったようだ。
董子先輩から授かったこの業、最初は役に立つのか不安ではあったが……この姿も案外マイナス面ばかりではないらしい。
そう思った僕は、少しだけ先の未来に希望が持てたのだった。