人間と人形の幻想演舞 作:天衣
妖怪の山の中腹にあった休憩所で浩一さんと再会した僕は、素性を隠しつつも無事マヨヒガ探しの協力を得ることに成功した。
半ば強引な手で連れられ困った様子の彼だが、僕は知っている。彼が探し物を探すのにピッタリな人形を所持していることを……
「嬢ちゃんよ。マヨヒガについてだが……さっきも言った通り、俺も実際には行ったことがねぇ。だからそれを一から探すことになる」
「そこでこいつさ。 出番だ!ナズーリンッ!」
浩一さんがそう言って自身の封印の糸を掲げると、中から全体的にグレーのカラーリングをしたネズミの妖怪少女のナズーリン人形が召喚される。彼女にも本当に世話になりっぱなしだ……なので「ありがとうございます」と心の中で合掌しておこう。
先程休憩所で回復して貰い、元気になったナズーリン人形であるがその表情はいつも通り冷静沈着、実にクールである。何と頼りがいのある人形であろう。
「ナズーリン、仕事だ。今回は少々厄介だぞ。何せ手掛かりもクソもないからな」
浩一から告げられる仕事内容にナズーリン人形は難色を示すも、しょうがないといった様子でそれを承諾する。こういった無理難題にも慣れているのだろう。
「今回探すのは“場所”だ。この山のどこかにある「マヨヒガ」を、お前の能力で探し出してくれ」
頷いたナズーリン人形は早速、首にかけているペンデュラムを外してそれを片手にぶら下げる。今回はいつもやっているダウジングロッドではない別の方法で探すようだ。
ナズーリン人形は少し考え事をした後、ペンデュラムに向かって喋り始める。一体何をしているのだろう?
「あれはな、自分の言った質問の答えを振り子の動きで判断する手法なんだ。恐らく、マヨヒガ関連の質問をしているんだろうな」
「ふぅん……」
不思議そうに見ている僕を気遣ってか、浩一さんはペンデュラムのダウジングについて簡単な説明をしてくれる。
色んなダウジングの手段があるのだなと関心を示しているのも束の間、ぶら下がっているペンデュラムが早速揺れ始めた。ナズーリン人形の集中力が高まるのを遠巻きに感じる。
彼女の邪魔になってはいけないと、僕は思わず前のめりになっていた姿勢を正して息までも止めてしまう。
ペンデュラムは小刻みに揺れ、やがて少しづつ斜め方向へと傾いていく……ペンデュラムにこれ以上の動きのないことから、どうやらこれがダウジングの結果らしい。
「ありゃあ外れ。もしくはハッキリとした答えじゃない時の動きだな」
この結果を見て再び考え込んだナズーリン人形は何かを掴んだような顔つきを見せ、ペンデュラムにさっきとは違うで質問をし始めた。
彼女の集中力が高まり、ペンデュラムは再び揺れ始める……すると今度は右回りに円を描き続けるという違う動きを見せる。そしてペンデュラムの宝石部分が青い光を帯び、点滅し始めた。
「お、どうやら当たりだ。しかも近いぜ!」
浩一さん曰く、これは良い方の結果だそうだ。だが「近い」とはどういうことだろう?
そう疑問思っているとナズーリン人形がこちらを向いていることに気が付く。普段からジト目であるナズーリン人形だが、今はより一層目つきが鋭い……ま、まさか?
「……どうやら、ペンデュラムは嬢ちゃんに反応しているみたいだぜ?」
「ほぇ?」
ペンデュラムが僕に反応している……?一体なぜ?
ナズーリン人形がペンデュラムに質問した内容はこちらには分からない。
だが、少なくともマヨヒガ関連であることは間違いない筈……ということは、僕自身がマヨヒガに関連するものを既に持っているとでも?
示している物がどれのことなのか分からない僕を見越してか、やれやれといった様子でナズーリン人形は余ったもう片方の手にダウジングロッドを持って先の方でこちらの鞄をつつく。
どうやら答えは僕の手持ちの中にあるということらしい。早速僕は新調した小型サイズの鞄を一旦地面に降ろし、中身を確認することにした。
鞄の中には先程買った回復アイテムが沢山入っている……というかそれしかほぼ入っていない。
旅の途中で手に入れた「木こり人形」や「ゴムボート」などのアイテムは変装中の菫子先輩が所持している。舞島 鏡介でない僕が持っているのはおかしいからだ。
あと残っているものといえば橙から貰った「スキマップ」くらいだが……
「おい、そのよく分からん不気味なマジックアイテムに反応してしてるみたいだぞ」
「え?」
確かに、スキマップを鞄から取り出したらペンデュラムの点滅がさっきよりも激しくなっている……つまり、これがマヨヒガに関連するものなのか?
「……まぁ気になることは色々あるが、とりあえず嬢ちゃんが持ってるそのアイテムを一旦こいつに預けてくれ。後はこいつが何とかしてくれるさ」
「う、うん」
スキマップとマヨヒガの関連性はよく分からないが、ここは浩一さんの言う通りナズーリン人形に預けた方がよさそうだ。
僕が地面にスキマップを置くと、それに近付いたナズーリン人形は尻尾を自身のスカートの中に潜らせる。数秒たった後、尻尾が戻って来たかと思うと器用に何かを引っ掛けているようだ。あれは、籠……だろうか?
その小さな籠を取り出したナズーリン人形は何かを呼び出すように一声掛けると、中から可愛らしい小さなネズミ達がひょっこり顔を出した。そしてナズーリン人形は籠をスキマップへと近付けるよう尻尾を動かし、子ネズミ達はそれをクンクンと嗅ぎ始める。
「ああやって使役しているネズミ達に匂いを覚えさせて、目的のものを探させるんだ。中々便利だろ?こいつ」
「あ、そうだ。鞄の中はきっちり閉めておけよ?ほっといたら中の菓子類を全部このネズミ達に食われちまう。経験者からの忠告だ」
「えッ!?わ、分かった!!」
浩一さんの忠告を聞いて慌てて鞄のチャックを閉じたのと同時に、ナズーリン人形が匂いを嗅がせた子ネズミ達を野に放っていく。正に紙一重であった。
危うく買ったばかりの回復アイテムを食い荒らされるところだったと安堵する僕を、浩一さんは面白いものを見るかの様に手を叩いて愉快に笑っている……心臓に悪いことはやめて欲しい。
数分経った頃、放った子ネズミ達が元の場所へと帰って来て捜索の結果を飼い主であるナズーリン人形に報告している。
その報告を聞いてからこちらへと向いたナズーリン人形は小さく、そして確信に満ちた顔で頷く。どうやらマヨヒガの手掛かりが見つかったようだ。
「よし、早速行ってみようぜ」
「うん!」
子ネズミ達の情報を元に歩き始めるナズーリン人形へ続くように、僕と浩一さんも後を追う。
人形の歩幅に合わせて歩いている為ゆっくりではあるものの、確実に目的地へ近づけている。浩一さんとナズーリン人形には感謝しかない。
やがて前と左に分かれた道が現れるが、既に答えを知っているナズーリン人形は立ち止まることなく左の道へと歩を進めた。
因みに僕が不時着した場所はこの道を前へ進んだところの近辺であり、結果的には物凄く近い場所に目的地があったということになる。「灯台下暗し」という奴か。
「うん?ちょっと待て……確かこの先は」
浩一さんが何やら不穏な言葉を発すると同時に、ナズーリン人形がピタッと立ち止まった。
目的地に着いたのかと前方の確認してみたが、その先には沢山の木々が生い茂っていて道が存在しない。所謂、行き止まりだ。だがナズーリン人形は真っすぐ指を指し、目的地がここであることを強く主張している。どういうことだろうか?
「……まさか」
そう言って目の前になる木々に近付いて行った浩一さんは、ゆっくりとそれに触れる。すると触れた場所がすり抜け、目の前のものが実体ではないことが判明する。
「やっぱりか、通りで誰も知らない訳だよ。まさか幻術で隠されていたとはね……ん?!」
先程まではいつも通りの様子だった浩一さんだが、上方向へと目をやった瞬間、突然見たことのないような顔つきに豹変する。
後を追うようにこちらも同じ方向を確認してみるが、そこには特に変わったものは見つからない。それとも、既にいなくなってしまったのだろうか。
「……そうか、どこにもいないと思ったらこんなところに」
「ど、どうしたの?」
「すまない嬢ちゃん。俺はちょっと急用が出来ちまった。マヨヒガはこの先で間違いないだろうから、後は自力でその友達とやらを探すといい。じゃあなっ!!」
「え……?ちょっと!?」
そう言い残して浩一さんは幻術の掛かっている道先へと消えていってしまった。
彼のあんな切羽詰まった顔を見たのは初めてであった為か、自分でもビックリするくらいに動揺している……だが彼のことだ。余程レアな人形がそこにいたとかそういう理由だろう。
そう思うことにした僕は、偽りの行き止まりの先を進むことにしたのであった。