人間と人形の幻想演舞 作:天衣
浩一さんのナズーリン人形によって発見されたマヨヒガへと続く道。
今までそれは幻術により巧妙に隠されていたのだが、偶然持ち合わせていたスキマップが場所を特定する為の大きな手掛かりとなったようだ。本当に、偶然にも程がある……こんな幸運の連続に最早恐すら感じてしまっている自分がいる。
だが、これでようやく救援要請を送っている仲間達の元へ向かうことが出来るのだ。今はこの幸運を最大限に生かす事だけを考えよう。そう決心し、僕はマヨヒガへと進む。
「ここが、マヨヒガ……」
それがマヨヒガへと初めて足を踏み入れ、少々落胆気味に僕が呟いた最初の一言であった。
きっと内心期待していたのだと思う。マヨヒガという場所が異世界特有の魔訶不思議な空間であることを……だが実際は只の小さな山村というのが現実だったらしい。
建物の損傷具合、そして周りに人が全くいないことから、ここは随分前から廃村になってしまっていることも分かってしまう。どうやら思っていたよりもマヨヒガという場所は暗く寂しく場所であったようだ。
こういった場所には決まって何かろくでもないが住み着くものである。例えば盗賊、狂暴な妖怪又は妖獣、或いは霊の類等々……物騒な者達が大半だ。探索する際には注意が必要にある。
そもそもこの場所から救援要請をかけられたのだから、マヨヒガという場所に何かしらの危険な者がいるのはもう分かりきっている。用心し過ぎるくらいが丁度いい。
こういう場面でこそナズーリン人形のダウジングの力を借りたかったのだが、生憎持ち主の浩一さんは一足先にこのマヨヒガの奥の方へと行ってしまっている。となれば、自分の力で何とかするしかない。
「 みんな、出てきて!! 」
僕がそう叫ぶと手持ちにある全ての封印の糸が輝き、そこから光弾が飛んでいって地面に1つずつ着弾していく。
その光の中からむげつ、メディスン、はたて人形を始め、くるみ、エリー、えいか、うるみ、くたか、やちえ、さき、とうてつ人形もそれぞれ実体化し、こちらの指示を心待ちにしている。
自分で言ったこととはいえ、ここまでカッコつけて出すつもりは正直なかったのだが……まぁいい。やる気があるのはいいことだ。
「今からこのマヨヒガをくまなく探索するよ!地上の方は「むげつ、メディスン、エリー、えいか、うるみ、やちえ、さき、とうてつ」、上空からは、「はたて、くたか、くるみ」、翼のある君たちに任せるね。……あ、でもくるみは太陽の光が苦手だったか。じゃあ陸上のペアに入れた方がいいよね」
「ここはまだ未開の土地だ、探索中に何が起こるか分からない。特に地上組の単独行動は危険が伴うだろうから、ある程度ペアを組んでいこうと思うよ」
こちらの指示内容に対し、人形達は嫌な顔一つ見せず従順な態度で耳を傾けてくれている。出番を心待ちにしていた者達の期待の眼差しが何とも眩しい……中にはこれが初陣の者も何人かいる。
作戦の都合上人形バトルをする機会が乏しい分、こういったところでキチンと活躍の場を設けてやらねば。
「そうだな……全部で9人だから、3人組を3つ作ろう。組ごとにリーダーも決めた方がいいよね……じゃあ、まずはメディスン!」
実はメディスン人形はしんみょうまる人形に次いで周りに対しての面倒見がいい。旅の中で傷の手当をしていく内に自然とそうなっていったのだろうが、今の彼女はもう立派に自立している。
指名されたメディスン人形は恥ずかしそうにしながらも1歩前へと出て小さく頷き、リーダ役を快く承諾してくれた。それを見ていたエリー、くるみ人形はまるで成長した我が子を見るような優しい表情で見守っている。
そういえば、最初にメディスン人形のお世話を任命したのがこの2人であったことをふと思い出す。
「じゃあ、メディスンペアの残り2人はエリーとくるみにお願いするね?」
「「 !! 」」
その言葉を聞いたエリー、くるみ人形の反応からは驚きと歓喜の感情が伺える。
ペアになれて嬉しいのか、早速3人は手と手を取り合って話をしているようだ。内容は相変わらず人間の僕には分からないが、きっと今まで出来事や思い出を共有しているのだと思う。
「さて、まずはこのマヨヒガがどういう構想になってるかを知っておきたいな……はたて!上空から全体図の写真を撮って来て貰っていいかい?」
『りょ!』
「そして次のペアは、「むげつ、えいか、うるみ」の3人。リーダーは、う~ん……「むげつ」にお願いしようかな?それじゃ、皆ペアごとに一旦整列して!」
普段あまりやらないような指示だというのに人形達は特に戸惑うことなくこちらの言われた通りにペアごとに分かれ始め、リーダーのメディスン、むげつ人形を先頭に縦へと整列してくれる。
凄い、何という順応力だ……教えてもいないのに。まだ指名されていないやちえ、さき、とうてつ人形もとりあえずその場の空気を読み3人で列を作っている。
するとちょうどはたて人形がこちらへと戻ってくる。携帯を軽くイジった後、すぐにこちらへ見せると頼んでいたマヨヒガを上空から撮った写真が映し出されていた。
成程……広くはあるものの案外そこまで複雑な構想はしていないらしい。だが救援要請を掛けているという人形解放戦線のメンバーらしき姿はこの写真からは発見出来ない。
やはり、どこか安全な場所へ身を潜めている可能性が高いだろうか?
「じゃあメディスンペアは付近の下層エリア、むげつペアはあの階段を上った先にある中央エリア、残ったやちえ、さき、とうてつは僕と一緒に付いて来て貰うよ」
全体図を凡そ把握した僕はすぐさまペアを組んだ人形達に担当するエリアを割り当てる。
探索する場所を指示された人形達はそれぞれ承諾の意をこちらへ示し、散り散りとなっていった。
さて、こちらも動きますか。
さきペアと共に移動を開始した僕は現在、とある地点に向かっている。
多くの草むらと古屋が並ぶこのマヨヒガの中に1つだけ、離れに存在する家があったのが妙に気になったのだ。これは僕の勘だが、ああいった場所には大抵重要なものが隠されているのが定石。
同時に危険が伴う可能性も高いが、その為のボディーガード。さきペアには血の気の多い戦いを好む人形達を集中させているので、万一戦闘になっても問題はない。そういった役割は本人達も本望であろう。
さっきから堂々と草むらを歩いていても全然野生の人形に遭遇しないのも、さきペアの人形達が四方からガンを飛ばしていて威圧感を感じているからだろうか?
自分からやっておいて何だが、これではまるで不良グループだ……あまりいい気分はしないが、戦闘にならない分は楽が出来ているのでまぁ良しとしよう。
そういう状況だったお陰か、目的地へは何の問題もなく到着してしまった。
見た目は今まで見てきたのと同じ古屋のようだ……だがこちらの方が少しだけ大きな作りの建物に見える。他にも細かな違いとして、ここの古屋にだけまだ引き戸がしっかり付いている。
それはつまり、ここに何かが寝泊りしている可能性があるということだ。僕はそっと戸に耳を澄ませてみることにした。
「・・・ ・・・ ・・・」
僅かではあるが、声が聞こえてくる。それも複数人だ……声質的に女だろうか?
如何せんこの世界の住民は女の割合が多いようなので今更驚きはしないが、それだけではまだ警戒を解くには早い。
アリスは言っていた。妖精になったからには殺されても文句は言えないと……だから一件安全そうでも用心に用心を重ねておく必要性がある。
「3人共、戦闘準備!僕がノックしたらすかさず前へ出て」
こちらの指示を了承し、やっと出番かと肩と腕を鳴らす人形達。それを確認した僕は早速、戸に向かって勢いよく2回ノックする。
そしてすかさず僕は3歩後ろへ下がり、人形達がこちらを守るよう前へと出ることでいつでも戦える体制を整えることに成功した。後は反応を待つのみだ。
「・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」
おかしい……間違いなく中には誰かがいる筈なのに、全く反応がない。居留守でもされているのだろうか……?
その後も全然やってこなくて埒が明かないと感じた僕はもう一度、戸に耳を澄ませてみる。先程よりも集中して。
「 ――――!―――――じゃ!? 」
「 ―――しよ~――ミ~!? 」
「 ――――――の――――――――だわ……―――――ね…… 」
会話の全容は分からないが、さっきのノックに対して驚きと絶望の反応を示してる……ように聞こえなくもない。
とりあえず言えるのは、警戒するような相手ではなさそうだということである。人形達に戦闘態勢を解くよう合図すると、案の定ガッカリした様子だった。この分だと、今回この子達の出番はないだろう。
しかし、そうなってくるとこの中にいるのはもしかして………
「ひゃあ!?」
突然、考え事をしていた僕の肩を誰かが突いて来たのでビックりして女々しい声を上げてしまう。
振り返ると空の偵察にいっていたはたて人形が僕の反応に小悪魔チックな笑みを浮かべていた。この反応を見るに、ワザと気配を消して近づいたらしい……意外とイタズラ好きなのか?
それはともかく、彼女がここに来たということは何かしらの報告があるということだろう。
『マヨヒガの探索、みんな大体終わったみたいだヨ。でもこれといったものは特に見つからなかったみたい(>_<)あ、ついでに調査済みの子達にはここに集まるよう言ったといたから』
「そっか、ありがとう。助かるよ」
携帯の文章から察するに、皆に結果を聞いて回ったり連絡したりと色々働きかけてくれたようだ。気が利いている。
人形達と手分けしたお陰で効率よく探索を進められたし、調査結果から行方の分からない人形解放戦線メンバーの居場所も大きく絞り込むことが出来た。というか、ほぼ確定した。
後はメディスン、むげつ人形のペアが戻って来るのを待つだけだ。
はたて人形の言う通り、しばらくして他の人形達もそろぞろと帰ってきた。
人形達が一生懸命小さな足で歩いている様子はいつ見ても可愛くて癒される……などと思っている内に皆が集合してこちらに注目している。
いけないいけない、久しぶりに人形達の愛らしい姿を見てつい顔が緩んでしまっていた。気を取り直して全員いるかを確認しよう。
「むげつ、メディスン、エリー、くるみ、えいか、うるみ、………あ、あれ?」
一通りの点呼を終えた僕は違和感を覚える。くたか人形が……いない?
確かくたか人形ははたて人形同様、空からの偵察に行かせていた筈だ。はたて人形もくたか人形としっかり連絡は取ったと思われる。
試しに空を見上げて探してみるが、やはりいない。どこに行ってしまったのだろうか?
するとハッと何かを思い出した様子のえいか人形はこちらに喋りかけた。だが、人形の言葉はこちらには分からない。
それを一早く察知したはたて人形はえいか人形の証言を携帯で翻訳してくれる。
『そういえばさっきまで屋根の上で羽を休めていたのを見たって言ってる。これってやっぱ事件カモ(+o+)』
……考えたくはないが、くたか人形は何者かに襲われた可能性がある。一刻も早く探し出さなければ!