人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十章

 

くたか人形の姿がないことに気が付いた僕はすぐさま手分けして捜索を開始した。

人形達も積極的に探してくれたお陰で、マヨヒガ全域を探し回るのはそこまで時間が掛からなかったが……皆の浮かない様子を見る限りだとその答えは聞くまでもない。

草むら生い茂る外全域を始め、全ての古屋の中もくまなく調べた筈だ。なのに、一向に見つからない。

 

僕の知る限りだと、くたか人形は真面目で誠実な人形だ。間違っても仕事を放棄してどこかへ行くような子ではない。

こうなってくると、既にマヨヒガとは違う場所にいる可能性も出てくる。そうなったら探し出すことは非常に困難だ。

 

「……みんな、ありがとう。沢山働いて疲れたろうからゆっくり休んで」

 

僕は震えている手を必死に抑え、人形達を封印の糸へと戻す。

ユキがいなくなったあの時のような苦しみが、頭の中でふつふつと蘇ってくる……こんな苦悶の表情、人形達には見せたくない。

 

 

僕のせいだ。

 

僕が皆のことをちゃんと見ていなかったからこんなことに……授けてくれた袿姫様にも何とお詫びすればいいんだ?

自分の無力さに身体は脱力してしまい、もうどうすればいいのか分からなくなっていた時だった。

 

「あれ、お前こんなところでどうしたんだ?友達は見つかったのかよ?」

 

「……え?」

 

聞き慣れた男の声が聞こえ、振り返るとそこには先に行っていた筈の浩一さんの姿があった。

倦怠感の抜けていなかった僕は膝を落としたまま藁にもすがる思いで雪崩る様に彼にしがみつき、遂には泣きついてしまう。

 

「いやマジでどうした!?しっかりしろッ!!」

 

 

 

 

 

 

浩一さんから必死に宥められ、何とか気持ちが落ち着いた僕は事の事情を全て話した。

今日ほど浩一さんの存在がありがたいと思った日はない。こうやって簡単に気を許してしまうくらいには、彼のことを信頼しきっている自分がいる。

 

「ありがとう、ございました……その」

 

「嬢ちゃん。もう立てるか?」

 

「え?……う、うん。大丈夫」

 

「よし!その行方不明になった嬢ちゃんの人形、俺も一緒に探してやるよ。これも何かの縁だ」

 

浩一さんにとって、“マイ”という人物は今日初めて会ったばかりの女の子であって、あちらからしてみればこんなの迷惑もいいところだ。なのに、彼は嫌な顔1つせず真剣に接してくれる。

彼が皆から信頼され、人望がある理由が、この時何となく分かった気がした。

 

「ここはこいつの出番だな。 あうん!でてこい!」

 

そう言って浩一さんが出したのは今まで見たこともない新しい人形だった。

カール状の緑色の長い髪に同色の動物らしい尻尾、南国を彷彿とさせるような赤と白を基調としたシャツと短パン、鈍色の耳と同色の立派な一本角といった特徴を持つ少女の人形。名前は「あうん」というらしい。手足は人間と同じであるにもかかわらず、姿勢はお座りした状態の四つん這いでどこか犬っぽさがある。

現在スカウターが手元にないのでどういった種族なのかは特定出来ない。経験上こういった動物的な特徴は妖怪であることが多いが、あの独特な形の耳は妖怪のそれとは少し違う気がする。しかもこの見た目、どこか既視感があるような?だがそれが何なのかを思い出すことは出来ない。何ともどかしいことか。

 

「あれ?今回はナズーリンには頼まないの?」

 

「あー……ちょっと事情があってな。今は休勤なんだよ」

 

「?」

 

「ま、そのうち分かるさ。探すことにおいては手段が限られるが、こいつも中々の活躍をしてくれるぜ?嬢ちゃん、その人形の匂いとかが付いたもの何かないか?」

 

「そんな都合のいい……あ、いやあるかも。これとか」

 

僕はカバンについていたくたか人形の羽を浩一さんに渡す。

これは以前、三月精と共に協力して飛翔を試みた際に何枚か抜け落ちたのが服やカバンなどに付着したもの。綺麗にする暇がなかったのでそのままの状態だったが、それが結果的に功を奏したみたいだ。

 

「柔らかめの白い羽……あんま見ない種類だな?まぁいい。あうん、こいつの匂いを覚えてくれ」

 

「あうあうっ!」

 

指示を受けたあうん人形は元気よく鳴き、鼻先に近づけられたくたか人形の羽の匂いを嗅ぎ始める。やること自体はナズーリン人形のやっていたことと同じ手法であるようだ。

あれだけ探して見つからなかったくたか人形の行方だが、きっと浩一さんなら何とかしてくれる……今はそんな気がしてらならない。彼にはそれくらいの安心感がある。

 

「……よし、覚えたな。じゃあ早速匂いの元を探してくれ」

 

「あうっ!」

 

浩一さんがそう言うと、あうん人形は顔を下に向けて地面の匂いを嗅ぎながら這うように先導を始める。

他の人形と同じ人型の姿なのにもかかわらず、犬のような仕草がしっくりくるのは何とも不思議だ……一生懸命主の為に働いている様は無性に応援したくなる。

だが、これがくたか人形を行方を知る為の最後の希望でもある……頼む、どうか見つかってくれ。

 

 

 

 

 

 

しばらく後を付いて行っていると、あうん人形は1つの古屋へと入っていった。匂いはそこに続いているらしい。

だがそこは既に僕と人形達が捜索した場所だった。どこかに見落としがあったのだろうか?

 

「!あう、あうあうっ!」

 

あうん人形がこちらへ何かを伝えようと鳴いている……どうやら部屋の中に敷いてあった1枚の畳の下を示しているようだ。

僕と浩一さんは顔を向き合い、協力してその畳を外し勢いよく持ち上げて中身を確認した。すると……

 

「うわっ!!?」

 

黒い何かが猛スピードで疾走し、古屋の中から逃げ去っていく。突然の出来事でそれが何者なのかを捉えるは叶わなかったが、恐らくあいつがくたか人形を攫った犯人だ。

僕は急いで逃げていった者を追いかけようとしたが、浩一さんから手を掴まれたことでそれは阻止される。

 

「おい落ち着け。探してたの、こいつじゃないか?」

 

「え……――!く、くたかッ!!」

 

浩一さんが指を指した先には、のびているくたか人形が横たわっていた。急いで浩一さんと共に持ち上げていた畳を横にどかせ、僕はくたか人形を抱きかかえて容態を確認する。

耳を澄ませると、僅かだが唸り声が聞こえてくる……気絶しているようだが、命に別状はないようだ。本当に、本当に良かった。

 

服には引きずられたかのような泥汚れといくつかの毛の付着が見受けられ、首筋には1つの噛み跡がある。しかしそれはたいした大きさではなく、大型動物のそれではない。

畳の床下という狭いところを好み、今まで姿を見せなかったことを考えると警戒心も強く、付着している毛はサラサラ。これらの特徴が当てはまる動物は……

 

「浩一さん、これってまさか……」

 

「あぁ。犯人は、今も遠くからこっちを見てるみたいだぜ?おーよしよし、よくみつけたな~」

 

「くぅ~ん♪」

 

尻尾を振って喜ぶあうん人形を横目に後ろを振り返ると、そこには確かに犯人がいた。

四足歩行、丸顔、三角形の耳と鼻、そして同色の毛の尻尾を生やした尻尾、誰もが知ってるそのジャンルの人気者、その名も“猫”だ。その可愛らしさからか、世間ではにゃんこ、ぬこ等々の愛称で呼ばれることもある。かく言う僕も猫は好きだ。

つまり今回の騒動はここに住み着いていた野良猫の仕業であり、只の動物の気まぐれだったという訳だ。とんだ取り越し苦労だったという呆れを通り越して、最早笑えてくる。浩一さんがナズーリン人形に仕事を頼めなかった理由もこれで納得した。“ネズミ”のナズーリン人形からすればここは確かに地獄でしかないだろう。

 

床下にいたであろう猫は安全圏の外からこちらの様子を伺っていたが、しばらくするとまた逃げ出してしまう。まぁ野良猫であれば妥当な反応と言える。

 

「………」

 

無事に保護したくたか人形を封印の糸に戻しながら、僕は先程の猫の容姿に若干の違和感を覚える。先程の猫、野生の割には毛並みはある程度綺麗で体つきも健康的だったのだ。

ここは幻術によって隠された廃村で、住んでる人は誰もいない。村中くまなく調べたが食料なんてものは勿論残されていなかったし、ここの外に出るなんて危険でとても出来ない筈……なのにどうして生きていられるのだろう?

 

しかし、その疑問はすぐに晴らされることとなった。

 

 

「 お~~い子分達~~~!!ご飯もってきたぞ~~~!! 」

 

 

誰かを呼び出す声がマヨヒガ中へ響き渡ると同時に今まで影の中に潜んでいた様々な色柄の猫達が一斉に物のスキマから顔を出し、声の主の元へと駆け抜けていく。

 

そう、マヨヒガは猫の村だったのだ。

 

 

 

 

 

 

「(ありゃあ妖怪だな。確か“(ちぇん)”って名前の……本物は初めて見たぜ)」

 

「(僕も人形でなら見たことある。見た感じ、ここのリーダーってところかな?)」

 

夢中になって餌の魚を貪る猫達……そしてその中心にいる猫の特徴を持った妖怪少女、橙は誇らしげにその様子を見守っている。

初対面のフリこそしているものの、実は彼女とは舞島 鏡介の時に一度会ったことがある。わざわざあちらから出向いてきて「スキマップ」をこちらに提供し、小言を言われたのは記憶に新しい。

だが、これで今回起こった奇跡の連続にもある程度の合点がいった。子ネズミ達の嗅いだスキマップに付着していた匂いというのは恐らく彼女のものだったのだ。

 

「(ふーむこの状況、見つかると面倒そうだからこっそり退散したいんだが……流石にここからじゃ距離があるな)」

 

「(……だったら、僕があの子を気を引く。そのうちににげて)」

 

「(だ、大丈夫なのか?)」

 

「(うん。浩一さんにはたくさん助けてもらったし、こんどは僕が助けるばん!)」

 

こちらには橙と話をする為の交渉材料も、ここから遠ざける手段もある。きっと大丈夫。

今回の件、浩一さんには何から何までお世話になったんだ。これくらいはしてあげないと割に合わないだろう。

 

 

僕は隠れていた古屋から堂々と彼女の前に躍り出た。すると当然、その物音を聞いた橙はこちらの存在に気付く。

ここは本来、人の寄らない秘密の場所……橙は驚きの表情と共に警戒の念を強める。手先の長い爪を構えて臨戦態勢を整える橙に怯むことなく、僕は前へと進んだ。

 

「(……妖精?でも匂いは人間だわ。何なのこいつ)」

 

得体の知れない相手にどこか恐怖を覚えている橙は相手の接近を許すも猫達の視線を感じ、すぐに正気に戻る。リーダーしてのプライドだろう。

橙は猫らしい奇声を上げてこちらに飛び掛かり、鋭利な爪をこちらに振り下ろした。

 

「ニャ―――ッ!?」

 

が、それを僕の人形達(ボディーガード)が許す筈もなかった。

封印の糸から出てきたとうてつ人形は自身のスプーンで橙の爪を弾き、続いてやちえ人形は口から炎を吐くことで相手を半強制的に遠ざけ、とどめに懐に潜り込んださき人形の強力な蹴りが橙の腹部に命中する。

こうなることを想定しきれず、まともにくらった橙は蹴られた腹を抑えながらその場で膝をついてしまい、事態はあっという間に収束。少々やり過ぎた感は否めないが、これは正当防衛。先に手を出してきたのはあちらの方だ。

 

「少しは落ち着きましたか、橙さん?」

 

「あいたた……な、なんで私の名前を?」

 

「僕ですよ、ほら」

 

「!?ま、まさかあんたまいjんぐ~~~~~!!?」

 

スキマップを見せることで理解は得たものの、口を滑らせそうになったので橙の口元を塞ぐ。正体が協力者以外にバレたら計画が台無しになる。

彼女はこちら側の部類だからいいものの、後ろの浩一さんにこのことを聞かれたくはない。

 

「(訳あって今僕は「マイ」という妖精として振舞ってます。合わせて下さい)」

 

「(???よく分かんないけど、分かった。気に入らないけど、あんたは紫様が連れてきた救世主。悪いようには出来ないし)」

 

案外、聞き訳が良いようでこちらとしては非常に助かる。後は浩一さんが逃げられるよう、橙を遠ざけるだけ……ここは“彼女達”を利用させて貰おう。悪く思わないでくれ。

 

「あ-そういえばあっちの方にあやしいやつらがろうじょー?していたんだよねー」

 

「え?そっちって私の家の方角なんだけど……あ!じゃあ子分達が言ってた家荒しってきっとそいつらのことね!とっちめてやるわ!」

 

こちらの話を聞いた橙と子分の猫達は足早にその現場へと急行していく。どうやらあの家が彼女の住処だったらしい。

何はともあれ、これで浩一さんがここを離れる時間が作れた。遠くからアイコンタクトを取り、それを見てこっそりその場を後にしていく浩一さんを確認した僕は急いで橙の後を追うのだった。

 

 

 

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