人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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二十一章

 

「ユキ! フラッシュオーバー!」

 

「甘いぜ!そのまま受け止めろパチュリー!コールドレインだ!」

 

「(ッ!不味い……名前的に水属性のスキル!?)」

 

こちらの攻撃技が来ることを狙いすましたかのように、魔理沙は自身の人形に何やら大技らしいスキルの指示を繰り出してきた。私の予想が当たっていれば、「炎」は本家と同じく「水」に弱い……相性は最悪といっていい。

あのパチュリー人形、どうやら「炎」だけでなく「水」の属性も兼ね備えていたようだ。今まで隠していたのも、あれを使うタイミングを待っていたから?……成程、どおりで露骨にユキ人形と対面させたがる訳だ。

魔理沙の指示を受け、持っている本を開き呪文を唱え始めるパチュリー人形……すぐに攻撃を飛ばす様子はない。幸い、「コールでレイン」というスキルは発動に時間が掛かるものらしい。

徐々に室内の天井から雨雲を発生させてはいるものの、既にユキ人形の放った火球とパチュリー人形の距離感は避けられないところまで来ている。だがその状況をパチュリー人形も、人形遣いの魔理沙でさえも特に気に留める様子もない。

やがて火球はそのまま命中し、火球の爆発音が鳴り響く……舞い散る砂煙から身を守りつつ、私は魔理沙がどうしてあのような指示を出したのか?その意図を読み取るべく思考を巡らせた。

 

「(いくらタイプ相性が良いからって、ユキ人形の火力をまともに受けたらタダでは済まない。流石にスキル発動を中止させることくらいは………ッ!?)」

 

上を見上げると頭上に発生している雨雲は未だ消えておらず、むしろどんどん大きくなっていってることに気が付く。まさか、スキルがまだ中断されていない!?

フィールドが砂煙が舞う中、動揺する私を見た魔理沙はニヤリと笑い、パチュリー人形に攻めの合図を送り出す。

 

 

呪文を詠唱し終えたパチュリー人形が指をこちらに向けると、キラキラと光を放ちながら流れ星の如く降り注ぐ大粒の雨がユキ人形目掛けて襲い掛かる。

弾幕と弾幕の間に一切の間隔のない、斜め上から飛んでくる全方位攻撃……これをかわすのは到底無理だと、私は瞬時に悟った。

 

「 ファイアウォール でガードしてッ!! 」

 

ここで交代は悪手だと判断した私は舞島君のよく使うファイアウォールの応用をユキ人形に指示し、直撃を避ける選択を取る。

ユキ人形は指示通り、両手をかざして炎の壁を生成するとそれを傘代わりとして降り注ぐ雨から守るよう上に向けた。

生成した炎の壁による熱気がこちらにも伝わってくる……普段の大きさでは駄目だと判断したのか、いつも以上に巨大な壁を作り上げたようだ。

 

「――!へぇ、面白い使い方だな!でも、長くは持たねぇぜ?」

 

分かってる。

 

「水」と「炎」の属性相性を考えれば、こんなのは一時凌ぎにしかならない。持ってせいぜい数秒……だけどそれでいい。

恐らくだが、ユキ人形ではあのパチュリー人形に勝てる見込みはない。ユキ人形もそれを察してか、こうやって時間を作ってくれている。やるなら今だろう。

 

 

「 そらそら!!どんどん降らせろッッ!! 」

 

 

こちらが動けないことを好機と見たのか、魔理沙はパチュリー人形に引き続き攻めの指示を出している。

煌めく雨粒の1つ1つが炎の壁に当たることで弾け、激しい衝突音と眩しい光が場を支配していく……これではフィールドがどうなっているのか何も分からない。

……いや、むしろこういった状況になった今がチャンス。私は考えた作戦を実行すべく素早く手を動かし、送り主に届くよう出来るだけ声を上げた。

 

 

そして次の瞬間、炎の壁は無数に降り注ぐ雨によって掻き消え、その下にいるものに容赦なく天罰を下す。

弾けた雨の小粒が数滴、私の素肌に当たった………冷っっったい!!?思わず体が跳ねてしまう程の極寒の冷たさ……こんな雨が直撃してしまったら如何なる生物も瞬時に凍り付くことは想像に難くない。

いくら人形同士の経験(レベル)に差があったとしても、これをユキ人形が受けなくてよかったと心から思う。

 

仮想のものとは違うこの緊張感……面白いわ、人形バトル……!

 

「へへ、どうだ?こいつの宿敵に対する執念が生んだ1回限りの大技だ。今頃カチンコチンだろうよ!」

 

炎と水のぶつかり合い、それによって発生した激しい蒸発の霧が充満し、フィールドを包み込む。

確かにこちらの“炎の壁(たて)”は、相手の“極寒の雨(ほこ)”の猛攻に耐えられず、貫かれてしまった。だが……

 

「……?何だ、この水音は!?どこから……」

 

「お返しよ、魔理沙」

 

「――ッ!パチュリー下だ!よけ」

 

焦る魔理沙の声をかき消すように、間欠泉に匹敵する巨大な水柱が立ち上った。

パチュリー人形はそれに巻き込まれ、高く高く打ち上げられた後、頭から地面に強く叩きつけられる。

 

「 パチュリー!! 」

 

叫ぶ魔理沙をよそに、人形と同じ名前の審判が水晶越しに容態を確認するべくゆっくりと近付く。

 

そして数秒の沈黙が流れた後、低い声で判決が下された。

 

 

『……パチュリー人形、戦闘不能。この勝負、舞島 鏡介の勝ち』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ~~~まさかあの瞬間に交代してたとはなぁ~~~!初めて負けちまったんだぜ!」

 

3日後に霊夢さんから人形バトルの申し出を受けた舞島 鏡介……の代役である私は、魔理沙っちを巻き込んで紅魔館のバトルフィールドで実戦演習をしていた。

現在は休憩ということで、主のレミレア・スカーレットのもてなしによって用意された茶菓子を人形達とご馳走になっている。特に人形の回復アイテムとしても使われているこの「霧の水羊羹」という和菓子、人間が食べても美味しい代物というのは意外だった。

人形達も用意された菓子を頬張ってはとろけた幸せそうな顔つきをしている……確かに、こういった一面を見ると人形達が愛らしくなるのも分かる気がする。先程までは戦っていた筈の人形達も、この時は仲良く休憩時間を一緒に満喫しているようで微笑ましい。

 

人形バトルの戦績としては、かれこれ5回に及ぶ人形バトルを得てようやく1本取れたといったところ。

やはり元となったゲームの知識が多少でもあるというのは大きい。手持ちの人形の理解力と瞬時の判断力が限界まで問われるこの実戦にはまだまだ苦戦させられているものの、大分コツは掴んできた。

 

「いや~正直私もこんなにうまく決まるとは思ってなかったわ。やっぱ私って天才?魔理沙っち~」

 

「……まぁそうかもな(すっげー腹立つが短期間であんな芸当出来るんだから言い返せねぇ)」

 

パチュリー人形の技が炎の壁を削っていたあの時、私はユキ人形からこがさ人形にチェンジして既に反撃の準備を整えていた。

人形バトルの最中、残り耐久の少なかったこがさ人形だったが、散防ステータスの高さ、そして大きく耐性を持つ「水」属性スキルの攻撃であれば何とか耐えられると踏んで「リバーススプラッシュ」を指示。

大量の水の蒸発で霧が立ち上ったことは少々計算外だったが、それも結果的には魔理沙の判断を鈍らせる良い材料になっていた。運が良かったとも言える。

 

「でも魔理沙っちのその人形も大したもんだよ。まだレベルも低いのに、もうそんな大技使えるなんてさ」

 

「ああ、あいつ初めて負けて以来ずっと新しい魔法の練習してたんだ。パワースタイルになったのも、ユキ人形に勝つためなんだぜ?……本当は別のスタイルにしたかったんだがな(主に弱点の一貫性が)」

 

「へぇ~そうなんだ(魔理沙も苦労してるのね)」

 

「だが流石は舞島の人形だ。集弾の攻撃だったっていうのもあるんだろうが、まさか一撃とはね。経験の差が出ちまったってとこかな」

 

「でも、浮かれるんじゃねぇぞ?今の霊夢の実力は私なんかとは比にならない領域に達してる。柄にもなく必死に努力をしてるからな、あいつ」

 

「……うん。あの時の霊夢さん、ちょっと怖かった。それだけ本気ってことよね」

 

魔理沙の人形達と舞島君の人形達のレベル差はスカウターで見たところ、約10以上もの差がついている。対等な勝負とは言い難い。

ハンデがあってようやくこの結果だ。本番の霊夢さんとの戦いでは、ほぼ互角のステータスとなることが予想される……それをきちんと理解しておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、人形達も回復したところだしそろそろ演習再開といこうか!」

 

「そうね。……?あれ、ちょっと待って」

 

数10分程の談笑を交え、封印の糸に人形達を戻そうとしたところで私は異変に気が付く。

しんみょうまる人形とけいき人形がいなくなっていたのだ。先程までは確かに一緒にいた筈なのに……魔理沙と会話していた間にどこかへ行ってしまったのだろうか?

 

不味い、話に夢中になって目を離したのは迂闊だった。

舞島君が何よりも大切にしている子達だというのに……急いで探さないと!

 

 

すぐさま私は超能力の1つ、“透視(クレヤボヤンス)”を駆使して辺りをよく見回す。

働く妖精メイド、そしてそこで忙しそうに指示を送っているメイド長など、様々なものが遠隔からまるでレントゲン写真のように映る中、1つだけ異常な光景が目に入った。

それは人形達の倒れた姿……戦慄するが、確かこの紅魔館には住む者と同じ姿の野生の人形が住み着いていると魔理沙っちが言っていた。

1つ1つの特徴を見てみるとしんみょうまる人形やけいき人形らしきものはこの中にはいない。だが、この異常な事態はいなくなったことと無関係とは思えない。

 

 

「ごめん魔理沙っち!勝負はあの子達を見つけてから!ついでに一緒に探してちょうだい!」

 

「わっ、ちょっと待てってそんな引っ張るな!!言われなくても行くって!!」

 

 

何だか、嫌な予感がする。

 

不安を感じた私は自然と魔理沙の服の裾を掴み、人形達の住み着いてしまったエリアへと走り出すのだった。

 

 

 

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