人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十二章

 

けいき人形としんみょうまる人形の行方を“透視(クレヤボヤンス)”で追い、一刻を争うと判断した私は自身を“空中浮揚(レビテーション)”させながら紅魔館地下1階の大廊下を掛け抜けていた。

瞬間移動(テレポーテーション)”を使えれば一番良かったのだが、生憎私がここに来るのは今日で初めて。なので当然、この迷路のようになっている地下1階の構造なんて分かる筈もない。そこで、一緒に連れてきた魔理沙っちの出番。

彼女は何故かここの構造にやたら詳しい。理由はまぁ見当は付くが、この場のガイド役としては最適の人材と言える。

 

「菫子、ホントにこの先で合ってんのか?」

 

「……まだ分かんない。でも霊夢さんの言葉を借りるなら、私の勘がここって言ってる」

 

「あいつならまだしも、お前の勘って……まぁいいけどさ」

 

私の“透視(クレヤボヤンス)”が捉えた情報では、この迷路の先にある広間で大量の人形が倒れていた。

普通は野生の人形同士が争うなんてことはない筈……そしてこのタイミングでけいき人形と針妙丸人形の姿が同時に消えているのだ。何か関係があるとしか思えない。

 

 

しかし妙な話だ。

まだ赤子同然であるけいき人形がどこかへ行ってしまうのはまだしも、しっかり者のしんみょうまる人形までどうしていなくなってしまったのだろう?

考えられる線としては、しんみょうまる人形はけいき人形がいなくなっていることに気が付き、1人で探しに行ったとか……?でも、それなら何故こちらに助けを求めなかった?

 

……私は舞島 鏡介本人ではない。今までの思い出がある訳でもない。

だから私に出来ることは、手遅れにならないように務めることくらい。この嫌な胸騒ぎが、私の杞憂であることを願う。

 

 

 

 

 

 

「な……こ、こいつは」

 

「………うそ」

 

現場に到着した私達は、そのあまりにも悲惨な有様に動揺を隠しきれなかった。

同時に後悔の念が押し寄せた……あの時この子達から目を離していなけば、と。

 

黒焦げとなっている人形の山の中に、混じっていたのだ……けいき人形と、しんみょうまる人形の倒れた姿が。

もう遅かった……?どうして嫌の予感というのはこうも当たってしまう?

 

「おい、しっかりしろ菫子!こいつらはまだ死んじゃいねぇ、助かるかもしれねぇぞっ!!」

 

「……!」

 

そうだ、魔理沙っちの言う通りしっかりしないといけない。

今は何よりも冷静に、そして確実に人形達の保護を実施する必要がある。この大お怪我…恐らく回復アイテムではどうにもできない。

少なくとも素人の私では人形の治療は不可能。時間帯も深夜を回っていているせいで、休憩所はどこも閉店している。永遠亭も恐らく無理だ。

この状況下で人形の治療が出来そうな人物……人形は魔力で動く生き物という話だ。だったら魔法に詳しい人物、この場にいる魔理沙っちやパチュリー・ノーレッジが適任だろう。

後は……そうだ。確か舞島君の人形の中に、医者の心得があるのがいた。彼はまだこの時間帯は起きているだろうか?……いや、今は緊急事態。少しでも手が多い方がいい。

例え寝ていたとしても、無理矢理叩き起こす必要性がある。それにあの変なアイテムのおかげで、ここにはすぐに来られる筈だ。

 

 

『 舞島君、舞島君……!急いで紅魔館の大図書館に来て!アンタの人形がピンチなの!!急いでッ!! 』

 

 

 

 

***

 

 

 

 

数分後、爆音で大図書館の入り口の扉が勢いよく開く。

 

中から現れた人物は身体を宙に浮かせながら全速力でこちらに向かい、最短で私達の前へと現れた。

 

 

「せ、先輩ッ!一体何があったんです……!!?」

 

 

背中に黒い翼を生やした妖精……のコスプレをしている男の子、舞島 鏡介が私に事情を問いかける。

精神感応(テレパシー)”で聞いた私の声色から、只事ではないことは察したのだろう。表情からもかなり焦りが見受けられる……当然だ。彼の人形に対する愛情の深さはよく知っている。ましてや自分の人形のことだ。

 

「舞島君、急いで治療の手伝いをして欲しいの。メディスン人形を貸して!」

 

「わ、分かりました!出てきて メディスン!はたても、翻訳でサポートに回るんだ!」

 

早速、舞島君は封印の糸からメディスン人形を呼び出す。

そして背中の黒い翼が小さくなって、天狗の人形もこちらに向かってくる……どうやらあの翼は人形のものだったようだ。

 

「おう急いでくれ!重傷なんだ!」

 

魔理沙っちの救援を求める叫び声が館内に響く……人形に対する知識はある程度持っている彼女達だが、治療についてはそこまで精通していない。2人だけでは手が足りないのだろう。

私は舞島君のメディスン人形を抱き抱え、急いで魔理沙っちの元へ向かう。

 

どうやら、重傷なのはしんみょうまる人形らしい。けいき人形は気絶こそしているものの、そこまで大した怪我はなかったらしい。

あそこで一体何があったのかは気になるところだが、今はメディスン人形にしんみょうまる人形の治療を優先させなければ。

 

胸元から降ろされたメディスン人形は早速、しんみょうまる人形の怪我の具合を確認。

そしてすぐに治癒の手を患部に当て、目を閉じて集中し始めた。メディスン人形の手元から淡い緑色の光が灯り、場に緊張が走る………それはまるで成功率の低い大掛かりな手術結果を待つかの如く、居心地の悪い静寂だった。

 

 

 

 

 

 

「 ごめんなさい……!!私がちゃんと見ていれば、こんなことにはッ!! 」

 

 

私は舞島君に事の顛末を一通り話し、頭を下げて謝罪した。彼は気にしない様に言ってくれてはいるが、今回の事件の原因は私の不注意にある。

何よりも、彼が一番大切にしていたものを傷つけるいう最悪な行為に対する責任が、私をそうさせていた。

 

「先輩、もう……もういいですから」

 

「でも……!」

 

「けいき人形を先輩に預けたのは僕です。まだ人形の扱いになれていない先輩に、赤ん坊であるあの子を託した側にも責任はあります。それに……」

 

「……それに?」

 

「実は、つい最近僕も人形を見失ってしまったので気持ちは分かるというか……まぁこっちは無事だったんですけど」

 

「そ、そうなんだ?」

 

「そうなんです。僕って結構おっちょこちょいでして……人形達がいないとホント駄目駄目人間って感じですよ。アハハ」

 

この場を少しでも和ませようとしているのだろう。同じ体験談をすることで共感性を示し、私の罪悪感を薄れさせようとしているのが伝わった。

しっかりしてそうな彼でも、そんなことがあるとは意外だった……お陰で少しは気が楽になったような気がする。優しいな、この子は。

 

「おい、治療終わったぞ。とりあえず一命は取り留めたぜ」

 

 

「「 うわッ!!? 」」

 

 

間に割って入るように、魔理沙っちが治療結果の報告をこちらに伝えてきた。

良かったと安堵する私達だが、何やら魔理沙は帽子を深くかぶって表情を隠し、気まずそうにしている。

 

「何か、あったの?」

 

「……あぁ。パチュリー、こいつらにもあれを」

 

「ふぅ……疲れたからもう休みたいところだけど……これを見なさい」

 

そう言って見せられたのは、しんみょうまる人形の体内の様子を写しとった魔法による映像だった。

開かれた本の魔法陣の上に写されたそれは、ゆっくりと回転しながら視覚的に全体をこちらに伝えている。

 

「結論から言いましょう。しんみょうまる人形は……」

 

 

「 もう、戦えない 」

 

 

 

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