人間と人形の幻想演舞 作:天衣
魔理沙っち達の治療により、何とか一命を取り留めたしんみょうまる人形。
しかし、パチュリーから出された診察結果は実に残酷なものだった。
「た、戦えないって……一体どういうことですかッ!?何で!?」
「――ッ、今からその理由を、話す、から……」
「舞島ッ!気持ちは分かるが一旦落ち着け!こいつは体が弱いんだ」
「あ……ご、ごめんなさい」
動揺してパチュリーの肩を激しく揺する舞島君を、魔理沙っちが慌てて止めに入る。
解放されたパチュリーは苦しそうに咳払いを数回した後、呼吸を整えてからしんみょうまる人形の体の様子が映った映像に示し棒を立てた。
「説明するわ。まず、これはこの人形が治療を受ける前の身体を写し取ったもの。複数箇所に及ぶ暴行の跡が見受けられる。治療によって外傷はほぼ修復できたものの、問題はここ」
そう言ってパチュリーが示し棒を刺した場所は人形の体の中心の左部分。人でいう心臓があるところだった。
見てみると、水晶のような球体にヒビが入っているのが分かる。
「さっき私が言ったことは、この部分にひびが入っちまったことに大きく関係してる。大事な話だ、よく聞いてくれ。……パチュリー頼んだ!」
「……人形という生物には「結界」というものが存在している。これは人形以外の攻撃を一切受け付けない強固な障壁で、私達も未だ解明出来ていない未知の技術……人形異変の根幹とも言うべき要素ね」
「だけど、この大怪我はその理論から大きく矛盾している。本来、人形がダメージを負うというのは体内の魔力指数である「耐久値」の減少でしか現れないものであって、外的損傷を負うことなんてスキルが結界を貫通したとしても起こり得ない。まぁ例外もあるにはあるけど、少なくとも今回この人形が受けたダメージの1つ1つは決して大きなものではなかった」
「つまり、事件当時は人形に備えられている筈の結界が機能していなかったということ?」
「……原因は分からないけど、そういうことになるわね」
成程、確かに言われてみれば人形はいくらダメージを負ったとしても怪我をしていたり服が破れたりなんかはしていない。
それに比べて、今回のしんみょうまる人形の大怪我は身体だけでなく着ている衣服、身に着けているものなどにも甚大な被害が及んでいる……その差は歴然だ。
あの時、あの現場で一体何が起こったというのだろうか……?誰が彼女をこんな目に?何が目的で?どうして一緒にいたけいき人形は無傷で済んでいる?謎は多い……だが、いずれにしても許し難いことなのは確かだ。
……そういえば、説明の途中にあった「例外」という言葉の最中、一瞬だけパチュリーは舞島君の方に目線を合わていた。
身に覚えがあるのかと私も舞島君の様子を確認してみるが、どうやら当の本人はそのことに全く気が付いていない。……気のせいだったのだろうか?
「――で、でも!魔理沙達のおかげでこの子は助かったんでしょう……?それがどうして戦えないことに繋がるんですか?」
舞島君の焦りのこもった声が解説しているパチュリーに向けられる。
まだ理解出来ないのか、それとも現実を見たくないのか……とにかく今の彼はとても冷静ではなかった。私だって内心はそうだ。
しんみょうまる人形が戦えなくなることは、実質戦力の半減に等しいのだから。
「……そうね、これは実際に見て貰った方が分かりやすいかしら。魔理沙?」
「任されたぜ。……こいつも一緒にいた方がいいな」
何かを任された魔理沙っちは自身の人形を1体しんみょうまる人形の隣に並べ、懐から取り出したものを真っすぐ構えた手と手の間に浮かせる。それを見て私は戦慄した。
魔理沙っちが構えているその姿には見覚えがある。そこから放たれるスペルカード「恋符「マスタースパーク」」は、その一帯を軽く消し炭にする程の高出力極太レーザーだ。
私も一度戦った際に体験したことがあるが、そのあまりの威力の強さにかすっただけでも体が吹き飛ばされてしまった……食らったら絶対にタダでは済まない。「弾幕はパワー」をモットーとする彼女の代名詞とも言える必殺技。
「ちょっと待って!!しんみょうまるに何しようとしてるんだ!!?」
慌てて止めようとした私よりも先に、舞島君が魔理沙っちの前に立ってやろうとしていることに対して抗議の意を示した。
私と同じく、魔理沙っちのやろうとしていることに対して嫌な予感を感じ取ったのだろう。だが魔理沙は構えを解く気はないらしく、まっすぐ前を見据えている。
「心配すんな。ちょっと浴びるだけだ」
「え?」
「ちょ、魔理沙っち――……!!?」
そう言い放った魔理沙っちは、庇っている舞島ごと光線を発射する。
血迷ったのかと錯乱する私だが、その数秒後の結果は思っていたものとは大きく違っていた。直線状はどこも損傷がなく、食らった筈の者達は皆無傷……どういうことかと魔理沙っちの手元に視線を向けると、自ずとその答えが分かった。
魔理沙っちが構えていたものは「八卦炉」ではなく「懐中電灯」で、そもそもマジックアイテムではなかったようだ。つまり今放たれたのはレーザーなどではなく、殺傷力のない只の照明だったということ。全く、驚かせてくれる。
「は、はれぇ~~……なんらかからだがぁ……」
その光を浴びた舞島君はというと、全身から力が抜けたような情けない声を上げながら膝から崩れ落ちてしまっていた。
成程、あの光には対象を脱力させるような効果があるらしい。パチュリー達が見せたかったものを凡そ理解した私は、同じくその照明を浴びた人形達の反応を確かめる。
魔理沙っちの出した人形は、あの照明を浴びていたにもかかわらずピンピンしている。まぁ当然であろう。
さっきパチュリーが説明した通り、結界がこの人形を攻撃から守って無効化したという結果の現れだ。見るべきは、もう1体の方。
私はゆっくりと、舞島君のしんみょうまる人形に目を向けた。……するとやはり、食らった持ち主と同じ反応を見せていた。
それが何を意味するのかは、最早言うまでもないだろう。
「これで分かったろ?こいつがもう戦えない理由が」
「……まぁスキルはまだ使えるみたいだけど、今のこの状態でバトルをし続けるのはどう考えても自殺行為でしょうね」
「――……えぇ。どうやら、そうみたいね」
魔理沙っちとパチュリーの示した実演により叩き付けられた現実が、私と舞島君に重くのしかかった。
“結界が発動していない”。話を聞いている限り、それは人形にとってかなり致命的だ。
人形バトルは、人形同士の結界が発動していないと成立しない勝負。しんみょうまる人形の安否を真剣に考えるならば、もうあの子をバトルに参加させるべきではない。
「……治すことは出来ないんですか?」
「現状、それは不可能よ。人形の心臓部分であるこの物体は幻想郷に存在しないオーパーツ。元に戻せる人がいるとするなら、作った本人くらいでしょうね」
「私達も最善は尽くしたんだが、どうしてもここだけは修復出来なかった。元に戻すんなら、新しく作り直すしかないと思うぜ」
その言葉を聞いた舞島君は小さく返事をした後、俯いて黙り込んでしまう……無理もない。
今まで一緒に戦ってきた仲間が突然、こんな形で離脱してしまったのだ。その落ち込んだ後ろ姿を見るだけで、私の胸は更に痛む。
するとしんみょうまる人形がゆっくりと舞島君の元に駆け寄り、笑顔をこちらに向けた。
「はたて」という名の人形も隣についており、何やら手持ちの古い携帯電話で文字を打っている……何か彼に伝えたいことがあるみたいだ。
「…………―――ッ……そっか……うん、ごめん。いつまでもくよくよしてちゃ駄目だよな」
「しんみょうまる。お前の分まで僕、頑張るよ」
何やら励まされたらしい舞島君は涙を拭き、しんみょうまる人形の頭に優しく手を乗せて同じく笑顔を向ける。少しだけ元気を取り戻したようだ。
彼を心配させまいとああいった行動に出たのだろう……優しい人形だ。一番ツラいのは、もう戦えなくなった彼女自身だろうに。
「そういや舞島、ついさっき人形解放戦線の一員になったんだろ?あまり長居すると流石に怪しまれるんじゃないか?」
「あ、それもそうだね……じゃあ、僕はそろそろ戻ります。しんみょうまるのこと、お願いしますね」
「うん、分かった。急に呼び出してゴメンね?今後はホント気を付ける」
「もう、それは気にしなくていいって言ったじゃないですか。先輩こそ頑張って下さい。では」
そう言って舞島君は入ってきた時とは正反対に、出る際こちらに向かってお辞儀しながら大図書館を後にした。
どうやら順調に潜入が出来ているようでひとまずは安心だが、問題はこちら側だ。今まで頼りになったしんみょうまる人形が戦線離脱したことで、霊夢さんとの人形バトルへの勝率は絶望的になった。
この先しんみょうまる人形抜きで、果たしてやっていけるのだろうか?……正直なことを言うと、自信はない。
「あ……!?」
ふとしんみょうまる人形に視線を向けると、既に彼女はその場で倒れ込んでいたことに気付く。
もう元気になったように見えていたが、無理してそういうフリをしていただけのようだ。とりあえず私は急いで彼女を担ぎ、机の上に横にさせることで安静にさせる。
「人形も持ち主に似るんだなぁ。無茶ばっかしやがって」
「えぇ、全くよ………ん?」
魔理沙っちと話をしている中、誰かがズボンの下側を引っ張っているようなので、視線を下げてみる。
すると、そこにはけいき人形が顔を覗かせていて、何か言いたげに小さくジャンプし続けていた。
私は他と比べて何故か異様に重い彼女を何とか持ち上げ、その意図を何とか読み取ってみる。
「……… ……… ………」
赤ちゃんのようなわがままで甘えん坊な感じは一切なく、ただまっすぐこちらを見据えて全身を動かし、何かを必死に伝えている。
相変わらず人形の言葉は分からないが、何となく「戦いたい、強くなりたい」と言っているような気がした。そうなのかと聞いてみると、けいき人形は元気よく首を縦に振る。
けいき人形は赤子だからか今まで人形バトルには関心もなく、一度も参加してこなかった。実際、この子は他と比べたらあまりにもレベルが低く、戦力として数えるには弱すぎる。
だがしかし、このタイミングで起こったけいき人形の心境の変化、その要因は恐らく………
もしそうだとしたら、無下にする訳にもいかない。
「ま、どちらにしても本番での使用人形は3体。そいつで戦う以外、選択肢は残されていないぜ」
「……そうね」
魔理沙っちの言う通りだ。こうなった以上、贅沢なんて言ってはいられない。
後2日、死ぬ気でこの子を本番までに仕上げていかなくては霊夢さんに勝つことなんて不可能だ。やってやる。
「という訳で、これからビシバシいくわよけいき!しっかりついて来てよね!」
「!」
「――った!!……?」
一瞬、ビリッと静電気のようなものが手元に伝わったような?
でもこの子はの属性は「大地」だけだった筈、きっと気のせいだろう。