人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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※注意


この外伝は、私が書いている小説「人間と人形の幻想演舞」の人形視点ストーリーです。その為、人形が普通にしゃべります。そのことを注意した上でご覧下さい。

今回は紅魔館で起きた事件の内容となります。



外伝9.5

 

 

それは、私達が人形バトルを終えて休息をとっている頃。

 

足元に1つの手紙が落ちていることに気が付き、それを読み上げた私は思わず戦慄してしまう。

 

「……――ッ!」

 

柄にもなく持っていた手紙をしわくちゃにしてしまった私は、皆に悟られないようこっそりと地下1階へと足を運ぶ。

 

 

まさか、“あいつ”がまだ私を狙っていたなんて……

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだなぁ姫さん?来てくれて嬉しいよ」

 

「………やはり、あなただったんですね」

 

地下1階の指定された場所で待っていた手紙の送り主が、品のない不快な声色で話し掛ける。

赤と白のメッシュが入った黒髪、複数の矢印の連なったような装飾のワンピースを着た怪しげな彼女は、かつて世間知らずだった私から「打ち出の小槌」を奪った人形。名は確か、“せいじゃ”。

当時は鏡様のお陰で何とか小槌を取り返すことに成功し、盗んだあいつ自身も浩一さんの人形によって懲らしめられて事件は無事解決。あんな目に遭った手前、もう悪事を働くのに懲りたものだと思っていましたが……この様子だと、全く反省していないようです。

 

「それにしても、1人で来るなんて随分と勇気あるじゃない?余程急いでいたのかなぁ?」

 

「白々しい……あなたがそう指定したのでしょう?」

 

「あーそうだったそうだったぁ!ギャハハハハハッ!」

 

手紙の内容はこうだ。

 

“仲間の1人を預かった。助けたければ今すぐここの地下1階の奥にある広間にお前1人で来い。遅れたり他の連中にバラしたら仲間の命はないと思え。”

 

内容通り、せいじゃの近くには私達の仲間がいる……けいきちゃんだ。遠目から見た限り、ぐったりとした状態で意識はない。あいつに気絶させられたのだろう。

けいきちゃんは私が人形バトルをしていた際、参加はしていなかったが封印の糸からは出されている状態だった。狙われたのは、きっとその時だ。

 

「今すぐけいきちゃんを解放しなさい。さもないと……」

 

「おいおい、今の状況分かってるぅ?そんな要求呑む訳ねぇだろ」

 

「―――ッ!」

 

せいじゃは自身の鋭い爪をけいきちゃんの喉元に当て、逆にこちらを脅迫してくる。

あいつが「毒」を持っている人形であることを知っていた私は逆らうべきではないことを瞬時に悟り、戦闘の構えを解く。

 

「そうそう、それでいいんだよ」

 

「人質とは卑怯な……一体、何が目的ですか!?」

 

「決まってんだろ?“復讐”さ……さて、ガキの命が惜しかったらこっちの言うことを聞いて貰おうかぁ?」

 

「まずはてめぇの持ってる剣と小槌をこっちに渡せ。そこから投げてだ。妙な気を起こすなよ?ククク……」

 

「………」

 

「 どうしたぁ!?はやくしろぉ!! 」

 

「……分かりました」

 

要求通り、輝針剣と打ち出の小槌をせいじゃの足元に滑らせるように投げる。今の私は丸腰同然……これで戦えなくなった訳ではないものの、失った物の代償は大きすぎる。

特に、打ち出の小槌を失うのは今の私にとってはかなりの痛手……何故なら私の持つ同名のアビリティ「打ち出の小槌」は、あれが手元にないと発動させることが出来ないのだから。

 

「クヒヒヒ……これで今のお前はザコ同然。思う存分痛めつけられるっ!」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべたせいじゃは、空いている手の指先から弾幕を生成し始めた。

それを見て私は、今から自分がどういう目に遭うのかを理解してしまう。

 

 

 

 

 

 

「おらっ!これでも!食らいやがれッ!」

 

「――ッ、く……」

 

逆らえないことをいいことに、私はせいじゃからの弾幕攻撃を正面からひたすら受け続けました。抵抗の許されない一方的な虐殺が、少しづつ、確実に、私の体力を奪っていく。

本来、この程度の攻撃であればほぼダメージなんて受けない……ですが、今の私には「打ち出の小槌」による加護がありません。このままではやられてしまうのも時間の問題……一体どうしたものか。

 

「……ちっ、気に食わねぇ。さっきからちっとも苦しそうな顔を見せやしない……これじゃ面白味がねぇなぁ?」

 

「!おぉそうだ、いいこと思い付いたぞ!お前、“結界”を解けよ」

 

「……!?」

 

「出来ないとは言わせねぇぜ?分かってるよなぁ?」

 

爪を再びけいき人形に向け、要求した内容を強要するせいじゃ。

確かに、せいじゃの言う通り「結界」は私達の意思でいつでも解くことは出来る。だが、自らそんなことをする人形なんてまずいない。リスクがあまりにも大きすぎるからだ。

「結界」は私達人形に備えられた対弾幕(人形以外)用バリア。その強固な守りは、如何なる外敵の攻撃から身を守ってくれる私達になくてはならないもの。

そんな「結界」を自ら解くというのは、人形にとっては一種の自殺行為……「結界」のない人形の体など、人間とさほど変わらない。下手をすればそれすら下回る。

 

本来ならばこんな無茶な要求、絶対に呑めない。呑める訳がない。しかし……今はそれに従わなければけいきちゃんの身に危険が及んでしまう。

仲間を見殺しにするなんて、私には出来ません。

 

「――!クク、フヒヒヒ……ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!そうそうそれでいいんだ!!」

 

「あぁどうなっちまうんだろうなぁ?結界のない状態で攻撃を受けちまったらよぉ!?」

 

私が結界を解除したのを確認し、愉悦に満ちた顔でこちらを見るせいじゃの顔は実に歪んでいた。……あんな奴には死んでもなりたくないものです。

だが奴の言う通り、こうなった状態で攻撃を受けるなんて今まで経験がない。いくら威力の低い攻撃であっても、結界のない状態で食らってしまったら……

 

「そらよッ!!」

 

「――ッッ!!が……ッ!!?」

 

せいじゃから放たれた1発の弾幕が、私の片足に命中する。

生身で受けたダメージが、食らった箇所から直接伝わってくる……結界越しに食らった時とは比べ物にならない物理的な痛みが、まるで電流の如く体に走っていった。

 

「ヒヒ……そうだ、その顔だ!!どうだ?痛いか?苦しいか?ヒャハハハハハハッ!!」

 

こちらが苦しそうにしているのを見てご満悦となったせいじゃは1発、もう1発と弾幕を私に放ち続ける。

食らう度に私は苦痛の声を上げ、それを聞いたせいじゃの欲が少しずつ満たされていく。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!く……うぅ……」

 

「どうしたぁ?早く立てよ……いいのかぁこいつがどうなっても?」

 

正に地獄のような時間だった。悪者というのはこういう時、頭が回るらしい。

出来るだけ長く苦しませるよう、すぐには止めを刺さず体の複数箇所を攻撃して私をいたぶり続けて楽しんでいる。最初に片足を狙って弾幕を撃ったのも、万一私から抵抗されるのを防ぐ為。

人質を大いに利用し、休むことさえ許されず、やりたい放題暴力の限りを尽くす外道……許せない。だが、無力な私は未だそれに抗えずにいる。

 

もし、このまま攻撃を許せばじきに体内の魔力も尽き、私は機能停止……人間で言うところの「死」を迎えてしまう。

せめて人質を解放させることが出来ればこんな格下の相手に遅れなど取らないというのに……悔しい。だが、ここでやり返したら奴は間違いなく人質の体内に毒を流し込み、それに侵されてしまったけいきちゃんは悶え苦しむ。あの時の鏡様と同じように……。

今は解毒する手段も、それをやってくれる人材も傍にいない以上、それだけは絶対に避けなければならない。

どうすればいい?どうすれば、このピンチを切り抜けられる?……鏡様なら、この圧倒的不利な状況をどう乗り越える?

 

……そうだ。鏡様はどんな時でも諦めず、いつも周りの様子を気にかけ、それを最大限に活用していた。

私達の様子、相手の攻撃の軌道、バトルフィールド、その後どうなるかの予測、次の一手……そう、まずは見極めなさい私。

1つずつ、冷静に今の状況を整理し、打開策を練るのです。

 

 

まず、私の体の具合は……正直、かつてないくらいボロボロ。こんな状態で自由に動き回るのはまず無理だろう。

でも、全く動かせない訳でもない。右足こそ負傷しているものの、左の方はまだ生きている……1度限りなら、玉砕覚悟で相手に向かって飛び込むくらいは出来そうだ。

 

次に、私の中にある魔力の残量……これも体と同じくかなり消耗してしまっている。スキルを使用できるのも、せいぜい“2回”が限度。

失敗は絶対に許されない……やるなら相手に気付かないような死角からでなければいけません。そして死角となりうるのは、やはり頭上からの攻撃。

相手が私への攻撃に夢中になっている今、直接視界に入りさえしなければまず気付かれはしない筈だ。

 

最後に、私と輝針剣の距離感は……良かった。それほど遠くはないみたいだ。

これならば何歩か踏み出していった際、回収して取り戻すことも出来る……よし、シュミレーションは大体整った。

 

後はタイミングを伺うだけ……せいじゃが隙を見せたその瞬間、次はこっちから仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

「さぁて、次はどこを狙おうかなぁ?」

 

「………ひとつだけ」

 

「あん?」

 

「ひとつだけ、聞かせて下さい。あ、あなたは……目的を聞かれた際、これは“復讐”だと……口にしていましたね?」

 

「あぁ、そう言ったなぁ。それがどうした?」

 

「それは……“私”に対する復讐ですか?それとも……」

 

「……ククッ、まぁ冥土の土産に教えてやろう。お前の考えてる予想は恐らく当たりだ。本当の狙いは別にある」

 

「オレが本当にブチ殺してぇのはな、あの「まいじま」ていう人間なんだよ。……あいつさえ、あいつさえいなけりゃ!!」

 

先程の余裕の態度から一変、明らかに様子が変わったことに気が付いた私はせいじゃの遥か頭上に「ストーンレイン」を仕掛ける準備を始める。感づかれないよう、慎重に。

しかし魔力が尽きかけている弊害か、岩石の生成がいつものようにいかず、数もせいぜい1個が限界のようだ。これでは充分な威力を発揮するのにまだまだ大きさが足りない……ここはなるべく時間を稼いだ方がいいだろう。

 

「一体、何が?」

 

「……あいつらにやられて以来、オレは居場所を失って路頭に迷うハメになった。野生人形界隈も厳しい世界でなぁ?その区域にとって邪魔と見なされた奴は即刻追い出されちまうんだ。そしてその情報は瞬く間に他の場所にも広がって、気が付けばオレの居場所はどこにもなくなっちまった」

 

「お陰で今は寝るとこさえ碌に確保出来ねぇ……てめぇに分かるか!?やっとの思いで見つけたあの場所を奪われ!どこからも受け入れられず!!生死を彷徨い続けたオレの苦しみが!!?」

 

……確かに、言われてみれば正邪の着ている服はボロボロ。顔も以前と比べてやつれている……どうやら苦労があったのは事実らしい。

だが、それは元を正せば私の小槌を口先八兆で騙して奪い去ったことが原因だ。これは所謂、自業自得。同情の余地もない……そう思っている間も、私は神経を研ぎ澄ませて岩石の生成を続ける。

小石達がどんどん一箇所へと集まっていき、今の岩石の生成率は凡そ6割といったところ……もう少し、もう少しで準備が完了する。

 

「だからあそこを追い出されたその瞬間、誓ったんだよ。あいつだけはオレの手でブッ殺してやるってな……しかし、ただ普通に殺すのはつまらねぇ。そこで……」

 

「……まずは私達、という訳ですか。へ、反吐が出るくらいの……悪党、ですね」

 

「ヒャハハ!お褒めの言葉ありがとうよ!あいつは自分の人形を心底大事にしてるみたいだからなぁ?精神攻撃ってやつだよ」

 

 

あと、あと少し……!

 

 

「……さぁて、おしゃべりはここまでだ。まずはテメェを暗殺し、そしたら次はあの全身黒の金髪女だ。そうやってじわじわと減らしていって、あの人間にも味わせてやるのさ……大事なもんを奪われる絶望ってやつをなぁっ!」

 

 

「 死ねぇッッ!! 」

 

 

憎悪の感情の高ぶりからか、正邪は片手を大きくかざして先程よりも強力な攻撃を仕掛けようと力を溜め始める。

 

明らかな隙……!そして奴の頭上に作っていた岩石の生成も、たった今完了した。

仕掛けるなら、今しかありません!

 

 

 

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