人間と人形の幻想演舞 作:天衣
自称、人形解放戦線最強の妖精ミルミ。
その彼女に対し、人形バトルを申し込んだ僕はアジトを出てすぐのそれなりに広くてバトルにちょうどいい草原に呼び出される。
後ろで観戦するサニーミルクやメンバー達、そして向かいには怒り顔でこちらを睨みつけているミルミ……逃げ場のない、八方塞がりの状態と言えるだろう。
しかしこの状況に持ち込んだのはむしろこちら側の作戦。バトルの強さで成り上がることの出来るというルールならば、それを利用しない手はない。
ミルミは“したっぱの中では1番”という、絶妙な立ち位置の存在だ。それよりも強いことさえ証明されれば僕の立場は一気に上となり、この組織を内側から変えていくという活動もスムーズに行える。
何より、リーダーのメディスン・メランコリーの目にも止まることでコンタクトを取りやすくなる筈だ。
「使用人形は2体よ!ギッタンギッタンにしてやるんだからッ!!」
「うん、楽しい勝負にしようね!」
「~~~~~!!ば、ばかにして!!ときこッ!!」
余裕の態度を見せる僕に、彼女の怒りのボルテージは上昇。何とも扱いやすい。
ミルミが繰り出した人形はときこ人形、香霖堂で会った朱鷺子という妖怪の姿をかたどった人形だ。懐かしい……元気にしているだろうか?
「ステルストラップ よ!!」
こちらが人形を出す前から、ミルミはスキルの指示を出し先制を打つ。
指示を受けたときこ人形は金属で出来た小さなブロックをフィールド全体にばらまく。そしてそのブロックは無重力の様に空中で留まったかと思うと透明となって消え、見えなくなってしまった。
流石は人形解放戦線……ルールに則った正々堂々のバトルなんてしないという訳か。
攻撃系のスキルではないようだったが、初めてみるスキルだ。「トラップ」というからには、罠的な何かだというのは理解出来るが……
「ふふ……さぁ、あんたも人形だしなさい!」
不敵な笑いを浮かべるミルミ。成程、伊達にしたっぱ達のトップを名乗ってはいないようだ。卑怯とはいえ、ちゃんと意味のある行動をしてこちらに不利な状況を作り出した。
恐らくだが、あのスキルはポケ〇ンでいうところの「まきびし」に近い性質のものではないだろうか?でなければ、わざわざバトル前で放つにはメリットがない。
しかし僕もそれにやられてあげる程馬鹿ではない。むしろ先にそれを見せてくれたお陰で対策を考える時間が出来た。
僕は今から出す予定である人形の入った封印の糸を口元に寄せ、バレないように作戦を伝える。
「……よし、はたて!行ってきて!」
僕が呼び出したはたて人形が外へ実体化したその瞬間、透明化していた小さな鉄のブロックがキラリと光り、こちらへ一直線に飛んで来る。
それに気が付いたはたて人形は1発の弾幕を放って翼を大きく広げ、上空へと飛び立つことでギリギリ被弾を避ける。思った通りだ……やはりあれは人形が出るタイミングで作動するタイプの罠だった。
「風」属性を持つはたて人形にも発動したところを推察するに、「まきびし」というよりかは「ステルスロック」に近いものなのだろうか?
「な……ハ、ハハハッ!運よく避けられたみたいだけど、その罠はターゲットにあたるまで追尾しつづけるのよ!むだなてーこーだわ!」
「……――ッ」
ミルミの言う通り、上空を見上げると未だはたて人形は追尾しているステルストラップの弾幕から逃げ続けている……成程、厄介な性能だ。
最初は実力を見るため様子見をするつもりだったのだが、悠長に構えている訳にはいかなくなったらしい。こうなれば短期決戦に持ち込む。
「はたて、攻めるよ!ときこ人形に突っ込んで!」
上空からこちらの指示を聞いたはたて人形は追尾するステルストラップをギリギリまで引き寄せてかわし、そのまま相手のときこ人形へと急降下する。
そして当然、その動きにステルストラップも後ろから続いていく。距離は少し離れてはいるものの、まだ脅威が残った状態での交戦だ……不利な状況なのは何も変わってはいない。
「ツイスタ― だ!」
「馬鹿ね、はさみうちにしてあげるわ! ウィンドジャベリン!」
こちらの攻撃指示に対し、相手も同じくそれに続く。だがそれを実行することは叶わないだろう。
ミルミはステルストラップを掻い潜られたという衝撃に気をとられ、こちらが仕掛けた“ある行動”を見落としていたのだ。
「え……な、なんであたしの人形ひるんでるのよ!?」
「本当はトラップに掛かってしまった時の痛み分けだったんだけどね!」
実は、はたて人形には封印の糸から出たら素早く「急襲」のスキルを発動させるよう予め指示を出しておいたのだ。
そうしておけば仮にトラップによってダメージを負ってしまったとしても、相手側もしばらくは行動が出来なくなって状況をイーブンに持ち込める。
だがはたて人形は「急襲」を放ちながらも見事トラップをかわしてみせた。トラップが追尾型であったのは計算外だったが、相手からの妨害さえなければ凌ぐことはそう難しくはなさそうだ。
「……ときこ戻って! ミスティア!」
「急襲」を食らって動揺していたミルミだったが、以外にも冷静で素早く人形の交代を実行した。
そして出てきたのは「ミスティア・ローレライ」の姿をした人形……これまた懐かしい顔だ。とはいってもあまりいい印象のない人物、基妖怪ではある。いずれはあの5人組とも関わってくことになるのだろうか?
しかし何故、不利である筈の「音」属性である筈のミスティア人形を場に出したのだろう?「音」に「風」は効果抜群……まさか知らない訳ではあるまい。
疑問に思った僕だが、その答えはすぐに分かった。
「あんたがしかけた攻撃が「風」でよかったわ。これがこの子のアビリティよ!!」
「風」属性集弾スキルの「ツイスター」、それもはたて人形のアビリティ「一斉射撃」によって強力となった筈の弾幕が、気流となってミスティア人形の周辺に漂い始める。
まさか、アビリティによって無効化されたとでも言うのか?……正直、妖精がそこまで頭が回っていることにビックリしている自分がいる。
「その技、固定させて貰うわよ! エンカレッジ!!」
「(ッ!しまった!!)」
こちらが気を取られている内に、先手でミルミは人形に指示を送る。
風を纏ったことで、はたて人形よりも遥かに素早いスピードで背後に回ったミスティア人形は自身の歌声を披露。そしてそれを直接聞いてしまったはたて人形は、使えるスキルに制限を掛けられてしまった。
「エンカレッジ」は僕もよく使う技、どういう効果はよく分かっている。今のはたて人形は「ツイスター」しか使えない為、「風」を無効化するアビリティ持ちのミスティア人形に対して完全に無力だ。
こうなってしまっては、こちらもむげつ人形に交代するべきなのだろうが……相手は「音」属性。加えて今のミスティア人形は俊敏値が上がっているお陰で確実に先制を取れる状態にある。
更に言うとむげつ人形の今のアビリティは「残虐」というもので、散弾スキルの威力を上がる代わりに命中率が落としている……いくら高レベルのむげつ人形でも、今の風を纏ったミスティア人形に対してスキルを当てられるかどうかは正直博打だ。
それにステルストラップの件もある……ここはやはり、はたて人形で粘っていくしかなさそうだ。
「さぁてと、お相手はこっちに手出しできないし~?今のうちにうたっておどるわよ~ミスティア! ハピネスダンス! ブレイブソング!! ハピネスダーンスッ!!! 」
調子に乗り出したミルミはミスティア人形に引き続きスキルを指示。しかし攻撃系のスキルではなく自身のステータスを上げるスキルを優先している。
これはいわば、“起点にされている”という奴だ。ちゃんとまだ見ぬ相手のもう一体の人形への戦闘準備を整えている辺り、中々のやり手と言える。これはもう、むげつ人形でも対抗出来ない状態になったかもしれない。
だが、相手が最後のスキルを使用したタイミングで「エンカレッジ」の効果も同時に切れたようだ。
相手に限界まで積まれて勝つのが絶望的な状態となったが、それを打破する手段をはたて人形は持ち合わせている。それを使えば、今の状況を逆に利用することも可能な筈だ。
上空では、ステルストラップの追跡から逃れ続けているはたて人形が飛び回りながらも何とかこちらに目を合わせ、指示を待っている。
ちょうど「エンカレッジ」が切れたこのタイミング……攻めるなら今だろう。僕は軽く頷きながら斜め下に向けた右人差し指が真っすぐ立てた左人差し指に向かって突っ込んでいくジェスチャーを送る。それを見て意図を理解したはたて人形は同じ手順でトラップをかわし、相手に急降下した。
「ふん、もう小細工もないからこんどこそはさみうちよ! きょーかされたじょーたいのこれを受けられる!?」
「 無限音階(むげんおんかい)!! 」
ミルミがそのスキルの行使を指示すると、ミスティア人形は大きく息を吸った。
可愛らしいダンスと勇ましくも美しい歌声によって温まった会場……そこから放たれる「無限音階」は、上空を覆ってしまうほど広範囲に螺旋状の譜線弾幕を複数生み出した。
上がればあるほどに高音になっていく音階、それが音符の弾幕となりながら譜線の中で不規則に展開されていく……これを全てかわすのは困難であろう。
「 はたて 順風 だ!!なるべくミスティアに近付いてっ!! 」
少しでも被弾を減らすべく、はたて人形に回避率を上げるスキルの指示を出す。
体を回転させ、ミスティアと同じく風を纏ったはたて人形は音符の迷路をスピードを落とさずに駆け抜け、姿が見えなくなってしまった。
「バカね、まっすぐ突っ込んでたえられるとでも思ってるの!?そのままやられちゃいなさい!!」
音符弾幕に埋め尽くされはたて人形の位置が掴めない中、被弾したであろう音だけが数回響き渡る。
いくら属性相性が有利とはいえ、火力の上がった大技を食らい続けるのは流石に堪える筈だ……何とか耐え切ってくれることを願いながら、僕は音階の範囲外である箇所にだけ視点を向ける。
「……な!?う、うそでしょ!!?」
だがしかし、その期待にキチンと応えてみせるのがはたて人形。
傷を負いながらも音階の嵐を抜け、翼を畳ませながら再度こちらの方に視線を合わせた。その姿を見てはたて人形自身も何をするつもりなのかを分かっているようだったので、僕は黙って指を指すことでその許可を降ろす。
その動作を見て小さく口角を上げたはたて人形は、その姿勢を保ったまま腕を前に突き出して槍の如く相手に向かって突撃した。
「……で、でも残念だったわね!こっちは防御もカチカチにあげてるんだから!!そんな攻撃――」
ミルミがそう啖呵を切るのも束の間、はたて人形の突進がミスティア人形の周りを囲っていた防御障壁をすり抜け身体ごと貫通する。
僕がはたて人形に指示したのは「穿突」。相手の能力変化を無視する攻撃……そして、これで条件も整った。
「――ッ、ま、まさか防御を貫通するなんて……で、でも!!まだ人形は倒れて」
「いや、もう勝負はついたよ」
「へ?……――あ」
現在、攻撃を食らったミスティア人形の立ち位置ははたて人形のすぐ後ろ。そして、はたて人形にはまだステルストラップの追跡が残っている。
それが何を意味するか?答えは簡単だ。
「 ミ、ミスティアーーーーーーー!!!?? 」
透明の鉄のブロックが、追い打ちと言わんばかりにミスティア人形に襲い掛かる。
もう1つの狙い……それはトラップの軌道上に相手を誘導させることだった。正直こんなにうまくいくとは思っていなかったが、これもはたて人形との連携が上手くいったお陰だろう。
ステルストラップの直撃を受けたミスティア人形は目を回して戦闘不能。
思ったよりも大きなダメージを負ったことから、やはりあれは「鋼鉄」属性を秘めていた可能性が高い。それも固定ダメージ系且、属性相性次第では大ダメージを負う……何と恐ろしいスキルだ。
もしこちらが食らっていたら、「闇」属性のむげつ人形含め結構危なかった。
……ああいったトラップの対策は、考えておいた方がいいかもしれない。
「う、嘘よ……てしおにかけて育てたあたしの人形がやられるなんて……それも、はいったばかりの新人に……」
バトルの最中だというのに、ミルミは負けたショックからか目の前の現実を受け入れられていないようだ。
……何やら雲行きが怪しくなったような?
「……みとめない。みとめないみとめないみとめなあああぁぁぁいッ!!このあたしをさしおいて!!このおおおぉぉぉ!!!」
発狂気味にそう言い放ち、ミルミは僕に向かって殴り掛かろうとこちらに向かってくる。
自棄になってしまったのか、このまま人形バトルをやっても勝てないと悟ってしまったのか?どちらにしろ、今の勝負で彼女のプライドがズタズタになってしまったのは間違いない。
「だ、だめだよミルミちゃん!おさえておさえて!!」
「これはえっと……そう!きっと、「びぎなーずらっく」ってやつだよきっと!つぎやったらかてるかもしれないよ?」
「はなせフェリシー!!エディースぅ!!あたしはこいつを許さないいいいいィィィッッ!!!!」
「……やめなよミルミ、みんなみてるって」
「うるさいレンリ!!あたしはここのナンバー1なのよ!?ここまでくるのにどれだけ苦労したかしっt……あぁいたああぁぁい!!そこは!!そこはかんべんしてえぇ!!?」
ミルミの蛮行を見兼ねた仲の良いであろう妖精3人組が彼女を力づくで取り押さえる。
そしてレンリの慣れた手つきによる関節技がミルミの抵抗を無に帰したところで、この事態は収束を迎えることとなるのであった。