人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十六章

 

ミルミとの人形バトルに勝ったその翌日。

 

その活躍は僕の思惑通り、他のメンバー達やリーダーのメディスン・メランコリーの耳にも入ることとなった。そして僕はバトルの腕と知能性がある程度認められ、「下っ端」から「部隊長」へと一気に昇格。

「部隊長」とは、副リーダーの次に偉い役職。部下の下っ端を数人引き連れることが許される立場で、僕に負ける前のミルミが就いていた役職らしい。ミルミは僕に負けたこと、そしてこれまでの身勝手な行動の数々が露見されたことで「下っ端」へと逆戻り。本人は相当落ち込んでいたようだ。

そして更にミルミを僕の部下にするよう、メディスンから直接命令を受けたことで現在は僕の部隊の一員となっている。メディスン曰く、また勝手な行動をしないよう常に監視をして欲しい……とのことだ。厄介払いをされているような気がしなくもないが、放っておいたら何しでかすか分からないというのは同意だったので渋々だが了承した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「君が噂のマイだね?私はリグル、今日はよろしくね」

 

「うん、よろしく!」

 

「早速だけど、今回の作戦を振り返るよ。今日ここでやるのは“人形の解放”さ。1体でも多くの人形を自由にしてやるって仕事ね」

 

人形解放戦線副リーダーの1人であるリグル・ナイトバグの指揮の元、僕らは霧の湖へとやってきた。

前に会った時はルーミアという妖怪がリーダー(副リーダー)だった気がするのだが、どうやら降格したらしい。まぁ人里での作戦失敗が大きかったということなのだろう。

だがリグルもリグルで当時阿求から拷問掛けられたから碌な活躍がない。一度も人形バトルをしたことはないのだが……実は強かったりするのか?

 

「あの、質問いいかな?」

 

「ん、何かなマイ?」

 

「そもそも、どうして“人形の解放”なんて活動をしているのかな?僕、ここに入ったはいいけどそのへんのことぜんぜん知らないんだ」

 

“人形の解放”……聞く限りだとメディスン・メランコリーが始めた活動らしいが、何の為にやっているかまでは詳しく知らない。

人形解放戦線を内側から変えるには、まずはその内情を詳しく知っていく必要性がある。

 

「はぁ?あんた、そんなこともしらずにはいったわけぇ?あたまだいじょうぶぅ~~?」

 

「妖精がそんなことを気にするなんて珍しいな……まぁいいや、教えてあげる」

 

リグルの言う通り、この活動の意味を問う妖精など普通はおかしい……僕がこんなことを聞いたのは他でもない。こういう妖精以外のメンバーと交流する機会がなければ全然情報が得られないからだ。

下っ端妖精の大半は人形使って暴れられるのが楽しいからという理由で入っているものが多く、人形の解放など当然意識していない。ここの妖精達を束ねている副リーダーポジションの三月精達も、どちらかというと楽しんでいる側……仲良くなったのはいいが得られる情報自体は少ない。

そうなると、残っている人物は人里で最初に出会ったあの妖怪のメンバー達……それが僕にとっての唯一の希望だ。

 

「まず、このことを語る上で“封印の糸”の存在は欠かせない。なんせ、人形の解放するきっかけになってるマジックアイテムだからね」

 

「ふ、封印の糸が?」

 

「うん。今でこそ人形達を使役するのに広く使われている安価で手に入れやすいマジックアイテムだけど……実はこれ、とんだ“欠陥品”なんだ」

 

「――ッ!け、欠陥品だって!?」

 

「まぁ、私も詳しいことまでは聞かされてはいないんだけどね?メディスンが言うにはこれって人形の体にあまりよくないらしいんだよ。何でも、寿命が削られているとかなんとか……?だから、少しでもその拘束から解放させてあげようっていうのがこの活動の本質って訳ね」

 

「そう!これはぜんいあるかつどーなのよ!」

 

まさか、僕達人形遣いが普段から使っている“封印の糸”にそんなデメリットが存在していたなんて……開幕から衝撃の事実を聞かされてしまった。

そうか……だからあの時メディスンは封印の糸の製造元である河童のアジトへ襲撃を?あれは決して無差別な破壊行為などではなかった訳だ。

彼女の封印の糸に対する異常な嫌悪も、ここから来ているということで間違いだろう。

 

「……でも、リーダー以外のみんなは普通に封印の糸を使ってるよね?それはどうして?」

 

「う……痛いとこ突くね。それはまぁ、あの子が特別というか……不本意ながら私達もこれに頼らないと人形を扱えないんだよね。でも、それもあくまで活動を続けている間だけの話。終わればみんな封印の糸を手放すつもりさ」

 

「実際、野生の人形を封印の糸なしで使役するのはかなり危ないんだよ?基本警戒されてて近づくと容赦なく攻撃されるのが殆ど……つまりリーダーはその辺りの才能に相当恵まれてるってことね」

 

「ふふん、きいておどろけ!リーダーは人形のことばやかんじょーがわかるのよ!まいったか!!」

 

リグルとさっきから隣でうるさい部下のミルミの証言を聞き、人形解放戦線の目的や行動原理は割とハッキリとしてきた。

どうやら“人形の住みやすい世界を作る”という一点においては、目的はこちらと合致しているらしい。“人形を解放する”……確かに今の話を聞いたら、彼女らは人形達の為に正しい行動をしているように聞こえる。

 

だがしかし、僕とメディスンの思想には決定的な違いがある。それは……

 

 

「お、そうこうしている内にターゲット発見だ。マイ、ミルミ!あの人形遣いを狙うよッ!」

 

 

その世界に、僕ら人形遣いがいるかどうかだ。

 

 

 

 

 

 

「はーーもう!霧で前が全ッッッく見えないわっ!うっかり湖に落ちないように気を付けないとなぁ……これ一張羅なんだし」

 

 

霧の中、不幸にも今回のターゲットになってしまった人物の元気な声が聞こえてくる。

シルエットとしては、大きなカバンを背負った人間の子供のようだ。

 

「女の子1人か……恰好を見るに外来人みたいだね」

 

「(……?なんか聞き覚えのある声のような)」

 

「ねぇどうしてかくれてるの?こそこそしないで、さっさとやっちゃいましょうよ」

 

「いや……前に外来人には酷い目に遭わされたからね……念の為、ここは慎重に行くべきだ」

 

これは恐らく、人里で会った僕こと「舞島 鏡介」のことを言っているのだろう。

「そのひどい目に合わせた奴、目の前にいますよ」とカミングアウトしたいところだが、それは心の中で留めた。

 

「まずは様子見。この子に先陣を切って貰って相手の力量を図るよ。……お願い!」

 

リグルは小声でそう言い、指先からそれなりの大きさである虫を1匹、目前の女の子に向かって放った。

霧が発生して視界情報がほぼ遮断されていて、そこから大きな羽音を立てて近付く黄色と黒の警戒色が特徴的な虫……こんなの常人ならすぐに悲鳴を上げて逃げ出してしまうことだろう。

 

しかし、その少女に既視感を感じていた僕はどちらかというと虫サイドの方を心配していた。僕の予想が正しければ、この後あの虫は……とそう思った瞬間だった。

少女の肩から、赤くて伸縮性のある粘液を纏った細長い何かが飛んでいった虫を素早く縛っていく。捕まった虫はそのまま肩にいる何者かの方向へと吸収されていき、数回に及ぶ租借とそれを飲み込む生々しい音が虚しくその場で響き渡るという恐怖劇場が目の前で開演される。

 

 

「 うわあああぁぁぁ!!? ア、アレクサンダァーーーーーーーッッ!!! 」

 

 

「あれ、また虫食べてるの?ホント蛙みたいな子だなぁ」

 

1つの命の終わりを悲しむリグルだったが、恐怖はまだ終わってはいなかった。

先程は見えなかった少女の肩から小さな赤い瞳が光り始め、さっきから草影に隠れている筈の僕達を捉えて離さない……攻撃されたことに対しての警戒か?もしくはこちらへの警告なのか……とにかくあの瞳からは尋常じゃない圧を感じる。

少しでもおかしな動きをすればやられる……そう本能が告げていると察した僕達は、まるで蛇に睨まれた蛙の如くそのまま固まってしまっていた。

 

「それにしても、紅魔館は一体どこなのかしら?赤い生地を大量に手に入れられるって聞いたのに……こんなことなら、もっと事前に情報集めとくんだったなぁ」

 

こちらがプレッシャーで動けないその一方で、女の子は呑気にも目的地への行き方が分からずさっきからウロウロとしている。

湖沿いに進んでいけば案外アッサリ着くと、今すぐにでも教えてあげたい……。

 

 

 

 

 

 

 

「いやーさっきは酷い目に遭ったね……やっぱり外来人は怖いよ。次はもっと弱そうなやつを狙おう」

 

「っていうか、さっきのいったい何だったの……?こわすぎでしょ……」

 

その後、何とかメンタルをリセットした僕達はリグルの指揮の元、引き続きターゲットの人形遣いを探し続けていた。

リグルの放っている蛍達が光を放つことで先程より多少は視界がクリアになっているのだが、よくよく思えばこんなところにわざわざ足を運ぶ者がいるのか正直疑問だ。

 

「あ、ターゲット発見!2人組だね……また子供みたいだ」

 

とそう思ったのも束の間、リグルがまた人形遣いを発見したらしい。こんな視界の悪い場所だが、意外と人形遣いが集まるスポットなのだろうか?

前に来た時は全然遭遇しなかったのだが……それは単に僕が出会わなかっただけなのかもしれない。前に道案内をしてくれたあの「わかさぎ姫」という人魚、もしかして人形遣いと鉢合わせないよう誘導してくれていたのかな?

 

「あれはどうも人里の人間みたい……うん、狙い目だね。よし、新人のマイ君!君に最初のミッションを与える!あいつらの人形を回収、基解放してきなさい!」

 

「えぇ!?僕!?」

 

リグルの突然のご指名には驚いたが、これは期待の新人という看板がある以上避けては通れない道……致し方ない。

しかし正直なところ、相手の人形を奪うような行為は絶対にしたくない。何より、僕の人形達に悪事を働かせるなどもってのほかだ。

まずは相手の様子を伺うことから始めよう。僕は2人組の子供のところへゆっくり歩みを進めた。

 

「……!だ、誰よあんた」

 

「あ、いや……なにしてるのかなぁって気になっちゃって……」

 

「はぁ?冷やかしってわけ?いま忙しいんだからあっちいけ!」

 

こちらの存在に気付くなり威嚇してくる強気な女の子に気圧されながらも、周りの状況を観察する。

すると、もう1人の男の子は膝をついて泣き出しているようで、先程の女の子は周囲の草むらを掻き分けている。

もしかすると、女の子は男の子の無くしたものを探しているのかもしれない。

 

「ぐす……おねえちゃん、この子だぁれ?」

 

「知らないわ、どうせここに住んでる妖精か何かでしょ。それよりもさっさと見つけないと……」

 

「見つけないと?」

 

「……お、お化けが出るのよこの辺。だから早いとこ見つけて帰りたいのッ!!……もう!よりにもよってこんなところで封印の糸なくして!!リョウのバカッッ!!」

 

「ご、ごめん姉ちゃん……」

 

どうやらこの姉弟の2人はなくしてしまった封印の糸を探しているらしい。これは……もしかしたら何とかなるかもしれない。

封印の糸を持っていないのでは人形解放どころではない……という適当な理由をつけ、僕は隠れて様子を見ているリグルとミルミをその場に呼び出した。

 

「ミルミ、この辺でそういった噂ってあるのかな?」

 

「あー、まぁそうねぇ……この辺っていたずら好きの人形がおおいから、もしかしたらそいつらのしわざなんじゃない?」

 

「じゃあリグル、まずはこの子の封印の糸を探すところから始めようよ。これも人形の為、文句はないよね?」

 

「むぅ~……(理念からはギリ外れてない……のか?)」

 

こちらの提案に難色を示すリグルだが、間違った行動ではないことは事実。故に悩んでいるのだろう。

人形を解放するにも、まずはその人形自身がいなければ意味はないのだから。

 

「……まぁ、取り戻してから解放すればいい話だしね。別にいいんじゃないかな?」

 

「えーー!?あたしははんたーーい!!なんでそんな人助けみたいなこと」

 

「ミルミちゃん。君は今、僕の部下だってこと忘れたの?命令違反はリーダーに即報告するからね?」

 

「……そ、それだけはかんべんして」

 

人形解放戦線は現在、“悪”としての認識をされている。まずは、そこから改善していこう。

時間は掛かるだろうし、僕に与えられた時間も少ない……だがそれでも、出来る限りのことはするつもりだ。

 

 

 

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