人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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何故ここにやつがいるのか、それは誰にも分からない。割とマジで分からない。
三の道よりは体感出やすいけれども



第二十七章

 

 

ミッション1「なくなった封印の糸を探せ!」

 

 

これが人形解放戦線としての僕の初任務。ざっくり言うと、霧の湖で封印の糸をなくしてしまった少年の手助けだ。

一緒にいる部下のミルミと副リーダーのリグルを巻き込んで、僕は糸を無くした少年と同行していた姉と思われる“フミナ”という少女から証言を聞き出していた。

 

「ここに入るまでは、確かにリョウの腰には封印の糸があったわ。だからそんなに遠くには落ちてない筈なんだけど……全然見つからなくってさ」

 

「……成程、そうなんだね(じゃあ、皆でこの辺の草むらを探索をしても意味はなさそうだな)」

 

今いる場所は、霧の湖の入り口からはそう遠くはない。その範囲のどこにもないのであれば、最早考えられる原因は1つ……“お化けの噂”だ。

ミルミが言うには、ここにはイタズラ好きの人形が生息しているらしい。正に、いかにもな容疑者ではないか。

 

だがしかし、気になる点もある。それは周りからは人形ではなく、“お化け”だと認知されていること。

いくら視界の悪い状況下でも、この2つを見間違えるなんてことがあるだろうか?

 

「ミルミ、そのイタズラ好きの人形ってどんな特徴なの?」

 

「え……あ、あたし普段ここにはあんまりこないしそこまでは知らないわよッ!」

 

「じゃあ情報を集めてきてくれない?ここにも妖精は住んでるし、その子達なら何か知ってるかも」

 

「はぁ!?そんなの、あんたがやりなさいよ!!なんであたしが」

 

 

「……… ……… ………」

 

 

「……ああもう!分かったわよッ!!」

 

無言の圧に負け、渋々湖の妖精達に会いに行ったミルミの収穫を待ちながら、僕とリグルは引き続き姉弟から当時の話を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

「……“正体が分からない”?」

 

「う、うん。噂によると被害に会った人達は皆、“見たものがそれぞれ違う”らしくて……例えば“恐ろしい怪魚”を見たという人もいれば、あれは“妖精”だったという人もいて、中には“光の玉”が攻撃してきたっていう人も」

 

「(成程……それで“お化け”って言われてる訳か)」

 

弟のリョウの証言で、犯人の特徴を大体掴むことは出来た。だが、聞く限りだとその犯人は中々厄介な相手らしい。

変身能力持ちということであれば、まずは偽物の中から犯人を見破る必要性に迫られてしまう。この視界がすこぶる悪い霧の中で、だ。

犯行をするのにこの場所を選んでいる辺りも、やり方をしっかり理解している証拠だ。正体の分からないものを、人は怖がる習性がある。

 

「……ただいま~」

 

「あ、ミルミおかえり。何か収穫あった?」

 

「まぁ、あるにはあるんだけどさぁ……内容にはきたいしないでよ?」

 

霧の湖に住む妖精達に聞き込みをしてきたミルミだが、どうも浮かない表情をしている。

何やら内容に予想がついてしまうが、一応その結果を聞いてみるとしよう。何か新しい発見があるかもしれない。

 

「うん、聞かせて?」

 

「……とにかくみんないってることがバラバラだったの。“けもみみのはえたよーかい”だとか、“おきな”だったとか、“ゆうれい”が~……とか。もうわけわかんなくて。それ人形でもなんでもないしっ!」

 

やはりというか、こちらでも見たものがそれぞれ違う。さっき聞いたばかりの話だ。

唯一分かったことといえば、犯人は“見る者によって姿が変わる”ということくらいか。

 

「ミルミ、他には?これを聞いて気付いたこととかない?」

 

「えぇ?………そ、そんなこと急にいわれてもわかんないわよ!バカなの!?」

 

「リグルは?」

 

「う~ん、そうだな………妖怪、翁、幽霊……………ん?そういえば」

 

「最初にここに来る時、予め人形遣いが何人いるか偵察をしようと虫達を飛ばしたんだけど……その時に聞いた面子と一致してるよ」

 

「――ッ!」

 

どうやら犯人は相当狡猾な手段で道行く人を襲っているらしい。

自身のやったことを湖にいる人物達になすりつけ、正体を悟られないようにする。イタズラにしても相当質の悪い手法で虫唾が走る。

こんな汚いやり方をしている犯人が、人形であって欲しくないものだが……こういう時の嫌な予感というのは大体当たってしまう。

 

「でも問題はどうやって化けている犯人を見極めるか、だよね。実際に攻撃して確かめるとか?人形だったら分かりやすいだろうし」

 

「いやそれは駄目だよ!仮にそれが本物だったら取り返しがつかなくなっちゃう」

 

「そ、それもそうか。人里の人間に危害加えるのは流石に不味いよね……あーヤバい、思い出すと悪寒が……」

 

リグルは顔を真っ青にしながら自身の軽率な発言を反省している。恐らく、過去に阿求に退治されそうになったことを思い出したのだろう。

反応を見るに、彼女にとってあの出来事はトラウマになっているようだ。

 

「一応、相手が“人形”と仮定するならば方法はあるよ。ちょっと危険は伴うかもしれないけどね」

 

「……な、なによ!?」

 

僕とリグルが作戦を話し合う中、暇そうにしているミルミにふと視線が集まる。

こういった作戦には、“囮”というものが必要であることはお約束だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちょーてんセット~~、うちょうてんセットはいらんかね~~?一度たべたらとまらないうちょーてんセット、ほしいならはやいもの勝ちだよ~~」

 

 

草むらの真ん中に立って言われた通りの呼び込みを実行しているミルミを、僕らは遠巻きに見守る。

こんな視界が悪い人気のない場所で籠を持ちながらただ1人、大きな声で場違いな売り込みをするというシュールな光景が、ここ霧の湖で繰り広げられていた。

 

「……マイ、本当にこんな作戦で人形が捕まえられるの?あれって人形の回復アイテムみたいだけど、そんなもので釣れるとは……」

 

「大丈夫だよリグル、僕を信じて」

 

今ミルミに持たせてるのは「有頂天セット」というアイテム。

数ある人形用回復アイテムの中でも最高級の品であり、人形の大好物でもある。過去に自分の人形達にもこれを与えたことがあったが、他と比べて食いつきが段違いであった。

野生なれど相手は人形……であれば、こんな至高の甘露をちらつかされて黙っている筈もない。さっきから人形の入った封印の糸達もその方向に向かって揺れ続けており、「食べたい」という思いがハッキリと伝わってくる。

そっと封印の糸に手を添えることで何とかそれを抑えるが、それでも欲求に抗えず小刻みに動き続けている様子から改めてその中毒性を思い知る。有頂天セットが一般で市販されていない理由が何となく分かった気がした。

 

 

「 ギャ―――ーーッ!!?きた!きた!ホントにきたわーーーッ!! 」

 

 

すると早速、ミルミが恐怖と驚きが混じったような声色で叫び出す。

彼女の言う通り、霧の中からは大きな翼と鋭い爪をもった妖怪の影が現れている。そのシルエットにどことなく既視感を感じていると、次の瞬間……

 

 

 

「 ぎゃおーーーーーーー!!!たーーべちゃーーうぞーーーーーー!!! 」

 

 

 

怖いようなそうでもないような、おぞましい脅し文句の叫びが湖中に響き渡る。

 

 

「 いやあああああぁぁぁぁ!!?ゆ、ゆるしてぇーーーーー!!? 」

 

 

「ミルミ、これは相手の出している幻だ!騙されないで!」

 

「だ、ダメだ!完全に足が竦んじゃってる!……仕方ない、リグル! リンゴ爆弾 だ!」

 

動けなくなってるミルミを見兼ねたリグルが自身の人形に素早く指示を出し、彼女を援護する。

リグル人形の出したリンゴ爆弾は見事妖怪の影に当たり、小さな爆発を起こす。その爆風で影は消え去り、その影響で霧も少しだけ晴れ渡るとその場には一体の人形が倒れていた。

 

「……チルノ人形だ。この辺に多く生息している野生人形だね。ということは、この人形が今回の犯人……?」

 

「いや、恐らく違うよ。この子、盗んだものを持っていないもの」

 

「え?こいつがはんにんじゃないの?」

 

「………(どういうことだ?犯人が化けている訳じゃないのか?)」

 

 

「!ミ、ミルミ!有頂天セットは!?」

 

「え……あ、あれ……ない!!いつのまにッ!?」

 

こちらが幻の正体に困惑している間に、ミルミの手元から有頂天セットがなくなっていることにリグルが気付く。

 

やられた、もう既に犯人は盗みを成功させている後だったようだ。

有頂天セットの匂いに釣られた別の人形を利用して別のものに見せることで注意をそっちに向けさせ、その隙に本命の品を頂く……何という完全犯罪、僕らは見事に嵌められたという訳だ。

 

「……いや!諦めるのはまだ早いよ!ほら、上を見て!」

 

「?何か、光ってる……?」

 

リグルの指差す方向に目を向けると、上空には確かに緑色の淡い光が複数点滅している“何か”がいる。

法則性のない俊敏な動きをするそれはこの世界観には全くと言っていいほど合わず、異様な存在感を放っていた。

 

 

 

「こんなこともあろうかと、有頂天セットの入った籠の中に“蛍達”を忍ばせておいたのさ!つまり、犯人はあいつだ!」

 

いつの間にそんなことを……だがともかく、リグルの意外な有能さに助けられ真犯人を見つけることには成功した。

しかし……あれは果たして本当に人形なのだろうか?下から見る限り、どう見ても怪しい飛行物体にしか見えない。

 

「……まさかあれ、“ぬえ”人形?」

 

「ミルミ、知ってるの?」

 

「あんなヘンテコなのりものにのってるやつなんて、それしかないわ。は~なるほど、あいつならさっきのげーとーもなっとくなっとく」

 

幸いにも、真犯人は自分の位置が特定されていることも知らず呑気に有頂天セットを夢中で頬張っている……捕まえるなら今しかないだろう。

ただし、チャンスは1回しかないものと考えよう。あの素早い動きで、且つこんな視界の悪い霧の中では戦うにしても追いかけるにしても分が悪い。

 

「あの人形、つねにかみなりまとっててなぁ……あたしのてもちじゃ相性わるいわ」

 

ミルミが言うには、ぬえ人形はどうやら「雷」属性を持った人形らしい。

つまり、「大地」属性の人形ならば攻撃を受けることなく接触できるだろうか?丁度、今の僕の手持ちには「大地」の人形を持つ人形が複数いる。

“乗り物”と言っていた辺りも、飛行物体とは別にもう1体の何かが上に乗っていると見ていい。つまり乗り物さえ何とかすれば、無力化すること自体は簡単なのではないだろうか?

 

今こそ、この子達にしかない個性を存分に生かす時かもしれない。

 

 

 

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