人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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人形の持ってる劣化版程度の能力、バトルでも使えなくはないよね



第二十八章

 

霧の湖にて、道行く人々にイタズラしていたとされる「ぬえ」という名の人形。

謎の飛行物体に乗っているその子は今、僕らの遥か頭上で奪った有頂天セットを頬張っている最中……そこが安全圏だと思っているのか、すっかり警戒は解いている。

だがお生憎様、リグルのつけた有頂天セットの籠の中に潜む無数の蛍達によってぬえ人形は現在位置が特定された状態。後は、どうやってあの人形を捕まえるかだが……

 

「よし、ここは僕の人形に任せてよ」

 

「何かいい策があるの、マイ?」

 

「まぁね、要はあの乗り物さえどうにかしてしまえばいいんだ。この子でね」

 

そう言って僕は1匹の人形を封印の糸から出す。

赤い牛の角と尻尾、左右に分かれた白黒カラーの髪色、そして何より石で出来た無機質な赤ん坊を抱えているのが特徴のうるみ人形である。

 

「……なにそいつ?あたしそれなりに人形のことくわしいつもりだけど、この人形はじめてみたわ」

 

「うん、私も始めて見た……どこでそんな人形を?」

 

「え?あ~……ま、まぁ細かいことはいいじゃない!世の中広いんだから、まだ見ていない人形がいても不思議じゃないでしょう?」

 

うるみ人形を見るや否や、ミルミ達は物珍しそうに関心を向けられてしまった。

そうだ。この子達は袿姫様から託された人形達は霊長園にしか生息していない、ある種特別な人形。当然、周りからの認知などされている筈もなかった。

 

「と、ともかく!!この子の持つ“能力”があの人形を捕まえるのに役立つ筈なんだ。でもその為には、この子をあの乗り物に直接引っ付ける必要性がある」

 

「な、成程?……でも、その人形は翼とかないから自力で飛翔出来ないよね?」

 

「それなら、アンタがもってるあのカラスの人形つかえばいいんじゃない?」

 

「それも考えたけど、恐らくそれだと羽ばたきの音で感付かれちゃうと思うんだ。それに、ほら」

 

霧の中にいる飛行物体からは、まるで雷雲の如く微弱ながら電気が広範囲に放出されているのが見える。

あれはつまり、警戒を解いてはいるものの近付くものを迎撃する対策はしっかり講じているということだ。

 

「「風」属性のはたて人形があそこに近付くのはハッキリ言って危険だよ。だから何か別の方法であそこまで飛ばしたいんだけど……」

 

これは失敗の許されない一発勝負……万一にも失敗し逃げられてしまえばそのことを学習され、捕まえることは最早絶望的だ。

音の比較的ならない、電気も食らわない、そして素早く上空まで届けられる方法を模索する必要性がある。

 

「うるみなら、「大地」属性を持っているから引っ付く分には何も問題ない。だからあの飛行物体の目の前にうるみが到達さえ出来れば……」

 

「う~ん、流石に私の虫達じゃ電気には対抗できないよ?」

 

「まぁそうだよね。何かいい方法ないかな……」

 

 

「じゃあさ~?もういっそ、人形ちょくせつぶんなげればいいじゃない?かるいんだし、よくとんでくとおもうけど……って、こいつおっっっもッ!!?」

 

 

そんな乱暴な方法なんてやるわけ………ん、いや待て?その案、意外と悪くない作戦かもしれないぞ。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあうるみ、お願い」

 

こちらの考えた作戦を一通り聞いたうるみ人形は静かに頷き、両手に抱えた石の赤子をこちらに託される。

何とも言えない寝顔をしている小さすぎる赤子のシュールさに多少困惑していると、既にうるみ人形は仕事を終えて戻ってきていた。どうやらそんなに時間は要らなかったようだ。

 

僕が今回うるみ人形を起用したのは他でもない。この子の持つ“身近な物の重さを変える程度の能力”に目を付けたからだ。

人形である以上、オリジナルと比べ対象に制約が掛けられてはいるものの、あの人形のサイズに合わせた大きさの飛行物体であれば恐らく問題はない。

そして、この能力には双方の使い道がある。そのことに気が付いたのは、あの時ミルミの放った一言だ。

 

早速僕は頼んでいた物を受け取り、テストを兼ねてうるみ人形が頼んでいた物を片手で上に数回放り投げてみた。

子供の状態にもかかわらず、軽く1mくらいの高さまで到達している。その感触から、こちらの思い通りにいったことを確信した。

 

「うん、ばっちり。ありがとうるみ、これで遠くまで飛ばせる。……後は手筈通りにね」

 

袿姫様の人形達は皆、粘土から作り出された為かオリジナルと比べて大分重たい。だが、“封印の糸に入った状態”ならば話は別だ。

そしてそれを遠くまで飛ばせてしまうくらいに“軽く”してしまえば、あの飛行物体のいるところまで糸が届く。

 

 

僕は頭の中で浮かべた人生で一度もやったこともない投球の構えを取る。

かつてテレビで見た野球の中継をイメージし、投げる糸を胸元に、送る位置を真っすぐ見据え、いもしないのに首を縦に振って準備完了。

糸を受け止めてくれるキャッチャーは当然、そこには存在しない。その役割を果たすのも、恐らく自分自身……1人で壁当てをしているようなものだ。

普段の運動をしない僕では、投げた球が壁に当たる前に数回地面にバウンドし、跳ね返ってくる頃には勢いが失われていて戻ってこないのが関の山。

しかし今ならどこまでも遠くに飛ばせるような、そんな気がしてならない。

 

 

「 (いッッッけえええええぇぇぇぇぇ!!!) 」

 

 

腕を振りかぶり、僕はあの飛行物体目掛けて全力でうるみ人形の入っている封印の糸を投げつけた。

投げる際、どうやら感情が高ぶってしまったようだがそれは何とか声に出さず心の中に留める。こんな大声、聞かれたら相当不味い。

 

空を切り、回転しながら勢いよく飛んでいく封印の糸……速度は申し分ない。

ぬえ人形がそのことに気が付いている様子もなく、撃退用の電磁波エリアに入っても異常を検知できていないようだ。

封印の糸はその高い防犯性を実現する為、簡単には壊れない仕様で出来ている。頑丈なのは勿論、耐電、防水、防火等々の機能が備えられたマジックアイテム……壊すなんて簡単には出来ない。

 

 

しかしいくら軽くなったとはいえ、自身の投げた糸が無事にあの飛行物体の元に届くかは正直不安が残る。

幸いにも狙いにズレはあまり生じていないようだが、僕は如何せんスポーツ全般素人……全力の投球なんて今回が初めて。球を自在にコントロールする技術など、当然持ち合わせてなどいない。

そんな奴が投げる球はやはり思い通りの方向には行ってくれないもので、最初こそ真っすぐ飛んで行っていた封印の糸も徐々に左方向に進路が曲がっていった。

 

どうする?中にいる人形に指示を出すにしてもここからでは遠すぎる。だからといって声を上げるとぬえ人形に気付かれてしまうのは明白。

あともう少しであそこまで届いたのに……そう諦めかけていた時だった。

 

「(……ッ!う、うるみ!?)」

 

このままでは届かないと事前に察したのか、うるみ人形は軌道が曲がり切るその前に封印の糸から飛び出し、飛行物体目掛けて手を伸ばした。そして、見事に片手で飛行物体の円盤部分の端を掴むことに成功する。

その衝撃で飛行物体は大きく揺れ、元々の人形自身の重さもあってか大きく傾いた。ぬえ人形はさぞ驚いたことだろう。

あのイタズラ人形にとって、今までその飛行物体は沈む筈のない豪華客船だっただろうが……それも間もなく泥船へと変り果てる。

 

しかし、うるみ人形もアドリブでよくしがみついてくれた。もし届かなかったらと思うと凄くヒヤヒヤしたものだが……これが“母の意地”というやつなのだろうか。

何にせよ、彼女のファインプレーを無駄にする訳にはいかない。僕は大きく息を吸った。

 

ぬえ人形も侵入してきた何者かを急いで振り払うべく不可思議なSFチックな機械音を鳴らしながら上下左右に動き続けているようだが、もう遅い。早急に地上へと降りてきて貰おう。

溜めた力を天にまで届くような声量に変え、指示を出す。

 

 

「 うるみ!! その乗り物をうーんと、重くするんだッ!! 」

 

 

人生の中で一番の大声がこの霧の湖へと響き渡ると同時に、飛行物体はまるで重しを科せたかのように下へ下へと落下。

落下するにつれて徐々に低くなっていく機械音と共に、飛行物体は間もなく地面へ激しく激突した。

 

 

 

落ちた衝撃で激しく土煙が舞う中、僕の元に涼しげな顔でうるみ人形が戻ってきた。

そしてゆっくりと両手を上げ、こちらが持っている赤子の返却を要求してきたので早々にお返しする。動揺のないクールなその姿に、思わず気を飲んだ。

彼女を封印の糸に戻しながら僕は、初陣にて巻き込み事故で気絶させたことを心の中で謝罪する。

 

気を取り直して改めて落ちた飛行物体に目をやると、そのシルエットにはどこか見覚えがあった。

“Unidentified Flying Object”……僕の世界に存在する人気のソース焼きそばにも、その名前は使われている。

こちらの一般的な認識と違う箇所があるとすれば、ボディが全身“赤色”ということくらいだろうか?本物は初めて見た。というか、実在したことそのものに驚きだ。

 

 

 

 

 

 

「……あった」

 

落下した飛行物体……基UFOの近くから探していた物を発見。あの人形が盗んだリョウの封印の糸だ。

他にも様々な盗品らしき者が辺りに散らばっているようで、ぬえ人形の手癖の悪さが伺える……ついでに回収しておこう。人里の住民の物が大半だろうから、この姉弟にでも預けておけば返っていく筈だ。

ちなみに、本体と思われるぬえ人形自身はというと落下の際に頭を強く打ったらしく、少し離れた場所で気絶していた。UFOに乗ってるくらいだからどんな宇宙人が出てくるかと身構えていたが、その正体は黒髪で同色のワンピースを着ているような少女人形だった。……少しだけ、拍子抜けした自分がいる。

放っておくとまた同じく悪いことを繰り返すだろうと判断し、現在は「拘束」という名目で封印の糸に捕らえてある。

 

「どうもありがとう!!大事なパートナーだったんだ!」

 

「これからはなくさないよう、しっかり持っているんだよ?」

 

「うん!僕、人形解放戦線のこと誤解してた。実はいい人達だったんだね!」

 

「……あ、ありがと。弟の人形取り返してくれて。それじゃ私達、もう行くから」

 

互いに手を振り合い、僕らは霧の湖を後にして人里に帰っていく姉弟の背中を見守る。

これで霧の湖に起こっていた奇妙な現象もなくなり、人が通りやすくなるだろう。良いことをするのは気持ちがいい。

 

「……っていうかっ!!人形のかいほーするんじゃなかったの!!?これじゃあむだぼねじゃないのよ!!」

 

「ハハ、まー偶にはこういうのもいいんじゃないかな?……ちょっと、懐かしい気分になったし」

 

「え?懐かしい?」

 

「――!あぁいや!何でもないよ。気にしないで」

 

ふと我に返ってしまったミルミを他所に、リグルが意味深な一言を漏らす。“懐かしい”だって?

追及されるのが嫌なのかはぐらかされてしまったが、気にするなというのは無理な相談だ。……だが、今追及するのは止めておいた方がいいだろう。

僕はまだここに入ったばかりの新人……リグルにここに長く所属してる大先輩。滞在する時間はなくとも、情報収集する際の段階もある程度は踏まなくては怪しまれる。

 

「いやいやいや、ぜんぜんよくないわよ!!リーダーにどうほーこくするのよこんなの!?いまからでもあいつらの人形むりやりにでも」

 

「ミルミ、勝手な真似はしないでよ?それをするのは僕が許さない」

 

「ぐ、ぐぬぬ~~~……目の前にいいカモがいるってのに」

 

「それにさ、ほら」

 

暴れそうなミルミを抑制しつつ、僕は遠くに見える兄弟の方を指差す。

そこには弟のリョウの人形が再開を祝して喜びのスキンシップを行っている微笑ましい双方の笑顔が、沈みゆく夕日に美しく照らされていた。

 

「あんなに仲良しの2人を引き離すなんて、絶対にするべきじゃあないと思うな。僕は」

 

「な……そ、そんなバカみたいなりゆうで……… ……… ………」

 

「ふん、まーこんかいはと・く・べ・つ・に?みのがしてあげるわよ」

 

「フフ、じゃあ2人共、今日はそろそろ帰ろうか?……それにしても、今回も収穫なしかぁ。流石に怒られそうだな」

 

あの一言からあの一言から、彼女が今回僕の行動に異を唱えなかった理由が薄っすらとだが見当がついた。やはり、ここは只の迷惑集団という訳ではない。

過去の人形解放戦線……やはりこれを詳しく調べてみる価値は充分にありそうだ。そしてその鍵を握るのは、恐らくリーダーのメディスンと古参である人里を襲ったあの4人組。

 

少しずつでもいい。まずはこの人達との交流を深めていこう。

 

 

 

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