人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十九章

 

「どうだ菫子、初めての箒乗りは?飛翔とはまた違った趣だろ?」

 

「……うん」

 

「う~~ん、やっぱこの時間帯の風は涼しくて気持ちがいいぜ。お前もそう思わないか?」

 

「……うん」

 

 

夕方、遂に決戦の日を迎えた私は魔理沙っちの箒に跨りながら博麗神社に向かっていた。

 

霊夢さんとの人形バトルを行う為に……

 

 

「何だぁ?今日は随分と口数が少ないじゃないか。らしくないな」

 

「いやだって、怖いのよ。霊夢さんと戦うの……はぁ~~~、何で喧嘩売っちゃったかなぁ私」

 

「そういやお前、異変起こした時も霊夢にコテンパンにされたんだったか?それでよくまた挑もうと思ったもんだ」

 

「………本当よ。お陰で魔理沙っちを巻き込んでの特訓の日々……舞島君のしんみょうまる人形には取り返しのつかない大迷惑掛けちゃった」

 

紅魔館で起こったあの事件以来、しんみょうまる人形はもう戦えなくなってしまった。

私が目を離してさえいなければと思うと、今でも後悔してしまう。

 

「ありゃあ事故みたいなもんだ。お前が責任感じる必要性はねぇ。あいつも言ってたろ?気にすんなって」

 

「……うん、ありがと魔理沙っち。……な、何よその顔」

 

「いや……お前がそんな素直に感謝するなんて珍しいからさ」

 

「えぇ?私ってそんな薄情なイメージ?」

 

「んーなんっつーか、プライドが高かったよな。以前のお前なら、絶対そんなこと言わなかったぞ」

 

「……きっと、あいつのお人好しが映ったのね。こんな恰好してるし」

 

「ハハッ!そいつは違いねぇや!……でも、お前自身も変わっていってるんだと思うぜ?」

 

何だか、今日の魔理沙っちはいつも以上によく喋ってる気がする。

元気のない私を気遣ってくれてるのか、それとも単にそういう気分なのか……でも、お陰で少し気が楽になった。

 

「私も、今まで出会ってきた色んな奴の知識を吸収してきた。生憎、私には生まれついた優れた才能ってやつはなかったからな」

 

「え、そうなんだ?ちょっと意外」

 

「だから魔法の森で生活を始めた時なんかは、香霖の奴にえらく心配されたよ。ま、今ではそのお節介に感謝してるんだけどさ」

 

片手に持った八卦炉を眺めながら、魔理沙はそう呟く。それって霖之助さんからの贈り物だったのか。

あの人の性格上、貴重で強力なマジックアイテムをタダで譲るとは思えないが……やはり、この2人からは何か特別な関係性を感じざるを得ない。

 

「――なぁ董子、あの時お前言ったよな?友達を作るのも悪くないって。……それは今も変わらないか?」

 

先程まで明るかった魔理沙の声が低くなったことで、場の空気が変わったのを感じる。

内容的にも、これから話すのは割と真剣な話なのだろう。そう察した私は気持ちを切り替え、彼女の話に耳を傾けた。

 

「うん、そうね。あれ以来、普通の生活も悪くないって思ったよ。霊夢さん達のお陰ね」

 

「そうか。……人形達はどうだ?お前にとって、そいつらは今どういった存在になってる?」

 

「うーん、最初はどうなるかと思ったけど、接している内に何だかすっかり愛着沸いちゃってさ?今じゃそうだな……うん。頼れる相棒って感じ。いっそこのまま人形遣いになるのも悪くないわ。ま、この子達はあくまで舞島君の人形なんだけどね……ハハ」

 

「……そいつを聞いて安心したぜ。菫子よ、どうして私がお前の修行にわざわざ付き合ったか分かるか?」

 

「そりゃあ私が半ば無理矢理お願いしたからじゃ……って、あれ?言われてみれば魔理沙っちってそんなホイホイと人の頼みごと聞かないような……まさか?」

 

「あぁ、このバトルの勝敗には“それなりの見返りがある”。だから引き受けたんだ」

 

「見返りって……言っとくけど私、そんなもの用意してないわよ?」

 

「分かってるよ。後、私は言ってる見返りはモノじゃない。“霊夢”のことだ」

 

「れ、霊夢さん?」

 

「あぁ、今のあいつは……なんていうか、焦っている。1人で解決しようとしている。そんなの出来っこねぇのにさ……だから董子」

 

 

「お前の手で、あいつの目を覚ましてやってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ。霊夢の奴、既に待ってやがるな」

 

上空から下を見下ろすと、博麗神社の参道に立ち尽くし腕組しながら仁王立ちをしている霊夢さんがそこにいた。

遠くからでもピリピリと伝わるこの威圧……流石は博麗の巫女と言ったところだろうか。……かつてオカルトボールの力を解放して対峙した、あの時を思い出す。

 

「よし、じゃあ降りるぞ。くれぐれも菫子だってこと、あいつにバレねぇようにな」

 

そう言うと魔理沙っちは下へ下へゆっくりと箒の高度を下げていく。私がわざわざ飛翔せず魔理沙っちの箒に乗せて貰ったのも、舞島 鏡介としての演技の一環だ。

彼は超能力なんて勿論使えないし、飛ぶことだって出来ない只の人間……霊夢さんにとっても、彼はそういう認識である筈だ。

 

当の霊夢さんはと言うと、目を瞑りながら静かにこちらの到着を待っている。

着陸する際の風に煽られながらも一切姿勢は崩れず、その集中を乱すことはない。

 

「逃げずに来たわね。その度胸は認めてあがるわ」

 

「それはどうも。かの有名な博麗の巫女から賞賛を貰えるなんて光栄ですよ」

 

「何だ、私と一緒なのには特に反応なしか?」

 

「……ま、以前から知り合いなのは聞いてたし。そんなに不思議なことはないよ」

 

普段のトーンで淡々と喋ってはいるものの、霊夢さんの目線は常に舞島(わたし)に向いている。

それを見た魔理沙っちは半ば呆れたように軽く溜息をつくと会話を一旦中止し、私を霊夢さんから少し離したところへと離陸させた。

 

「約束通り、バトルをしに来ましたよ霊夢さん。その様子からして、もう準備万端といったところですか?」

 

「まぁね」

 

「そういえば、まだ具体的なルールを決めていませんでしたね。内容はそちらに任せますよ」

 

「それじゃあ使用人形は3体、途中の交代はあり、バトル中の回復アイテム等の利用はなし。これでいきましょう」

 

「分かりました」

 

今の私の手持ちはユキ、こがさ、そしてけいき人形の系3体。数はピッタリだ。

霊夢さんの手持ちの人形については……正直、まだ何も知らない。魔理沙っちから事前に聞いておいても良かったのだが、下手に事前情報に流されれば思考が鈍ってしまうかもしれない。

それに……仮に万全に対策を講じたとしても、霊夢さんには通用しないのではないかという一種の恐怖さえ感じている。ならば、実戦でどういう動きをするのかをこの目で見て対応した方がマシというものだ。

 

だがしかし、私だって舞島君程の実力はないにしろ、ここ数日で出来るだけの特訓と人形についての知識の吸収はしてきたつもりだ。

勝てる見込みがあるかと言われれば微妙なところだが、大人しく負けてやるつもりなど毛頭ない。精一杯、必死に抗ってやる。

 

「先に謝っておくことがあるわ」

 

「?」

 

「この異変が始まってからというもの、ここの結界をいつも以上に強めている。悪いけど、帰れるのは当分先になるわ」

 

「……それは、どういう意味ですか?」

 

「今日アンタは私に負けて、この異変の解決から降りる……そういうことよ」

 

この勝負で万一負けることなど一切考えていない……彼女の絶対なる自信が見て取れる。

魔理沙っちの言っていた異常な舞島君へ勝つための執着心は、これを見るにどうやら本物らしい。それ程までに、あの敗北は霊夢さんにとって屈辱だったのだろう。

 

……つくづく、損な役回りをしていると実感させられる。まぁ最終的に喧嘩を売ってしまったのは私ではあるのだが。

 

「あの、バトルの前に1つ聞かせて下さい」

 

「……いいけど、手短にね」

 

「あなたはどうして、この人形異変の解決に拘るのですか?確かに人形は危険な存在かもしれない……だけどっ!僕ら人形遣いが気を付けることでそれはちゃんと防げる筈です」

 

口ではこう言ってるが、本当は霊夢さんが何故異変の解決を優先しているのかは検討が付いている。

それでも敢えて聞いたのは、あの時“残留思念感応(サイコメトリー)”で見た霊夢さんの過去の記憶……その詳細を少しでも知りたいからに外ならない。

 

「ふん、知れたこと!元の平和な幻想郷に戻す為に決まってるわ。人形はこの幻想郷にとって、害でしかない……現に、これまで悪用者の手によって様々な被害が出てる。これ以上それを増やす訳にはいかないわ」

 

「……何か、あったんですか?過去に」

 

 

「負け犬になるアンタに、それを知る必要はない。さぁ、いくわよッ!!」

 

「――ッ!」

 

 

霊夢さんが封印の糸を構え、臨戦態勢に入った。いよいよ始まる。

あの時見た過去の内容……微かにだが、その中に「人形解放戦線」というワードが出ていた。つまり、それを知ることさえ出来れば舞島君の知りたい過去の人形解放戦線についての情報も自ずと手に入る筈。

 

その為にも、この3日間で培ってきたもの全てを霊夢さんにぶつけて勝利をもぎ取らねば。

 

 

「……この流れ、審判すんの私か?まぁいいけどよ」

 

 

 

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