人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十章

 

幻想郷の巫女 霊夢が勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

「 いきなさい、あや!! 」

 

 

霊夢さんが先発で繰り出してきたのはあや人形。以前、舞島君が戦った時の情報によれば属性は「風」。

当然、スタイルチェンジは果たしているだろうから他の属性との複合か、もしくは属性が変わっている可能性はある。

 

舞島君の話によれば、あや人形には「ストライクショット」という「闘」属性のスキルを持っていたらしく、正反対の属性攻撃に不意を突かれたとのこと。

もしかすると、スタイルチェンジで追加されたことによってその「闘」属性の複合になっているかもしれない……用心しておこう。

 

 

「けいき、君に決めた!」

 

 

私が選択した人形はけいき人形。

けいき人形は「大地」属性であり、相性的に考えればあや人形に対して不利。それに先程の予想が正しければ「闘」属性は弱点であり、対面としては最悪の状況である。

 

「(………あれは何の人形?見たことない奴ね)」

 

だがしかし、私の出した人形を霊夢さんは神妙な顔持ちで見ている。やはり、この人形はまだ初見。

こちらが敢えて不利な「大地」属性を選出していることは今のところバレてはいない。

 

 

「ん、それじゃあ互いに出したところで」

 

 

「試合開始だ!」

 

 

私達の間に立っている審判役の魔理沙っちが上げていた片手を勢いよく振り下ろし、試合開始の合図を送った。

 

 

「こっちから行くよ!けいき 陰の気力!!」

 

 

まずはこちらからの先制攻撃。軽いジャブを相手に送る。

陰と陽の気力はどの人形の持つ基本攻撃……これならば相手に情報を一切与えないし、牽制には丁度いい攻撃だ。

 

「……舐められたもんだわ。あや!ツイスター で迎撃!」

 

それに対し、霊夢はあや人形に「風」属性のスキルで対抗。流石に序盤で他の属性スキルは見せてはくれないか。

あや人形の持っている葉団扇から放たれる風の弾幕はけいき人形の弾幕を軽く打ち消し、力量の差を見せつける。

更にアビリティの「一斉射撃」によって計5発もの確定連続攻撃という驚異の性能に変貌。よって、弾幕を打ち消し合ったとしても残りの弾幕がけいき人形に向かってくる。

 

「バリアオプション!」

 

だがそんなことくらい想定内だった私は防御手段であるスキル指示をけいき人形に送った。

指示を受けてすぐに身代わりの埴輪を目の前に生成(クリエイティブ)したけいき人形はツイスターの攻撃を受けた反動から身体を吹き飛ばされながらも身を守ることに成功。だが、受け止めた埴輪人形はボロボロと崩れ去ったのを見るに、その威力の高さが伺える。

 

「もっと本気でやって欲しいわね」

 

「………」

 

「……だんまりか。ホント、気にくわない。でも、さっきの攻撃でそいつの実力は大体分かった。見たところ、スタイルチェンジして間もないってところかしら?」

 

「ッ!」

 

「図星?言っておくけど、私の人形達のレベルはそいつの2倍はあるから、万一にも勝ち目なんてないわ。そんな明らかな新入りを採用するくらいなら、あの時の針妙丸の人形のほうが幾分マシだったんじゃないの?……今からでも交換すれば?」

 

確かに、霊夢さんのあや人形と私のけいき人形の力の差は歴然……このまま戦ってもジリ貧だ。彼女の言ってることも間違ってはいないのだろう。

しかし、人形バトルは力の差だけで勝敗が決まる訳ではない。しんみょうまる人形が戦えなくなってから、私はまだまだ力不足なこの子をどう扱うかを1番に考えた。当然だ。

今の私に他の候補なんていない。この子に明確な役割を与え、後続に少しでも貢献させる……それくらい出来なければ勝利は有り得ない。

 

それに、けいき人形にはまだ“隠された力”がある。それを上手く当てることが出来れば、レベル差があれど勝てる……と、私は見込んでいる。

気を付けなければならないのは、この力を最大限発揮できるのは“1度”だけだということ……そしてそれを悟られない為にも、相手に極力情報を与えない立ち回りが必要だ。

 

「そんなの、やってみなくちゃ分かりませんよ!けいき! 陰の気力!」

 

「ふん、何度やっても同じよ! ツイスタ―!」

 

霊夢さんの言う通り、けいき人形の弾幕があや人形のスキルによって掻き消され、残弾が再びこちらへ襲い掛かった。

「バリアオプション」は使う代償に人形自身の耐久を削る為、無限に使える防御手段という訳ではない。ここは別の手段で対応する。

 

「地走り で弾幕をかわして!」

 

指示を受けたけいき人形はバタバタと足を世話しなく動かしながら勢いをつけると、飛んできた風弾幕の僅かな隙間をダッシュで駆け抜けてることで被弾を逃れる。

本来は俊敏値のステータスをを上昇させるだけの変化スキルも、対応さえ間に合えば回避手段として活用も可能だ。どんな強力な攻撃も、当たらなければどうということはない。

 

それに、幸いにもこのバトルフィールドには人工物の存在しない裸の地面が存在している。

後、霊夢さんは周りに被害が及ばないよう周囲に最低限の防御結界も張っている……これは、利用出来そうだ。

 

「ちっ、小癪なッ!あや!ストライクショット を連発しなさい!」

 

「けいき!まだまだ 地走り を使い続けるんだ!」

 

上空から次々と飛び交うあや人形の放つ拳の弾幕……それらを走り続けながらかわし続けるけいき人形。

攻撃が当たりこそはしないものの、こちらも守りに入ることしか出来ないという状況に似っている為、一見霊夢さん側に分があるように見えるだろう。

だがしかし、これこそ私の狙い通りの展開だ。卑怯と言われようと、私は勝ちに貪欲になる。

 

「……けほっけほっ!おいおい、すげぇ量の煙だな。前見えくなっちまうぜ」

 

魔理沙っちの漏らしたクレームの通り、今フィールドは地面を駆け抜けるスピードと拳の弾幕が地面に衝突し続けたことで大量の土煙が舞い上がっている。

しかも霊夢さんが予め周りに被害が及ばないよう張られた結界によって砂煙が外に出られず充満。これによってまともに周りが見えないという状況が完成する。 

 

「(……ッ!そうか、本当の狙いは目くらまし……!でも、そう何度も同じ手は食わない!)」

 

「あや!上から ショックスタンプ!煙とあの人形諸共吹き飛ばして!」

 

私の狙いに気付いたのか、霊夢さんは攻撃を一旦中止し煙を晴らす判断に出る。流石霊夢さん、鋭い勘の持ち主だ。

 

地面から距離を取ったあや人形は背中の翼を羽ばたかせることで強烈な突風を巻き起こし、砂煙をあっという間に吹き飛ばす。

広範囲の及ぶその攻撃は煙の中のけいき人形を巻き込んだかに思うだろう……でもそうはならない。そうなる前に、けいき人形に指示を2つ送っているからだ。勿論、相手に聞こえないようジェスチャーで。

 

「……!?い、いつの間に」

 

砂煙が晴れ視界が良好となった場にいたのは、けいき人形ではなくまたもデコイの埴輪人形。攻撃を受けた埴輪人形は崩れ去り、現れたのは既に自分の周囲に六角形が無数に集合した防御壁を展開させているけいき人形だった。

隠れている内に使ったのは「フィールドプロテクト」。相手の使う集弾スキルのダメージを半減させる効果を持つ補助のスキルである。

 

事前情報によれば、霊夢さんの使う手持ちは「集弾」スキルを得意とする人形ばかり。

よって、集弾スキルを半減させるこのスキルは霊夢さんにとってかなりの痛手となってしまう。

 

「まさか、私の張った結界を逆手に取るなんてね。随分こすい手を思い付くじゃない」

 

「……誉め言葉として、受け取っておきますよ」

 

 

 

「……だけど、無駄な足掻きね。例えそうやって防御を固めたとしても、そいつには私の人形を倒す手段がないみたいじゃない」

 

霊夢さんの言っていることは正しいだろう。このまま戦っても、防戦一方である事実は変わらない……ここは一つ、別の攻め口でいってみよう。

 

「じゃあ1つ、良いことを教えてあげます。僕のけいき人形のアビリティは「理不尽」、効果は「対面している相手の人形のSPをいつもより多く消費する」……つまり実質スキルがいつもの半分の回数しか使えなくなります。そしてあなたは今、けいき人形に数回攻撃を使って未だ当てられずにいる……僕はこのまま逃げに徹して、あなたの人形のSPが尽きるまで粘るつもりでいます」

 

「それでも、まだその人形で戦い続けますか?僕は別にいいですけどね。戦力を確実に1つ減らせる訳ですから」

 

「……それは、揺さぶりのつもりなのかしら?その手には乗らないわよ」

 

「嫌ならそれでもいいですよ。さっきのスキルだって、そう多くは使えない筈……後で後悔することになっても知りませんよ?」

 

「――ッ………」

 

私の行動に何かを感じ取ったのか、霊夢さんは無言であや人形を封印の糸へと戻し、控えの人形を出す選択をとる。それは極めて冷静な判断であった。

その意図はまだ掴めてはいないものの、これで控えの人形の正体が分かる。ワザと人形の情報をベラベラと喋った甲斐はあったようだ。

 

さて、霊夢さん自身の人形は当然いるとしてもう1体は誰なんだ?

 

 

「かせん!出番よ!」

 

 

霊夢さんが出した人形……それは、茨木 華扇の姿をした人形だった。彼女のことはよく知っている。

彼女は私が異変を起こした時、初めて会った妖怪の人物……あの特徴的な包帯に包まれた右腕、中華を彷彿とさせるシニヨンキャップ、茨の模様の書かれた前掛け……本人と何ら遜色ない見た目だ。

最初こそ敵対関係にあった彼女が、今や数少ない私の友達……人生、何があるか分かったものじゃない。最近彼女とは全然会えてはいない故、見ていると少し寂しい気分にさせられる。

 

……さて、ではそんな華扇ちゃんの人形の属性は何か?

私は実際に本人との戦闘経験がある……それに基づくとするならば、「闘」属性はまず間違いない筈。

当時、近接を駄々っ子パンチやヒップで乗り切ろうとしていた自分が恥ずかしくなるレベルの洗練された格闘術……あれで属性に入っていなかったらそれはもう詐欺に近い。

問題はもう1つの属性だが……分からない。私の知っているのは様々な動物を飼っていることとか甘いものが大好きだということとか結構食い意地張っているとか説教好きの仙人であることくらい。

正直、どれも属性のヒントとしては薄い。私は華扇ちゃんのことをまだまだ知らずにいるようだ。

 

「こんな時に考え事?かせん 土砂の荒波ッ!」

 

「――ッ!」

 

そんなことを考えている内に、霊夢さんが先手を打ってきた。しかも予想外の攻撃法で、だ。

まさかの散弾スキル持ち……しかも、あれはどう見ても「大地」属性。威力が低かったとしても、通す訳には行かない。

 

「バリアオプション!」

 

私は3度目のバリアオプションをけいき人形に指示する。これでもう、後に引けなくなってしまった。

 

「おわっと!!?あっぶねぇなおい!!」

 

かせん人形の左手から大地の出すエネルギー……それを地面に込めたことで出来た土の大波は、いるもの全てを巻き込むかの如く広範囲へと侵食していく。

それを見て思わず箒で空へと避難した魔理沙っちだったが、けいき人形にはその術がない。よって生成した埴輪人形にしがみ付くことで、攻撃から身を守る形となった。

私も舞君を演じる関係上、空を飛べなかったが運よくデコイの埴輪人形が壁となったことで直撃は何とか避けられたようだ。

 

しかし霊夢さん、この比較的狭い空間で何というスキルを……そう思っていた時だった。

 

「……――ッ!い、いない!?」

 

私は大きなミスを犯してしまう。攻撃してきたかせん人形を見失ってしまったのだ。

急いで見渡すも、目に見える範囲のどこにもいない……そんな焦る私を他所に、攻撃を受けたデコイの埴輪人形にヒビが入った。

 

「……今よ!」

 

霊夢さんがそう口にした直後、デコイのヒビから鎖の付いた鉄の腕輪の掛かった左手が壁を突き破りながら現れ、けいき人形の顔を正面から鷲掴んだ。

突然のことで反応が出来なかったけいき人形は、そのまま地面へと叩き付けてしまう。自分が動けない状態になったことに数秒立って気が付いたけいき人形は引き剥がそうと抵抗するも、かせん人形の抑えている左手がそれを許さない……無理もなかった。けいき人形と霊夢さんの人形とでは、明らかなステータスの差がある。

 

この一連のトリック……つまりかせん人形は死角であるデコイの埴輪人形のすぐ傍に潜り込んで姿を消し相手を動揺させた後、気配も殺してずっと機会を伺っていたのだ。全ては、この状況を作り出す為に。

霊夢さんはたった数回見ただけでけいき人形のバリアオプションの弱点に気が付いたんだ……まさか、あの攻撃が攪乱の意味も兼ねていたなんて。

 

「マインドコントロール!」

 

抵抗するも逆らえないけいき人形の目を、かせん人形は見開いた怪しい紫の瞳で洗脳する……一体、何をされた?

 

「これでその厄介な「理不尽」とかいうアビリティは封じたわ。残念だったわね」

 

「……くっ!」

 

どうやらさっきのスキルはこちらのアビリティに影響を及ぼすタイプのものだったらしい。

相手のSPを切らす戦法は交代をしない限りもう使えない……という訳か。やってくれる。

 

「そしてついでに当ててあげるわ。あの攻撃に対するあんたの行動の意味をね」

 

「!?」

 

「その人形、私は初めて見るけど属性は凡そ分かったわ。「地走り」、「バリアオプション」の外見、あや人形に攻撃手段がなさそうなところ……これらを踏まえればまず「大地」は確実。そして比較的ダメージを負わない筈の「土砂の荒波」の被弾を避けた点を考えると……」

 

 

「実はその人形、“あや人形に対して対抗出来る何かを持っている”んじゃない?だから執拗に隠してるんでしょ?」

 

 

「………」

 

「表情1つ変えない……か。じゃあひとまず、私の勘を信じておくことにしましょう」

 

ポーカ―フェイスを装ったものの、どうやら肯定と捉えられたように感じる。

属性が「大地」であることは要所要所見せてはいたので問題はないが、警戒され始めたのは少々痛いと言わざるを得ない。

 

「随分と姑息な手を使ってくるんですね?博麗の巫女ともあろう者が」

 

「そうね、らしくないのは自覚してる。でも……」

 

 

「その言葉、今の私には誉め言葉よ」

 

 

……やれやれ、すっかり仕返しをされた。勝ちに貪欲なのは、霊夢さんも一緒だということか。

何だろう、最初こそ霊夢さんの気迫に恐怖を感じていた私だが……バトルが始まってからは一切感じなくなっている。私も、血の気の多い幻想郷の住民として染まりつつあるのかもしれない。

 

「……フフフ」

 

「あはは……」

 

 

「(うわぁ、何だかヤべェ雰囲気になったなぁ……さっさと終わってくれ~)」

 

 

対峙する2人のただならぬ一種の殺意にも近いオーラを感じ取った魔理沙は、1人冷汗をかくのだった。

 

 

 

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