人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十一章

 

「戻れ! けいき!」

 

 

「それを私が許すと思うのッ!?かせん、人形遣いに隙を与えないで!!」

 

「ッ!」

 

アビリティを封じられ、人形の交代を余儀なくされた状況の中、霊夢さんはそれに対抗する指示を人形に下す。

人形の交代は封印の糸を正確に自身の人形へと照準を合わせなければ行使できない……あれは、その仕様を利用しての行動だ。かせん人形は私の動きに合わせてけいき人形をその剛腕な片手で荒々しく振り回してこちらの交代を妨害した。

 

激しく揺らされる度に何度も何度も地面に衝突させられるけいき人形……それを見て私は気が付いた。交代しようとすればするほど、かえってけいき人形にダメージを負わせていることに。

もしあのまま躍起になって交代しようとしていれば危なかった……冷静になれ。これでは相手の思う壺だ。

 

だが一体、どうすればいい?このまま黙ってけいき人形が気絶するのを待てとでも?……いや、そんなことになればただでさえ低い勝率がもっと低くなる。

 

 

考えて。考えるのよ宇佐見 菫子。

 

ここでけいき人形を交代させた方がいいのは事実。そしてかせん人形は今、私に注意を向けており、抵抗できないけいき人形には意識を向けていない。

けいき人形は……大丈夫、まだ意識を保ってはいる。だがそれも時間の問題……顔を鷲掴みにされている状況下では集中力を求められるスキルの発動は正直厳しい。仮に撃てたとしても、碌に前も見えていない暗闇の状態では十分な威力を発揮できないのがオチ。

 

少々、意地汚いやり方ではあるが……

 

 

「かみつけ けいき!!」

 

 

「……は?」

 

 

私の一見とち狂ったような指示を聞いて正気を疑う霊夢さんだったが、鈍い刺すような音とかせん人形の想像していなかった直接的な痛みに引きつる顔が私の作戦の成功を鮮明に物語っていた。

予想外の抵抗に思わず掴んでいた手から放し、その勢いで宙へと放り出されるけいき人形をすかさず私は封印の糸へと戻す。

 

“かみつく”……それは、けいき人形の赤ん坊時代からの悪癖である。戦えるようになった今でもそれは未だ治っておらず、その癖をなくすべく教育しようとした時期もあった。

だがそれが叶うことはなく……それがこんな形で役に立つとは。伊達に原作でひるみ効果を持ってはいない……何と優秀な攻撃手段であろうか。これはむしろ、個性として受け入れるべきなのかもしれない。

 

「……ちっ!あんたの行動はホント読めない。生粋の人形好きだと聞いていたけれど、案外野蛮なことさせるじゃない」

 

「意表をつけたのなら大変結構、お陰で無事にけいき人形を逃がせた。……こがさ 幽霊アンサンブル!」

 

けいき人形の交代先は、次鋒であるこがさ人形。これで実質、互いの手持ち人形の詳細が判明したことになる。

封印の糸から颯爽と現れたこがさ人形は空中で素早く愛用マイ金床を地面にドスンと置いた後、落下の勢いのまま持っていた金槌を打ち鳴らすことで先制攻撃を仕掛けた。

 

「ッ!下がって!」

 

「そうはさせない!続けて 置きリバーススプラッシュ!」

 

人形同士の距離の近さから飛んできた音符弾幕を後ろに避けようとするかせん人形の行動を阻害するように、背後の数歩先に水柱を設置させる。

「置きリバーススプラッシュ」の名の通り、すぐには発動せず半ばトラップの様に置くことで相手の動きを制限。スキルの性質上、充分な威力は見込めはしないが、元々のこがさ人形が持っている集弾ステータスの高さを考えれば足止めには十分。

この挟み撃ちの状況になった相手の取れる行動は、実に分かりやすい。

 

「(挟まれた……!?)上に飛んで!」

 

予想通りまんまと上に逃れたかせん人形。その行動は勿論、計算済みだ。

先程時使ったスキルの応用……きっかけは舞島君が「ファイアウォール」のスキルを防御に使ったのから着想を得て、何か他のことも出来ないかと思ったことだ。

このスキルの性質は本来、相手の攻撃を受け止めてから発動させるカウンタータイプの攻撃だったのだが、何回か使っている内にこがさ人形がこのスキルを発動させる場所をある程度コントロール出来ることが判明した。これは「リバーズスプラッシュ」というスキルを使い慣れた結果というよりかは、普段から鍛冶を行っているこがさ人形の職人としての腕の精密さがこの応用を可能にしているのだろう。

それはつまり、突き詰めれば様々なスキルでもっと他の応用も短期間で習得可能ということ。中々、ポテンシャルのある人形だ。

 

そして相手は今、宙に逃れたことで特大の隙を晒している。それをみすみす逃がす訳がない。

 

「アクアカッター!」

 

こがさ人形は背中に背負っていた傘を手の取って開いて水の力を溜め、一振り。すると圧縮された三日月形の水の塊が、かせん人形目掛けて数発飛んでいく。

このスキルは威力は低いが弾速がかなり早く、今のこの距離間では迎撃することは間に合わない。避けるという選択肢も、宙にいる状態ではほぼ不可能……だが、慢心はしない。相手はあの霊夢さんだ。

 

「……左手を地面に伸ばして地面に着地ッ!」

 

「――!」

 

かせん人形は包帯を巻いている左腕をフックショットの様に伸ばしてそれを拳で地面に突き刺すと、素早くそれを縮小させることで地上へと移動する……やはり、これくらいは対策済みだったか。

確かに元になっている華仙の左腕には煙が詰まっていて、それを自在に操れるという特徴がある。それをバトルで存分に活用したって訳だ。

 

 

「土砂降り!」「正拳突き!」

 

 

「攻撃が来る」「反撃を仕掛ける」という思考が合わさることによる、同時のスキル指示。

かせん人形の地面から抜いた左拳がこがさ人形目掛けて飛んで来るも、頭上に雨雲を発生させ雨を降らし、直接それを浴びることでステータスの強化をしていたこがさ人形は持っている傘を盾代わりとすることで攻撃を軽く受け止めた。

更に、今はけいき人形の残した「フィールドプロテクト」の効果でこちらが受ける集弾スキルの威力は半減している。「正拳突き」によるダメージはほぼ無いと言ってもいい。

 

「続けて 裏拳打ち!」

 

しかし、まだ霊夢さんのターンは終了していなかった。伸ばした左腕を再び縮小させることで攻撃の射程内へと瞬間移動したかせん人形は続けて右の裏拳をこがさ人形に強く叩き込む。

突然の連即攻撃、そして恩恵を受けた状態である筈のこがさ人形はその重い一撃に押され、反撃どころではない。集中力は切らしていないようだが、どうやら「土砂降り」のデメリットである俊敏値の低下が響いてしまっている。

 

 

「とどめの クロスドライブッ!!」

 

 

後一撃飛んで来たら……そんな嫌の予感は当然の如く当たってしまう。右の裏拳を叩き込んだ状態から、更にかせん人形は包帯で出来た左手を大きく変形させて「クロスドライブ」の構えを取っている。

あれを食らったら流石のこがさ人形でも大きなダメージを負ってしまう……それを見て私は改めて実感する。用意しておいてよかったと。

だって、私のターンもまだ終了してはいないのだから。

 

「今だ、こがさ!!」

 

「!!」

 

合図を聞いてこがさ人形が集中していた力を解き放ったその瞬間、かせん人形の足元が青く光り始める。

その光に目を向けたが最後、かせん人形は激しく噴き出した水柱に巻き込まれて後方へと大きく吹き飛ばされた。事前に攻撃を受けたことにより威力は倍増、さぞ効いた筈だ。

 

そう、こがさ人形の使う「置きリバーススプラッシュ」は発生位置の制御だけではなく……

 

 

「な!?い、いつの間に!?」

 

 

“1度で2つに増やす”という分散も可能なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の攻撃は流石の霊夢さんでも想像出来ない範疇だったようで、こがさ人形の放ったスキルは正面から直撃。

その瞬間、脳汁……基、アドレナリンが私の体内から分泌され、握った拳でガッツポーズを取ってしまう。やっと、相手にまともなダメージを与えられた。

 

 

「……… ……… ………」

 

「ッ!かせん、受け身を取って!」

 

 

当の不意を突かれた霊夢さんの顔からは、何が起こったのかという困惑が見て取れる……しかしそれも一瞬のことで、すぐさま切り替えてかせん人形の様子を目で追いながら指示を下した。

まだ意識が残ってたかせん人形はその指示を聞いて即座に両腕を顔の近くにクロスさせ、転がりながら着地することで地面に落ちる衝撃を最小限に抑える。

 

……やはり、分散したことで最大の威力を発揮できなかった分、かせん人形もまだまだ動けるようだ。

だがひとまず、相手の得意範囲から遠ざけられただけでも良しとしよう。

 

「(弱そうな見た目の割に、力はちゃんとある。「音」属性を使ってくるのも中々面倒ね……ここは)」

 

分が悪いと感じたのか、霊夢さんは無言で人形を交代を選択。

少々ズルいとも思ったが、ルール上特に問題のない行動である。そうなると、次に出てくるのは……

 

「あや、ツイスターで集中砲火よッ!!」

 

予想通り、「風」属性で弱点を付けるあや人形への交代……!

そうなると、切り札はギリギリまで出さないつもりでいるらしい。最後の戦いは切り札同士ということになりそうだ。

 

「こがさ!力を溜めて、限界まで引き付けろ!」

 

あれだけの弾幕……あれだけの広範囲。リバーススプラッシュでは到底間に合わないし、防げそうもない。

だがこがさ人形のポテンシャルはこんなものではない。攻めに関しても、彼女は様々な応用が出来る。

 

 

「……今だ!チャージアクアカッター!!」

 

 

こがさ人形の体から光の収束が1回行われたのを合図に、私はスキルの行使を指示。

力を解放したこがさ人形の一振りは先程よりも大きな三日型弾幕を1つ形成した。言うなればこれは、速さを犠牲にした代わりに限界までパワーを上げた“巨大アクアカッター”……こがさ人形が「土砂降り」を使った状態で出来るようになる攻撃手段の1つなのである。

 

あや人形の放ったツイスターはその三日月弾幕と衝突する度に次々と消滅していく。「土砂降り」によるパワーアップを果たしたこがさ人形と交代先で出てきたあや人形の力のぶつかり合い……その差は歴然だった。

 

 

「……あや!捨命の型 で突っ切って!」

 

 

突っ切る……?まさか、あの弾幕を正面から?

 

正気を疑ったが、あや人形の放った「捨命の型」のパワーは私の想像をはるかに超えていた。

物理的にも大きく強大なスキルであった筈の「アクアカッター」は、あや人形の全身全霊を込めた突撃によってパンと弾け飛んだのだ……いとも簡単に、だ。

 

霊夢さんもこちらの動向を学習しているようだ。避ける先に何かを仕掛けるという算段は読まれていたか。

それにしても、何の強化もない素の状態にもかかわらずあのパワーを引き出せるとは……レベル差があるとはいえ、滅茶苦茶だ。

 

「その勢いのまま、突撃ッ!!」

 

「ッ!」

 

突っ切ったあや人形はそのまま勢いを殺すことなく、こがさ人形目掛けて闘気を纏いながら突進してきた……凄いスピードだ。これではスキルの発動は間に合わない。

だが、そのスキルの弱点は知っている。それは外す、もしくは防がれたりした場合に深刻な自傷ダメージを負ってしまうこと。

今の集防をガチガチに固めた状態ならば、攻撃を防ぐことは決して難しくない。

 

「受け止めるんだ!」

 

こちらの指示に従い、持っている傘を開いて防御の構えを取るこがさ人形。

それと同時にあや人形の攻撃による衝撃で後ろへ激しく後退、目論見通り受け止めに成功したこがさ人形はそのまま相手を横に払った。

真っすぐに突撃してきた時は少々焦ったが、速度が持続されたまま霊夢さんの張っている結界に進路を変えたあや人形はこれで自滅する。

 

それにもかかわらず、霊夢さんは表情1つ変えずに相手を見据えていた。

違和感を感じた私はすぐさまあや人形の方へと視線をやる……すると驚きの行動を見せた。

 

「(ま、曲がった……!!?)」

 

結界に衝突するその瞬間、あや人形は背中の翼を畳んで素早くUターンすることでそれを回避した。しかも、その勢いのまま再びこちらへと襲い掛かってくるというオマケつきだ。

予想外の出来事に反応が出来なかった私は指示が間に合わず、あや人形の後ろからの強襲を許してしまうこととなった。

まさか、「捨命の型」の引き起こす制御不能なパワーをあの人形は自らコントロールしているとでも言うのか?一体どうやって……!?

 

「随分と驚いているようだけど、その“スキルの応用”はこっちだって色々考えてるわ。誰かさんの入れ知恵のお陰でね……さてはあんたのその応用も同じね?」

 

そう言いながら霊夢さんは魔理沙っちの方へ視線を向けると、彼女はこちらにだけ分かるように罰の悪そうな顔で申し訳なさそうなジェスチャーをしていた。

 

「……成程、そういうことですか」

 

そういえば、魔理沙っちは私だけじゃなく霊夢さんとも練習相手として付き合わされていたと言っていたのを思い出した。

私が編み出したスキルの応用も、魔理沙のアドバイスが発端だった。つまり、最初からこちらにアドバンテージなんてなかった訳だ。

 

スキルの応用込みでようやく互角といったバランスだったのに、先程の事実によってまたしても霊夢さんの方に天秤が傾いてしまった。「鬼に金棒」とは、正にこのことだろう。

 

 

果たして勝てるのか?このパワーアップした博麗の巫女に……?

 

 

 

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