人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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遅くなりました。お盆シーズンもあって、次回の投稿は早くても9月以降となります



第三十二章

 

霊夢さんがこちらを見ている。

 

敵意と警戒のこもった眼差しで、こちらを見ている。

 

 

今この時、私が人形に指示を出す素振りなどしようものなら、容赦なくあや人形の「捨命の型」が飛んで来るのだろう。

動くのが怖い……私は蛇に睨まれた蛙の如く、相手の放っているプレッシャーにすっかり気圧されていた。

 

「……来ないならこっちからいくわよ。 捨命の型ッ!!」

 

痺れを切らした霊夢さんが先制を仕掛ける。あや人形は先程よりも遥かに早いスピードで、こがさ人形に突撃してきた。

肉眼で捉えるのも厳しいスピードの攻撃を、持ち前の集中力で咄嗟に傘で何とか防ぐこがさ人形。ぶつかる度に衝突音がフィールドに鳴り、風圧が頬を伝う……それ程の威力があの頻度で襲ってきている。

これでは、スキル攻撃の指示を出すタイミングがない。

 

相手に直撃するまで追いかけ続ける弾丸のような威力とスピードの理不尽な攻撃……あんな芸当が可能なのは、鴉天狗という種族が持つ“翼”の存在が大きい。

鴉は元々、空中での加速、減速、蛇行といった行為も容易にこなせる優秀な運動能力を持っている。それに加え身体自体は人というハイブリット。その為、かなり自由の効いた飛行が可能となる。

「射命丸 文」が“幻想郷最速”の異名を持つのも、これらの要素が噛み合っている結果なのだろう。魔理沙っちや霊夢さんはその才能に逸早く気が付き、その能力を伸ばした……という訳だ。

 

 

こんな相手と、どう戦えばいい?

 

そう考えている間も、攻撃を受け続けているこがさ人形はどんどん追い詰められている。

だがそんな絶望的な状況の中でも、こがさ人形はこちらに目を向けて指示を待っていた。その姿を見て、私は目が覚める。

 

そうだ。人形達が頑張っているのに肝心の私がビビっててどうする……!

頬を強く叩いて気合を入れ直した私は再度思考を巡らせ、あの攻撃の対処法を考えた。

 

……やはり、あの「捨命の型」をどうにかして止めるしかあや人形に勝つ方法はないように思う。その為には、強引にでもスキルを当てていくしかない。

けいき人形が張ってくれた「フィールドプロテクト」の効果も、直に切れる……やるなら今だ。

 

あや人形の存在は、後続のユキ人形にも必ず脅威になってしまう。ここで確実に仕留める。

 

「こがさ!守りを捨てて、攻撃を受け止めるんだ!」

 

「ッ!(こいつ、正気!?)」

 

言われるがまま、こがさ人形は特に戸惑いもなく盾替わりだった傘を閉じて体で受け止めようと構える。こちらの意図が伝わっている証拠だ。

現状、こうでもしなければあの業はとても攻略できない。

 

「……ふん!ならお望み通り、再起不能にしてやるわッ!!」

 

半ば無謀にも思える正面衝突、「フィールドプロテクト」に守られているにもかかわらずこがさ人形はその攻撃を受け止めると同時に激しく後退。

足で何とか踏ん張ってはいるが、負けるのは時間の問題だろう。だがしかし、この一瞬だけでも攻撃を止めること、相手を拘束する事に意味がある。

 

こんな無茶な作戦を取ったのも、すべてはこの“スキル”をすばしっこいあや人形に確実に命中させる為だ。

 

 

「 今だ! 集中豪雨(しゅうちゅうごうう)!! 」

 

 

「 させるかッ! スマッシュスピン!! 」

 

「ッ!(拡散スキル!?こいつ、両刀型……!)」

 

あや人形の翼から巻き起こる突風をゼロ距離で受け、吹き飛ばされたこがさ人形はそのまま結界の壁に激しく衝突。

まさか今の今まで隠していたとは……不味い。元々、散防は高めのこがさ人形だが先程の無茶で耐久を大幅に消耗しているこの状況下では充分致命傷だ。

だが相手も万全な状態での発動ではなかった為か、まだ辛うじて気絶するには至ってはいないものの、最早こがさ人形はまともに動けるような状態ではなかった。

 

 

「まだよ!疾風迅雷(しっぷうじんらい)!!」

 

 

……だが幸い、まだ“戦闘不能”にはなっていない。そして、スキルはちゃんと成功している。ならば……!

 

 

「戻れ!こがさ!出番だ、けいき!!」

 

 

こがさ人形が決死に作った雨雲に濡らされながらも、構わず身体に電気を帯びて突進するあや人形。

そして衝突するその瞬間、人形に展開されている属性結界が交代先のけいき人形に対しての攻撃を無効化し、あや人形を後方へと弾き飛ばす。

「大地」に「雷」は無効……これは人形の放つスキルについている属性、その相性に基づいた結果だ。

 

「(……ちっ、対応されたか。ギリギリまで隠しておいたのに)」

 

「(あっぶなー……あれ通されてたらやられてた)」

 

今の一連の出来事……あれは後々けいき人形への交代を意識していたから出来たようなものだ。

いきなり初見のスキルが飛んできて対応できたのも、スキル名である程度属性を特定できたからに他ならない。……正直、あの瞬間に無償で交代が出来たのは運が良かった。

 

「……でも、結局状況は何も変わらないわ。ボロボロのそいつに、一体何が出来るっていうの?もう小細工ができるような体力もないでしょうに!」

 

「……えぇ。あなたの言う通り、もうこの子には「バリアオプション」を張るだけの耐久は残っていないし、動き回れるような体力も残されていない。だから……」

 

 

「もう、小細工はしません」

 

 

 

 

 

 

 

「けいき! スパークジャベリン!!」

 

けいき人形はエプロンのポケットから彫刻道具を1本取り出し、強く握りしめた。すると体からバチバチと電流が流れ始め、その力は金属の彫刻道具へと集中していく。

やがて電気を帯びた1本の鋭い槍が完成し、けいき人形はそれを相手にぶつけるべく投げる体制を整える。

 

「……フフ、アハハッ!何を隠しているのかと思えば、そんなものだったとはね!拍子抜けだわ!!」

 

「宣言するわ!そんな小さな電気じゃ、私のあや人形の攻撃が勝つ!無駄な抵抗はやめることね」

 

確かに、レベル差を考えるとこの攻撃であや人形を倒しきるなんて到底不可能だろう。

それは私もよくわかっている……ただ、あくまでそれは普通ならばだ。

 

「そんなこと言って、本当は怖いんじゃないですか?……“博麗の巫女”もあろうものが」

 

「――ッ!!……言ってくれるじゃない。私がそんな雑魚を、恐れているですって……?」

 

霊夢さんの殺気がより一層高まったのを感じる……先ほどの発言は彼女を怒らせるのには十分効果的だったようだ。

顔も見れないくらいの恐ろしい形相をしていて滅茶苦茶怖いが、それでいい。今はあの攻撃を誘うことが重要となる。

 

 

「 舐めんじゃないわよッ!!あや 捨命の型!! 」

 

 

「ッ!(来た!)」

 

 

「今だ!思いっきり投げ込め!!」

 

 

狙い通り、闘属性の「捨命の型」を選択してきたのを確認し、私はけいき人形に命じた。

電気を帯びた槍と、あや人形の闘気を纏った突撃の距離が徐々に狭まっていく……その瞬間が私の瞳にスローモーションで映し出され、胸の鼓動が鮮明に聞こえてくる。

 

2つは激しくぶつかり合うと激しい閃光の中、互いに1歩も引かない互角の勝負が始まった。

 

 

「……ど、どうして撃ち落とせないの!?力はこっちが上な筈……!まさか、装飾品!?」

 

 

予想外の展開に困惑する霊夢さんは、けいき人形のエプロンについているポケットから黄色い光が漏れ出していることに気が付く。

力が互角になった秘密は、けいき人形に持たせていた”ある装飾品”にある。

 

その正体は「トパーズ」。見た目は綺麗な黄色い宝石で、その効果は「「雷」属性スキルの威力を1度だけ高める」というもの。

力不足である今のけいき人形には、正にうってつけの装飾品……だが1度だけという制約上、ここまで雷属性スキルを温存する必要があったのだ。

 

だが、あや人形がこちらの強化されたスパークジャベリンを一向に破れない理由は別にある。

 

「(い、いくらなんでもおかしい。仮にあの装飾品が威力を上げているとしても、あれを押し返せない程あや人形は弱くない……いったい何が………!そうか、あの時……!!)」

 

「どうやら、気付いたようですね。今あや人形はこがさ人形から受けた「集中豪雨」によって全身が濡れている……水は電気を通しやすいんです」

 

 

「この勝負、僕の勝ちだ!」

 

 

強化された電気の槍が、全身が痺れたことで押し負けてしまったあや人形の左肩へと突き刺さり激しく後退。やがて結界へと激突した。

その衝撃がダイレクトに来たのか、あや人形はそのまま気を失ったようで顔を俯かせながらゆっくりと下にずれ落ちていく。

 

役目を終えた電気槍ははただの彫刻道具へと戻り、ポロンと地面に落ちたのを手に取った審判役の魔理沙っちはあや人形の様子を確認する。

 

 

「……あや人形、戦闘不能だぜ!!」

 

 

魔理沙っちによる高らかなジャッジが、バトルフィールドに響き渡った。

それを聞いて思わず声を上げ、喜びに打ちひしがれていたが、それと同時にけいき人形側も力を使い果たした反動からか倒れこんでしまった。

 

「けいき!?」

 

紅魔館の事件のトラウマから、私はけいき人形の元に急いで駆け寄って抱き抱える。

するとけいき人形の心地よさそうな寝息が聞こえてきて、安心から膝から崩れ落ちてしまう。全く、心配させよってからに。

 

「ん、こりゃあこれ以上戦闘はできないな。ということは、相打ちか」

 

一向に起きる様子がないけいき人形を見て、魔理沙っちはあや人形と同様に戦闘不能のジャッジを下す。

まぁ、これ以上戦えそうにないのはこちらも同意見なのでその判定には不満はない。

 

しかし、最も厄介だったあや人形を仕留めてくれた功績はあまりにも大きい。こがさ人形とけいき人形は十分すぎる程の役割も果たしてくれた。

私に残されたの人形は実質、ユキ人形のみとなってしまったが……勝てる見込みが多少出てきた。

 

 

相手の人形は残り2体……油断せずに行こう。

 

 

 

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