人間と人形の幻想演舞 作:天衣
二人の前に佇む一体の人形。
金髪で、背中に天使のような綺麗な純白の翼を生やしているのが特徴的だ。
しかし頭に輪っかがないということは、天使ではなさそうだ。アホ毛は生えてるけど。
そもそも、こんなに恐ろしい殺気を放っている存在が天使であってたまるか。
スカウターは今、光が装着している。
どういった奴なのかを調べるくらいはしておきたいので、光に提案してみる。
「…ねぇ光ちゃん。幸いまだあの人形はこっちに気付いていないみたいだし、スカウターであの人形を見てくれない?」
「……」
光の返事がない。どうしたのだろう?
様子を見てみると、未だに固まっている状態だった。
「…おーい?光ちゃーん」
目の前に手を振ってみるが、反応はない。しばらくして、
「…はっ!?」
ようやく気付いた。怯えていたのか、それとも驚いていたのかは分からないが、正気に戻ったようだ。
「えっと、大丈夫?」
「う、うん。それより、この子の情報なんだけど」
自分が言う前に、光はあの人形を既にスカウターで見ていた。言う手間が省けたな。
「名前はげんげつで、種族は…悪魔なんだって。説明のところは何も書いてなかったわ」
「悪魔…か」
お前のような見た目の悪魔がいるか、と言ってやりたい。
だが殺気を放つ存在としては納得がいった。
すごく強そうで、どこか他の人形とは違う雰囲気を漂わせている「げんげつ」と言う名前の人形。
関わってはいけないような、危険な存在。いかにもそんな感じだ。
「…光ちゃん、あの人形はちょっとやめておこう?気付かれないうちに離れないと危ないよ」
僕の人形達でも倒せるかわからない。
光ちゃんも慣れてきたとはいえ、いきなりこんな強そうな人形と戦わせるのは余りにも危険すぎる。
「え?…でも私、あの人形かわいいし結構気になってるんだけど…」
光ちゃん、騙されるな。可愛いのは見た目だけだ。…多分。
どうも固まっていた原因は、見とれていたからだな…。
「…ねぇ舞島さん」
「な、何?」
待って。嫌な予感がする。もしかして…。
「私、あの人形を捕まえたいよ。だって強くて可愛いなんて最強じゃない!」
予感が的中。思ったより単純な理由で光はあの人形が気に入ってしまったらしい。
頭の切れる子だと思っていたが、こういうところもあるのか。
「でも捕まえるには倒す必要があるし、勝てるかどうか…」
「大丈夫!いざとなったら舞島さんも加勢してくれれば何とかなるよ!」
何気にこちらも巻き込もうとしている。コラコラ。
「よーし!じゃあそういうわけで先手必勝! ユキ! 出てきて!」
宝石からユキ人形が飛び出す。
「摩擦熱!」
火の粉をげんげつ人形に向かって飛ばす。まずは状態異常にするみたいだ。
「…!」
しかし、気付いたげんげつ人形はこれを回避。
「流石ね。フフッ、見込み通りよ!」
何故か光はそれを嬉しそうに評価している。
「よし!そこの人形!尋常に勝負よっ!私のものになりなさい!」
げんげつ人形に向かい指を差し、勝負を挑む光。意外と強い敵と戦うのが好きなタイプなのか?
それを聞いたげんげつ人形は怪しい笑みを浮かべる。どうやら向こうもやる気のようだ。
…もうこうなってしまっては仕方がない。やばそうだったらこちらもしんみょうまる人形で応戦しよう。
野生の げんげつが 飛び出してきた!(飛び出してはいない)
「行くよ! ユキ! 陽の気力!」
光の指示を受けたユキ人形は、青い弾幕をばら撒く。
ユキ人形は散弾が頭一つ抜けて高い。この弾幕を防ぐのは並の攻撃では出来ないだろう。
しかし、げんげつ人形は笑っている。余裕だといわんばかりだ。
そしてげんげつ人形は赤い弾幕を放つ。恐らく「陰の気力」であろう。
赤い弾幕はすごいスピードで飛んでいき、青い弾幕を打ち消しながらユキ人形に飛んでいく。
「あ! よけてユキ!」
間一髪、ユキ人形はぎりぎりで弾幕を避ける。
飛んでいった弾幕は木にぶつかると亀裂が走り、メキメキと音を立てて倒れてしまった。
当たっていたらと思うと…ゾッとする。かなりの集弾ステータスを持っているのはそれだけで理解出来た。
「…すごい!ますます欲しくなっちゃった!」
しかし光は今の光景を見て、更に気に入った様子だった。この子怖い…。
「じゃあこれならどう!? ユキ! 火遊び!」
ユキ人形は手から炎を出して攻撃する。
それに対してげんげつ人形は、紫色の弾幕を放って応戦する。
その弾幕は、炎を打ち消すと弾幕の弾数が増えながらこちらに飛んでくる。
「ユキ! 陽の気力で弾幕を打ち消して!」
素早い判断でユキに指示を出す。
アレを避けるのは流石に無理があるのでいい判断といえるだろう。
青い弾幕を放ち、弾幕同士がぶつかろうとしたその瞬間、
紫色の弾幕は殆どの青い弾幕をすり抜けていった。
「え…!?」
「すり抜けた!?」
予想外の出来事に戸惑う光。
正直、自分も驚きを隠せない。幻覚の類か?こんな技もあるなんて…。
ユキ人形も混惑しており、どうすればいいかわからずにいる。
そして、弾幕をもろに受けてしまう。
しかし当たった弾幕はわずか数発で、殆どはフェイクだったようだ。
それでもユキ人形はかなり苦しそうにしている。結構効いたらしい。
げんげつ人形はすり抜けた青い弾幕に少し被弾しつつも、笑っている。
「…まさか、幻覚を使ってくるなんてね。面白いじゃない…!」
更に光のげんげつ人形に対する好感度が上がる。
「…光ちゃん、僕もそろそろ参戦する。この人形、かなり手強いよ」
「出来れば一人で片付けたかったけど、しょうがないね。お願い!」
もう1対1にこだわっている余裕はないと判断する。
「行け! しんみょうまる!」
宝石からしんみょうまる人形が飛び出す。
「行くよ!光ちゃん!」
「うん!」
ーーー戦うこと数分。
一応何回かは攻撃を当てることに成功したが、それでもまだ互角。
いや、こちらが少し劣勢だ。
「…こ、この人形、攻撃力もすごいけど、耐久もそれなりにあるね。もしかして、レベルが高いのかな?」
「た、多分…そうだと思う。そうでなきゃ2対1でこんなに苦戦はしないはずだもん…」
戦い続けながら、考えを言い合う二人。
予め買ってあった回復アイテムも使い切り、段々と追い詰められていってる状況だ。正直かなりまずい。
人形達もボロボロで、あと何発耐えられるか…。
…やっぱり関わるべきではなかったのだ。こちらの判断ミスだ。
あの時しっかり止めておけば…。そう思わずにはいられない。
「…まだよ!まだ勝機はある!あきらめちゃダメよ舞島さん!」
光はまだやる気ではあるが…ここからどう巻き返せるというのか。
何か、大きな一撃でも与えられれば、いけるかもしれないけど…。
そのような非現実的な考えていると、げんげつ人形が攻撃を仕掛けてくる。
「来るよ、舞島さん!」
「…!」
げんげつ人形は、何やら手元に光(ひかり)を集めている。
「…何あれ?まだ見た事ない攻撃だよ…」
新たな攻撃技であろう。まだそんな技を持っていることに絶望感を感じる。
しかし、狙っている手元の先には人形はいない。
その先にいるのは、
「(…!ま、まさかっ!?)」
光であった。