人間と人形の幻想演舞 作:天衣
人形の調査の為、魔法の森に向かう鏡介と光は人里の西門前にやって来た。
阿求から事前に知らされていた門番は、二人が五の道に通るのを許可。それを聞いた二人は先に進んでいく。
「おぉ…綺麗な道…」
門の先の風景を見て、鏡介は呟く。
川が道の左右に流れていてその水面には空が透き通り、日が差すことによりそれがキラキラと輝く。
こんなに綺麗な川を見たのは初めてで、都会育ちの鏡介にはすごく新鮮であった。
「…そう言えば舞島さん、その格好からして外来人だよね?この場所がそんなに珍しい?」
「うん。僕がいるところは化学とかが発展していて、こういった自然はもうあんまり日常ではお目にかかれないんだよ。だからちょっと感動しちゃった」
一の道に来た時も川はあったけど、あの時は余裕がなかった。
改めて見ると、この幻想郷は自然に満ち溢れていることが分かる。とても素敵な場所だ。
「もう、こんな場所で感動していたらこれから大変よ?幻想郷にはここよりすごい名所が沢山あるんだから」
「へぇ、それは楽しみ!是非行ってみたいなぁ」
道を歩き始めながら、二人でそのような会話をする。
これから色んな所に旅をするにあたって、鏡介の楽しみが増えた。
「この空だってね、僕のいる世界じゃこんなに澄んでいない時があるんだよ」
そう言いながら鏡介は空を見上げる。
「へぇ…。何だか信じがたいけど、それも化学ってやつのせい?」
それを聞いた光も同じく空を見上げる。
「そうそう、排気ガスなんかが空を覆ってしまってね」
「あー…そういえば幻想郷も一回空が一面赤い霧で覆われたことがあったわね。あの時は怖かったわ」
「え?そんなことが?…想像できないなぁ」
光の言ったことは恐らく、「異変」と言われているやつであろう。大森もそういうのがある言っていたような気がする。
今起こっている人形が溢れかえっているこの状態もそう呼ばれているみたいだし、異変というのは幻想郷に起こっている事件のようなものと認識していいだろう。
「でもね、あの異変は我らが博麗の巫女がズバッと解決してくれたのよ!あぁ、霊夢様…素敵だわぁ…」
この幻想郷の博麗の巫女、『博麗 霊夢』。
彼女とは一度会ったが、自分を初めて見た時のあの眼光は今でも覚えている。あれはこの異変と関係がある人物かあるいは元凶であるか見極めていたのであろう。
もし自分がこの異変を起こした人物だったとしたら…その場で退治されていたのだろうか。あの様子を見る限り、それはイエスだ。
「そして今回の人形異変、あの霊夢様も苦戦しているって話なのよね…。だからこそ、私は強くなってあの方の助けになりたい!なりたいのよ舞島さんっ!」
「う、うんそれは分かったから…」
霊夢のことを話すと途端に熱くなる光。憧れの人物だからだろう。
大森が推しのキャラを話す時も大体あんな感じだ。それに加えてあいつはキモイ。
「…舞島さん!私は今、霊夢様のこと語りたくてしょうがないから道中付き合って貰うわよ!」
「えぇ…また突然だね?まぁいいけどさ」
突然の光の話題を渋々受け入れる。
こういうのは大森で慣れているから平気ではあるし、博麗 霊夢に関する情報も聞けるならそこまで悪い話じゃないだろう。長い道中の暇も潰せて一石二鳥だ。
「まずは霊夢様の持つ能力!霊夢様の能力は「空を飛ぶ程度の能力」っていうの!」
博麗の巫女の霊夢が持っている能力は、空を飛ぶ能力だという。人間が空を飛ぶのは普通すごいと思うし誰しもが一度は夢見ただろう。
しかし、魔理沙も箒で空を飛んでいたしこの幻想郷ではその能力が特別な感じはしない。さぞすごい能力を持っているのだと思っていたが意外と地味な能力だった。
でも、それは彼女の強さは能力ではなく純粋な実力とも言える。
「一見地味に聞こえるこの能力だけど、霊夢様の空の戦いぶりはすごいのよ!どんな弾幕だって避けちゃうんだから!まるであの鳥のように翼を持っているみたいね!」
光はそう言いながら空を飛んでいる鳥を指差す。
「…ん?ちょっと待って。あれ本当に鳥?」
鳥に見えるその影は真っすぐこちらに向かってきていた。何かがおかしい。
すごいスピードでこちらに近づき、やがてその影は姿を現す。そこにいたのは、
「待ちなさいっ!そこのあんた!」
博麗の巫女、博麗 霊夢であった。
噂をすれば何とやら、まさかご本人登場とは…。
霊夢は何やら険しい表情をしているように見える。
何かまずいことをやってしまっただろうか?正直、あんまり覚えがないけど…。
「 キャーレイムサマー! 」
光は霊夢の登場にテンションが上がっているようだ。
目をキラキラさせながら手を振っている。しかし、霊夢は何も反応しなかった。それどころではないのだろう。
やがて霊夢は地面に華麗に着地し、こちらの前に立ち塞がる。
「あんた、私の神社にいたやつよね?名前はえーっと……そう、舞島だわ」
「は、はいそうです」
「私!私は光って言います霊夢様っ!ファンです!」
霊夢がしゃべっているところに割って入ろうとする光。その言動に霊夢もどう反応したものかと困っている。
「…光ちゃん?今霊夢さんは僕と話しているから静かにね?」
「え?あ、ごめん。嬉しくてつい…テヘへ」
興奮している光を一旦落ち着かせる。放置していたら話が進みそうにない。
「…いいかしら?」
「はい、すみませんね」
改めて霊夢は話し始める。
「あんた、早苗から聞いてなかったのかしら?この先は里の外。野生の人形がいて危険なの」
「はい、知っていますよ。道中に何回か野生の人形と遭遇しましたし」
それを聞いた霊夢は鏡介の容姿を見る。
怪我をしている様子はない。そして腰には二つの宝石がぶら下がっている。
「…人形使いにでもなったのかしら?そういえば、人形が糸を使わずにあんたに懐いたとか言ってたわね」
「はい。それで今は魔理沙さんの調査の手伝いをして」
その瞬間、霊夢の表情が変わる。いつぞやの鋭い眼光が鏡介を襲った。
一度経験していても怖いものは怖い。鏡介の額から汗が出始める。
「…あんた、まさか人形の件に首を突っ込むつもりじゃないわよね?」
「え、えっと、はい。助けて貰った恩に僕も手伝いたくて…」
「そう、立派な事ね。でもはっきり言って迷惑なの。異変解決は私のような専門家の仕事。あんたに邪魔をされると困るのよ」
「うっ…その、すみません…」
どうやら人形の調査が霊夢にとって迷惑らしい。異変解決を生業としている身からすれば商売の敵ということだろうか。
こちらとしては善意で手伝いしているし、そんなつもりは毛頭ないのだが…参ったな。
今のこの状況はよろしくはない。このままだと碌に旅も出来ないしどうにか誤解を解いておきたいところではあるが…話を聞いてくれるだろうか。
「あ、あの!霊夢様は今回の異変に苦戦を強いられているとお伺いしてるのですが、解決するのであれば人手は多い方がいいのではないですか?
私達幻想郷の住民はいつも霊夢様に助けられてばかりなので、その…少しでもこの異変調査のお手伝いをさせて頂きたいのです!」
どうしたものかと悩んでいたところ、先に光が動いた。
光は元々人形使いとして強くなり霊夢の手伝いをしたいという目的があった為、そのことを真っ先に伝えたかったのだろう。
「あなた、人里の子ね?…気持ちだけ受け取っとくわ。でも、こればっかりは譲れないの。悪く思わないで頂戴」
「うぅ…そうですか…」
「安心して。こんな異変、私がパパっと解決するから」
霊夢に断られ光は落ち込む。…もはや口論では説得は難しそうだ。
あまりこの手段を使うのは望むところではないけど…一か八か試してみよう。
「…霊夢さん、ではこうしませんか?人形バトルで決着をつけましょう。あなたが勝てば僕らは大人しく調査を退きます。ですが、僕が勝てばこのまま調査を続けさせて貰う。どうでしょう?」
我ながらあまりにも無理矢理な提案だ。
だが、「郷に入っては郷に従え」ともいう。今のこの幻想郷ではこの決着の付け方は決して間違いではないはずだ。
このまま黙って何もしないくらいなら少しは抵抗してみせよう。
「……」
霊夢は考える。以外にも悩む余地がある提案だったらしい。そしてしばらくした後、
「…いいわ。それであんたらの気が済むならぶちのめしてあげる」
これを承諾。言ってみるものだ。
勝てるかどうかは分からないが、これはチャンス。絶対に掴まなければ。
「ありがとうございます。じゃあ、光ちゃんは審判をお願い」
「う、うん。分かった!」
こうして今後の旅の続きを賭けた人形バトルが幕を開けるのであった。