人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十五章

霊夢との残り一体の人形バトル。

この戦い、こちらが圧倒的に不利なことが分かった。

 

何せこちらの攻撃手段は「陰の気力」、「火遊び」による通常攻撃、「摩擦熱」、「テルミット」による状態異常くらいのもの。

そして相手の人形は回避が上昇していて防御技も完備、おまけに状態異常を回復するアイテム持ちだ。極めつけはアビリティでアイテムを消費させても無くならないと来た。

 

一度は技を当てることが出来たが、次はこうはいかないだろう。相手も警戒する。

勝ち筋を見つけられるよう別の手段を考えていく必要があるが…どうしたものか。

 

やはり、あの防御技の隙を突く作戦は良かったとは思う。後は攻撃技を確実に与えられれば…。

 

…!そう言えばまだ使っていない攻撃技があった。「斉射(さいしゃ)」という攻撃技。

確か必ず命中する効果だったはず…今の状況なら使えるのでは?

 

「…これならどうですか!? ユキ! 斉射!」

 

指示を受けたユキ人形はピンクの弾幕をれいむ人形に放つ。

また防御技を使うならそれでもいい。こっちはその隙を狙うだけだ。

 

「…れいむ! 神降ろし!」

 

「…!?」

 

一番予想しなかった指示を霊夢は出した。

何故ここでパワーアップを?回避は上がってもこの攻撃には意味がない。それはあっちも分かっている筈…。

 

れいむ人形はお祓い棒をかざして集中している。弾幕が迫ってきているにも関わらずだ。

光がれいむ人形を包み強化を果たすが、弾幕はもう目の前まで来ている。

 

「(…意図は分からないけど、これで一発当たる!)」

 

こちらとしては攻撃を当てられるのはプラスだ。

しかし霊夢は表情一つ変えないのが気になる。一体何を?

 

「れいむ! 突っ込みなさい!」

 

指示を受けたれいむ人形はこちらに向かって走ってくる。

だが、今は正面から弾幕が迫っている状態。これでは当たりに行くようなものだ。

 

「…!ま、まさか!」

 

嫌な予感というのは当たってしまうものだ。だが時すでに遅し。

弾幕がれいむ人形にあたろうとする瞬間、いつぞやの幻覚の弾幕のようにれいむ人形をすり抜けていく。

 

この「斉射」という技のタイプは「無」というもの。

それが相手の人形には効果がないのだろう。だから人形の強化をしたということか。やられた。

 

まだまだタイプ相性は勉強不足だ。

 

「今度はこっちの番よ! れいむ! 誘導弾!」

 

れいむ人形は大量の札の弾幕をユキ人形に向かって放つ。

それはユキ人形を中心に真っすぐ列を作りながら襲い掛かる。

 

「よく引き付けてからかわすんだ!」

 

ユキ人形は頷き、指示通りに札弾幕を引き付け少ない動きでかわす。

 

「軌道をよく見てるわね。…でもそううまくいくかしら?」

 

すると弾幕の軌道が突然変わり始めて、今度はユキ人形の動きを先読みするかのような

軌道になる。突然の変化に対応できなかったユキ人形は被弾してしまう。

 

「あんたの人形は避けるのが上手みたいだからね。今度は命中率を強化させてもらったわ」

 

「…くっ!」

 

あの時の強化はそれだったのか。しっかり対策されている。霊夢はそのチートに近い鋭い勘で確実に望んだ能力アップを果たしてきた。

相手としては堪ったものではない。チルノが似た技を使っていたが、どう考えてもそんな都合のいい技ではない。あくまでランダムなのだから。

 

これが博麗 霊夢、主人公の力といったところか。全く恐れ入る。

 

「…まだ、まだ何かあるはず」

 

それでも、いくら理不尽な戦いでもこのバトルに負けるわけにはいかないんだ。

考えるのをやめてはいけない。

 

「(ユキは火力はあるけど、技構成的に防御を固めることが出来ない。所謂パワータイプ。やっぱり、ここは攻めに転じないといけないよね…)」

 

ごり押しではあるが、そうでもしないと突破が困難だろう。

ユキ人形の火力でとにかく押して攻めまくる。これで行こう。

 

「…行くぞ! ユキ! 陽の気力!そして弾幕に続いて走っていくんだ!」

 

ユキ人形は指示通りに青い弾幕を打った後に続いて走っていく。

 

「やけになったのかしら!? 幻覚弾!」

 

れいむ人形は紫の弾幕を放つ。それは弾数を増やしていきながら襲い掛かる。

 

「…その技は見切っている! ユキ! 弾幕同士が当たっていないところを見極めるんだ!」

 

ユキ人形は走りながら弾幕を注視し、弾幕同士が着弾していく中に偽の弾幕がないかを

探す。すると一つだけ弾幕が透けていったのが分かり、ユキ人形は残っている自分の弾幕の後ろに回り込み弾幕を回避する。

狙い通り、距離を詰めることに成功した。

 

「よし!そこから 火遊び!」

 

「…ちっ!かわしなさい!」

 

ユキ人形の放った炎はれいむ人形に紙一重でかわされる。

まさかあの距離でかわすなんて…やはり回避率の上昇が効いているようだ。

 

「技の性質を知っていたとはね」

 

「光ちゃんの人形が使っていましたからね。経験が生きました」

 

霊夢は技を見切られたことに驚く。偶然ではあるがあの技は一度経験している。

…ということはれいむ人形のタイプはげんげつ人形と同じか?

 

あの戦いも決して無駄ではなかった。死にかけたけどね。

何故かあの時負った傷跡は残っていないけど、本当にどうしてだろうか。

 

「…ホントに油断出来ないわねアンタは。さっきのは結構危なかった(…悔しいけど、才能はあるわね)」

 

「次は攻撃を当てて見せますよ(やっぱり強いな…即座に対応してきた)」

 

 

「(す、すごい…。舞島さん、もしかしたら勝っちゃう?)」

 

 

霊夢は先程の行動を見て不服そうではあるが、鏡介を心の中で少し認め始めていた。

だが同時に譲れない、負けたくないという感情もある。彼女は異変解決の専門家。ぽっと出の外来人に異変関連で遅れを取るのは、彼女のプライドが決して許しはしない。

 

「(保険に回避を上げて正解だったわね…。攻めに転じてきたみたいだから防御技の「森羅結界」を使いたいところだけど、相手は逆にそれを狙っている。

 迂闊には使えないわ。…こっちも仕掛けるべきかしら)」

 

「(かわすことを優先したということはあの防御技の隙を狙ってるのはバレている。使わざるを得ない状況をどうにか作れないか…?)」

 

様々な思考が巡り合う。

 

「れいむ! 誘導弾!」

 

先に仕掛けたのは霊夢。指示を受けた人形は札弾幕を直線上に放つ。

 

「ユキ! ジャンプしてかわせ! そこから陽の気力!」

 

あの技を長く使わせてはいけない。その名の通り、当たるように誘導してくる厄介な技だ。

命中も上がって凶悪な性能と化してもいる。ユキ人形は青い弾幕を放ったが、同時に数発被弾した。そのまま落っこちてしまう。

 

「かわしなさい!」

 

れいむ人形は攻撃を一旦やめ、弾幕をかわす。

 

「まだだ! 摩擦熱!」

 

仰向きになりながらも、ユキ人形は火の粉をれいむ人形に放つ。

連続攻撃に流石のれいむ人形も完全にはかわし切れず、服に火がついてしまう。

 

「よし、当たった!」

 

「無駄よ。こっちには「治癒の符」がある!」

 

れいむ人形は治癒の符をかざして使用しようとする。

 

「ユキ! 使わせるな! 火遊び!」

 

「なっ!?」

 

素早くユキ人形は立ち上がり、手から炎を放つ。

とにかく攻め続けて行く。このチャンスは絶対に逃さない。

 

「(…成程。今度はその隙を突いてくるか。不味いわね…。あんまりこの状態を長引かせたらダメージが蓄積する)」

 

「(致し方ないか…) 森羅結界!」

 

霊夢は何とか治癒の符を使わせる為に防御態勢に入る。そしてれいむ人形は治癒の符を使用して、

 

 

『アビリティ:倹約家  発動』

 

 

アビリティでアイテムを元の状態に戻す。

 

そして同時にスカウターから何か他の情報が流れた。…!これは…。

 

「(よし、これで火傷は回復したわね。後は…!またいない!?)」

 

霊夢は火傷の回復に気を取られている余り、ユキ人形がどこかに移動したことに気が付かなかった。

 

「…また上か!」

 

上を見上げるとユキ人形は高くジャンプしていた。

その際、上を見上げた霊夢は日差しに思わず目を眩ませてしまう。手で眩しさを覆うことを忘れてしまう程に、彼女は動揺していたのだ。

 

 

「 ユキ! ファイアウォール !!! 」

 

 

大声で指示を出すと、ユキ人形は両手で炎の壁を作った。

炎の壁はこの道の幅を覆いつくす程の大きさとなって下敷きにしようとする。

 

「ファイアウォールですって!?…っく!」

 

「横なら兎も角、ここでは上からの広範囲技は避けようがない!」

 

「(…この大きさはとても避けられないわ。防御技も使ったばかり…くそっ!もう一度一か八か使うしか…!)」

 

眩んだ目を抑えながら、霊夢は思考をフルで稼働させる。だが、この状況で出来る選択肢はもう限られていた。

 

 

 

「行けぇーーっ!!」

 

「 …森羅結界 !! 」

 

 

 

「…ってこっちも巻き込まれちゃうじゃない!? うわわーー!!」

 

審判の光は炎の壁に巻き込まれそうになり、慌てて近くの川に飛び込む。

 

そして、炎の壁はれいむ人形を下敷きにしながら地面に着面する。

激しい熱気が辺りを襲う。川は干上がる勢いで蒸発していき、あたりの草花は焼け落ちていく。すさまじい威力だった。

 

「あっつ!?」

 

耐え難い熱気はトレーナーである二人にも容赦なく襲い掛かる。

 

「…離れた方がよさそうね。捕まりなさいっ!」

 

霊夢はこちらに飛んできて鏡介を担ぎ上げると、上空に避難した。

自分は軽く50kgはあるのだが、それを軽々と持ち上げたことに鏡介は驚く。それも視界がはっきりしない状態で、だ。

この世界の女の強さを実際に垣間見る瞬間であった。

 

…しかし、「ファイアウォール」が、覚醒した時に使った「ヴォルケイノ」並みの威力であることは予想外だった。

あれを使う場面はこれから考えた方がいいかも…。

 

 

 

しばらくして炎の壁は消滅。大丈夫だと判断した霊夢は鏡介を降ろし、元の位置に戻る。

 

「滅茶苦茶な威力ね。どうなってるのよあんたの人形は」

 

「…正直自分も予想外でした…。そう言えば光ちゃんは?」

 

川に飛び込んだのは見ていたが、無事だろうか。

 

 

「…ぷはっ!」

 

 

噂をすれば川から光が浮かんでくる。

 

「大丈夫ー?」

 

「大丈夫じゃないわよ!何よあんな攻撃危なすぎでしょ!」

 

こんな狭い道で広範囲技を使ったばかりに巻き込んでしまって申し訳ない。

 

「ほら、捕まりなさい」

 

すぐさま霊夢は飛んで光に駆け寄り、川から引き上げる。

 

「あ、ありがとうございます霊夢様!(はぁ~♪霊夢様に私手を握ってもらっちゃった…)」

 

「ぼさっとしてないで。審判でしょ?」

 

「あ、はい!」

 

光は我に返り、二体の人形の様子を伺う。二体の人形は互いに倒れていた。

 

れいむ人形は目を回し黒焦げになって倒れていて、ユキ人形は仰向けになりながらもかすかに意識はある。

 

「…えっと、結果を発表します!れいむ人形、戦闘不能! よってこの勝負…」

 

 

 

「舞島さんの勝利ですっ!!」

 

 

 

光は声高々に、バトルの結果を告げた。

 

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