人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第二十七章

鏡介と光の二人は、香霖堂の店主から聞いた情報を頼りに先に進む。すると森の入口が見えてきた。

 

「ここかな?」

 

「…うん、だと思う。入口なのにもう私気分が悪いわ…」

 

この森から溢れている「瘴気」というものの影響だろう。「魔法の森」はここで間違いなさそうだ。

 

「舞島さんは平気なの…?」

 

森の瘴気に当てられ気分を悪そうにしながら光は鏡介に尋ねた。

 

「うん、僕は何ともない。…光ちゃん大丈夫?」

 

「…大丈夫じゃない…」

 

光の顔色が悪い。この森から溢れている「瘴気」は、耐性がなかったら人体に悪影響を及ぼす。

香霖堂で先程購入した数珠がなければ先にはとても進めなかっただろう。

 

「光ちゃん、数珠を使っておこう?」

 

「そうだね…」

 

光は右腕に数珠をはめると、使用者を中心に球状のバリアを展開した。

このバリアが瘴気を防いでくれるみたいだ。

 

「ふぅ、少し気分が良くなったわ。効果覿面ね」

 

「もしかして、光ちゃんって体弱いの?僕は何ともないのに」

 

自分と光の影響に差を感じて鏡介は疑問に思う。この調子で魔法の森の探索が出来るのかが少し不安になってくる。

 

「いや、むしろ舞島さんが平気なのが不思議なんだけど。私じゃなくても普通はこうなるわよ」

 

「え…そうなの?何で僕平気なんだろ…う~ん…」

 

確かに言われてみれば不思議である。自分だって普通の人間のはずだ。特殊な能力なんて一切持ってはいない。

体に免疫などが出来ていない限りは普通は光のようになるはず…免疫?

 

「そういえば、人里に来る途中に人形の毒で死にかけたことがあったけど…それかな?」

 

身に覚えがある出来事を鏡介は思い出す。

正直あれは本当に危なかった。出来ることなら、あんな体験は二度と御免だ。

 

「…舞島さん、いくら人形が可愛いからって毒持ってる人形と接触したの?命知らずね…」

 

「え?いやそうじゃないよ!?いるとは知らずに樽に手を突っ込んだら嚙まれちゃったんだよ!?」

 

光にあらぬ誤解をされる。すっかり人形愛好家扱いだ。…まぁ否定も出来ないが。

 

「ほら、これで瘴気も怖くないから先に進むよ光ちゃん」

 

話題を咄嗟に切り替え、鏡介は森の奥へ進んでいく。

 

「あ!ちょっと待ってよー!」

 

話を途中で切られ慌てつつも、それに続いて光も後を追う。

 

 

そして魔法の森の中に入った二人は、景色に圧倒される。

 

「おぉ…すごい。正にファンタジーの世界だ」

 

さっきまでいた外とは別世界に来たような、そんな気分になった。

まず真っ先に鏡介の目を引いたのは大きなキノコ。こんな綺麗な色の巨大なキノコはあちらではまずあり得ない。

よく観察してみると、それは発光しているのが分かる。

 

「わぁ…綺麗…」

 

光も珍しそうに目の前のキノコを見ている。

でも流石に得体のしれないものではあるので触ることはしなかった。賢明と言える。

こういうのに限って危ないものだったりするのもファンタジーあるあるだし。

 

そして、こういった森には大抵あの種族がいたりする。

 

 

「あ!人間だ!捕まえてやる!くらえー!」

 

 

すると向こうから誰かの声が聞こえたと同時に何かを投げつけられる。これは…封印の糸か?

 

「あれ?捕まらない…何でー?」

 

声がする方に振り向くと、背中に羽が生えている女の子がいた。

噂をすれば何とやら。間違いない。おそらくこの子は妖精だろう。

 

人形解放戦線にも妖精が何人かいたようだが、その子らとは違って羽に特徴的なものは感じられない。

一般妖精といったところだろうか?

 

「ごめんね、僕らは人形じゃないんだ。…はい。今度はちゃんと人形に使うんだよ?」

 

「はーい」

 

投げられた封印の糸を妖精に返す。素直ないい子だった。

 

「そうだ。君アリスって人の住んでるところ知らないかな?」

 

この森に住んでる妖精だ。何か知ってるのではと思い道を聞いてみる。

 

「えっとねー、確かあっちにあった。ここからだと結構遠いよー」

 

妖精の指を指す方向に目を向けるといくつかの分かれ道があった。

あの先を進んでいく必要があるみたいだ。確かに道のりは長そうに感じる。

 

「うん、ありがとう。助かったよ」

 

「それほどでもないっ!じゃあねー!」

 

お礼を言うと妖精はどこかへ行ってしまった。

この世界の妖精は頭は悪いようだが、話せば分かる比較的温厚な種族らしい。

恐らくこの森にたくさんいるであろうから、聞いていけば迷わずには済みそうだ。

 

しかし、問題が一つある。

 

「光ちゃん、アリスさんを見つけるのにどれだけ時間がかかるかわからないし、この先着いていくのは危ないと思うよ」

 

そう、距離の問題だ。購入した数珠は合計6つ。自分の分を光に渡しても、

行きと帰り分まで持つか正直不安なところである。光は数珠がないとこの森にはいられないとなると、同行するのは危険であろう。

 

「…そうね。残念だけど、私は外で待ってる方が良さそう」

 

光もそれを薄々思っていたのだろう。言おうとしていたことを先に口にする。

 

「うん、ここは僕に任せて。後、数珠は光ちゃんにあげるよ。僕には無用の長物みたいだからさ」

 

500円分のお返しではないが、3つの数珠を光に渡す。

これから何かあってもこれでしばらくは大丈夫だろう。何事もないことを祈りたいが。

 

「ありがと。気を付けてね」

 

そう言って光は来た道を戻っていった。

 

「…さて、ここにも人形使いはいるだろうし戦えるように準備しておこう。あんまり待たせても悪いから急いで向かわないとね。」

 

さっきの妖精を見た限り、ここには人形を持っている妖精もいることが十分予想される。

 

鏡介は人形達を出して甘味処で購入した白玉団子を食べさせてあげた。

おいしそうに食べる人形達を見てこれには思わずホッコリ。

 

「…よし、行こう!ユキ、しんみょうまる!」

 

団子を食べ終わって人形達が元気一杯になったのを確認した鏡介は、森の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

一方その頃、光は無事に魔法の森の外に到着。

待ってる間暇なので香霖堂近くにいるお菓子を食べている妖怪に話しかけることにした。

 

「こんにちはー!それおいしそうですね」

 

「こんにちはぁ。あなたも食べる?一杯あるよ」

 

この妖怪は「静か餅」という妖怪だ。妖怪の中では友好的で人懐っこい性格をしている。

それを知っていた光は話し相手としてちょうどいいと判断し、接触を図った。

 

「じゃあ遠慮なく。いただきまーす!…甘くておいしい!」

 

「フフッ、まだまだ一杯あるわよぉ。どんどん食べて行ってねぇ♪」

 

おいしいと言われ嬉しいのか、どんどんお菓子を提供する静か餅の妖怪。

 

「…そうだ!げんちゃんにも分けてあげよ!出ておいで!」

 

宝石からげんげつ人形が出てくる。何回か戦闘をした為、回復をするにはちょうどいい。

 

「あらぁ?その人形、珍しいわねぇ」

 

妖怪はげんげつ人形を見てそう言った。

 

「そうなんですか?」

 

「私は結構ここら辺の人形に詳しいけど、この子は初めて見るわぁ」

 

「(…へぇ、私って相当運が良かったのかな?)」

 

げんげつ人形にお菓子を食べさせながら、光は妖怪の話を聞く。

普段はムスッとしているが、お菓子を食べている時は嬉しそうに頬張る可愛らしい一面を見せた。

これで変態じゃなかったらなぁ。この人…基妖怪は人形じゃないし大丈夫だろうけど。

 

 

光はしばらく妖怪と世間話をした。

妖怪の話によると、この森にはアリスの人形がいるらしくその人形は滅多に見つからないそうだ。おまけに強いらしい。

そのアリスの人形に興味を惹かれ、詳しく特徴などを聞いておいた。これは是非捕まえたい。

 

しかし今回は時間制限がある。なるべく効率的に探す必要があるだろう。

鏡介が帰ってくるまでに出来れば捕まえたいところ。

 

「…ん?」

 

ふと光は誰かに軽く突かれた感覚に見舞われ、その方向に振り向く。しかし、そこには誰もいなかった。

 

「呼びました?」

 

「?私はなにもしてないわよぉ」

 

話していた妖怪の仕業ではない。…気のせいだろうか?するとまた別方向から突かれる。

 

「な、何なの?一体誰が…」

 

「…あー、もしかしたら人形の仕業かもぉ。この森にはイタズラ好きの妖精の人形が一杯いるからねぇ」

 

「妖精の人形?…成程」

 

どうやら森の入った際に付いてきたらしい。自分は今イタズラをされているようだ。

 

「げんちゃん! 周りに人形がいないか見て!」

 

げんげつ人形に指示を出す。

同じ人形なら何か感じ取ってくれるのではないだろうか。

 

「…!」

 

すると早速反応があった。

げんげつ人形は真っすぐ何かを見据えている。そこに何かがいるみたいだ。

 

「げんちゃん! エンジェルラダー!」

 

げんげつ人形は何かがいるところに向かってレーザーを放った。

するとその何かが正体を現し、攻撃を回避する。

 

妖怪の言った通り、このイタズラは人形の仕業だった。しかも3体いる。

それぞれツインテールの活発そうな人形と栗みたいな口をしている大人しそうな人形、そしてロングヘアーで一人だけ黒髪のおっとりした人形だ。

さっきまで姿も見えず音も気配もなかった。きっとこの人形達の能力だったのだろう。姿がばれてしまった人形達は森の方へ慌てて逃げていく。

 

が、栗みたいな口をした人形が転んでしまい、二人に置いてかれてしまう。

何と運のない子だろうか。そして目の前には白い悪魔が微笑んでいた。悪夢のような光景に栗口人形はガタガタ震えている。

 

げんげつ人形はおびえている栗口人形を他所に髪を撫でまわす。

そして徐にファッションを見始めた。

 

「…!げんちゃんその子も守備範囲なの!?」

 

げんげつ人形は隅々までその人形の服装を観察。されてる側は失神寸前になっている。

しばらく観察した後げんげつ人形は頷く。何かが良かったようだ。そして、光のほうを向くと何かを訴えるような表情になる。

 

「…もしかして、捕まえて欲しいの?げんちゃん…」

 

げんげつ人形は頷く。この栗口人形が気に入ってしまったようだ。

 

「…まぁいいけどさ。優しくしてあげてね?」

 

げんげつ人形は不敵に微笑む。…それはどっちの意味なんだ?

 

若干納得がいかないが、げんげつ人形の機嫌を損ねるのはまずいと判断し捕まえることに。

光は栗口人形に向かって封印の糸を投げつける。

栗口人形は封印状態になった後、すぐに手元に戻ってきた。精神ダメージが相当大きかったのだろう。戦わずに捕まえられた。

 

「…ワーイニンギョウゲットシター」

 

「あらあら、可哀そうなルナ人形ねぇ」

 

妖怪が憐みの言葉を投げ掛ける。この人形は「ルナ」という名前らしい。

可哀そうではあるが、捕まえた以上ルナ人形とはこれから長い付き合いになるだろう。…使うかは怪しいけど。何かあんまり強そうじゃないし。

 

「…せめて大切にします。はぁ…」

 

これからの人形のゲットに不安を覚え始める光だった。

 

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