人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十一章

鏡介は今、香霖堂の前で休憩がてら外の様子を見ていた。

外風がバトルで熱くなった体を冷やす。雨粒が体に付くことを除けば非常に心地が良い。

雨は止みそうになく、まだまだここで厄介になることになってしまいそうだ。

 

すると、香霖堂のドアの鈴が鳴る。誰かが出てきたみたいだ。

 

「ふぅー…暑い暑い♪」

 

静か餅の妖怪だった。呟いた言葉から察するに涼みに来たのだろう。

湿気も相まって今室内は蒸し蒸しだ。無理もない。

 

「楽しんで頂けました?バトル〇-ム」

 

「えぇ、新鮮でとっても楽しかったわぁ♪ここに来て良かった♪」

 

静か餅の妖怪は小さく両手を動かしながら答える。

どうやら気に入ってくれたようだ。良かった良かった。そう言ってくれたら勧めた側も嬉しい限りである。

 

「この雨に感謝しないとねぇ」

 

「確かにそうですね。降らなかったらこうやって集まることもなかったでしょうし」

 

2人は空を見上げながら話す。鏡介は目線を少し落とすと、そこから人里が見えた。

そう言えば結構な坂道を登って来ていたので、こうやって見上げられるところまでいつの間にか来ていたみたいだ。

 

「……え?」

 

おかしなことに気が付く。

空を覆っていた雨雲が人里にはなかったのだ。この周辺にだけ集中して雨が降っている。

 

「…あの、何か変ですよこの雨」

 

「そうねぇ。どうやらこの雨は誰かの仕業みたいよぉ」

 

「え?知っているんですか?」

 

「まぁねぇ。こんないきなり天気が変わることは普通ありえないわぁ」

 

静か餅の妖怪はこの現象について何か知っているようだ。

 

「…これは恐らく、「人形」の仕業よぉ」

 

「人形が…?」

 

「えぇ。降らせている人形があの辺にいるんだけどねぇ。生憎私は人形持ってないし…チラッ」

 

指を指しながら静か餅の妖怪は何か言いたげにこちらを見てきた。

 

「…僕が行ってみましょうか?」

 

「ホントぉ?お願いできるかしら♪」

 

嬉しそうに静か餅の妖怪は答える。…まさか、この人最初からそのつもりで来たのか?

そう思いながら、鏡介は鞄から折り畳み傘を取り出して雨を降らせている人形がいるところへ向かった。

 

「あら、あれは…傘を収納できるマジックアイテムかしら?便利ねぇ」

 

見たことのないタイプの傘を目撃した静か餅はそう呟いた。

 

 

そして鏡介は雨の中、下り坂を慎重に下っていく。

 

「ここかな?」

 

ここは五の道の途中、ちょうど朱鷺子がいたところの分かれ道。

静か餅の妖怪が言うには、その分かれ道の先に雨を降らせている人形がいるらしい。

 

「…あ、この本は…。朱鷺子さんが探してたのかな?」

 

ビショビショに濡れている厚めの本が目の前に落ちている。朱鷺子の落とした本がどういう本なのかは知らないが、場所的に間違いないだろう。

焦って視野が狭くなっていたのか、こんなに分かりやすいところを見逃していたらしい。

こんな状態ではもう読めないだろうが、届けてあげよう。鏡介は本を手に持つ。

 

分かれ道に歩みを進め、そして現場に到着した。行き止まりであったが草むらが辺りに広がっている。

ここに雨を降らせている人形がいるらしいが…それらしき人形は見当たらない。いるのはここで見かけた人形ばかり。

 

雨が降っているせいか、人形は木の下で雨宿りをしている。

やはり、人形もこういった天候に影響されるみたいだ。自分の読みは当たっていた。

 

「…うーん、それらしき人形はいないなぁ。戻ろう」

 

どう見ても雨を降らせている人形が見当たらなかった鏡介は香霖堂に引き返した。

 

その様子を見ていた野生の人形達はそれをジッと見つめる。まるでそこに別の何かがいるかのように。

 

 

 

 

 

 

今度は上り坂を登り香霖堂に戻って来た鏡介は、

静か餅の妖怪にそこには何もいなかったことを報告した。

 

「…そっかぁ。お疲れ様ぁ♪」

 

「もう、嘘だったんですか?本は見つかりましたけど無駄足でしたよ」

 

騙された気分になった鏡介は、教えてくれた静か餅の妖怪に少し不満をこぼす。

 

「無駄足なんかじゃないわぁ。ちゃんと捕まえてきてくれてるじゃない♪」

 

「…え?何言って…」

 

「ほらぁ♪」

 

言ってる意味が分からずにいると、妖怪は傘に指を指す。鏡介はとりあえず傘を見てみることにした。

 

「…!?」

 

傘の布地から影が見えた。

ビックリして思わず持っていた手を放してしまう。それと同時に人形が傘から落っこちて来る。

 

人形は水色の髪で目が赤と青のオッドアイ、そしてベロを出した紫色の傘を持っていた。

 

「全然気が付かなかった…いつの間にくっついていたんだろう…」

 

この人形という生き物はとても軽い。故に傘に乗っていたことに今まで気が付けなかった。

落ちてきた人形は尻もちをついた為、打ったところをさすっている。

 

「この子だったのねぇ。天気を操っていたのは」

 

「えっと…」

 

鏡介はスカウターを人形にかざす。

 

 

 

『名前:こがさ  種族:妖怪  説明:こう見えて色々器用』

 

 

 

情報が出てきた。妖怪らしい。

「器用」というのはこういった天候関係のことであろうか?

 

「…どうしましょうか?」

 

「そりゃあ、倒すなり捕まえるなりしないとねぇ。ちなみにこの子、「水」と「風」タイプよぉ」

 

「…ですよね。「水」、入ってますよねやっぱり…」

 

雨を降らせるという時点で察してはいた。

こういう流れになるのは分かってはいたが、こちらの手持ちは「炎」と「大地」。

相性が圧倒的に不利だった。バトルをして勝てる相手ではないだろう。出来ることなら、仲良くなって穏便に済ませたい。

 

そう思っていたら、こがさ人形がこちらに飛び掛かって来た。

 

「うわっ!?」

 

鏡介は咄嗟に差していた傘を盾にする。

軽い衝撃が傘に伝わってきてそのままくっついてしまう。弾幕ではなく体当たりをするとは思わなかった。

 

「…あれ?」

 

くっついたこがさ人形はピクリとも動かない。

変に思った鏡介は恐る恐る傘を確認すると、幸せそうな顔をしている人形の姿があった。

 

「もしかして…この傘が好きなのかな?」

 

「みたいねぇ」

 

…これはもしかすると戦わずに済むかもしれない。

鏡介はこがさ人形に早速話し掛けてみる。

 

「ねぇねぇ、この傘が好きなの?」

 

こがさ人形は頷く。

彼是5年くらい使っている折り畳み傘で、自分としても結構愛着がわいている。

あんまり自分の家は裕福ではないので物は大切にするようにしているが、状況が状況だ。

 

「そっか。じゃあこれは君に譲ってあげるよ。その代わり、この雨を止ませてくれないかな?」

 

喜ぶ顔を浮かべたこがさ人形は元気に頷く。

そして、持っている傘をかざしてその先から一点の光を天に放った。

 

空にあった雨雲は光が当たったところから裂けていき、あっという間に天候が元通りになった。

 

「やった♪これで外を歩けるわぁ」

 

「す、すごい…」

 

変わった空の景色に驚きを隠せない。さっきまでのがまるで嘘みたいだ。人形の力ってすごいな。

 

「ありがとう。じゃあ約束だから、これはあげる。大切に使ってね?」

 

「♪」

 

折り畳み傘を丁寧に畳んで、それをこがさ人形に渡す。

こがさ人形は満足そうに折り畳み傘を両手で持ちながら去っていった。

 

亡くなった祖母から買って貰ったものだが、祖母はよく言っていた。

「困っている人の力になれ。」と。だからこれでいいんだ。誰かの為にやったのだから。

 

 

「…さて、光ちゃんは目を覚ましたかな?」

 

「もうそろそろだと思うわよぉ。行ってみましょうかぁ」

 

 

事の済んだ2人は香霖堂の中に入っていく。

 

するとそこには元気にバトル〇ームで遊んでいる光の姿があった。

 

「おかえりぃぃーーーうおおおぉぉぉーーーー!!!」

 

「良かった。治ったみたいだね」

 

光、朱鷺子、霖之助、ありす人形の4人は夢中で両手を動かしている。

…あれ?アリスの人形が何でここにいるんだ?

 

「なんか急に空が晴れたわねうおおおぉぉぉーーーー!!!」

 

「あ、朱鷺子さんコレ。一応見つけておきましたよ」

 

「ありがとおおぉぉーーーそこに置いといてええぇぇーーー!!!」

 

皆すっかり没頭しているようだ。

ここまで気に入ってもらえると嬉しいを通り越して逆に引く。

 

「それ終わったら、人里に向かうよ光ちゃん?」

 

「おkえええぇぇぇーーーーーー!!!」

 

光は両手を忙しくさせながら答える。

 

しばらくして決着がつき、光の圧勝だった。これで3勝目らしい。

結局最後まで朱鷺子は一回も勝てなかったとのこと。

 

「…よし。じゃあ霖之助さん、本当にお世話になりました。ありがとうございますっ!」

 

「ありがとうございますっ!」

 

鏡介と光は店主である霖之助にお礼を言い、人里に向けて出発する。

 

「何、気にすることはない。またいつでも立ち寄ってくれ」

 

「またねぇ♪」

 

「次は絶対勝つからー!」

 

霖之助と他の2人が見送ってくれる。それに手を振りながら答え、香霖堂を後にした。

 

「そういえば光ちゃん。さっきの人形どこで?」

 

「え?あー…ちょっと魔法の森でねー…アハハー」

 

「…やっぱりそうだったんだね。こっちがどれだけ心配したか分かってる?」

 

魔法の森で倒れていたのはやっぱりそれか。

小一時間叱ってやりたいところだけど、まぁこうして無事だったんだし今回は勘弁しておこう。次はないけど。

 

「ご、ごめんなさい。次は気を付ける…」

 

「よろしい」

 

本人も今回の件は反省しているらしく、素直に謝ってくれた。

まぁこの子もまだ自分より子供だし、間違えてしまうことはある。

 

「…あら?舞島さん、あそこに人形が立ってる…。何か持ってるわ」

 

光は目線の先にいる人形を指差しこちらに伝える。

 

「ん?あれはさっきの…?」

 

人形の正体は、先程雨を降らせていたあの水色の髪でオッドアイのこがさ人形だった。

とっくに何処かへ行ってしまったと思っていたが、まだこんなところにいたとは。

 

こがさ人形はこちらを見つめているようだ。

何だろう?お礼を言いそびれたから待っていたとかかな?鏡介はこがさ人形に近づき、接触を図る。

 

「舞島さんだから人形に対して不用意すぎるって!人のこと言えないわよっ!?」

 

「大丈夫だよ。この子とはさっき会ったんだ。…どうしたの?」

 

こがさ人形に話し掛ける。

するとこがさ人形は、鏡介があげた折り畳み傘をこちらに差し出す。その顔は少し元気がなかった。

 

「…え?…返してくれるの?」

 

こがさ人形は小さく頷く。

…もしかして使い古されたものだと分かってこちらに気を使ってくれたのかな?優しい人形だ。

 

「…そっか。でも、いいんだよ?それは僕の意思で君にあげたんだから遠慮しなくても」

 

それを聞いたこがさ人形はどうしたものかと頭を悩ませている。

「この傘は好きだけど、相手にとっても大事なものだしどうしよう?」と言ったところだろうか?

 

 

「…じゃあ一緒に来たらいいんじゃない?後ろめたい気持ちにならずに済むし、お気に入りの傘といつでも一緒よ?」

 

 

お互いどうしようかと悩んでいた時、光からの鶴の一声。

確かにその方がこちらとしてもいいが、こがさ人形の方はどうだろう?

 

「…どうかな?一緒に行く?」

 

「…!」

 

こがさ人形は少し考えた後、元気よく頷く。仲間になってくれるようだ。

 

「…!そうだ。折角だし、こがさの封印の糸はここにぶら下げておくね」

 

「?」

 

そう言いながら鏡介は折り畳み傘のストラップ用の穴に上手く紐を通し、そこに封印の糸を結び付けた。

 

「…!…♪」

 

こがさ人形は喜んでいる。気に入ってくれたようだ。

早速こがさ人形は封印の糸に飛び込んで中に入っていった。

 

「…あらあら、自分から入っていったわ。倒さなくても使役出来ちゃうなんて流石、舞島さんね」

 

「いや、今回は光ちゃんがフォローを入れてくれたおかげだよ。ありがとう」

 

こうして新しくこがさ人形が鏡介の仲間に加わるのであった。

 

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