人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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8月は色々忙しくて全然進まず、期間がかなり空いてしまって申し訳ない!


第三十三章

「同じところをまた行くことになるとはねぇ。効率悪いわぁ…」

 

「ホントだね。まぁ、仕方ないよ」

 

旅支度をしながら光は軽い愚痴をこぼす。

確かにまたあの距離を歩くことになるのは結構面倒ではある。光の言い分はごもっともだ。

 

「うーん…今回は一人で私が行くわ」

 

「え?それは流石に悪いよ。僕も行く」

 

「いいのいいの!私に任せなさい!」

 

光は胸に手をポンと乗せる。

女の子一人に行かせるのは気が引けるからこちらとしてはその要求は飲めない。

 

「大丈夫よ。今の私には人形が3体いるんだから全然平気よ。舞島さんは休憩所でゆっくり休んでて」

 

「いや、でも…」

 

「い・い・か・ら!舞島さんはあたしと違ってほぼノンストップで歩き続けてるでしょ?少しは休みなさい!」

 

確かにここまで碌な休憩も入れずに旅をしていた。正直旅が楽しくて疲れなんて忘れていたのはある。

どこかでしっかり休もうとは思っていたのだが、きりのいいところが分からなくなってしまっていた。だから光はそれを見兼ね、こうして気を遣ってくれたのだろう。

 

「…まぁ、そこまで言うならもう止めないけどさ。森の時みたいに無茶しないでよね?」

 

「はいはい!じゃ、行ってくる!」

 

半ば強引に押し切られ、鏡介は渋々と了承する。

光はアイテムをいくつか購入すると、そのまま五の道へと足を進めた。

 

「行ってきます!」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

鏡介は門前で光を見送る。

少々不安に思うこの気持ちは初めて子供におつかい行かせるような、そんな感覚だ。

こちらを気遣って代わりに入って来てくれるなんていい子ではないか。

 

「…さて、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。休憩もいいけど、まずはこの人里を観光してみよう」

 

見送り終わった鏡介はそう言いながらゆっくり歩みを進めた。

 

「みんなっ!出てきて!」

 

歩きながら鏡介は人形達を封印の糸から出して一緒に観光する。たまには人形達とこういった時間を過ごすのも悪くないだろう。

 

今回は最近開設したという呉服屋に行ってみることにした。何でもここは人間の服ではなく、人形用の服を取り扱っているらしい。

恐らくこの異変に乗じて開いたのだろう。興味をそそられた鏡介は早速中へ入った。

 

中へ入ると、正面にいる受付の人から営業用の挨拶を掛けられる。

そして辺りを見回すと、こじんまりとしたおしゃれな服が並んでいてそれを他のお客が自分の人形に当てている様子が目に映った。

鏡介に抱っこされたり股がっている3体の人形達は興味津々なのか、食い入るように服を見つめているので目に入った服を手に取ってそれをこがさ人形に当ててみた。

それは上から羽織るタイプの水色のレインコートだ。

 

こがさ人形は目を輝かせて服を触り始めるが、どうしたら着れるのかが分からない様子である。

 

「えっと、試着させてみてもいいでしょうか?」

 

「えぇ、いいですよ」

 

許可を貰ったので鏡介はこがさ人形にレインコートを優しくエスコートしながら着させる。

思った通り、これが結構似合っていて実に可愛らしい。

色合い的にも合ってるし、雨に関連する服なのでイメージとしてもいい感じにマッチしている。こがさ人形もかなり気に入ってる様子であった。

これは是非買ってあげたいところだが、服というものは存外結構な値段である。この世界ではどうなのかは知らないが。

 

「服はどれも一着3000円となっておりますよ」

 

こちらが悩んでいたのを見越してか、近くにいた店員が声を掛ける。

服はこの世界でもそこそこ高いらしく、今の鏡介の所持金で払えるものではなかった。

「買ってくれないの…?」という表情でこちらを見つめるこがさ人形。こちらとしても何とか買ってあげたいが…

 

「…ん?あんたこんなところで何してんの?」

 

「え?」

 

突然店の中にいた女性に話し掛けられる。どうやらこちらを知っているような口ぶりであった。

振り返ると、奇妙なマントを羽織っていて眼鏡をしている学生風の女の人がそこに立っている。

 

「…あ!あなたはあの時の!その節はどうもありがとうございます」

 

「あ、あぁ…うん」

 

誰かを思い出した鏡介は頭を下げてお礼を言う。

そう、この人は人形解放戦線を探している際に聞き込みに協力してくれた人である。お陰で迅速に見つけることが出来た。

 

「…それで?何かあったのかしらその様子だと」

 

「あーいやその、この子に服を買ってあげようとしたんですけど…お金が足りなくて…」

 

「あぁ、そんなこと。…代わりに私が払ってあげよっか?」

 

「…え?そ、そんな悪いですよ!」

 

思わぬ提案を出せれ、鏡介は慌ててそれを拒否する。

 

「同じ外来人のよしみよ。それくらい奢ってあげるって。それに、その子もそれ気に入ってるみたいだし買ってあげなきゃ可哀そうよ」

 

「確かにそうですけど…」

 

「ね?ここはお姉さんに任せて」

 

そう言うと眼鏡の女の人は受付に向かい、早々に会計を済ませてしまう。

光の時といい、どうも自分は押しに弱いというか…きっぱりと断れない性格だ。

 

しかし、何故この女に人は自分に優しくしてくれたのであろう?

特別何も恩を売ってない。どうも気になる。

 

「あの、どうして?」

 

「うん?さっきも言ったじゃん。同じ外来人のよしみ」

 

そう言えばこの人は初めて会った時に自分を見た目で外来人だと見抜いていた。

眼鏡の女の人も恐らくだが、発言や服装からしてこちら側の人間なのかもしれない。

 

「ま、今回は特別よ。そういう気分だったというか、そんなところ。何かアンタほっとけないし」

 

「え、えっと…そうでしょうか…」

 

頼りにならないと言われてるみたいで、男として複雑な気分になる。

これまでも似たような経験をしているので猶更だ。

 

「じゃそういうことで、精々頑張りなさい舞島君」

 

そう言うと眼鏡の女の人は足早に去ろうとした為、慌てて鏡介は質問をする。

 

「あ!えっと、あなたのお名前は?」

 

「…ん?私は董子よ。宇佐見 菫子(うさみ すみれこ)。あなたより年上で先輩だから、そこんとこ気を付けてよ」

 

鏡介より年長者であり自身に対する強いプライドがある董子は、年上アピールを欠かさずに自己紹介する。

 

「はい!ありがとうございます宇佐見先輩っ!」

 

それに対し鏡介は、学生の年上の人に対する精一杯の言葉で菫子にお礼を言った。

 

 

「(宇佐見先輩…!いい響きじゃない…!)」

 

 

まさかの素直な返答に菫子は思わず頬が緩んでしまうが、恥ずかしいのでマントで口元を隠し後ろを向く。可愛い後輩が出来たような気分になる菫子であった。

 

「…あら、もう時間切れか…」

 

菫子は慣れたような言い方で自身が透明になっていることに反応する。

 

「え…え!?」

 

「それじゃまた!あー別に気にしないでまたいつでも来れるから」

 

その言葉を最後に、菫子は一瞬にして姿を眩ましてしまった。

今のは…テレポート?でも、どうやら自分の意志でやっている感じではなかったように見える…。今度会ったら詳しく聞いてみよう。

 

何はともあれ、先輩からの餞別で人形に衣装を買わせてあげることが出来た。

こがさ人形も満足しているのか、ニコニコと上機嫌である。

ユキ人形としんみょうまる人形は恨めしそうにそれを見つめているが服の取り合いになったりしない辺り、本当にいい子達だ。

お金に余裕が出来たら二人の分も買ってあげたい。合計6000円と結構高価だが…。

 

 

そのようなことを思っていたその時、男の人の悲鳴が人里の中心の方から響き渡った。

 




次回からいつも通りの投稿速度に戻ると思います。
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