人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十四章

男の人の悲鳴が人里の中心の方から響き渡るのが聞こえた鏡介は、声がする方へ真っ先に向かう。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「あ、あなたは最近話題の人形遣い様!お願いです、あそこにいる野生の人形を追っ払って下さい!うちの女房があの人形の毒牙に掛かってしまって…!」

 

男の人が指を指した方向を向くと、倒れている女の人と一体の人形がいるのが分かる。

どうやらあの金髪の人形が女の人を襲ったらしい。だが、人形の方は何故この人が倒れてしまったのか分かっていない様子で、ひたすらに女の人を起こそうと揺さぶっている。

そしてもうひとつ目に入ったのは、金髪の人形があちこちボロボロであったことだ。着ている服は破け、泥まみれであった。

 

「おい!どうした!?」

 

「!こ、これは…!」

 

自分の他に声を聞いて駆け付けた人達が到着した。

そして現場を見て大体の状況を把握し、すぐさま人形を追い払おうとする。

 

「行け! だいようせい! 陽の気力!」

 

「ちるの! 陰の気力だ!」

 

人里の人形遣い達は自身の人形を封印の糸から出し、あの金髪の人形を攻撃するよう指示する。

赤と青の弾幕が襲い掛かってくることに気が付いた金髪の人形は、自分が攻撃されていることに驚いていた。

金髪の人形は口元から紫色のガスを噴き出して弾幕から身を守ろうとする。それは人形のいる周辺を覆うように展開されていく。

襲い掛かった弾幕がガスに当たると、弾幕は通り抜けることはなくそのまま消滅してしまった。

 

「うっ…!ゴホッゴホッ…!ぐっ…うぅ…」

 

金髪の人形の傍で倒れていた女の人はその煙を吸ってしまったらしく、顔色が見る見ると悪くなってしまった。

それを見た人形遣い達はさらに危害を加えたと激怒し、攻撃の勢いを強めていく。

 

…何かがおかしい。見ている限りだと、あの金髪の人形自身に特別敵意があるように思えなかったのだ。

あの行動を見る限り、あの金髪の人形は自分よりも寧ろ倒れているあの女の人を心配しているようにしか見えない。でなければ、わざわざ覆うようにあのガスを出さない。

鏡介は金髪の人形をスカウターで調べてみる。

 

 

『名前:メディスン  種族:妖怪  説明:毒を操ることが出来る。』

 

 

「…!」

 

情報が出てきた。それと同時に驚く。「メディスン」…人形解放戦線のリーダーの名だ。

まさか、こんなところで彼女の人形に会うとは思わなかった。

 

阿求が言うにはメディスンは人間を忌み嫌っており、毒を操ることが出来る危険な妖怪らしい。

だが、メディスンの姿をしているあの人形はどうだろうか。

人間である女の人に攻撃が当たると危ないと思い、ああやって自分なりに守ろうとする優しさがある。

 

「…攻撃を止めて下さいっ!それじゃあの人を助けられません!」

 

思わず口が動いた。自分なら何とか出来るかもしれない。これはそう思ったからこその一言。

恐らくだが、あのメディスン人形は自分の毒が普通の人間にとって良くないものだと知らないだけなのだ。ならば、いつものように話して解決出来るのではないだろうか。

 

「でも、このままじゃ…!」

 

「僕に任せてもらえませんか?後、命連茶を持っていれば今すぐ作って来て下さい」

 

「…は?あれは人形に使うものじゃ」

 

「あれはちゃんと人間にも効果があります。実証済みですから」

 

先程まで戦っていた人形遣い達は鏡介の発言に唖然としながらも、言った通りに準備をしに動き始める。これでとりあえずはメディスン人形を刺激せずに済む。

 

「…さっきはごめん。怖かったよね?」

 

鏡介はそう言いながら、毒のガスの中に入っていく。

普通の人間なら触れただけで何かしらの悪い症状が出るだろうがこちらはあの小槌の件以降、こういったものに対する謎の抗体を得ている。好都合だ。

後一歩のところまで人形に近づくと、メディスン人形はこちらを見据え警戒している。当然と言えば当然だろう。

 

「僕は君を攻撃したりしない。安心して?」

 

そう言いながら鏡介はしゃがみ込み、笑みを見せながら人形と対峙した。

本来ならばゆっくりと打ち解けたいところだが、今はこの女の人の命が懸っている。

急がないと。この人形に敵意がないことを伝え、安心させて且つこの毒ガスを止めて貰わないといけない。

鏡介は自分が出来そうな精一杯の慰めを金髪の人形に行う。

 

「…大丈夫、大丈夫…。よしよし…」

 

両手で金髪の人形を持ち上げた後、胸に抱き抱えて優しく頭を撫でて励まし続ける。

ボロボロになっているメディスン人形の格好を見て、鏡介はそうせずにはられなかった。

一体どんな体験をすればこんな悲惨な格好になるのだろうか。可哀そうで仕方ない。抱かれたメディスン人形は突然の行動に驚き、体を震えさせていた。

 

すると、鏡介のスカウターが反応する。

 

 

『アビリティ:ポイズンボディ  発動。』

 

 

どうやらこの人形は触れるだけでも危険だったらしい。

アビリティ名がそれを物語っている。だが自分にはどうやら効いていない。ならば今この場でこの子の心を癒してあげられるのは自分だけだろう。

損な役周りなんて微塵も思わない。こうしてあげるのが当然。愛情を持ってこの人形と向き合うつもりだ。

 

「(あっ、寝てる…)」

 

いつの間にかメディスン人形の震えは無くなり、眠りについていた。

安心してくれたのか、それとも疲れていたのかは定かではないがとりあえずはこれで大丈夫だ。

周りの毒のガスは徐々に晴れていき、やがて青空の温かい日差しが差してきた。

 

「はぁ…はぁ…言われた通り、作ってきました人形遣い殿っ!」

 

「早くそれをこの人に!」

 

戻って来た人里の人形遣い達は急いで女の人に駆け寄り命連茶を飲ませる。

出来立てで熱いだろうが、そこは人形の力である程度飲みやすい温度に調整したらしい。

命連茶を飲んだ女の人の真っ青だった顔色が少し戻っているのが分かる。一命は取り留めたみたいだ。

 

「ありがとうございます。あなた様がいなければどうなっていたか…感謝してもしきれません。」

 

助けを求めていた人里の男の人がこちらにお礼の言葉を言う。

それと同時にこちらが抱えている眠ったメディスン人形を睨みつけた。

 

「…その人形の処分はどうしましょう?」

 

その言葉には怒りが込められていた。男の人からすれば自分の女房を殺そうとした憎い人形なのだろう。現に毒で殺されそうになっていたのは否定はできない。

 

「一応この子はこちらで預かる予定です。ですが、この子も悪気があってやった訳じゃありません。どうか許しては頂けませんか?この通りです」

 

鏡介は頭を下げ、まだ無知な子供同然であるメディスン人形の代わりに謝罪する。

まるでこの子の親になった気分だ。

 

「…人形遣い様がそこまで言うなら、もう何も言いません。そいつを許した訳ではないですが」

 

「…」

 

「今回の件で人里はその人形を受け入れなくなったでしょう。人里の人間に危害を加えてしまったのですから」

 

「…ではせめて、この子を治療できる場所に心当たりはないでしょうか?」

 

メディスン人形の負っている肉体的、精神的ダメージは深刻なものだ。このままだと助からない可能性が高い。

触れるだけで毒が移ってしまうこの人形では、休憩所に行ったところで門前払いとなってしまうだろう。

 

「…迷いの竹林にある永遠亭(えいえんてい)の八意 永琳(やごころ えいりん)殿なら、あるいは」

 

「永遠亭の八意 永琳さん…分かりました。ありがとうございます」

 

どうやら、紅魔館よりも先に行かなければならないところが出来たみたいだ。

 

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