人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十五章

鏡介の腕の中で眠る一体の人形。

体に毒を持っていてあちこちがボロボロで弱っているこのメディスン人形を治せるかもしれない「永遠亭」という場所に今、鏡介は行こうとしていた。

 

既に阿求からもその道に続く道の通行許可は貰って来ている。

あちらからすれば立場的にも難しい判断だったが、こちらが責任を持ってこの子を引き取ることを条件に承諾してくれた。

 

鏡介が門番から許可を貰い、四の道を進もうとしたその時だった。

 

 

「ちょっと待てぇーーい!!」

 

 

後ろから叫び声が聞こえてきた。聞き覚えがある声だった。

振り返ると、そこには怒り顔をしている光の姿が見える。息を切らし、こちらを睨みつけていた。

 

「勝手にどこ行くのよっ!!あたし休憩しながら待ってるように言ったわよね!?もうっ!」

 

「…あ」

 

そうだった。元々自分は光が香霖堂に入っている間にここで足を休めていたんだった。

一連の騒動ですっかり忘れてしまっていたようだ。

 

「はぁ…まぁ、大方予想がつくけどね。その子関連でしょ?」

 

光は頭を掻きながらメディスン人形を指差す。

大分この子も自分がどういう人間なのか理解し始めているようだ。

 

何しろ馬鹿なくらいお人好し…特にこういった小さな命のことになると猶更こうなのだから。

 

「うん、この先の「永遠亭」に行けばこの子を治療して貰えるかもしれないんだ。だから…」

 

「…舞島さんねぇ!そうやって何にでも手を差し伸ばしてたらキリがないわよっ!」

 

「うっ…」

 

光が怒っているのは当然だ。

休めと言ったのにまた変なことに首を突っ込んで厄介事を持ち込むのだから。何を言われてもしょうがないというもの。

この前光の勝手な行動を叱ったばかりだというのに、今度は自分が怒られている。…人のこと言えないな。

 

「…ま、実のところちょうどいいんだけどさ」

 

「え?」

 

「香霖堂の店主さんに聞いたらあの木を切る道具、その「永遠亭」の人に貸してるんだってさ。だからどっちにしろ行くつもりだったの」

 

偶然にも次に行く目的地が自分が向かおうとしていた場所と一致していたらしい。良かった。

これなら行くことに迷いはなくなる。

 

「じゃあ早速…!」

 

「えぇ、行きましょ。…誰かさんのせいで余計なものが増えちゃったけど」

 

「…ちゃんと僕が世話するから…」

 

野良猫を飼うように説得している子と親のようなやり取りをしながら、二人は四の道を進む。

 

 

この4の道でもたくさんの人形に出会った。

木の中、水の中、草の中、壺の中に様々な人形が生息しており、新しい出会いによる期待と不安が鏡介の中で入り混る。

 

その中でも印象的だったのはくるみ人形とエリー人形だ。

くるみ人形の容姿は金髪のロングヘアーで、背中に蝙蝠の羽が生えている。もしかしたらこの子は悪魔か吸血鬼なのかもしれない。日光は平気みたいだが。

エリー人形の方は同じ金髪でカールをまいたヘアスタイル。曲がりくねった鎌を持っている。種族は見当がつかない。

この二体はスカウターで調べても詳しい情報が出ない。どうやらユキ人形と同じタイプらしい。

 

道を塞ぐように佇んでいて進めそうになかった為、初めて鏡介は野生の人形とバトルをして封印の糸でこの二体を捕まえる。

もちろん説得もしてみた。だが、応じてはもらえないし攻撃もされてはしょうがない。メディスン人形のこともあったし、半ば強引にどいて貰った。

そして二体は今、人形箱の中にいる。

 

「一緒に連れて歩かないの?」

 

「うーん、なんと言うか…メインメンバーとして連れて行くのは違うかなって。仕方なく捕まえた人形だし…」

 

「…意外とそういうのに拘るのね舞島さん」

 

これまで会って来た人形はちゃんと何かしらのドラマがあった。

だが、これはどうだろう。特別思い入れもない。自分勝手ではあるが、どうもメインで連れて行く気にはなれなかった。

 

「それにしてもさっきの人形達…まるで何かを守るかのように道を塞いでいたよね。こういうのってやっぱり元になった人物が関係しているのかな?」

 

「恐らくそうだろうね。この子達もきっと」

 

鏡介は自分の封印の糸を触りながら答える。

ユキ、しんみょうまる、こがさ、それにげんげつ。

こがさは出会ったばかりでまだどういう子なのかは分かっていないが、この子達人形の一体一体にもちゃんと個性がある。

ユキは元気で活発な女の子で、しんみょうまるはおしとやかな女の子。げんげつは…うん。変わった女の子だ。

 

とにかく、この人形という生き物を作った人物にはいろんな意味で興味がある。

一体どうやってこんな精巧な幻想郷の住民のコピー人形を作り出したのだろうか。何が目的なのだろう。

異変を起こす為なのか?だったら何故襲うようなことは基本せずにこの幻想郷で普通に生きているのか?疑問が尽きない。

 

人里に来た時も思ったのだがこの人形異変、別にそこまで深刻なものとは思えない。

寧ろ受け入れるべき存在なのではないだろうか。さっきみたいに通せんぼをする人形もいるにはいるが、基本人形は自分から襲うようなものは少ない。

妖怪なんかよりよっぱど無害に近い。それが共通で皆女の子なのは少し抵抗はあったが、今となってはもう慣れた。

 

 

「あ!休憩所よ舞島さん!」

 

 

そんなことを考えているうちに迷いの竹林付近の休憩所に到着したみたいだ。

 

二人は早速休憩所へ足を運ぶ。中は今までの休憩所とあまり変わらない。行商人がいるようだ。

人形を預け、回復を待ちながら鏡介はくつろぎ、光は行商人に話し掛ける。

 

「行商人さん、何かいいものある?」

 

「そうだね、これなんかどうだい?「スキルカード」っていってな…これを人形に使えば技を覚えさせることが出来るんだ」

 

「へぇ、面白そうね…。どういった技があるのかしら?」

 

「周りにバリアを一定時間展開する「フィールドプロテクト」と「フィールドバリア」に、状態異常を一定時間無効化する「幸運の虹」、後は人形の耐久を使って結界を展開する「バリアオプション」だ」

 

「ふぅん。ちなみにおいくら?」

 

「1つ10000円だよ。高価なものなんでね。後、これは何度でも使うことが出来る」

 

光は考え込む。所持金は150円。とても手が届かない。

しかし、光には隠し持っている綺麗な結晶があった。価値がどれほどのものかは分からないが、高価なものだと確信していた。

一か八か、光は交渉してみる。

 

「ねぇ、これとスキルカードを交換出来ない?」

 

「…驚いた。そいつは「魔力の結晶」じゃないか。それなら一つスキルカードと交換出来るぞ」

 

思った通り。つまりこれは1つ10000円の価値があったということ。

わざわざ取りに戻って正解だった。実は一人で香霖堂に戻ったのもこれが目的だったし。舞島さんには内緒にしておこう。

 

「ホント?じゃあこれ、ちょうだい♪」

 

「毎度ありぃっ!」

 

光はスキルカードを1つ、購入するのであった。

 

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