人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十六章

四の道の休憩所で手持ちの人形の回復を済ませ、「迷いの竹林」前へとやって来た二人。

先程までの木々が一変、竹林へと変わったことで一層目的地である「永遠亭」へ近づいて来たことを実感する。

 

「魔法の森」とはまた違った「和」の雰囲気があるが、ここは名前から察するにここはすごく入り組んでいるのだろう。

メディスン人形のこともある。なるべく時間が掛けたくはないが…無事に目的地にたどり着けるのかは不安しかない。

 

「…光ちゃん、道分かる?」

 

「ごめん。私も来るのは初めてで…」

 

人形のことで頭がいっぱいで、行くまでの道のりをどうするか考えていなかった。

少し冷静さを失っていたらしい。闇雲に行ってみるのもいいが…こういう場所でそれは返って危険な気がする。

 

「でも、ここには迷った人を外に連れて行ってくれる案内人がいるらしいわ。その人に会えれば希望はあるんじゃないかしら」

 

「え、本当?時間もないしそれにかけるしかないかな…。どんな人なの?」

 

「銀髪ロングで赤い瞳、赤いもんぺが特徴的だからすぐに分かると思う。偶に人里の慧音(けいね)先生のとこに来てるのよ。妹紅(もこう)さんていうの」

 

成程。確かに特徴的だ。言ってる通り見れば一発であろう。

「もんぺ」というものは確か肩に紐を付けるズボンのようなものだったと記憶している。実際に来ている人は見たことはない。

この世界は実に色んな格好の住民がいるものだ。元がゲームの世界だからとにかく個性が強い。そんな世界に今、自分がいるのだと思うと本当に夢を見ているみたいに思える。

だが今まで経験してきた自身への毒の苦しみ、人形からの攻撃を受けた痛みがそれを否定していていた。本当にどうしてこんなことになってしまったのか。

 

鏡介は歩みを進めながら今一度それを考え始める。

元はと言えば大森の奴に付き合ったことが発端だった。

あれから時間はどれくらいたったんだ?やっぱり自分はあちらで行方不明扱いになっているのだろうか。そして新聞の記事にされて…やがては忘れ去られていくのか。

家族はどうしているのだろう。心配をかけてしまっているだろうか。連れて行った大森は責任を感じてしまっているだろうか。

 

自分が周りにどう思われているのかは基本気にはしないが、こういう状況になってはちょっとそういう気持ちも芽生えてしまう。

誰かに恨まれるようなことをしてきたつもりはない。だが、自分に自信が持てない性格である為どうしてもよくない方向に考えてしまうのだ。

 

「舞島さん、あそこに妖怪がいるよ」

 

光が前方にピンクの服を着た少女を見つける。

ハッとした鏡介は首を軽く横に振った後、それを確認した。兎の耳を生やしているあの背の小さな少女はどうやら妖怪らしい。

妖怪兎の方はまだこちらに気付いていない。そして手に封印の糸を持っていることから人形遣いであることは分かる。

話しかければ恐らく勝負を仕掛けられるだろう。出来れば避けたいところではあるが、ここに関する情報も聞きたいところなのでやらなければならない。

 

すると妖怪兎はこちらに気付いたようで、しばらく観察した後話しかけてくる。

 

「そこの人間!あなた人形遣いね?勝負よっ!」

 

案の定だった。人形バトルが幕を開ける。

 

「ここはまかせて舞島さん。行け! げんげつ!」

 

「行けー!うどんげ!」

 

両者の人形が封印の糸から出てくる。光は鏡介の代わりに人形バトルを引き受けてくれるようだ。

こちらがメディスン人形を抱えているのを見越して気遣ってくれたのであろう。何だかんだ優しい子だ。

 

「悪いけど一瞬で終わらせるわよ! 幻覚弾!」

 

げんげつ人形は紫の弾幕を放ち、

 

「そして 陽炎(かげろう)!」

 

うどんげ人形に幻術を見せ、惑わせた。

 

「え…?なっ…!」

 

妖怪兎はこの連携に対応することが出来ず、攻撃の指示は出すもののそれは明後日の方向に飛び外れてしまう。

そして攻撃がクリーンヒットして一撃で戦闘不能。宣言通り一瞬で終わってしまう。

 

「つ、強すぎる…。参った」

 

「さて妖怪さん。私達、永遠亭に行きたいのよ。道を知ってるかしら?妹紅さんの家でもいいわ」

 

げんげつ人形を宝石に戻しながら光は聞き込みをする。

 

「うーん、妹紅さんの家なら知ってるよ」

 

「じゃあ案内してくれないかしら?急ぎなの」

 

「…しょうがない。勝負には負けちゃったし、特別に案内したげる。付いて来て」

 

潔い性格のようで、妖怪兎は案内を承諾し竹林の中を慣れたように歩き始める。

 

「これで何とかなりそうね。…舞島さん?ボーっとしてると置いてくよ?」

 

「…え?あ、ごめん!」

 

鏡介は光の人形遣いとしての腕が明らかに上がっているのに内心驚きを隠せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここよ」

 

しばらく付いて行っていると、道案内をしてくれている妖怪兎が竹林の中に建っている小さな一軒家を指差す。

見た目は人里にあるような一昔前のこちらの世界にある様式であったので、さほど珍しくもなく驚くようなこともなかった。

ここが妹紅という人物の家らしい。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「ただの気まぐれだから気にしないで。それよりさ、また人形バトルしよ?今度はあんたと戦ってみたい。正直人間舐めてたわ」

 

「えぇ。この子の治療が終わった後なら」

 

「今すぐじゃダメ?」

 

「はい」

 

「ちぇー、分かったよ。約束だかんね?」

 

軽い口約束を果たすと、妖怪兎は足早煮竹林の中へ帰って行こうとする。

 

「それじゃね。しかしあんたも物好きだ。自分なら兎も角、そんなただの人形のことを優先するなんてね」

 

「何言ってるんですか。自分なんかよりも他の方を優先するのは当たり前です」

 

鏡介は当然と言わんばかりに妖怪兎の言っていることに対し、堂々と反論する。

自分よりもまず、他人のことを最優先。それが彼、舞島 鏡介の生き方なのだ。

 

その言葉に対し、妖怪兎は唖然としていた。

 

「…あんた、ただのド真面目なお人好しね。あたしには理解しかねるわ」

 

「私もー」

 

「光ちゃんまで!?…何か、そういう性分なんですよ僕…ハハッ…」

 

「ふぅん。変わってるね人間って。ま、精々頑張れば?…それじゃ」

 

そう言うと、妖怪兎は竹林の中へ消えていった。

 

「よし、じゃあ早速会いに行きましょう?」

 

「そうだね」

 

二人は妹紅の家の前まで歩いていく。

もちろんインターホンなどはないので、最初は大きな声で呼び出してみる。

 

「御免下さい!妹紅さん、いらっしゃいますか?」

 

聞こえるように言ったつもりだが、返事は帰ってこない。

今度は戸を軽く叩いてから同じように呼び出してみる。しかし、結果は同じであった。

 

「…もしかして、いないのかな?」

 

「寝ているんじゃない?…あら、開いてるわよ。入ってみましょうよ」

 

戸が開いていることに気付いた光は遠慮なしに中へ入っていく。

 

「ちょ、ちょっと光ちゃん!駄目だって!」

 

「急いでるんでしょ?そんなこと言ってられないわよ」

 

光の言ってることも一理あるが、非常識な行動はなるべく控えて欲しい。

これでは空き巣みたいではないか。

 

「あら、どうもいないみたいね」

 

この家はワンルームである為、いないことは玄関からでもすぐに分かったらしい。

内装は畳が何畳か敷いてある至って普通の和式部屋であった。

 

「せめて、この竹林の地図とかないのかなー」

 

「…まさか、中にまで入るつもり?」

 

「もちろん」

 

「…僕は絶対行かないからね。はぁ…」

 

やめて欲しいが、永遠亭へ行く為の手掛かりはここだけだろう。止めはしない。

…後でちゃんと謝っておかないと。

 

 

 

そして光のメモ用紙の地図を見ながら数分、ようやく目的地へとたどり着いた。

 

「こ、ここが「永遠亭」みたいね…」

 

「や、やっと着いた…。もう竹林はこりごりだよ…」

 

運よく妹紅の家にある永遠亭までの地図を写すことが出来て道のりは分かったのだが、途中で別の妖怪兎から人形バトルをこれでもかと言わんばかりに挑まれた。

もう両者ボロボロである。人里の人が言ってたことから察するにここは人形の回復も受け付けているだろう。早く診てあげてほしい。

 

「弱ったなぁ。強い人形遣いを探してこいなんて突然言われても…」

 

「人形が来てからあの二人、さらにエスカレートしてるよね。あーあ、あれの後片付けめんどいなぁ」

 

永遠亭の前で何やら二人の兎耳少女が頭を悩ませているようだ。

途中で遭遇した人形遣いが使っていた人形とそっくりであった。この永遠亭の人だろうか?

とりあえず話し掛けてみる。

 

「御免下さい。ここは「永遠亭」で間違いないでしょうか?診察をしてもらいたいんですが…」

 

「?あ、はい。診察希望者ですね。でも、今はちょっと…」

 

薄紫色のロングヘアーの赤い瞳をしている兎耳少女は永遠亭の方を見ながら申し訳なさそうに言った。

どうやら永遠亭の方で何かあったらしい。診察が難しい状況なのだろう。

 

すると、突然大きな爆発音が永遠亭の方から聞こえてくる。

 

「えっと、一体何が?」

 

「姫様と藤原のがまた派手に喧嘩しているのさ。人形でね」

 

「…あー、道理でいなかった訳ね」

 

「?どういうこと…?」

 

「「藤原の」っていうのは妹紅さんのことよ。ここの姫様とは何か強い因縁があるって聞いたことあるわ」

 

「…そうなんだ」

 

さっきの爆発から察するに喧嘩の規模は凄まじいものだ。

診察どころではないのは分かる。しかし、こちらも一刻も早くメディスン人形を治してあげたい。

となると、選択肢は一つであった。

 

「この喧嘩を止めれば、この子の診察してもらえますか?」

 

「え?まぁそうですね。しかし、あなた方人形遣いでしょうがあの二人は結構強いですよ?私達もさっきコテンパンにされたところですから」

 

「こう見えて私達、結構強いよ?ここに来る途中で消耗しちゃったけど、回復して貰えれば協力するわ」

 

「うーん…」

 

赤目の兎耳少女はどうしたものかと悩んでいた。

ぽっと出の人達に任せていいものかと思っているのだろう。信用がないのは仕方ない。

 

「いいんじゃない?あながち噓じゃなさそうだし。聞いた話だと私の部下達を倒してきたんだろう?」

 

するともう一人の黒髪の兎耳少女が話し始める。

言われてみればこの少女の見た目は竹林で会った妖怪兎たちと似ていた。違いがあるとすれば、ぶら下げている小さな人参の首飾りだろうか。

 

「もしかして、あの人形遣い達は仕組まれていたってこと?」

 

「ま、そういうことだね。テストは合格ってとこかな」

 

「てゐ、あんたいつの間に…。相変わらず抜け目ないわね」

 

「鈴仙とは違うのだよ」

 

ニシシッと笑うてゐ。成程、道理で道を塞ぐように立っていた訳だ。

 

「そう言うことならどうかお願いします。二人を止めて下さい!このままじゃ永遠亭が持ちません!…あ、人形の回復は私が」

 

そう言いながら鈴仙は鞄から救急箱を取り出す。

そして手持ち人形達の治療を手早く済ませてくれた。その時間は僅か数分。見事な手際であった。

ただ、残念ながらメディスン人形の方は「師匠」と呼ばれている人物でないと治療は出来ないらしい。

それほどこの子は重傷で特殊なんだとか。

 

「…これでよし。では案内します。付いて来て下さい!」

 

二人は鈴仙の案内の下、永遠亭に足を運ぶのであった。

 




FFCCリマスターにはまってて遅れてしまった。
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