人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十七章

永遠亭では、使いであろう妖怪兎達が慌ただしく屋敷内を走り回っていた。

真面目に現状をどうにかしようとする者もいれば、只々パニックになっているだけの者もいるようだ。

そして、何だか屋敷全体が少し暑い。「姫様」と呼ばれている人物と妹紅の人形バトルの影響なのだろうか。

 

「とりあえず、師匠のいる診察室へ行きましょう!詳しい話はそちらで。向かって左側にあります!」

 

「は、はい…っ」

 

屋敷外で起こった爆発音は今でも定期的に聞こえており、中に入ることで一段と耳が痛いくらいに響き渡る。

空いている手で耳を塞ぎながら鈴仙の後に付いて来ると、目的の場所が書かれた看板とその奥に小さめの個室が見えた。

 

 

「師匠!お連れしました!」

 

 

鈴仙が戸を開け、大きな声で報告する。

するとそこには椅子に座っている一人の銀髪の女性がいた。赤と青のコントラストが特徴的な服を着ていて、その所々に星座が描かれている。

 

「あら、早かったわね。…その人達が強い人形遣いかしら?随分とまた可愛らしいトレーナーね」

 

「は、初めまして。舞島 鏡介と申します(また女々しい扱いされた…)」

 

「あたしは光って言いまーす」

 

男としてのプライドを軽く傷つけられ内心悲しんでいる鏡介を横目に、銀髪の女性は話し始める。

 

「永遠亭へようこそ。私はここで医者をやっている八意 永琳(やごころ えいりん)です。

 鈴仙から聞いているとは思いますが、今日はあなた方に協力して貰いたいことがあります。向こうで喧嘩をしている二人の仲裁です」

 

「はい、分かっています。…元々は永琳さんに診察をお願いしたくて来たんですけど」

 

「あら、そうだったの?…成程、あなたが抱えている人形かしら。見たところ、かなり衰弱しているようね。

 このままだと最悪死んでしまうわ。恐らく、身体の毒素が不足しているのでしょうけど…」

 

事を察した永琳はメディスン人形の様子を遠目で見ながら診断を始めると、聴診器をメディスン人形の胸に当てた。

 

「それで、この子は助かるんですか?」

 

「そうね。元になっている人物自体もだけど、この子は毒を糧に体を動かして生きている。今は衰弱状態になったことで、その体の毒素が消えかけているの。

 …ちょっとその人形をこちらに。私は触っても大丈夫だから心配はいらないわ」

 

「…はい」

 

鏡介はメディスン人形を永琳に渡した。説得力がある説明によってこの人が優れた医者であることは十分に分かり、心の中で安堵する。

永琳はメディスン人形を隅々まで観察し、少し考え込んだ後こう口にした。

 

「治すのはそこまで難しくはないわ。要はこの人形に毒素を与えてあげればいい話。だけど、まずはこの衰弱状態をどうにかしないとね。あなた、「命連茶」は所持している?」

 

「え?はい持ってますが…」

 

「それに入っている成分で私が衰弱に効く薬を作ってみましょう。お代は結構。但し、必ずこの騒動を止めて下さい」

 

「…分かりました!お願いしますっ!」

 

「私の「あらゆる薬を作る程度の能力」にかけて、必ずこの子を治して見せるわ。安心なさい」

 

その言葉を聞いて頷いた鏡介と光は、診察室を後にする。

 

 

 

「良かったじゃん。あの人形助かりそうで」

 

「うん…本当に良かった」

 

現場に向かいながら八意 永琳が信用出来る人物であることにホッと胸をなでおろす。

これまでの不安が解消された気分で、あの人には感謝してもしきれそうにない。

 

そして光と鏡介は今、騒動を起こしている2人がいる部屋の前で佇んでいた。

 

 

「おらぁ死ねぇ輝夜ああぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

 

 

「はんっ!何度殺っても死なないわよ!そう言うお前が死ねっ!」

 

 

「お生憎様、あたしも死なねぇんだよクソがぁ!!」

 

 

2人の激しい闘いの叫びは外からでも煩く聞こえてくる。爆発音が鳴る度に細かい瓦礫が飛び散り、砂煙が舞う。

本当にこれが人形バトルによるものなのか俄かには信じ難いと思える程、それは激しいものだった。

 

「なーんか、すっごいことになってるねぇ」

 

「何だか入りずらいね…。でも、治してもらってるからにはちゃんと止めないと」

 

「相手は2人いるんだよね。やっぱり私達で一人ずつ相手にする?」

 

「…いや、前に僕が光ちゃんのサポートをしたみたいにタッグで挑んだ方がいいんじゃないかな。上手く説得できればの話ではあるんだけど…」

 

「あの2人が話を聞いてくれるかと言うと…正直不安よねぇ」

 

事実、今喧嘩をしている2人がコンビを組むとは思えない。非現実的だ。

メディスン人形を安全に治療できるようにする為にも、なるべく早くこの騒動を終わらせたいが…やはりそう上手くはいかないか。

鏡介はいい案がないか考え込む。

 

「まぁどうにかなるでしょ。さっさと行って片づけるわよ舞島さんっ!」

 

「え!?ちょっと!」

 

すると光は一足先に現場へと走って行ってしまった。何と言うかあの子は肝が据わっているというか、とにかく行動する派だ。

彼女のああいうところは自分も学ぶべきなのかもしれない。どうも自分は慎重に行動しすぎている節がある。

鏡介も急いで彼女の後を追いかけていく。

 

 

「そこまでよっ!2人共!」

 

「今すぐ喧嘩を止めて下さい!このままじゃ永遠亭がなくなっちゃいます!」

 

 

「「 …あぁん? 」」

 

 

現場に到着すると、そこは酷い有様であった。

人形バトルはどこへやら、そこには弾幕を撃ち合いながら喧嘩をしている2人と2体の姿があったのだ。

辺りは火の海。恐らく背中から炎の翼を生やしているあの妹紅という人物の仕業なのだろう。お互いに服はボロボロ。辛うじて見えてはいけない部分は守られてはいる。

不思議と体の傷は深刻なものはなかった。「死なない」という言葉と何か関連しているのか?所々に勝負の跡も見受けられ、辺りの床や壁には穴凹が出来ていた。

 

一方、二人と同じ人形の方はオリジナルの意志を受け継いでいるのか、指示が出されなくともお互いに喧嘩をしているようだ。犬猿の仲とはこのことだろう。

とはいってもやってることは服の引っ張り合いやほっぺの抓り合いなので、こちらはまだ可愛いものである。

 

「ちっ。あなた達は永琳の差し金かしら?邪魔しないで貰える?」

 

こちらに気付いた黒いロングヘアーの「輝夜」と呼ばれている人物はこちらが来た目的を察してか、面倒くさそうに蔑んだ目で睨みつける。

この屋敷の偉い人なのだろうが、あまりにも第一印象が悪い形での対面となってしまう。本当は綺麗な人なのだろうが今の状態では影も形もない。

 

「何?あんたら私達の邪魔するつもり?今いいとこなんだけど」

 

銀髪の赤いもんぺを着た「妹紅」も同じく邪魔そうにこちらを睨みつけている。すごく怖い。

勝手に家に上がり込んだことを今言えば、焼き殺されかねないだろう。それくらい機嫌が悪そうだった。まぁあれは光が勝手に上がり込んだのだが。

 

「妹紅さん久しぶりー!」

 

「ん?…お前は寺小屋の。どうしてここに?」

 

「ちょっと永遠亭に用があってさ。ここに来たのはついでと言うか…永琳さんに頼まれごとされちゃったのよー。ホントやになっちゃう」

 

「私の案内なしによく来れたな…。しかし、今は虫の居所が悪いんだ。こいつをぶちのめさないと収まりそうにない。火傷しないうちに下がっt」

 

「やれるものならやってみなさいよ~モ・コ・タ・ン♪」

 

輝夜が妹紅を小馬鹿にしながら煽ると、妹紅は怒りの炎の鉄拳を輝夜の顔面に容赦なく振りかざす。

その瞬間僅か1秒。輝夜もこれには反応が出来なかったらしくもろにクリーンヒット。

 

「あっぢぃぃぃぃーーーーーー!!!? よくもこの私の美しい顔面を殴ったわね!?」

 

「どうせすぐに再生するだろうが!油断してる方が悪いんだよ!ざまぁみろ!」

 

「…もう、許さんぞぉ!妹紅ぉぉーーーっ!」

 

輝夜は顔面を抑えながら、辺りに弾幕を展開し始める。

また派手に暴れるつもりだ。このままじゃキリもないし自分達も危ない。

 

「ちょ、ちょっと!このままじゃ永遠に決着はつきませんよ!どうせなら勝ち負けがはっきりする方法でやりませんか!?」

 

鏡介は間に割って入り、2人に提案をする。半ば命懸けだ。心臓の鼓動が明らかに早くなっているのを感じた。汗も出てきている。

だが、幸いにもそれを見た輝夜は自身の弾幕を消した。流石に無関係の人を巻き込まない冷静さは保ってくれていたようだ。

 

「はぁ?一体何で…」

 

「それはもちろん、人形バトルで!そして2ずつで人タッグを組むなんてどう?そうね…妹紅さんと私、輝夜さんと舞島さんペアでさ」

 

光はここぞとばかりに話に乗り、細かに説明し始める。

ちょっと予定とは変わってしまうが、この方が比較的平和に終わるであろう。ナイスだ光ちゃん。

 

「…まぁ、確かにこれならはっきりと決着はつくか。いいだろう。但し、輝夜は私にやらせろよ」

 

「私も異論はないわ。…まぁ元々は人形で勝負していたんだし?ボコボコにしてあげるわよ。手出さないでよそこの愚民」

 

「ぐ、愚民って…」

 

2人も承諾してくれたようだ。一時はどうなるかと思ったが、これで騒動も落ち着かせられるだろう。ただ、協力プレイは少々難しそうだ。

これで実質だが光との対戦にもなった。一見すると何でこちらが戦わなければならないのかと思わざるを得ないが…この頃の光の人形遣いとしての腕は格段に上がっている。相手にするのは正直恐ろしい。

 

こうして4人による人形タッグバトルが今、幕を開けるのであった。

 

 

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