人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十八章

永遠亭の一室で紅蓮の炎が舞っている。

普段であれば大事であるが妹紅が放ったこの炎はこれ以上燃え広がることはなく、今はただこのバトルフィールドを彩るものとなっていた。

室温もまだ普通の人間でも耐えられる程度。恐らく妹紅が制御したのだろう。

 

そんな状況の中、鏡介、光、妹紅、輝夜の4人は今から人形バトルを始めようとしていた。

 

「軽くルールをおさらいするね。お互いの使用人形は1体。一応タッグバトルということで人形同士の協力は有りよ。いい?」

 

「オッケー」「問題ない」「異論なし」

 

光は他の3人に確認する。

本当は自分と光で組んで二人を仲裁する予定だったが、絶賛喧嘩中の妹紅と輝夜が一緒に組んでくれる筈がない。

光の提案のより2人が納得するであろう組み合わせとなった訳だが…何か打算はあるんだろうか。一応は信じてはいるけど。

 

「…で、お2人の人形の回復は済ませましたけども。これ、もしかして審判も私がやる形ですか…?」

 

「はいもちろん!お願いしますね♪」

 

バトルフィールドの真ん中で佇んでいる鈴仙。光が審判する人がいないということで連れてきた。

本人には妹紅と輝夜の人形の回復だけを頼んだらしく、今の状況を見て何となく察したみたいだ。…巻き込んでしまって申し訳なく思う。

 

「鈴仙、変な審議をしたら…分かってるわね?」

 

「は、はいぃ姫様ぁ!」

 

輝夜は口元を袖で隠しながら睨みつけ、鈴仙を威圧する。

このやり取りで何となくだが鈴仙の気苦労が伺えた。これが上司と部下の関係なのだろうが、どうか頑張っていって欲しい。負けるな鈴仙。

 

「そ、それではトレーナーは人形を出してください!」

 

 

「行け! ユキ!」

 

 

「お行き。 かぐや!」

 

 

「げんげつ! 出番よ!」

 

 

「ぶちかませ! もこう!」

 

 

鈴仙の号令と共に各トレーナーは戦わせる人形を繰り出す。

 

…ん?ちょっと待って。光ちゃん今何て言った?

嫌な予感がした鏡介は、ユキ人形の方を見る。

 

「…は、早すぎる…」

 

そこにはユキ人形にべったりのげんげつ人形の姿があった。

目がハートになりながら頬擦りをしているが、案の定ユキ人形は恐怖で固まっている。

 

「ひ、光ちゃん!?この前ユキ人形と接触させないよう約束したでしょ!?」

 

「ごめんごめんっ!でもこの子が一番強いから勘弁して!…ほらげんちゃん?言うこと聞かないと戻しちゃうよ?」

 

封印の糸を構えながら光がそう言うと、げんげつ人形は軽く舌打ちしながら元の場所に戻っていく。

知らぬ間にあの悪魔の扱いに慣れたようだ。げんげつ人形はすごく不服そうだけど。

 

「おいおい…大丈夫なのか?」

 

「ちょ~っと面倒臭い子だけど、実力は確かよ。安心して、妹紅さん!」

 

勝負になるのか心配になる妹紅に対し、光が自信有り気に答える。

確かにげんげつ人形は強い。2人掛かりで負けそうになった程に。今思うと、本当によく捕まえられたものだ。

 

「…愚民らしい弱そうな人形ねぇ。私のとは大違い」

 

「そ、そんなことありません!この子は僕の自慢の相棒なんですから」

 

輝夜は味方側であるユキ人形を見て軽く軽蔑する。

ふと、輝夜人形の方を見てみると欠伸をしながら気だるそうにしていた。そっち人形だってちょっと頼りなさそう…などとは言わないでおこう。

 

 

「では、これより姫様と舞島さんペア 対 妹紅さん光さんペアによる、人形タッグバトルを開始します!」

 

 

 

一方の人形サイド

 

「(じ、自慢の相棒…(ポッ)」

 

「照れてるユキちゃん可愛い…」

 

「何か変なのと組まされた…辛い」

 

「もう眠いんだけど…」

 

トレーナ側に対し、人形側は割と呑気だった。

 

 

 

「もこう!奴に 兜割(かぶとわり) だ!」

 

始まる人形タッグバトル。先に仕掛けたのは妹紅だった。

指示を受けた妹もこう人形は手から光の剣を作り出しダッシュして距離を詰めてから飛び上がると、それをかぐや人形に振り下ろす。

 

「森羅結界」

 

それに対して輝夜は特に驚く様子はなく、冷静に防御技の指示を出した。

かぐや人形は手をかざして結界を張り、もこう人形の攻撃を無効化。

 

「そんな単調な攻撃、当たる訳ないでしょう?馬鹿ね。まぁ、仮に当たっていたとしても大したダメージは受けないでしょうけど」

 

「ちっ…!相変わらず守りが硬いな…」

 

「(成程…ということはあのかぐや人形は散防が高いのね…。だったらげんちゃんは集弾アタッカーだし相性は良い!)」

 

もこうと輝夜のやり取りを見て光はそう分析する。

人形バトルに慣れてきた光は、もはや初見の技であってもその技が集弾か散弾かの区別がある程度は付くようになっていた。

 

「げんちゃん!かぐや人形に 幻覚弾!」

 

指示を受けたげんげつ人形は紫色の弾幕を放つ。

 

「…! ユキ! 陽の気力 であの弾幕を打ち消して!」

 

それを見た鏡介はユキ人形に迎撃の指示を出す。

ユキの放った青い弾幕は、本体である弾幕に当たって爆発を起こして攻撃を防ぐことに成功する。

 

森羅結界の隙を突いた攻撃…こちらが霊夢と人形バトルをした時にやったことを早速吸収しているようだ。

 

「あら、愚民にしてはやるじゃない」

 

「気を付けて下さいよ。その技、連続では使えないんですから」

 

「はいはい」

 

袖で口元を隠し、くすくすと笑う輝夜。先程の行動に対する自覚があるのかないのか…。

こちらが守ると分かってやったのだとしたらとんだ大物だ。この人は姫様らしいからありえない話ではないが。

 

「(…普通に攻撃を仕掛けてきたということは、やっぱり戦う気満々だな。はぁ…しょうがないか)」

 

多少は期待していたのだが、どうやら光は容赦しないらしい。

気は進まないが、どうにか勝ってこの2人の喧嘩を終わらせるしかないだろう。

 

「もこう! ファイアウォール!」

 

今度はまた妹紅が攻撃を仕掛ける。

もこう人形は炎の壁を作り出し、それを相手の人形2体に向かって放った。

このバトルフィールドの影響か、炎の壁は見る見ると大きくなっていって迫ってくる。

 

「こっちも ファイアウォール だ! ユキ!」

 

「!?同じ技…!?」

 

ユキ人形も同じように炎の壁を作ってそれを放つ。

壁同士が衝突すると、力と力のぶつかり合いによる衝撃と熱気が4人を襲った。

 

鏡介は今の攻撃を見て瞬時にこの状況を利用した。選出した人形を炎タイプのユキ人形にしたのも実はこの為だ。

水タイプのこがさ人形では周りの炎の影響で逆に威力が落ちてしまうだろう。妹紅は最初から自分に有利な状況を作っていたのだ。

 

「…驚いた。その人形も炎タイプか。私が炎タイプに有利なフィールドを作っていたのに気付いての選出か?大したもんだよ」

 

「か、輝夜さんの人形の防御力を貫くならそういう手もあるんじゃないかって思って…っ!」

 

「…確かにあれを食らったら痛そうね。妹紅らしい戦法だわ」

 

大方予想通りだったみたいで、妹紅が称賛の言葉をかける。

輝夜もあの技を見て少しは緊張感を持ち始めたようだ。

 

「!?馬鹿な!?こっちがパワーで負けてるだと?」

 

妹紅が炎の壁のぶつけ合いに自分の人形が押されていることに気付いた。

そして、もこう人形側の炎の壁は消え失せてユキ人形の攻撃が飛んでくる。

 

「くっ…!?」

 

「げ、げんちゃん上に逃げて!」

 

炎の壁が迫り、トレーナー2人は思わず部屋の両端に避難をする。

げんげつ人形も辛うじて避けられたものの、もこう人形は壁に巻き込まれてそのまま叩き付けられてしまう。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

妹紅が人形の心配をすると、食らった人形の方はしばらくして立ち上がり唾を吐く仕草をしながらフィールドに戻っていく。

攻撃がもろに入ったといえ、効果はいまひとつ。そこまで痛手ではなかったようだ。

 

「…やるじゃないか。如何せんこっちも燃えてきた。だが…それでも狙いはお前だ! もこう! 奴に 虎走り(とらばしり)!」

 

「…!?」

 

指示を受けたその瞬間、もこう人形は姿を消す。

標的はかぐや人形。何が起こったのか分からず、トレーナーである輝夜自身も眉を顰めている。

今まで人形バトルで戦っていて初めて見る技なのだろう。

 

「(…見えないのではなく、かなり高速で動いているようね。問題は反応出来るかどうか…)」

 

「…遅い!」

 

その言葉が掛けられると同時に、もこう人形は既にかぐや人形の懐に潜り込んでいた。

こちらが思考を巡らせているその間にはもう攻撃が飛んで来るなど誰が思うだろう。

 

「! 森羅結…」

 

「食らいなっ!!」

 

咄嗟に輝夜は防御技の指示を出すが、間に合わずに相手の攻撃が直撃してしまう。

距離を詰めて勢いが乗ったもこう人形の鋭い蹴りはかぐや人形を吹き飛ばし、壁に激突させる。

 

「…まさか、拡散技以外も使えたとはね」

 

「お前の人形を倒す為にわざわざ覚えたんだ。結構効いたろ?」

 

「まぁ、多少驚いたわね」

 

ほくそ笑みながら話す妹紅。確かに今のはさぞ気持ちが良かっただろう。

だがそれに対し、輝夜は冷静だった。

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「問題ないわ。さっきのは初めて見る技だったから当たってしまっただけのこと。次はこうはいかない。…だけど、思ったよりダメージが大きいかしらね。」

 

輝夜は自分の人形がよろめいている様子を見ながらそう口にする。

あれだけ吹き飛ばされたのだ。当然と言える。

 

だが、それでも輝夜は表情を変えずにいるのが不思議だ。何故そんな余裕があるのか。

ルール上アイテムは一応禁止だ。それ以外の方法で回復でもさせない限り、人形は倒れてしまうだろう。

 

「身代わりがいる今の状況ならこの技を使える。愚民!私の盾になりなさい」

 

「い、今あなた身代わりって言いました!?…まぁいいですけど!」

 

輝夜が何かをする気のようだ。考えがあるのだろう。

だが、初めての協力がこれとは…。鏡介は何とも言えない気持ちになる。

 

「…後、僕は舞島 鏡介です。その「愚民」っていうのやめてもらえますか?」

 

「無事に私を勝利に導いたら、考えなくもないわね」

 

「…だったら、盾にでも何にでもなりますよ!」

 

「素直でよろしい…じゃあ行くわ。 かぐや! 胡蝶の舞(こちょうのまい)!」

 

指示を受けたかぐや人形は、ひらひらと品のある踊りを始める。

そしてその周りには光輝く蝶が舞い、とても美しく幻想的であった。思わず見惚れてしまう程だ。

しかし、今は人形バトル中。惜しいところではあるが、ゆっくりと見物することは出来ない。

 

「この技は体力を徐々に回復させる技。見ての通り、隙が大きいからね」

 

「…成程。これをしている間を守ればいいんですね」

 

鏡介はユキ人形に出来る防御手段を考える。

構成的にしんみょうまる人形のような防御技は一切ない。となると何かしらの応用が必要となるだろう。

2人を一気に相手をするのは困難と言える。迎撃するだけでは限界が来るのは明白だ。

 

「させねぇ! 虎走り だ!」

 

「…ならこれで! ユキ! ファイアウォール!」

 

迫ってくるもこう人形に対し、鏡介の出した指示は攻撃技、「ファイアウォール」。

炎の壁を放つこの技は広範囲を攻撃出来る。故に、その「広範囲」という特性を生かす。

 

「そのままキープして かぐやを守れ!」

 

「な、何!?」

 

ユキ人形は作りだした炎の壁を飛ばさず、かぐや人形を守るように展開する。

これにより、疑似的にだが防御壁を作り出した。

突っ込んできたもこう人形は炎の壁に弾かれてしまい、その衝撃で後ずさりしてしまう。

 

「くそっ!やるなあいつ…まさかそう来るとはね」

 

ユキ人形の作った炎の壁はフィールドの影響もあり、徐々に大きくなっていく。

ただでさえ散弾が高いユキ人形の火力がさらに上乗せされているこの状態だ。打ち消すことは容易ではない。

 

「うーん、これじゃ手が出せないな。こりゃ一本取られた」

 

光もこれにはお手上げで、手を出さずに無駄な労力は消費しないようだ。賢明な判断と言える。

おかげでこちらも十分な時間を稼げるのだが。

 

「…輝夜さん。そろそろいいですか?」

 

「えぇ、ご苦労様。お陰で体力は十分回復出来たわ。そしてこの状況、使える。フフフ…」

 

何やら不意に笑い始める輝夜。

その笑みは今までのクールさとは別に子供のイタズラ心のような、そんなあどけなさが少し感じられた。

 

「時は来た。今こそ奴をぶちのめす絶好の機会っ!」

 

笑顔とは裏腹に、物騒なことを言い始めた輝夜。

何だかこちらが悪者になった気分だ。

 

ふと、かぐや人形の方を見たらさっきと比べて元気になっているのが分かった。

きっと周りの蝶が回復してくれているのだろう。何とも便利な技だ。

 

「さて、と。じゃあ覚悟は良いかしら、妹紅?」

 

「!?て、てめぇ…まさか!?この炎の壁の向こうから一方的に攻撃する気か!?卑怯だぞ!」

 

「あらー?誰が炎タイプに有利なフィールドにしたのかしらねー?じゃあついでにもっと場を整えようかしら」

 

輝夜はこれを機に攻撃するための準備を整えるつもりらしい。

…自分でやっておいてなんだけど、これは中々酷い状況だ。やりたい放題出来てしまうぞ。

 

「さぁ、畳掛けるわよ! 気象発現(きしょうはつげん)!」

 

 

「 極光(きょっこう)! 」

 

 

輝夜の掛け声と共に、人形は天に光を掲げる。すると、眩しいほどの日差しがこの部屋を照らしていく。

部屋の中にいるのに、まるで夏の炎天下の中にいるかのような錯覚を覚えた。ただでさえ炎の中で暑苦しいのに、それが更に増した気がする。本当にやりたい放題するつもりのようだ。人間サイドからすれば勘弁願いたい。

 

「この気象は光タイプの技の威力を上げ、闇タイプの威力を半減させる。シンプルでしょう?」

 

「(天候と特徴が似てるな。「気象」か…)」

 

鏡介の中のポケ〇ン知識が久々に呼び起こされる。

こちらでは日照りや雨などではなく、また別の物が存在するらしい。こがさ人形の件で勘違いをしていたようだ。

ちゃんと覚えておこう。

 

「さぁ行くわよ! 原初の光!」

 

この圧倒的有利な状況を生かし、輝夜の反撃が始まる。

人形から放たれた光の弾幕は気象の影響で威力が上がり、通常とは比べ物にならないほどの破壊力をもたらす。

輝夜の狙いは勿論、妹紅だ。攻撃を受けている妹紅は人形に攻撃をかわす指令を出すのことに手一杯となる。

 

「くそ…このままじゃジリ貧だぞっ…!」

 

「そらそらぁ!いつまで持つかしら?」

 

前方には何者も寄せ付けない炎の壁、後方からは強力な攻撃が飛んで来る。

相手からすれば、まるで要塞を相手にしているような絶望感だった。

そんな不利な状況の中、何か打ち破る方法はないかと光は頭を必死に働かせる。

 

「(今の状況は「極光」っていう気象でかぐや人形の技の威力が上がっているのよね…光タイプの威力を上げるってことは…そうだ!この気象、私にも恩恵があるじゃない!)」

 

 

「げんちゃん! ライトアップ であの弾幕を打ち落として! 」

 

 

光が指示を出し、げんげつ人形による光弾が放たれる。

同じ「光」タイプの技なのでこちら側も威力が倍増。見事にかぐや人形の弾幕に押し負けることなく打ち落とした。

 

「…あら、その人形も光タイプなのね。てっきり「闇」だと思っていたのだけど」

 

「こんなに可愛い子が「闇」な訳ないでしょ?見た目通りの可愛い天使ちゃんなんだから!」

 

「いや、悪魔だろ」というツッコミを入れたい。

輝夜もこれには呆れ顔である。あの人形の中身を見抜いているからこその「闇」というタイプ予想だったにも拘らず、こんなにも単純な答えだとは思わなかっただろう。

頭を使う人、というよりは捻くれている人には逆に効果がある高度な騙し。まさか、あの人形それを狙ってあんな姿をしているのではあるまいか。

 

これは少し不味い状況と言える。げんげつ人形に火力を与えてしまった。

 

「…気象を使って後悔しているようだな、輝夜?なら今から更に後悔をさせてやるよ」

 

輝夜の僅かな表情の変化から心情を読み取った妹紅は、指を指し宣言する。

 

「お前のその回復技、こっちはそれを待っていた! 地相発現(ちそうはつげん)!」

 

 

「 朱雀(すざく)! 」

 

 

指示を受けたもこう人形の背に、紅く巨大な鳳凰が浮かび上がる。

 

「…やっば」

 

自分の人形に付いている胡蝶を見つめながら、輝夜はそう呟いた。

 

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