人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第三十九章

紅蓮の炎と眩い日差しが辺りを覆い、その中央には紅き鳳凰が翼を広げている。

妹紅の人形の技によって生み出されたその鳳凰…またの名を「朱雀(すざく)」は、こちらに襲い掛かってくる様子はない。ただその場で佇み続けていた。

無害かと思われたが、朱雀が現れてからの輝夜の様子が何やらおかしい。先程までの余裕が一切なくなっている。

 

「…悠長にしている時間が無くなった。早急に片を付けないと…」

 

「あれは一体…?」

 

「地相発現「朱雀」(ちそうはつげん「すざく」)。あれはさっきの「気象(きしょう)」と同じようにその場全体に効果が発生する技。その効果は、「人形のスキル、技による回復手段をダメージに変換する」」

 

「ダメージに? …!そうか、輝夜さんの人形は今…」

 

「えぇ、そういうことよ。ちっ…!やられた」

 

かぐや人形の方を見てみると周りを舞っていた青白く輝いていた綺麗な蝶々が一変、赤黒く禍々しいものへと変わり対象者を蝕み続けている。

確かにこれは時間を掛けられない状況だ。かぐや人形自身は強気に振舞っているが、耐久が徐々に削られていっているこの状態を無視することは出来ない。

 

「…どうだ?老いることも死ぬこともない蓬莱人(ほうらいじん)にとって、これは堪らないだろう?輝夜よ。永遠の苦しみを味わいな!」

 

妹紅は皮肉を効かせた軽い罵倒を輝夜に浴びせる。

分かってはいたがやはりこの人はただの人間ではなく、「蓬莱人」と呼ばれているらしい。所謂、「不老不死」というやつだろうか。

本当に、この幻想郷には色んな人がいるものだ。

 

「まぁ、私自身が苦しんでいる訳じゃないけどね。まさか、脳筋なあんたがそんな小細工をしてくるとは思わなかったわ。」

 

妹紅の皮肉に対し、輝夜は何ともないように言い返す。

気丈に振舞ってはいるが、状況は最悪だ。こうなった以上、こちら側も攻めに転じざるを得ない。

 

「どうしますか?輝夜さん」

 

「やることは基本変わらないわ。妹紅の奴をひたすら狙う。でも、あっちも馬鹿じゃない。時間を稼ぐつもりだろうから、あんたは私を守りながらそれを崩す策を練ってなさい。

 …後、もう1人の人形は私じゃ相性が最悪だから、そっちがなんとかして」

 

「…はい、やっては見ます。注文が少々多い気がしますが」

 

無茶な指示だとは思うが、言っていることは間違っていない。

そろそろ光の方も何かを仕掛けてくるような気がするし、注意を向ける必要があるだろう。

 

「(さて、やったはいいが…まだ油断は出来ないな。どうにか時間を稼ぎたいところなんだが…)」

 

「妹紅さん。防御は私に任せて!」

 

妹紅が思考を巡らせていると、光が話し掛ける。

何やら自信有り気な表情だった。だが、今までの技構成の傾向から察するに、げんげつ人形にそのような技を覚えられそうにない。

一体どうするつもりなのだろうか。

 

「かぐや! 原初の光!」

 

輝夜の方が攻撃を仕掛けてきた。

肥大した光弾がもこう人形を襲ってくる。

 

「…ユキ! それを飛ばして!」

 

それと同時にユキ人形は守りに使っていた炎の壁をげんげつ人形に向かって発射。

恐らくさっきやられた迎撃を防ぐ為の攻撃だ。不味いぞ…どうするんだ?

 

 

「フフッ…買ってて良かったスキルカード! げんちゃん フィールドバリア!」

 

 

光が高々に技を宣言すると、げんげつ人形は自分ともこう人形に対して円状のバリアを張った。

バリアを張った瞬間に攻撃が被弾するが、大したダメージを負っていないのが分かる。

 

「小賢しい真似を…」

 

「(…あれは初めて見る技だ。いつの間にそんな技を習得させてんだ…?)」

 

攻撃を防がれた鏡介は初見のあの技に疑問を抱く。

霊夢戦でよく見た「森羅結界」とは違い、あれは終わっても場に残り続けているのだ。しんみょうまると同じステータスを上げるタイプの技か?

…いや、あの技は1人ではなく2人に発動した。だとすれば、味方全体に効果があるものと見ていいだろう。

しかし、攻撃を完全に無効化するものではないとすれば何故ほとんどダメージを負わずに済んだ?今はどちらもフィールドの効果で威力は上がっている筈なのに。

 

「ナイスだ光ちゃん!これであいつらの攻撃も怖くない!」

 

「あの2人、どっちも拡散技しか使ってこないみたいだからちょうど良かったわ。さぁ、どうする舞島さん?」

 

光の今の言葉で大体分かった。あのバリアは拡散技を軽減する効果があるらしい。

こちらにとっては確かに有効な手段だ。使う技はどれも拡散技なのだから教えてしまっても問題ない、と。

今まで使わなかったのは、こうして機を伺っていたということか。タイミングとしては完璧と言える。

 

「そら行くぞ! 虎走り!」

 

再び妹紅から攻撃を仕掛けてくる。もこう人形は俊足でかぐや人形に近づいて来た。 

バリアがある状態で尚且つユキ人形の炎の壁がない今、妹紅も守りではなく攻めに来るようだ。

「攻撃は最大の防御」という言葉を体現している。

 

「…森羅結界!」

 

だが、輝夜もそこはある程度予想がついていたのだろう。

もこう人形の攻撃に合わせ、しっかりガードを固める。

 

「甘い!まぐれは一度までよ!」

 

「だが、その技は連続で使えない! もう一度 虎走り だ!」

 

妹紅は連続攻撃を仕掛ける。向こうも技の特性を見切り始めたようだ。

すると、輝夜はこちらに向いてアイコンタクトを送った。「何とかしろ」ということか。

 

「ユキ! 斉射!」

 

ファイアウォールでは何かしらの対策をされる恐れがある。ならば、確実に相手を捉える方法を選ぶ。

ユキ人形が放った紫の弾幕は高速で動く相手を追跡し、当たるまで追いかけ続けるのをやめない。

弾幕の動きを観察し、鏡介はもこう人形の居場所を探る。

 

「…今だ! ファイアウォール!」

 

ここぞのタイミングで、攻撃の瞬間を炎の壁で防ぎ切ることに成功。

正直、結構ギリギリだった。

 

「ちっ!もうちょっとだったのに!」

 

「私には優秀な盾がいるのよ。残念だったわね」

 

いつの間にか自分はお姫様を守る護衛みたいな扱いになっている。

…まぁ、頼りにされているということなのだろうか。「愚民」より遥かにマシだし、悪い気はしなくもない。

 

「げんちゃん! エンジェルラダー よ」!」

 

そう思っていた矢先、攻撃が飛んでくる。

げんげつ人形の光の光線が炎の壁に衝突すると、激しい火花が散る。

今の気象でただでさえ高火力の攻撃が更に上がっている分、ユキ人形は徐々にその威力に押され始め、やがて炎の壁は消滅してしまう。

 

「もうその壁は使わせないよ、舞島さん!」

 

「…やるね、光ちゃん!」

 

もしも最初に炎の壁を張っていたら危なかった。読みは当たっていたようだ。

 

だが、このままこちらが守りに入ると長期戦は免れない。相手の思う壺となってしまう。

あのバリアを何ともしないほどの攻撃が出来ればいいのだが、そんな都合のいいものはない。あるとすれば、一度だけ見たユキ人形の謎の覚醒…。

しかし、あれはユキ人形自身の消耗も激しいもの。可哀そうだから、出来れば使いたくない。

 

「…次が最後になりそうね。しょうがない、あの技を使うしかないか…。まだ未完成なんだけど」

 

輝夜も自分の人形の状態を見て、そう判断する。

蝕まれ続けたかぐや人形からは苦痛の表情が見られた。もう時間がない。

 

「愚民、時間を作りなさい!大技をあいつにぶつけるっ!この技なら、バリアも関係なく倒せる筈よ。今のこの気象でしか使えないからね! かぐや! あの技行くわよ!」

 

「!わ、分かりました!」

 

また呼び名が「愚民」に戻ったことや、突然の無茶ぶりに抗議を申し立てたいところだが、今はそれどころではない。

かぐや人形はバリアに対抗し得る高火力な技を覚えているらしいので、ここは作戦に乗ることにしよう。あの時、しんみょうまる人形でやっていた時と同じように。

後、こちらとしても2人の決着はキチンと付けて貰いたいところではある。

 

「…!何かやるつもりだな!?そうはさせるかっ! もこう! ファイアウォール!」

 

「援護するわ! げんちゃん! ライトアップ!」

 

かぐや人形が何やら力を溜めていることに気付いた2人は、それを阻止すべく攻撃に出る。

 

「…ユキ! げんげつの方の攻撃を止めて! ファイアウォール!」

 

げんげつ人形の攻撃を光弾に切り替え、妨害を確実にしようとの考えだろう。

そうはさせない。もう片方の攻撃を受けてでもそれを止めないと…!しかし、こんな指示を出してしまうのはかなり心痛い。

それでも、指示を受けたユキ人形はこちらを向いてしっかりと頷いてくれた。意図を分かってくれているのだろう。ありがとう…無茶させてごめんね。

 

ユキ人形は指示通り、げんげつ人形の攻撃を防ぐことに集中し炎の壁を張って攻撃を凌ぐ。威力の上がった光弾は炎の壁に全弾命中し、お互いを打ち消した。

そして迫りくる炎の壁に無防備になったユキ人形は、かぐや人形をかばうように真正面から攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「なっ…身を挺して攻撃を防いだだと!?」

 

「良い判断をしたわね…確かに炎の技ならまだダメージは少ない。正直、舞島さんらしくない戦法だけど。」

 

光のこの行動は読めなかったらしく、悔しそうな表情を浮かべた。

出来ることならこちらも別の方法を取りたかったのだが、しょうがないと今は割り切る。

 

そして、終わったらちゃんと謝っておかないといけない。「こんな人形遣いでごめん。」と、精一杯心を込めて。

そうでもしないと、一生後悔してしまうだろう。

 

 

「盾役!よくやったわ!そして、これで終わりよ妹紅! 天神の加護(てんしんのかご) !」

 

 

輝夜が指示を出すと、人形は眩い日差しの中に溜め込んだ光のエネルギーの球を放り込む。

こがさ人形がやっていたことに少し似ている気がする。一体何が始まるのだろうか。

 

すると次の瞬間、天から光の雨がもこう人形に向かい降り注ぐ。

 

 

「な、何だこの技は!?こんなの今まで見たことない!」

 

「まだ試作段階の技だからね。でも、威力は相当なものよ。気象が発生している時限定だけど」

 

 

「 蜂の巣にしてあげる。死ぬがいいわ! 」

 

 

四方八方から飛んで来る光の矢。凄まじいスピードで飛んで来るその攻撃には、妹紅もどうすればいいか分からず対応出来なかった。

無慈悲に攻撃を受け続ける自分の人形を黙って見ていることしか出来ない。

 

「…く、くそっ…!」

 

「駄目…!こんなスピードで不規則に飛んでちゃ迎撃出来ないわっ!」

 

いくらバリアを張っている状態であっても、限界がある。

止むことのない光の矢の攻撃は、もこう人形の耐久を確実に削っていき、やがては倒れこんでしまった。

 

「勝負ありよ、妹紅。まぁ所詮あなたはその程度だったという訳ね」

 

輝夜が勝利を確信し、妹紅に宣言する。

いつぞやの余裕のない表情はどこへやら、すっかり元通りとなって弱者を嘲笑い上機嫌となっている。

…こちらにも多少は感謝くらいして貰いたいのだが、これで決着はついた。

 

 

「…あぁ、参ったよ正直。だがな…まだ終わってないぜ」

 

 

「あら?まだやるの?往生際が悪いわね」

 

「忘れたのか?私の人形のアビリティを…」

 

 

 

 

『アビリティ:復讐の化身(ふくしゅうのけしん)  発動。』

 

 

スカウターが反応すると同時に、倒れた筈のもこう人形は起き上がる。

もこう人形はフラフラになりながら黒いオーラを出すと、そこから怨念のようなものが浮かんでくる。

 

「な、何ですかあれ…!?」

 

「(…そうか、私の人形は回復技に長けていたからあのアビリティは今まで脅威にはなっていなかったけど…っ!)」

 

再び輝夜から余裕が消える。

輝夜自身、今まで気にしてこなかったもこう人形のアビリティがここで牙をむく。

 

 

「 お前も道ずれだ!輝夜ぁ! 」

 

 

妹紅が叫ぶと同時に、黒い怨念はかぐや人形に向かって炎の形となって襲い掛かって来た。

恨みを形にして攻撃をするその様には、狙った者に対する強い執念が籠っているようだった。深い因縁があると言われているこの2人に繋がりを感じざるを得ない、そんな攻撃方法だ。

 

「ユキ! ファイアウォール だ!」

 

この攻撃を受ければ、かぐや人形もひとたまりもない。

鏡介はユキ人形に急いで指示を出し、壁を作り出す。

 

しかし、黒い怨念の炎はユキ人形の壁をすり抜けていった。

その炎の壁の正面にいた筈のユキ人形自身も、何故か無傷である。

 

「無駄だ。その炎は必ず倒された人形を焼き尽くす!」

 

「くっ…!」

 

そして、今まで「朱雀」の効果によって耐久を削られ続けたかぐや人形を怨念の炎は容赦なく焼き尽くした。

悶え苦しむ自分の人形を輝夜はただ見ているしかなく、さっきのお返しをされたことに対する苛立ちの表情を見せた。

 

そして間もなく、かぐや人形は倒れて戦闘不能。それと同時にもこう人形も糸が切れたかのように倒れた。

 

 

「…か、かぐや人形、もこう人形、共に戦闘不能っ!」

 

 

2体の人形の状態を見た審判の鈴仙は、両手を大きく上げて審議する。

 

「…鈴仙?先に倒したのはこの私よ!決して引き分けじゃないわっ!」

 

「え、えぇ!?でも同時に…」

 

「私の言うことが聞けないのかしら?」

 

「う、うぅ…」

 

審判である鈴仙の判定に対し、抗議を始める輝夜。納得がいかないのだろう。

上司の圧で鈴仙もたじたじになり、はっきりと判決が出せないでいる。

 

「鈴仙ちゃん、分かってるよね?どう見ても先に倒れたのはあいつだよな…?」

 

「あぅ…そ、そのぉ…えっとぉ」

 

「鈴仙っ!そんな奴の口車に乗らない!」

 

妹紅も負けじと抗議し始め、鈴仙は板挟みとなり容易に判決を決められない状況に陥る。

彼女の紅い目にも涙が浮かんでおり、身体も暑い空間にも関わらずまるで冬場のように震えていた。冗談抜きで可哀そうだ。

光に巻き込まれたばっかりに…申し訳ない。

 

だが正直、この判決は少々難しいと言える。

戦闘不能で発動するアビリティで相手が瀕死になった場合、ルール上はどうなるのだろう?

自分はポケ〇ンを本格的にはやっていない為、こういった細かいルールは把握していない。困ったな。

 

 

「…痛っ!?」

 

 

すると突然、上から何かの本が鈴仙の頭に落ちてきた。

鏡介は上を見上げるが、気象の影響で眩しくてよく見えない。うっすらと見えたのは、空間が閉じていく様子だけだった。

 

「な、何なの?…あ!?これ、人形バトルの公式ルールブックですよっ!?」

 

鈴仙が落ちてきた本の内容を確認すると何ということか。都合良く欲しかったものが降って来た。

…さっきの上にあった空間から誰かが落とした?一体何者だろうか?

 

これに載っているルールなら間違いはない。判決が出来ないでいた鈴仙にとってこれは正に、天からの贈り物だった。

 

 

「えっと……あ!ありました!『「復讐の化身」によるアビリティで相手が戦闘不能になった場合は…』」

 

 

早速、鈴仙は今の状況について掲載されているページを探し出した。

場に緊張が走る。審判である鈴仙の次の言葉で勝敗が決まり、決着はつく。

 

 

「…『アビリティを発動させた方の勝利となる』、とのことです…」

 

 

鈴仙は妹紅がいる右手の方を高く上げ、そう宣言した。

 




今更スカウターを初見人形に対して全然使っていないことに気付くアホがここにいたっ!
次回からはちゃんと使っていくから…許して…
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