人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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第四十章

もこう人形の最後の抵抗により、かぐや人形は力尽きた。

しかし、判定の難しい結果となってしまった為、審判の鈴仙は困ってしまったが…突然降って来たルールブックにより、結果は出た。

 

「鈴仙…今何と…?」

 

「で、ですから…『「復讐の化身」のアビリティによって先に相手が倒れた場合、そのアビリティを発動させた方の判定勝ち』とありますので…この人形バトル妹紅さんチームの勝利ぃいだだだだだぁーーーーっ!!?」

 

輝夜は両手で握り締めた拳を鈴仙の頭に押し付けると、それを激しくグリグリする。

怒りで力が込められたその攻撃は、鈴仙の頭蓋骨に深刻なダメージを与えていた。苦痛の声が部屋中に響き渡る。

 

「このっ…!このっ…!私の部下がどの口聞いてるのかしら!?えぇ!?」

 

「 い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛い゛い゛た゛あ゛あ゛ぁ ぁ ぁ い゛!! ごめんなさぁーーーーい !!」

 

鈴仙はあくまでルールに従い、審判として公平な判決をした。従者の圧に屈することなく、だ。

無茶振りを要求したにも拘わらず、こうしてちゃんと仕事をしてくれた鈴仙に何も非などない。

 

「…あ」

 

「あのっ!鈴仙さんは何も悪くないです!ルールブックにそう記載されているんだったら、それで納得して下さい!」

 

鏡介よりも先に、光が口を開いた。お互い考えていたことは同じだったらしい。

元々審判をしてくれるよう頼んだのは光の方だ。気軽に頼んでいたとはいえ、鈴仙に対する申し訳なさが自分よりもあったのだろう。

 

「そうだぞ。今は鈴仙ちゃんがこの人形バトルの審判だ。その審判の判決には従わないと、なぁ?」

 

「ぐ……~~~っ!!」

 

妹紅も顔をニヤつかせながら、光に続き鈴仙の判決を肯定し始める。

自分の勝利を揺るがせない為か、ただ単に輝夜を追い詰めたいだけか…恐らく両方だ。

 

「…愚民っ!あんたも何とか言いなさいよ!こんなの納得いく!?先に倒したのは私なのに!」

 

駄目元でこちらに協力を求める輝夜のその顔には、最早姫様らしい気品はなかった。

子供みたいな駄々っ子と化した永遠亭の主に、鏡介もどうしたら良いかが分からない。

 

「…二人の言う通りですよ。ルールブックにそう書いてあるのなら、輝夜さん。貴方の負けです。僕も全力は尽くしたつもりですが…やられました。まさか、あんな勝ち方があるなんて」

 

「あんた私の味方なんでしょう!?関心してる場合っ!?…そう言うんだったら、せめてあの二人をぶちのめしなさい!まだバトルは終わってないでしょ!」

 

「……」

 

鏡介はしばし考える。

 

そして、導き出した。このバトルの終わらせ方を。

 

 

「光ちゃん、僕の負けだ」

 

「オッケー」

 

 

「なっ…!?」

 

 

抑々このバトルの目的は「二人の喧嘩の仲裁」。こちらはあくまでサポート。

納得がいく形であったかは兎も角、これで決着はついた。少なくとも勝者である妹紅は満足だろう。これ以上戦う理由はない。

 

「だってさ、輝夜!ざまぁねぇな!」

 

「あ…、あんたらグルだったのね…!?この私を騙そうとは、いい度胸じゃない…!」

 

輝夜はこちらを睨みつけ、恨み言を口にする。味方だと思っていた人に裏切られ、さぞご立腹であろう。

敵前逃亡をして申し訳ない気持ちもなくはないので、こちらとしても多少心が痛いのは事実だ。

 

だがそれ以上に、鏡介は意味のない戦いでこれ以上人形達が傷つくのを見たくはなかった。

 

 

「…認めない…認めないわよっ!こうなったら、弾幕バトルで」

 

 

「はいそこまで」

 

 

「…!?」

 

 

輝夜がまさに今、怒りの弾幕を放とうとした時だった。その背後から誰の静止の声が響き渡る。

それは最近聞いたばかりの声であった。

 

「え、永琳!?」

 

「舞島さん、よくやってくれました。…さぁ姫様、もう十分でしょう?今回は負けを認めて下さいな」

 

肩に手を添えながら、永琳は輝夜を説得する。

その顔は厳しくも優しい、まるで母のような温もりがあった。

 

すると溜め息を付きながらも、輝夜は周りにあった弾幕は徐々に消していく。抵抗を諦めたようだ。

 

「…ふん!人形バトルなんて下らない。二度とやるもんですかっ!」

 

負け惜しみを言いながら、輝夜はそそくさと部屋を後にして炎の中に消えていく。

不思議と炎は出ていく輝夜を燃やさなかった。これは炎を操っている妹紅の、せめてもの情けなのだろうか。

 

そして輝夜が部屋を出ると、同時に妹紅が指を鳴らして自身の炎を消し始める。

暴れ回っていたとはいえ、冷静になってみるとここの家主に対する迷惑を自覚し、この行動に至ったのだろう。

 

「…いやぁ、スッキリした!輝夜の奴の悔し顔も見れたことだし!」

 

「妹紅さん。次やる時は外でお願いしますね」

 

「うっ…わ、分かったって。そんな怖い顔しないでよ」

 

「それと優曇華。いつまでもそんなところで油売ってないで、ここの修繕をなさい」

 

「へ?あ…はいっ!今すぐに!」

 

永琳は注意喚起、指示出しを素早く行う。

実質的なここの主導権は彼女にあると言っていいくらい、それは的確な判断であった。

これに診療所もやっているとなると、忙しい身なのが伺える。

 

「それと、舞島さん。後、光さんも」

 

「はい?」

 

「仲裁の件、どうもありがとうございます。…それと、うちの姫が迷惑をお掛けしました。どうか、許してあげて下さいね」

 

「いえいえ、大丈夫です。全然気にしてませんよ」

 

「まぁ正直、ちょっと無茶な作戦だったよねー」

 

「あはは…」

 

これにて、永遠亭の騒動はひとまず解決したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喧嘩の仲裁も終わり、ようやく一息ついた鏡介と光。

二人は今、診察室で預けたメディスン人形の容態を永琳から聞いているところだった。

 

「…それで、どうですか?」

 

「えぇ、とりあえず一命は取り留めたわ。これで死んでしまうことはないでしょう。ただ…」

 

「ただ…?」

 

「しばらくは安静にしておいた方がいいでしょうね。…まだ心の、精神的なダメージが深刻なの」

 

「…そうですか」

 

神妙な顔で、永琳はメディスン人形の今の状態を話す。それほどメディスン人形は弱り切っていたのだ。

一体どんな体験をすればこんなひどいことに…本当にそう思わずにはいられない。

 

「正直、こちらとしては今のこの人形の状態をこれ以上良くは出来ないわ。いくら私でも、心の傷まで完全に治すのは難しいの。ましてや人形なら、尚のことね。…だから、後は貴方次第よ」

 

「え?」

 

「助けてくれた貴方になら、この子も心を開いてくれるかも知れない」

 

「僕が…で、でも、どうしたら?」

 

「そんなに難しいことじゃないわ。ずっと一緒にいてあげればいい。一緒にいてあげることで、安心させるの。これは貴方にしか出来ないから頑張りなさい。医者として私に言えるのは、それくらいよ」

 

「…分かりました。やってみます」

 

とは言ったものの、どう接したいいのだろうか。良くない接し方をして怖がられたりしたら立ち直れる気がしない。

カウンセラーの経験はまるでないし、果たして自分に務まるのだろうか。ハッキリ言って自信はない。

 

すると、それを見兼ねた光が話し始める。

 

 

「いつもの舞島さんみたいにすればいいじゃん。そんなに難しくはないじゃない?」

 

「いつもの……」

 

そうだ。自分はいつも、人形とは「友達」みたいに接してきた。時には笑い合って、喜びを分かち合って来たじゃないか。

僕に出来ることといったら、きっとそれだ。ならば、これから全力でメディスン人形と仲良くなろう。

 

「…そうだね。いつもの僕でいいんだよね!」

 

「そうそう。舞島さんはそうでなくっちゃ!」

 

光は何だかんだ気が利く子で、いつも助けてもらっている気がする。

気付けば、すっかり旅のパートナーだ。本当に助かっている。

 

「それじゃあ、よろしく頼むわよ。…あ、そうだ。これをその人形に」

 

永琳は小さめの壺を鏡介に渡す。かなり古びた代物で、壺の中からは何とも言えない毒々しい煙が立ち込めている。

自分は何とか触れるものの、まるで呪いのアイテムみたいだ。一体これは何なのだろう。

 

「この壺は?」

 

「これは「毒壺(どくつぼ)。毒タイプの人形が好むアイテムよ。この中にその人形を入れてあげると喜ぶと思うわ」

 

成程。これは使用者を選ぶタイプのアイテムらしい。ポケ〇ンでもよくそんなものはある。

効果を聞く限り、メディスン人形に相性ピッタリだ。

 

「いいんですか?」

 

「えぇ、せめてものプレゼントよ。使って頂戴。…君なら、持っていて影響もなさそうだしね」

 

「ありがとうございます…!じゃあ早速…」

 

鏡介は抱えているメディスン人形を優しく壺の中に入れてみる。

そして耳を澄ませてみると、心地よさそうな寝息が聞こえてきた。

 

「その毒壺は、毒タイプの耐久を回復させる効果があるわ。バトルでも有効に使えると思う。今日一日その中にいさせてあげれば、明日には体を動かせるくらいにはなる筈よ」

 

「…でも、これどうやって持っていくの?」

 

「あ、そう言えば…」

 

光が純粋な疑問をぶつける。

確かに便利なアイテムではあるが、この壺を手で抱えて持っていくのは少々厳しい。

万一割ってしまったら目も当てられない。どうしたものか。

 

「人形箱を持っているでしょう?その中に入れておけばいいと思うわ」

 

「人形箱、ですか?うーん…」

 

大きさ的に無理ではないかと思いつつも、鏡介は箱を取り出して入れてみようと試みた。

ちなみに道中で捕まえたくるみ、エリー人形はこの中に入っている。

 

すると、吸い込まれるように壺が箱の中に入っていった。どうやら何でも入る四次元ポケットの仕組みだったらしい。

封印の糸は兎も角、こんなものまで入ってしまうとは…異世界恐るべし。

 

「…中に人形が入っているんですけど、大丈夫でしょうか?」

 

「うーん、まぁ壺に手を出さない限りは問題はないと思うわよ」

 

とりあえず、後で二体には壺を不用意に触らないように言っておこうかな。

後、出来れば人形同士友達になってあげて欲しいし、元気になったらメディスン人形のお世話係もお願いしよう。

 

 

今まで出番がなかった二体の人形が、結構重大な仕事を任命されたことにまだ気付くのは先の話。

 

 

 

「…あ!永琳さんちょっと聞きたいんですけど」

 

光が何かを思い出したように永琳に尋ねた。

 

「何かしら?」

 

「すっかり忘れていたわ。えっと私、「木こり人形」をここの人に貸しているって聞いたんですけど…」

 

「…あぁ、それなら確かに香霖堂からついこの間借りたわ。…もしかしてそれを?」

 

永琳が何やら困った様子で聞き返す。何か不都合があったのだろうか。

 

「それが…あなた達が戦っていたあの部屋に置いていたのよ。状態を確認したけど、あんな炎の中にいたからか熱で駄目になって…はぁ…全くどう謝罪すれば…」

 

「ま、マジですか…」

 

頭を抱える永琳。それと同時に光も頭を抱える。

紅魔館へと続く道に立ち塞がっていた一本の細木。あれをどかさない限りは、先には進めない。困った事態になった。

 

「これがその木こり人形なのだけど…木を切る刃の部分が完全に溶けてしまっているのよ」

 

永琳は木こり人形を二人に見せる。確かに、これでは上手く機能してくれそうにない。

 

一応、鏡介はこの人形の形に見覚えがあった。前に魔法の森で合ったアリス・マーガトロイド。恐らく、彼女の作ったものだ。頼めば直してくれるかもしれない。

だが、そうなるとまた魔法の森に行くことになる。出来れば避けたいところだが…

 

そう思っていると、鏡介の傘にぶら下がった封印の糸の宝石が光り出した。

 

「…!こ、こがさ?どうしたんだ?」

 

宝石から出てきたこがさ人形は、まじまじと木こり人形を見つめている。というより、木こり人形が持っている「斧」の方だが。

そして考え込んだ後、着ているレインコートを脱ぎ、どこからか取り出したバンダナを額に結び付ける。

 

するとその後に続いて、鏡介の手持ちからユキ、しんみょうまる人形が出てくた。

そして集まると、3体で話し合いを始める。

 

「この子達、一体何をしようとしてるの?」

 

「…もしかして、直そうとしているのかな?この木こり人形を」

 

しばらくして、3体の人形は頷く。どうやら方針が決まったようだ。

木こり人形を協力して持ち出すと、急いでそれを屋敷の外に運んでいった。

 

「何何!?持っていっちゃったわよ!?」

 

「…あ、窓から皆が見える。どうするつもりなんだろう…?」

 

ある程度広い場所に出ると、木こり人形を置いて何やら準備を始める。

外でないといけないのだろうか?どうやらこがさ人形が指揮をとっているようだ。

 

悪いことはしないだろうと信じてはいるが…しかし、何を始める気なのだろう…?

 

恐る恐る、診察室の窓から3体の様子を見守る鏡介達だった。

 




さぁ次回はこがさ人形の本領発揮だ!
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