人間と人形の幻想演舞 作:天衣
ついでにちょっとモチベも復活してきたぞー!
「……う…ん…?」
ふと目が覚め、真っ先に映ったのは天井だった。まだ眠い。意識が朦朧としている。
眠気に襲われ欠伸をする中、昨日会ったことを一通り思い出す。
確か、迷いの竹林に来て永遠亭を目指し…それから妖怪兎の人形遣いに沢山絡まれて…やっと着いたと思ったらまた厄介事に巻き込まれて…そんな感じだった気がする。
それでこがさ人形が木こり人形の斧の修理をやって日が暮れたから、永遠亭の一室を借りてこうして一泊だけ泊めて貰った。…こうして振り返ると、結構大変な一日だったように思える。
光もそうなのだが、こちらも結構疲れが溜まっていたらしく、布団に入ったら眠気が一気に来た。お陰で快眠ではあったが。
それにしても、久しぶりの布団は安心感があった。あちらでの暮らしも基本的に寝具は布団であった為、馴染みがある。野宿は正直御免なので、どうにか持ち運びできないだろうか。
この世界ならやってやれなくなないだろう。異世界だし。超ミニサイズに収納できる機能とか搭載出来ないものか。
鏡介はそのようなことを思いながら、ゆっくりと掛布団から出ようとする。すると、何かに引っ張られるような感覚がした。
「…ん?何かいる?」
服の裾を何者かが掴んでいるようだ。気になったので掛布団を捲ってみると、そこにはユキ人形がいた。
どうやら眠っているようだ。この人形はどうも封印の糸の中にいるのが嫌らしく、度々こうやって外に出ることが多い。
「フフッ、よく眠ってるな…」
ユキ人形の可愛らしい寝顔に癒された鏡介は、無意識にそっと頭を撫でる。
気持ちよさそうな寝息が聞こえて、鏡介の口角がぐ~んと上がった。
「…う~ん…霊夢さまぁ…」
すると隣からも誰かの寝言が聞こえてきた。光である。
寝言の内容から察するに、博麗 霊夢に関する夢でも見ているのだろうか。その顔はこれでもかと言わんばかりの満面の笑みであった。憧れの人物が夢に出てきてさぞ嬉しいのが伝わる。
…思えば、自分がこの世界に来たきっかけも、バスの中で見た夢だった。あれからそんなに時間は立っている訳ではないが、それもどこか懐かしく感じる。
久しぶりに大森のアホ面も見たいものだ。こんな生活を送っていること知ったら、一体どんな顔をするだろうか。まぁ、まず間違いなく羨ましがることだろう。ざまぁない。
「もう…駄目ですよぉ…私達女の子なんですからぁ…」
ちょっとした優越感に浸っていると、光の寝言が続けざまに聞こえてくた。…一体どんな夢を見ているのだろう。
枕を抱きしめ涎を出し、腰をくねくねしながら言っているその様は、何かいけないものを感じさせた。…うん、見なかったし聞かなかったことにしよう。そうしよう。
人形との癒しに空間に長くいられないことを悟った鏡介は、こがさ人形の様子を見に行くべくその気だるい体を動かした。
ユキ人形をそっと布団に寝かしつけ、立ち上がり大きく背伸びする。体の気だるさは幾分か解消され、一息つく。
寝室から出る為、襖を開くと妖怪兎達が既に修繕作業の為に働いていた。
相変わらず真面目に働く者とそうでない者がいるようだが、以前と違いそこまで忙しそうにしてはいない。順調に修繕が出来ているようだ。
するとこちらに気付いた人参の首飾りをしている妖怪兎が話し掛けてくる。
「やぁおはよう。随分遅いお目覚めだね」
「あ、うん。おはよう。えっと…」
「あー、そう言えばまだ名乗ってなかったね。私は因幡 てゐ(いなば てゐ)だよ。まぁ、ここの妖怪兎達のリーダーみたいなもんさ」
見た目とは裏腹に、落ち着いた雰囲気で自己紹介をする。そのことに多少驚くが、冷静に考えるとここは異世界。
彼女は自分なんかよりもずっと歳上だったりするのだろうか?恐らく彼女も見た目で判断するに妖怪なのは間違いないだろうし…。
非常に気になるが、女性に年齢を聞くのは失礼とされている。幻想郷ではどうなのかは知らないが。だが何となく命に関わりそうなので、聞くのは絶対にやめておこう。
見た目に惑わされず、この世界で人間ではなさそうな人物には常に気を遣おう。妖精を除いて。それが一番堅実だ。
「因幡さん、ですね?昨日は泊めて頂いてありがとうございます。」
「まぁ、この騒動を解決してくれた礼さ。それくらいはしないとね。…後、「てゐ」でいいよ私のことは」
「え?あ、はい……」
てゐから「因幡」という呼び名を変えるように指摘される。魔理沙や早苗の時もそうだが、この世界の住民は下の名前で呼ばれることに抵抗は一切ないように思える。
確かに上の名前で呼ぶことの違和感はこちらも感じてはいた。何と言うか、しっくりこない。これはあちらの世界では感じたことがない感覚だった。
本来であれは女性の下の名前で呼ぶことはつまり、信頼の証。言ってしまえば、「恋人」などが呼び合うものだ。だから特に親しくもない知り合い程度の仲では、まず言わない。
自分もそういった関係の女の人はいない為、今まで下の名前で言ったことはなかった。今思えば、何て恥ずかしいことを言っていたのだろう。
「…おーい、どうしたー」
「…え!?あ、ごめんなさい…」
考え事をしていて呼ばれていることに気付けなかった為、驚いてしまう。今更下の名前で呼ぶことを恥ずかしがっていたなんて、口が裂けても言えない。
「ん?何か、顔が赤いな……あらあらもしかして…」
「えっと…あのですね…」
「女の子を下の名前で呼ぶの、恥ずかしいんだ?」
てゐに反応を見られ、見透かされてしまった。恥ずかしさが抑えられなくなり、顔が熱さを増す。
そんな様子をてゐは面白がり、更にからかい始める。
「そっかぁでも他にも「因幡」の苗字はいるからねぇ。鈴仙がそうなんだけどぉ。だからぁ私のことは「てゐ」って呼んでくれなきゃ困るのよねぇ~」
「う…そ、それじゃ仕方ないですよn」
「あーでもぉ、何だか下の名前で呼ばれるのってまるで私達「恋人」みたいだねぇ?じゃあ私も、君のこと「鏡介君」って呼んじゃおうかなぁ?ねぇ、鏡介君?」
「……!!!///」
あの時考えていたことをそのまま言われ、恥ずかしさが最高潮に達した。
頭が混乱し、まるで機関車のように湯気が頭から噴き出す。汗ばんだ両手が無意識に動き、動揺しているのが丸分かりであった。
「…もう~嘘ウサ!冗談だってば~!…まさか本気にした?」
一通りリアクションを堪能し満足したてゐは、笑いながら嘘を告白する。
見た目が自分よりも幼い少女に軽く弄ばれ、何だか悔しい気持ちになった。
「もう、てゐさん…やめて下さいよそういうの…」
「いやぁごめんごめん!初心で可愛かったものだからつい」
「うぐっ…!」
てゐの言葉が心に刺さる。「可愛い」と言われるのは慣れてしまったが、男にその言葉は傷つくものだ。
「まぁ、それはいいとして。舞島君はこれからどうするつもりなのかな?」
「え?えっと、そうですね…一旦人里に戻って、それから紅魔館ってところを目指すつもりです」
「ほう、成程ね。そんな危ないところに行くんだ。何か対策はしているのかい?」
「いえ、特には…」
言われてみれば、これから行ことしている「紅魔館」という場所のことは何も知らない。
危険なところだというならば、てゐの言う通り何かしらの対策は必要となってくるだろう。
「それは危ない。ふむ、しょうがないな。特別にこの私が君に幸運になるアイテムをあげよう。私は「人間を幸福にする程度の能力」というのを持っていてね…効果は保証するよ」
どうやらてゐにも能力があるらしい。「幸運にする」…何だかイメージとはかけ離れているが…なんて、本人には言えない。
「え?あ、ありがとうございm」
「一つ10000000円ね」
「……」
てゐは手を差し出しながら、あり得ない程の高額な金を要求した。
本当は良い妖怪なのかもと期待したこちらの気持ちをどうしてくれる。
「冗談だって!もーそんな顔しないでよー」
「…まぁ、そんなことだろうと思いましたよ…」
「そーそー、世の中そんなうまい話はないんだよ、少年。ま、これから精々頑張りなっ!それじゃねー」
てゐはそう言うと、他の妖怪兎達のもとへ帰って行った。
一体何だったのだろう。単にからかわれただけのような…。
「…あなたに幸運が巡ってきますように…な~んてね。見てて危なっかしいからねぇあの人間は。…ちょっと、らしくなかったかな?」
てゐがこっそり能力を使ったことを、彼はまだ知らない。そして、この先永遠に知ることもないだろう。
永遠亭の玄関を抜け外に出ると、真っ先に鏡介はこがさ人形の様子を確認した。
するとどうだろう。こがさ人形はまだその場にいたのだ。つまり、真夜中から今までずっと修繕作業をしていたということ。
これには流石と言わざるを得ない。こがさ人形の今日中にはやり遂げるという集中力に感服する。
座り込んでいるこがさ人形は手を止めると、修繕していた斧の刃を片手で持ち上げる。
日光に反射して輝くその銀色の金属は、さっきまでの欠けていたあの斧の刃だ。限界まで研ぎ澄まされたそれは、まるで新品同様と言えるものに姿を変えていた。
職人の成せる業、というものだろう。実に見事な出来であった。
斧の具合をチェックして軽く頷くと、棒切れ同然となっている取っ手にそれをはめ込む。
するとさっきまでの棒切れは立派な斧となり、元通りの「木こり人形」となった。心なしか、斧を持っている人形も嬉しそうだ。
「…おぉ、すごい…すごいよこがさ!」
思わず鏡介はこがさ人形に対し、拍手をする。
その音に気付き、こちらに気付いたこがさ人形はビックリしつつも、嬉しそうに照れる。
「お疲れ様、こがさ!よく頑張ったね!」
頑張った我が子を褒める親のように、鏡介はしゃがみ込んで笑顔を向けながらこがさ人形の頭を撫でる。
こういうのに慣れていないのか、どうすればいいのか分からず少し困惑しているようだが、その顔はとても嬉しそうだった。
「ホントにお疲れ様。ゆっくり休んでね」
長時間の作業で疲れていることだろう。鏡介はこがさ人形の封印の糸をぶら下げた折り畳み傘を出して、こがさ人形を元に戻す。
「…さて、そろそろ光ちゃんを起こさないとね。いつまでも世話になるのは悪いし」
立ち上がった鏡介は、改めて永遠亭の中へと戻っていった。
「…本当にもういいの?せめて朝の食事だけでも…」
「いいですよ。僕はただ、メディスンを診てもらいたくて協力しただけですから」
寝坊助の光を叩き起こしてこの永遠亭を出ようとする最中、永琳達が迎えに来てくれた。
ご飯の誘いを受けたが、食料は人里で既に買っているので丁重に断る。流石にこれ以上、世話にはなれない。
「そう、分かったわ。その人形、大事にしてあげなさい。まぁ、貴方なら心配ないでしょうけど」
「はい、必ず。…それでは、ありがとうございました!」
「お大事に。…あぁそうそう、姫様から舞島君に」
「?」
「「昨日は惜しくも負けたけど、今度は絶対に妹紅に勝つ。だから暇があればまた来い」…だそうです。あれでうちの姫は興味を持ったことには打ち込むタイプなんですよ。貴方さえよければ、またいらして下さいな」
「…えぇ、分かりました!」
永遠亭の姫、蓬莱山 輝夜との約束を交わし、鏡介達は永遠亭を後にする。
鏡介と幻想郷の住民との縁が、また一つ増えたのであった。
「…おう、もういいのか?」
「はい、よろしくお願いします」
予め永遠亭の外で待っていた妹紅が鏡介に確認を取る。
騒動を起こした罪滅ぼしに、帰りの迷いの竹林の案内を買って出てくれたらしい。いい人だ。
返事を聞いた妹紅は、竹林の中を歩き始める。それに二人も追いかけるように着いて行った。
「よろしくねー妹紅さん!」
「光ちゃん、今日も元気一杯だな」
「よーく寝たからねー!」
「ハハッそうかそうか」
歩きながら面識のある二人は会話する。
そう言えば妹紅という人は人里の寺小屋に来ることがあるって言ってたのを思い出した。恐らく、その経緯で知り合ったのだろう。
「…それにしても、光ちゃんに人形遣いの才能があったなんてね。正直、驚いたよ」
「へっへーん!すごいでしょ?私の自慢のパートナーよ!」
妹紅があの時の人形バトルでも光の戦いぶりを評価する。確かに強かった。一対一なら光の方が上かもしれない程には。
それに知らない技もいつの間にかマスターさせていたみたいだし、油断ならない。
「そこの舞島、だったか?お前も大したもんだよ。炎タイプの人形をあそこまで使いこなすとはな」
「え?そうですか?」
「あぁ。もうその人形、実力的に『スタイルチェンジ』も出来るんじゃないかな?」
「スタイル…チェンジ?」
聞き覚えのないワードに疑問を浮かべる。人形に備えられた機能の一つだろうか?
…だが、何となくだが予想は出来る。多くの経験を得てから出来ること…つまりポケ〇ンでいうとこのアレではないだろうか。
「そのスタイルチェンジっていうの、詳しく教えてくれませんか?」
「ん?あぁ、私の知っている範囲でなら構わないよ」
迷いの竹林を歩きながら、鏡介は妹紅のスタイルチェンジについての話に耳を傾ける。
それで分かったことは、スタイルチェンジというのは一定の経験を得た人形がその機能を使うことが出来、人形によって様々なものがあるという。
「パワー」、「ディフェンス」、「スピード」、「アシスト」、そして全共通の「エクストラ」。この5種類の内、全共通の「エクストラ」と後2種類の合計3つでスタイルを選ぶことになる。
スタイルチェンジすると全体的にステータスが上がり、スタイルによっては今までのものとは全く別のタイプになるものもあるらしい。
「…成程、勉強になりました。ありがとうございます」
「いいさ、道案内中の丁度いい暇つぶしになった。…あぁそうそう、後もうひとつ重要なことを言ってなかった」
「はい?」
「スタイルチェンジは自動で起こるものじゃないんだ。何か特別な装置が必要だったと思う。確か、河童が開発したものだったと思うけど」
どうやらポケ〇ンで言う「進化」とは結構な違いがあるようだ。
河童の装置となると、この今装着しているスタウターと似たような何かだろうか。
「そうなんですか…じゃあまだスタイルチェンジは先になりそうですね」
「流石に、私もその装置を持っている奴までは知らないんだ。悪いね」
「気にしない下さい。貴重な情報をありがとうございます」
「そう言ってくれると助かるよ……おっ、そろそろ出口だ」
話をしている間に、迷いの竹林の入り口にたどり着いたようだ。
この案内の時間は実に有意義な時間であった。後でこの件についても魔理沙に聞いてみよう。彼女なら何か知っているに違いない。
「それじゃ、私はここまでだ。気を付けるんだよ」
「うん、妹紅さんありがとー!」
「ありがとうございました!」
妹紅は後ろを向いて歩きながらも、手を振って返事をする。
そして、竹林の中へと消えていく。クールな女性であった。…あれ?あの人、女の人だよね?今更だけど。ただ単に、男勝りな喋り方をしているだけだよね?
「よう、二人共。調査は順調か?」
妹紅の性別に疑問を抱いていると、ここにもまた聞き覚えのある男勝りな喋りの魔女が佇んでいた。