人間と人形の幻想演舞 作:天衣
お手数ですが、投稿して間もなく読んだという方は確認の方よろしくお願いします。
次話書いてて「これ前回で書くべきでは?」と思い至った次第です。本当に申し訳ありません!
鏡介は人里の休憩所にて、甘味処の待娘にアイテムの鑑定をして貰っていた。
一緒にいた光は知り合いの少年を追いかけて行った為、現在は一人で人形達と過ごしている。
「…という訳だからさ。エリー、くるみにはメディスンのお世話をお願いしたいんだよ。いいかな?」
エリー人形とくるみ人形に、人形箱の中にいる間のメディスン人形のお世話を依頼する。
ずっと人形箱にいるというのも退屈であろうから、何かやることを与えてあげたいと思ったのだ。
エリー人形とくるも人形は、お互いに見つめ合うと頷いた。そして、こちらに向き直すと手を大きく上げてやる気を見せつける。
どうやら承諾してくれたようだ。やりがいを感じているのか、その眼はキラキラとしていた。
「うん、ありがとう。それじゃあお願い」
人形達の頭に手を乗せ、笑顔を向ける。エリー人形とくるみ人形は、敬礼のポーズをして答える。
引き受けた仕事に使命感を感じているのだろう。頑張って欲しい。
すると、何やら休憩所が騒がしくなっていることに気が付く。
「おい、何か広場で人形バトルが始まっているってよ」
「へぇ、見に行ってみようかな」
どうやら人里で人形バトルが始まっているらしい。まぁ、珍しい話でもないだろう。
そう思い、話をしていた二体の人形を人形箱に戻す。
「舞島さん、鑑定終わりましたよ」
甘味処の待娘のアイテム鑑定が終わったらしく、こちらを呼んでいる。
鏡介はすぐさま向かい、鑑定結果を聞きに行く。
「どうですか?」
「はい、合計で3800円ですね。どうぞ」
待娘から合計金額を渡される。数の割には余り値段にはなっていないようだ。やはり、時計や銅銭では安い。
だが、これを地道に繰り返していればある程度は稼げる。気に病むことはない。
「よし、これで「護符」と「契約の糸」を少しは買えるかな。「契約の糸」は…買えて精々3個くらいか」
「あそこで人形バトルしているやつ、滅多に見ない珍しい人形使っているらしいぜ」
「戦っているのは天使のような見た目の人形と、変なファッションの人形らしい」
どれをどのくらい買うのかを考えている中、例の人形バトルの噂が聞こえてくる。
その内の「天使のような見た目」の人形に覚えがあった。そして、自分が知っている限りの天使のような見た目をしている人形を持っている人形遣いは今、外に出ている。
「…まさか、光ちゃん!?何で人形バトルを…?」
ここに来た知り合いの少年に会ってくると言い、この騒動が起きた。
そう考えると、バトルをしている相手は…会いに行ったという感じの悪い少年か?あまり目立った行動はして欲しくはないのだが…仕方ない。
鏡介は稼いだ所持金を自分の財布に戻すと、休憩所を後にした。
「げんちゃん! ライトアップ!」
「フォースシールド」
げんげつ人形の光弾をヘカーティア人形はバリアを張って身を守った。
ヘカーティア人形はほとんどダメージを受けず、こちらを嘲笑っている。
「(…どうして攻撃をしてこないの?)」
「…」
準は何も喋らず、ただこちらが仕掛けてくるのをひたすら待っていた。
その行動に光は疑問を持つが、防御を固めることしかしない相手に躊躇もする必要はないという判断で攻めに転じる。
「…げんちゃん! 幻覚弾! そしてそのまま近づいて 陽炎!」
光はこれまで温存していた自身のコンボ技を繰り出す。
幻覚弾で惑わし、さらに陽炎で視界を惑わす二重の攻撃だ。
「…その行動を待っていた。自分から近づいてくるのをな」
「…!?」
今までの防御姿勢は作戦であることが、準の口から明かされる。
ヘカーティア人形は不気味で怪しい笑みを、突撃してくるげんげつ人形に向けた。
「ヘカーティア! 攻撃を受け止めて 咆哮(ほうこう)!」
ヘカーティア人形は迫りくるげんげつ人形の攻撃を受けながらも大きく息を吸い込み、至近距離で爆音を響かせる。
まともに受けてしまったげんげつ人形は、耳を抑える間もなく鼓膜に深刻なダメージを負って姿勢がふらつく。
「最初からお前の攻撃は十分受けられたのさ。まんまと騙されやがって」
「…!げんちゃん 飛んで上に逃げて!」
急いで距離を取ろうと光は指示を出すが、鼓膜をやられたげんげつ人形にはその指示は聞こえておらず動きを見せない。
「さて、とどめだ。ヘカーティア! タンブルプラント!」
ヘカーティア人形は指示を受けると同時に、頭に乗せている球体を赤いものから青いものに変更させる。
『アビリティ:三相一体(さんそういったい) 発動』
「…!」
鏡介のスカウターが反応する。
人形がアビリティを発動させたらしいが、人混みでその様子が見られないでいた。あそこで一体何が起きているのだろうか…?
「これがこいつの真骨頂だ」
「…姿が…変わった…?」
先程までの赤い髪、赤い瞳の姿が一変して青い髪、青い瞳へと姿を変えていた。
心なしか、前のさばさばしたような雰囲気も変わっている。落ち着いていて、優しそうな包容力のある女性へと変わっていた。
こんな能力、見たことがない。一人に人格が複数あるのか?準は彼女が「地獄の女神」であると言っていたのをふと思い出す。
元になった人物は何者なのか?準は一体どうやってこんな人形を?
青いヘカーティア人形は優しい笑みを浮かべると、その周りから太い植物の蔦が何本も生え、それをげんげつ人形に襲わせる。
何も抵抗できないまま、げんげつ人形はその蔦の餌食となってしまう。蔦はげんげつ人形を容赦なく締め付け、その体力を極限まで削っていく。
悶え苦しむげんげつ人形を、青いヘカーティア人形はまるで面白いものを見ているかのように笑い、見下し、蔑む。
その姿にげんげつ人形は怒りを露にし蔦を解こうとするが、その抵抗空しく意識を失ってしまう。
「げ、げんちゃん…!」
「…戻れ! へカーティア!」
戦闘不能と判断した準は、ヘカーティア人形を封印の糸に戻す。
それと同時に蔦は離れていき、げんげつ人形は解放されて地面に落ちてくる。
「これで分かったか?まぁ抑々、スタイルチェンジすらしてない時点で勝ち目なんてなかったがな」
「くっ……」
光は負けた悔しさから拳を握りしめる。
そしてげんげつ人形を封印の糸に戻すと、準に近づき睨みつけた。
「…何だよ?」
「あんた……!」
「(…いた!と、止めないと…!)」
ようやく人混みを抜けた鏡介は、光が準に今にも手を出しそうなところを目撃する。
女である光が男である準に手を出しそうになるという逆だと言いたくなる光景だが、喧嘩は止めないといけない。
「あんた……」
「あんた、そんな強い人形どこで手に入れたのよ!教えてっ!今すぐっ!さぁっ!」
光は準の胸倉を掴みながら、先程の人形のことについて詳しく聞き出そうとする。
その眼は純粋な好奇心で一杯であった。負けた悔しさはどこへやら、すっかりヘカーティア人形のことが欲しくなってしまったようだ。
「…っ!何だいきなり…!やめろこのっ!」
「嫌よ!あれだけ見せつけておいてそのまま帰るなんてさせないわっ!さぁ、どこにいるのその人形は!?」
「(くそ、何だこの馬鹿力はっ…!?さっきから全然放せない…!)」
準は光の手を放そうと必死に抵抗するが、一向にほどけなかった。
決して準の力が弱い訳ではない。光のその執念が成せる異常なパワーが強すぎたのだ。
これではさっきと逆の状況である。人形ではなく、人間としての実力は光に分があった。
「…話さないならこっちにだって考えがあるわ。この場であんたの恥ずかしいエピソードばらしてやる」
「ぐっ…このクソアマ…!わ、分かった話す。だから放せ」
「素直で宜しい」
脅しをかけた後の返答を聞き、光は笑みを浮かべてその手を放す。
この荒っぽい行動で彼女が強引な性格であることは前と変わらないことを、準は咳ばらいをしながら改めて再認識した。
「それで、どこに行けば会えるの?」
「ふん、信じられんだろうがな…「夢の世界(ゆめのせかい)」だ。俺がこの人形と出会ったのは」
「…は?夢の世界?え、じゃあ何?あんたは夢の中で人形を捕まえたと?」
「馬鹿馬鹿しい話だと思うだろうが、そうだ。…俺はもう行くぞ」
準は服装を整えると、その場を立ち去る。
そしてそのまま、五の道の方角へと進んでいった。彼もまた、何か目的があって人形遣いとなり旅をしているのだろうか?
「ちょっと光ちゃん?何やってるのもう…お騒がせしました~」
その場に立ち尽くしている光を、鏡介は急いで手を引き周りの人々をどかしながら休憩所へ連れ戻す。
「夢の世界、か…う~む」
引っ張られながらも、光は準が言っていた夢の世界のことで頭が一杯になる。
光は「夢の世界」というところにどうやって行くことが出来るのかを考えていた。
「夢の世界…夢なんだから、やっぱり寝ている時に行けるのよね。でも私、昨日永遠亭でぐっすり眠ったけどそんな世界には来た覚えがないわ…う~ん」
ただ単に眠っただけで行ける、という訳ではなさそうだ。抑々、それで行けたら皆人形を手に入れることが出来てしまう。
とすれば、何か特別な方法で行く必要がある。例えば、「アイテム」とか。
…そういえば、この前人里で妙な枕が販売されていたような気がする。確か、「スイート安眠枕」とかいうものだ。
その枕で夢を見ると、謎の女性が現れて色々聞いてくると悪評がついて以来、すっかり使われなくなったんだけど…
「(…あっ!そうじゃない!確か、準の親御さんが「スイート安眠枕」を持っていたわ!そうよ、絶対それだ!)」
光の仮説が、確信へと変わっていった。
あの枕で眠れば、きっと地獄の女神の人形が生息している「夢の世界」に行けるに違いない。あの人形じゃなくても、きっと他にも強い人形が沢山いる筈だ。
何としても強力な力を持つ人形はゲットしておきたい。異変解決をしている霊夢を助けたいという気持ちもそうだが、準にも少なからず対抗意識がある。
あそこまで完膚なきまでにやられたら、今度は逆にこっちが勝ってやりたい。光は準を人形遣いとして一人の「ライバル」と、そう認定していた。
「光ちゃん?買い物終わったよ。はい、これ」
鏡介が横から話し掛けてくる。どうやら、行商人との売買が終わったようだ。
予めこちらが注文した通りにアイテムを分けてくれる。
「とりあえず「契約の糸」、「護符」をそれぞれ3個ずつね」
「ん…あぁ、ありがと舞島さん」
正直、「契約の糸」が3個では心許ないが、贅沢は言えない。報酬は極力「山分け」と決めてある。
彼は本当に優しい人だ。思えば彼に人形を捕まえるのを手伝って貰ったのが始まりであった。本当に感謝している。
鏡介が戦えない時の代理が、初の人形遣い同士の人形バトルであった。緊張もしたが、勝った時の嬉しさは鮮明に覚えている。
そして永遠亭で初めて鏡介と戦った時のあのバトル、あれも忘れられない一戦だ。一対一ではなかったが、学ぶことも沢山あった。
「…えっとさ、舞島さん。お願いがあるんだ。…いいかな?」
「どうしたの?改まって」
この旅を通じて、光は人形遣いとしてもっと高みを目指したいと、そう思うようになっていた。
これまでの鏡介の人形バトルでの見事な戦いぶり、そして準に初めて打ち負かされた時の悔しさ。それらが光を新たな道へと導いたのだ。
「…今まで私、曖昧な気持ちで人形遣いをやってた。こんなんじゃ霊夢様を守れないって気付いたの。それに、あいつにも…」
「…」
「だから!だから私、もっと強い人形ゲットする為に色々個人で旅をしていきたいの。…駄目、かな?」
鏡介は光の言葉を受け止め、しばらく考える。
自分は異変の調査でこの旅をしている訳だが、光はそれにあくまで手伝うということで今まで付いて来ていた。正直、結構助けて貰ったことが多い。本当に感謝している。
だが、ここで突然の自立宣言。…やはりこれは、準という少年に人形バトルで負けたことがきっかけとなったのだろうか。
それに光には、「霊夢の役に立ちたい」という強い信念もある。確かに、異変調査を比較的のんびりとやっている自分にいつまでも付いて来ていてはそれも叶わぬ願いだと言える。
「…分かった。そこまで言うんだったら、僕は止めないよ」
「うん…ありがと。舞島さんなら、そう言ってくれると思ってたよ」
光は自分よりもしっかりした女の子だ。一人旅も十分やっていけるだろう。
返事を聞いて安心した光は、休憩所の外へと足を進める。
「…じゃあ早速で悪いんだけど、私もう行くね。私の旅立ち用のアイテム、ありがとね!」
「そ、その為のものだったの!?」
「ま、一応半分くらい私の稼ぎだし?別に文句ないっしょ?これからはそっちも一人で頑張っていってよね!」
「…ホントにもう、抜け目ないなぁ」
いつもの光が、調子のいいことを言ってくる。さっきまでの少し暗い雰囲気が、今はもうない。
光が何だか少し、大人になったというか…一歩前に進んでいったような感じがした。
「あーそれと、これも言っておくわ」
「?」
「これからは私達、人形遣い同士の「ライバル」よ!負けないからねっ!」
光は鏡介に指をさし堂々と宣言すると、足早に休憩所を後にした。
「…こっちだって、負けないさ」
鏡介は新たなライバルの登場に、胸を躍らせるのであった。
次回、光ちゃん夢の世界へ