人間と人形の幻想演舞   作:天衣

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今回は光、鏡介それぞれの視点でお送りします。

夢なら何やっても問題はないよね!



第四十七章

 

「…ここは?」

 

光は何もない暗闇の中に一人、佇んでいた。

どこを見渡しても一緒の黒い光景で、何も音は聞こえずただ静寂が支配するこの空間に、不気味さを感じられずにはいられない。

普段はお気楽でサバサバしている光でも、この暗黒の世界には気が滅入ってしまう。

 

 

「…おや、まだ私の枕を使用している者がいたのですね」

 

「っ!?だ、誰!?」

 

 

暗闇の中から突然、女性の声が響き渡る。驚いて声を荒げる光が可笑しいのか、クスクスと笑い声が聞こえてくた。

 

「な、何よっ!そりゃいきなりこんな空間で声を掛けられたらビックリするでしょ!大体あんた誰?」

 

「…いや、これは失礼。あなたの仰る通りです。では、姿を見せるとしましょうか」

 

闇の空間から、一人の女性が姿を現す。

髪は青く頭にはナイトキャップを被っており、白黒のボンボンを付けた白黒のワンピース、そして牛のような尻尾を生やした少女が暗闇の中ではっきりと映った。

 

「初めまして。まずは私の商品である「スイート安眠枕」を御購入頂き、ありがとうございます」

 

「え…は、はぁ…」

 

「私は夢の支配者、ドレミー・スイート。以後、お見知りおきを…」

 

ドレミーは丁寧にお辞儀をして光へ営業の挨拶を交わす。笑みは正直可愛いものではなく、あまり感じがいいとは言えない。

まさかそのような対応をとられるとは思わず、光は少したじろいでしまった。

 

「さて、本商品を御購入頂き、快適な睡眠を提供させて貰えているとは思いますが、私としてはまだまだこの商品をより良いものへと改良していきたいと考えております。

 そ・こ・で!なのですが、ご利用頂いているお客様にこの商品の感想を募集しております。どうでしたか?「スイート安眠枕」の使い心地は?」

 

ドレミーは続けて営業臭い言葉をつらつらと話し始める。恐らく彼女は妖怪なのであろうが、物に対するこだわりが河童並みだ。

そして同時に思い出した。この人物が人里で噂の「色々聞いてくる謎の女性」の正体という訳だ。これは確かに嫌だというのも分かる。

 

「か、感想?んーまぁ、そうね…私のような子供にはちょっとサイズが大きかったかも?」

 

「ふむ、成程成程。では、サイズにもっとバリエーションを持たせましょう。子供から大人まで安心して使える枕に」

 

ドレミーは手を忙しそうに動かし、手元の本に先程の内容を書き込む。

こっちはそんなことを言いに来たのではない。あちらのペースに飲まれては駄目だ。

 

「ねぇちょっと。そんなことよりも聞きたいことがあるの」

 

「はい?」

 

「あなた、ここの番人なのよね?だったら、「夢の世界」…強い人形が生息している場所知ってる?私、そこに行きたいの」

 

「…えぇ、まぁ。知ってはいますが…悪いことは言いません。止めておきなさい」

 

「…そんなに危険なところなの?」

 

「えぇ。あんな所に行くなんて、自分から死にに行くようなものなのだから」

 

先程までの胡散臭い口調を、夢の支配者に相応しい威厳のあるものに切り替えてドレミーは警告した。その言葉が嘘や冗談ではないことが、声色や表情からも伝わってくる。

だが、こちらとて引き下がる訳にはいかない。光は意思を曲げずにドレミーとの交渉を続ける。

 

「そんなの、上等よ!私にはげんちゃん達もいる!必ず捕まえて見せるわよっ!だから、お願い行かせて!」

 

「(…人形は持っているのね。まぁ、あの少年の時よりはまだ安心かしら…?)」

 

ドレミーは考え込む。この人は貴重な「スイート安眠枕」の購入者だ。そして、それを今現在も使用している。無下しようものなら、こちらの都合も悪くなってしまう。

ただでさえ夢の世界で溢れている人形達に好き勝手されているせいで、夢を上手く集められていないのが現状。となれば…

 

「…そこまで言うのなら仕方ありません。但し、こちらの出す条件を飲んで頂きますよ」

 

「え、ホント!?…一体どんな条件?」

 

「今から行くところの人形の数を倒すなり、捕まえるなりして減らして頂きたいのですよ。私は人形を扱えないので」

 

「何だ!そんなことならお安い御用よ!」

 

思ったよりも簡単そうな条件で安心した光は胸を張り、手を添えて条件を承諾する。

その返事を聞いたドレミーは、何もない暗闇から一つの大穴を開く。その中を覗くと、そこにはまた別の空間が繋がっているようだった。

 

「…では、案内しましょう。ここから先は狂気の世界よ。心して臨みなさい」

 

「う、うん!」

 

光はドレミーの案内の元、闇の中に出来た別空間への大穴に足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

大穴の先には、今まで見たことのない魔訶不思議な空間が広がっていた。

自分は星の綺麗な空間にいる筈なのに、その下は何故か地面が存在しない。初めての光景に光は不安を覚えるが、恐る恐る中に入ってみると足はちゃんと地面につき、落ちてしまうことななかった。

一歩前に進み足元を見ると、その先からは波紋が広がっていく。まるで水中を歩いている感覚だった。思わず楽しくなり好奇心が芽生えるが、今は遊びに来た訳じゃない。

光はその好奇心を抑え、隣にいるドレミーに話し掛ける。

 

「ここが例の強い人形達が生息する場所?」

 

「はい。ここは「第四槐安通路(だいよんがいあんつうろ)」。最近ここに人形達が溢れかえっていましてね…私としても正直困っていたのですよ。

 しかもその人形達は、私や前に月の都を襲った連中と同じ容姿をしている」

 

「ふぅん…ま、私にとっては天国のような場所ね。その「月の都」とかいうところを襲った奴ら、相当強かったんでしょ?」

 

「…えぇ、それはもう。実に狂気的(ルナティック)でしたよ」

 

ドレミーの言葉に、光は期待を高める。そこまの相手なら、戦力として申し分ないだろう。

準の使っていたあの「ヘカーティア」という人形の力を考えると、他の人形達だって相当な実力に違いない。

 

「こうしちゃいられないっ!早速始めましょ!」

 

「えぇ。人形はその辺をうろついていれば、あちらから勝手に来るでしょう。私はこれから少しやることがあるので…どうか処理の方、よろしくお願いします」

 

ドレミーは先程やったようにまた何もないところから大穴を開け、どこかに行ってしまう。

 

元々この「第四槐安通路」は、地球と月を行き来する為の通路である。万が一にも光が「月の都」に入ってしまうことがないように見張る必要があると判断したドレミーは、逸早くその通路への門の前に立つ。

「月の都」の方にも強い人形が生息しているのを知ったら、好奇心旺盛なあの少女は飛び込みかねないと思ったからだ。あそこは人の身が行くところではない。

 

 

「…お、来た来た!ドレミーさんの言う通り!」

 

 

通路を歩き回っていた光の元に早速人形が姿を現した。その人形は、ドレミーの姿をした人形。

あの妖怪の実力は正直未知数であるが、とりあえずは捕まえる方向で考えて光は臨戦態勢をとった。

 

「げんちゃん! 出てきて!」

 

封印の糸からげんげつ人形が出てくる。

出るや否や不機嫌そうな顔を浮かべているが、これは相手が金髪でないから。これまでのバトルで光が学んだことだ。

 

「ライトアップ!」

 

攻撃の指示を出すと、渋々と光弾をドレミー人形に向かって飛ばした。

ドレミー人形に光弾は直撃するが、あまり効果がないように見える。すると次の瞬間、すごいスピードでこちらの懐に潜り込む。

 

「え…は、早い!?」

 

その顔つきからは想像が出来ないスピードであった為、光は反応が遅れる。

そしてドレミー人形はげんげつ人形の耳元で何か歌のようなものを囁く。

 

「…!げ、げんちゃん急いで離れて!」

 

準とのバトルの記憶で何か危険を察知し、すぐさま光は指示を出す。しかし、その時にはもうげんげつ人形には異変が起こっていた。

身体が言うことを聞かないらしく、飛ぼうと羽を動かそうとしているのは分かるが一向に動かない。何か状態異常にされてしまったらしい。

 

「(…ちょっとヤバいかも。タイプもまだ未知数だし、見たところげんちゃんの攻撃がまるで効いていなかった。相性の問題?…それとも何かのアビリティが発動して?)」

 

「…戻って! げんちゃん!」

 

このままでは一方的にやられると判断した光は、げんげつ人形を封印の糸に戻す。

 

「ありす! 出番よ!」

 

続けて光はありす人形を繰り出す。今までげんげつ人形だけでどうにかなってきた為、滅多に出番はなかったがこの人形にそんな余裕はないらしい。

ここは皆で協力していく必要がある。

 

「バリアオプション!」

 

さっきやられたドレミー人形の囁き攻撃を対策する為、光は防御の策に出る。

ありす人形は人形達を操り、自分の周りに結界を張る。これで近づかれる心配は無くなった。

 

「ありす! デストラクション!」

 

ありす人形は人形から無数の弾幕を放つ。ドレミー人形はその攻撃をかわそうと横に動こうとしたその瞬間を、光は見逃さない。

 

「今よ! 足止め!」

 

指示を受けたありす人形は自身の人形を相手の方に寄せて、ドレミー人形の体を拘束した。

身動きの取れなくなったドレミー人形は逃れようと抵抗するが、人形から出ている電磁波がそれを妨害する。

 

「それっ メタルニードル!」

 

ありす人形は相手を拘束した状態で自身の周りに鉄の針を出現させ、それをドレミー人形に直撃させた。

攻撃を受けたドレミー人形は目を回して倒れる。戦闘不能だ。

 

「…あ、つい倒しちゃった。…まぁ別にいっか。次行こうっと」

 

捕まえるつもりが倒してしまい、後悔するが切り替えて次の人形を探す。

だが、ドレミー人形はどうもこの辺ではそこまでの力を持っていないように見える。というか、この程度がこの辺の一番の人形であるのなら正直ガッカリだ。

こっちは糸が3つしかなく、あまり気軽には使えない状況…使う相手は慎重に選ばなければ。

 

光は先程のドレミー人形が落とした戦利品を拾うと、まだ見ぬ人形と会う為に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う、ん?」

 

目が覚めると、そこは一面の宇宙であった。

プラネタリウムでも見ている夢なのだろうか?「楽しい夢を見れる」とのことだったが、これは果たしてどうなのだろう。綺麗な景色ではあるし、星を見ること自体嫌いではないが…

だがよく見ると、自分が横たわっている地面は透けており、また透けて見えるその下にも宇宙は広がっていた。ということは、これはプラネタリウムなどではない。自分が宇宙の真ん中にいるということになる。

何だその夢は?意味が分からない…今まで見たことないタイプだ。夢だからか、宇宙にいるにも拘わらず当然のように息が出来る。実に不思議な感覚だ。…いや、実際に宇宙に行ったことはないのだが。

 

「…あれ?僕の鞄?おかしいな…寝る時は降ろしていたのに…それに封印の糸まで?」

 

もう一つおかしなことに気付いた。夢を見る前、つまり寝る前は鞄や封印の糸は降ろしていた筈なのに、それを夢の中でしっかり持っているのだ。

試しに鏡介は封印の糸からユキ人形を出してみる。出てきたユキ人形は華麗に着地を決め、辺りを見回す。そして、どこにも相手がいないことに気が付くとこちらを振り向き首を傾げた。

 

「ごめんね。今回はただ何となく出してみたなんだ」

 

 

『そうなの?もぉ折角カッコよく登場するとこ舞君に見せようと思ったのにな~』

 

 

「え…?」

 

気のせいだろうか。何か、女の子の声がしたような…?しかも、ユキ人形の口が動くのと同時にだ。

他の誰かがいるのか…?だが、辺りを見渡してもそんな人物はどこにもいない。

 

「…気のせい…か?」

 

『どうしたんだろう?舞君、急に辺りを見渡して……はっ!?ま、まさか私と二人っきりになって何かするつもりなの!?だ、駄目だよ舞君まだそういうのは…!』

 

やはり、さっきから近くで声がする。そして、目の前には恥ずかしそうに顔を赤らめて体をくねらせているユキ人形の姿…これってつまり…

鏡介は試しにユキ人形に対し、しゃがみ込んで何か言葉を交わしてみる。

 

「ユキ、今日も可愛いね」

 

『…~~~っ!!?///も、もう~~舞君ったらもうもうもうっ…!!!///』

 

…やっぱり間違いない。この声の主は、「ユキ人形」だ。人形との言葉はこちらには理解出来ない筈…一体どうなっているんだ?

そして、自分の言葉を聞いて顔を抑え恥ずかしさを必死に堪えているユキ人形の姿は実に可愛かった。

 

『きょ、今日の舞君何だか積極的だよぉ…うぅ…いつも控えめで女の子みたいな舞君が…///』

 

「うぐっ!?」

 

思わぬところでユキ人形の言葉が刺さった。ユキ人形にも男の子らしくないと思われていたという事実を、この夢で暴露される羽目になるとは…正直知りたくはなかった。

だがしかし、こんな機会は滅多にないのではないだろうか?もっと、話をしてみよう。

 

「女の子みたいで悪かったな。…これでも結構気にしてるんだぞ?全く」

 

『……へ?』

 

今度は言い返すように、ユキ人形に話し掛けてみる。するとどうだろう。自分が言ったことに対する反応を示されたユキ人形は鏡介を見て唖然としていた。

どうやら、ユキ人形は鏡介に聞こえていないことを前提で今まで独り言のように喋っていたようだ。それはそうだ。人形だって、自分の言葉が理解されていないことを認識はしているのだろうから。

 

『な、何で舞君私の言葉分かって…え?』

 

「ユキ。どうしてか分からないけど、ここでは僕ら普通に喋れるみたいだよ」

 

『……えーーーーっ!!?嘘…まるで夢みたい…』

 

「うん、夢だけにね」

 

そう、これは夢だ。夢だから、今こうして信じられないようなことが起こっている。しかし人形も夢を見るとは…本当に生き物に近いのだと改めて実感する。

胡蝶夢丸でまさかこんな体験が出来るとは…鈴仙には感謝しなければいけない。この楽しい瞬間を、少しでも長く過ごしたいものだ。

 

『あれ?ちょっと待って…じゃあ今までの全部聞かれて…?』

 

「ユキは僕のこと、そんなに好きでいてくれたんだね。嬉しいよ」

 

『ぴゃああああぁぁぁァァ~~~~っ!!!??///わ、忘れてええぇぇ~~~~!!』

 

ユキ人形の恥ずかしさ全開の仕草を眺め、鏡介は頬が緩み癒されるのであった。

 

 

 

小さな狂気の人影の群れが、すぐそこまで迫ってきていることも知らずに…

 

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